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第四階層上空!

『フォーンッ!』


 ペガサスがいななきながら、第四階層に飛び込んでいく。

 凄まじい速さで、しっかり掴まっていないと振り落とされてしまいそうだ。

 だけれども、俺はそんな事に構っている余裕など無かった。

 見下ろす第四階層は、あちこちから煙が上がっている。

 聞こえてくるのは、喧騒と怒号、悲鳴。

 どこかで見たことがある、みすぼらしい格好の一団が、魔銃を手にして押し寄せていく。

 守るのは第四階層の兵士たち。

 だが、みすぼらしい一団の方が数が多い。

 それに……。


「バラドンナ様の加護をー!」


 一人が魔銃を掲げた。

 いや、あれは魔銃じゃない。

 そう言う形をした木の板だ。

 それが自ら光を発して輝いている。


「あれはっ、聖印(シンボル)ですっ! 神に仕える神官が手にするものでっ、神から賜った世界魔法を行使するよりどころになるものですっ! で、でもあんなにたくさんのっ……きゃっ」


「おっと! 危ないですっ!」


 落ちかけたアリナを、レオンが捕まえたらしい。

 だけど、アリナの解説は助かる。

 つまり、あの兵士に押し寄せていく群衆が、みんな神官だってことだ。

 

「みんな魔法を使ってるね。そんな大したものじゃないけど、あの数でやられたら兵士の人は大変そう」


 メリッサの言う通り、群衆からは立て続けに魔法が飛ぶ。

 光の塊を、相手に向かって投げつけるような単純な魔法だ。

 威力もそこまでではないし、狙いだって甘いから仲間に当たったりしている。

 けれど、これが恐ろしいのは、その魔法が世界魔法だということだ。

 世界魔法というのは、神やそれに準ずる存在の力を借りて、この世界にないものを呼び出して行使する魔法。


「世界魔法をあんなに多くの人が使うなんて……! あれは、信仰によって使うにしても、大いなる才能を必要とすると言われる難しい魔法のはずです!」


「難しいのかなあ」


 アリナの言葉に、なぜかメリッサが首を傾げている。

 まるで、ホイホイと世界魔法を使うような知り合いがいるような口ぶりだ。


「とにかく、あのままにはしておけない! 突っ込むぞ!」


 俺はペガサスの首を叩いて、意思を知らせる。

 この巨大な翼ある馬は、目線を俺に向けると頷いたように見えた。

 群衆目掛けて、ペガサスが突撃していく。

 下にいた人々が、猛烈な勢いで近づく羽音に、顔を上げて目を見開く。


「な、なんだあれは!」


「化物!?」


「空を飛ぶ馬!!」


 世界魔法を放つのも間に合わない。

 群衆の頭をすれすれに駆け抜けたペガサスは、巻き起こす突風で人々を蹴散らしていく。

 ペガサスが通った一直線に、広い空間が生まれた。


「い、今だ! 押し戻せー!!」


 兵士たちが、盾を構えて群衆を押し込み始める。

 だが、群衆の数はいくらでもいる。

 魔導エレベーターの方から次々にやってくるのだ。


「きりがないぞ、これ……!」


「バブイル史上に類を見ない暴動です! 八百年前にあったという第一階層の、貧民の暴動ですらこれほどではなかったはずで、こんなものが自然発生的に、または人々の怒りの発露として行われるはずがありません……!!」


「つまり、首謀者がいるということですね」


 アリナの言葉を、レオンが補足する。

 アリナは、歴史を司るクロリネ家の司書だけあって、知識や歴史に詳しい。

 助かるなあ。


「クリス君、ここは二手に分かれましょう! 首謀者には何か狙いがあるはずです! 当たりをつけ、僕らでこの騒ぎを引き起こした何者かを見つけ出し、倒すのです!」


「何者かじゃないだろうな。こいつら、リュシーみたいな神様からもらう世界魔法を使えるんだろ? なら、これはあいつらが信じてる神様の意思なんだよ。こんなことする神なんて、邪神バラドンナしかいない」


「バラドンナが、第四階層にいると……!?」


「いるね!」


 メリッサが断言した。

 根拠はないと思うが、彼女なりの野生の勘だろう。

 俺はペガサスを建物の屋上に下ろした。

 そこで、メリッサとレオンが飛び降りる。


「僕は青の戦士団に向かい、仲間を募ります!」


「じゃあ私、商店街でみんなを避難させてくるね!」


「よし、俺はユービキス神の神殿だ」


「わたくしは……一人でいると死ぬ自信があります! ……ということでクリスさん、乗せていって下さい……!」


 アリナの切実なお願いだ!

 戦闘能力が全くないのに、好奇心だけでついてくるから。


「分かったよ。ほら、俺の後ろに掴まって……って、しがみついたら動けないだろ!?」


「たたた、高いところが怖いのです!!」


「ならペガサス乗っちゃダメじゃないか!?」


 俺は後ろにアリナをくっつけたまま、再びペガサスを飛び上がらせる。

 すると、そのたてがみがもぞもぞと動き、「フャン!」と赤猫が顔を出した。


「オストリカ!? メリッサと一緒に行ったんじゃなかったのか!」


「フャンフャン!」


 ペガサスが起こす風に押されて、オストリカがころころと俺のところまで転がってくる。

 そして、お腹の辺りのぺたりと貼り付いた。


「ペガサスのたてがみで遊んでたら、メリッサに置いていかれたな……」


「フャーン」


 あ、誤魔化した。

 ということで、アリナとオストリカを連れ、神殿へ急ぐ俺なのだった。

 ペガサスの速度は桁外れに速い。

 障害物も何もない空を飛ぶのだから、神殿まで一直線だ。

 あっという間に、光の神教団の神殿真上まで到達した。

 神殿がある一帯には、教団の神官たちが出てきており、押し寄せる群衆を魔法によって押し留めている。


「よし、ここでもいっちょやるぞ、ペガサス!」


『フォーンッ!』


 ペガサスがいなないた。

 上空から、その巨体が地上目掛けて舞い降りる。

 地面すれすれで停止したのだが、その動きで巻き起こる風が、群衆たちを吹き散らしていく。

 もう、彼らに怪我をさせないようにとか、そんな事は言ってられない。

 この異常事態をなんとかして止めなければならないのだ。


「ややっ、空からモンスターに乗って降りてきたと思ったら、あんた、クリスかい!?」


 群衆の中から、俺を呼ぶ声がする。

 そこにいたのは、ジョージのパーティにいた女盗賊だった。

 以前とは見違えるほど身なりがよくなっていて、ボサボサだった髪もきれいに撫で付けられている。


「なんであんたがいるんだ!? それに、その格好! まるでこいつらを率いてるような」


「まるで、じゃない。あたしが率いているのさ! 偉大なる邪神、バラドンナ様の思し召しだよ! 光の神教団なんていう、インチキ宗教をぶっ壊して、あたしたち本物の神を信じる者たちがバブイルを平等で平和な世界に変えるのさ!!」


「本物の神……!? あなたがたは、邪神バラドンナがどういう神なのかをご存知ないのですか!?」


 アリナの言葉に、女盗賊は笑った。


「知っているさ。バラドンナ様は素晴らしい神よ。あらゆる貧しいもの、病めるものを救い、あらゆる富めるもの、驕れるものを引きずり下ろす。世界の全てを平らかにし、忌々しい特別や差ってものを全部なくしてくれる!!」


「貧しい方々を救うのはいいことですが、引きずり下ろすというのは……!」


「うっさい。てめえ、その格好、いいところのお嬢さんだろ? あたしら第一階層の人間が、必死に這いずり回って泥水をすすり、腐った飯を口にしなきゃいけない時に、さぞや美味いものを食ってたんだろうねえ。……そんなの、許せるもんかい!!」


 うおおおーっ、と女盗賊の周りの群衆が叫ぶ。


「バラドンナ様がお作りになる世界に、そんな格差なんかない! 誰も彼もが平等で、みんなが同じ。そんな幸せな世界さ! さあ、そこをどきな! あたしはこの神殿をぶっ壊さなきゃならないんだ!」


 俺は顔をしかめた。

 女盗賊の気持ちはよく分かる。

 俺だって同じ境遇だった。

 上をやっかんで引きずり下ろしたいってのも分かる。

 それを否定することもできない。


「だけど、俺はあんたを止めるぜ! 思想とかさ、そんなのよく分からねえけど、邪神バラドンナってやつが、凄くやばい奴だってことは分かる。それで、あんたたちを止めるには十分な理由だ!」


 俺は地上に降り立つ。 

 ペガサスは、戦場からアリナを離すべく、再び空に舞い上がっていく。

 俺は魔銃を抜く。

 右手には、雷鳴の魔銃サンダラー。

 左手には、召喚の魔銃トリニティ。


「偉くなったもんだ、クリス! ここで格の違いってやつを教えてやるよ!」


「うるせえ! そんな事言ってるあんたが、一番他人との差を作ろうとしてんじゃないか!」


 バラドンナの軍勢との戦いが、幕を開ける。

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