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第五階層を覗きに行く!

 神殿で、神様に会ったのが昨日。

 今日は神殿の厚意で一泊させてもらった。

 光の神教団の食事というのは、けっこう豪華なものだった。

 基本は肉料理で、それにりんごを使った品が幾つか出てくる。

 俺とメリッサとオストリカは、ひたすら食べた。飲んだ。

 ついでにモンスターたちも呼び出し、一緒に食事をとらせてもらった。

 神官たちは、みんな引きつった顔で見ていたなあ。

 そして爆睡した。

 年頃の男女が同じ部屋、というのはよろしくないということで、別室になった。


「むむむっ」


 パチリと目が覚める。

 第四階層は、ベッドの質がいい。

 寝起きでも体が痛くならないし、熟睡できる気がする。

 今日も、俺はスッキリと目覚めていた。

 昨夜あれだけ食事をしたというのに、もうお腹が鳴っている。

 きっと、メリッサも今頃はお腹を空かせていることだろう。

 寝室を出たら、ちょうどメリッサが、リュシーを従えて出てくるところだった。


「おっはよう!」


「おはよう。お腹へってる?」


「もちろん!」


 メリッサ、朝から食べる気満々。

 彼女に続いているリュシーは、昨日の記憶が途中から曖昧らしく、しきりに首を傾げている。


「おかしいなあ……。みんな昨日の記憶が一部なくなってて、気がついたら夕方だったらしいんだけど……。メリッサ、クリス、わかる?」


「ふしぎだなあ」


 俺は半笑いで誤魔化した。

 まさか、彼女が信仰する神様が悪さをして、信者たちの認識をおかしくさせた、なんて事は言えない。

 昨夜の記憶が無い神官たちと共に朝食をとった。

 皆、浮かない顔をしている。

 中には、「これはもしや、私の信心が足りなかったのでしょうか……」「ユービキス様に祈らねば」なんて言っている者もいる。

 うん、すまない。

 何もかも、ユービキスっていう奴のせいなんだ。


「おい神様。みんな困ってるじゃないか」


 俺が小声で呟くと、大きな食卓の中、そこだけ不自然に空いた空間からくすくす笑いが聞こえた。

 光の神は、また信者に紛れて飯を食っているのだ。

 喋り方は年寄りっぽいが、その中身は外見通り、子供っぽいのかも知れない。


「うーん、食べた食べた!」


 メリッサが食事を終えた。

 俺も、食後のお茶に口をつける。


「さて、これからどうするかなあ。邪神を探して……って、闇雲に走り回っても何もわからないだろうし」


「じゃあ、直接選王侯家を尋ねて回ってみない?」


 メリッサがすごい提案をしてきた。

 選王侯家は、どれもが国を動かす大貴族。

 彼らは第五階層と第六階層に領土を持っていて、独特の国みたいなものを築いているとか。


「この間までいたのが第一階層だろ? で、第二階層に仕事に来て、第三階層でレジャーをして、第四階層で過ごすようになったと思ったら」


「うん、第五階層だねえ。ゴールディさんはその上だけど、あそこはプロメトス家とクロリネ家の領地があるはずだよ。つまり、光の神教団の総本山もあるっていうことだね」


「ここ以上に凄いのかあ。想像もつかないな……」


 だけど、今までみたいに怖気づくというか、そういう気持ちはない。

 ブラスと一戦やりあってから、ちょっと腹が据わってきたような気がする。


「よし、行こう!」


「うんうん! あそこはね、楽しいよー。大図書館に資料館、光の神教団の本神殿に、とっても大きなユービキスくんの石像!」


 メリッサは、この国の隅々まで見て回っているのか!

 そう年の違わない女の子相手だというのに、俺との経験の差はどうだ!

 これは、追いつくのがちょっと大変だぞ。


「あのお、メリッサさん! 我ら光の神教団のことを、どうかゴールディ家に……!」


 パスモー大神官の言葉を受けて、メリッサは鷹揚に頷いた。


「はーい。ちゃんと伝えておくから。クラリオンさんも、別に敵を作りたいわけじゃないから、プロメトスさんところが手を結びたいって言うなら、聞いてくれると思うよ?」


「あ、いや、別に我々はプロメトス家の話をしているのでは……」


「まあまあ。その辺、分かってるから! じゃあ、そういうことで!」


 休暇中だと言うのに、きちんとゴールディ家の客将としての仕事を果たすメリッサなのだった。



△▲△



 第五階層に上がる魔導エレベーターは、厳重な警備のもとに守られている。

 常駐している兵士は、第四階層でも最も優れた装備を身に着け、ある程度以上の水準の技量を誇るとか。

 ここを突破するのは、第四階層で最高の冒険者であっても厳しい。

 なので、この魔導エレベーターの警備は、正攻法で突破せねばならないわけだ。


「はい、独立裁量証」


「あ、はい。お通り下さい、ミス・メリッサ」


 兵士たちが道をあける。

 屈強な兵士たちが、彼らよりも頭一つ分は小柄な女の子に道を譲るのは、ちょっとすごい光景だった。

 ただ、仮に道を譲らなかったとしても、ここにいる彼らは何も手にしていないメリッサに勝つことはできないだろう。

 ユービキス神は『才能』と言ったが、そう呼び表せられる何かが、普通の兵士と、メリッサや青の戦士団の連中との圧倒的な力の差を作っているのだ。


「お仕事おつかれさま。クリス君、こっちこっち」


「おう!」


 俺は彼女の後に続く。

 多分、俺もそこに達する道の半ばにいる。

 今はまだ、二丁の魔銃とモンスターたちにおんぶに抱っこだけどな。


 乗り込んだ魔導エレベーターは、広々としたものだった。

 しばらく出発を待っていることになった。

 どうやら、まだ乗り込む人間がいるらしい。

 エレベーターの中に設置されている椅子なんかに腰掛けて、周囲を見回す。

 ここは、第四階層でもかなり高度が高い場所にある。

 魔導エレベーターには壁なんかなくて、大きな床と、そこから伸びた手すりだけ。

 風通しがいいなんてものではない。


「第四階層の街並みが、全部見える……。広いなあ……」


「この階層に、バブイルの半分以上の人口が住んでるからねえ。……だから、多分放っておいても、邪神はここを目指してくるよ」


「そっか。じゃあ、そいつが来る前に、色々調べて対策立てておかないとな……!」


 まだ第四階層で過ごした日々は僅かだ。

 だけど、ここは俺にとって、新しい人生がスタートした場所みたいなところだ。

 邪神だか何だか知らないが、壊させてなるものか。

 俺が邪神と戦う決意を固めている時。

 待ち人がやって来た。

 後からエレベーターに乗り込むという人物だ。

 そいつはやって来るなり……。


「あれっ。クリス君ではないですか。それにメメメメ、メリッサさんも」


「その噛み方はレオンか!」


 つい昨日、俺たちを襲ってきたはずなのに、女は攻撃しないという矜持から仲間と同士討ちを始めたレオン。

 青の戦士団でも、多分最年少で、俺と同い年くらいの男だ。


「レオン、なんでここに?」


「なんでって……。僕たちの仕事が、独断専行だという扱いにされてですね。雇い主からゴールディ家に一人を人質にということで……あっ」


 慌ててレオンは口をふさいだ。

 それって、ペラペラ話しちゃいけないことなのでは?


「へえ、だとすると……。ゴールディさんも、メルクリーさんのところも、レオン君を私たちと同行させようって考えてるのかな?」


「そのようです。これ以上は、その、ご勘弁願えると……」


「分かってる。っていうかレオン、口軽いなあ……」


「面目ない」


 ソンブレロとかいう青の戦士団の男を相手にしながら、レオンには傷一つない。

 まだ彼の実力を見たことはないけれど、もしかしてとんでもなく強かったりして。

 だが、秘密をうっかり話してしまうような天然な所を見ると、警戒心が薄れていくような気がする。

 そんな俺たち三人を乗せて、魔導エレベーターは動き出した。

 目的地は第五階層。

 邪神バラドンナについて調べるのだ。

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