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ユービキス神殿にて、神様と出会う!

「ほえー、これが光の神教団の……」


「ええ。第四階層にある、ユービキス大神殿よ」


 リュシーの案内に付いて行き、住宅地の奥深くに到着した俺とメリッサ。

 ここらへんは、見渡す限り光の神教団に関係する建物ばかり。

 教団関係者だけが住んでいる街みたいだ。

 その中でも、とびきり大きいのがこの神殿。


「でかいなあ」


「そうだねー。下手なお城よりも大きいもんねえ」


 神殿一つで、とんでもない大きさがある。

 周りの建物も、同じ教団の持ち物だとするならば、それこそとんでもない規模なのではないだろうか。


「それは当たり前じゃない? だって、バブイルにおける光の神信仰は国教だもの。国が手厚く保護しているし、ユービキス様を信じることを推奨しているのよ」


 リュシーが誇らしげに告げた。

 続けて、俺たちを教団に勧誘してきそうだ。

 だけど、彼女はその辺りで言葉を止めた。

 バブイルには、光の神ユービキス以外にも、マイナーだけれど幾つかの神様がいて、ユービキスは他の神の教えを否定してはいけないと言っているのだとか。

 ということで、光の神信者は無理な勧誘はしてこない。


「二人ともついてきて。ご馳走するから」


 リュシーが魔法の言葉を放った。

 メリッサの足取りが軽くなる。

 これでもう、彼女は止まらない。そしてメリッサが行く以上、俺も引き返すという選択肢はなくなる。

 リュシー、なんて策士なんだ。

 神殿の門をくぐった俺たちは、びっくりするくらい歓待された。


「はじめまして。大神官のパスモーです」


 頭がもじゃもじゃとしたおじさんがそう言って、光の神教団式の礼をしてくる。


「教主からは、お二人を歓待し、お土産をもたせるように言付かっております。これも神の思し召しでしょう」


「ははーん。プロメトス家が、ゴールディさんと仲良くしようって考えてるのね?」


 メリッサが目を細めた。

 パスモーという名の大神官、ギクッとして笑顔がこわばる。

 わかり易すぎる。


「いいよいいよ。クラリオンさんに言っといてあげる。私は、受けた恩は忘れないのだ……ということで、ご飯!」


 メリッサ、大神殿でご馳走を要求するのだった。



△▲△



 光の神教団では、ある酒類のお酒を独占して販売している。

 それは、りんごを使ったお酒だ。

 醸造酒に、蒸留酒、水を加えたアルコールなしの飲み物もある。

 これは光の神ユービキスが、りんごを象徴としているからだそうだ。

 ということで、分厚いステーキにリンゴソースが掛かったものに、りんごのサラダ、焼きリンゴを混ぜ込んだパイに、りんごジュースが出た。

 りんご尽くしだ……!

 案の定、メリッサは猛烈な勢いで食べ始めた。

 パスモー大神官が、色々と今後のゴールディー家との関係について話しかけているのだが、全く耳に入っていない。


「メリッサは食べ始めると止まらないなあ」


『うむ、まったくじゃのう……』


 しみじみと呟いたら、メリッサとは逆側から声がした。

 おじいさんっぽい言葉づかいだけれど、声色は俺より年下の子供みたいな……。

 横を見ると、育ちの良さそうな子どもがちょこんと腰掛けて、焼きリンゴのパイをむしゃむしゃ食べていた。


『わしが(もぐっ)会った時より成長してはいるようじゃが(もぐぐっ)まだまだ子供じゃのう(もぐもぐっ)んほー! 今年のパイは美味いのう!!』


「……あのー。君は誰だ……?」


『わっ、なんじゃお主、わしが見えるのか!!』


 パイの食べかすで口の周りを汚した子どもが、びっくりして座ったまま跳ねた。

 金色の髪をしていて、瞳の色も金色。

 なんというか、どこか神々しいような見た目の子どもだ。


『そうか、見えるのか。そうかー。お主、あれじゃな。神懸り(かみがかり)の素質があるか、それに準じる魔法使いの才能があるなあ。そうかあ、お主もかあ』


「何を一人で完結してるんだよ。それに、神懸りってなんだ? 君が見えたからどうだって言うんだ」


『分からんか? ここにいる信者連中は、信心を持っていてもわしが見えん。才能が無いんじゃな。わしはよく、こうして客人と同席して料理を摘ませてもらっておる。じゃが、こやつらは一度だってわしに気付いたことはない。ああ、ちなみにそこのメリッサはわしに気付いてるからな』


 肉の塊を頬張るメリッサが、視線だけ金髪の子どもを見て、手を振ってみせた。


『わしは、ユービキス。この国が信奉しておる光の神そのものじゃよ』


「は……はぁーっ!?」


 とんでもない事を言いやがった。

 神様!?

 しかも、光の神ユービキスって、つまりはバブイル選王国が公式に信仰している神様ってことじゃないか。

 それがこんな子ども……!?

 いやいや、神様なんだから、見た目で年齢はわからない。

 ユービキスは、どこからかりんご酒のジョッキを持ってきて、それをグイグイやっている。

 うん、見た目は子どもだけど子どもじゃないな。


『ほれ、お主も食え食え。料理が冷めぬうちにな。毒味とかはやらん神殿じゃが、その分温かい料理が食べ放題じゃぞ! ああ、毒が入ってたらわしが解毒の魔法を使ってやるわい! むははは』


「凄い笑い方するなあ」


 俺はこの、妙な神様と並んで、むしゃむしゃと料理を食べた。

 メリッサに話しかけている、パスモー大神官はあまりのナシのつぶてっぷりに泣きそうな顔をしていたが、そろそろメリッサはデザートに取り掛かっているので、もうすぐ話を聞いてくれるはずだ。

 諦めないで頑張ってほしい。

 デザートは、りんごのケーキだった。

 甘酸っぱく煮られたりんごと、甘い生クリームがたまらない。

 こんな上等なケーキ、初めて食べた……。


「むふふ、クリス君、ほっぺにクリーム付いてる」


 メリッサの指が伸びてきて、俺の頬に付いたクリームを(すく)った。

 それを唇に運んで、ペロッと舐めたりするので、そりゃあ俺はドキドキするというものだ。


「フャン?」


 俺がメリッサの仕草にドキドキしていた頃、オストリカが自分の分を食べ終わったらしく椅子に上がってきた。

 そして、当たり前のような顔をしてユービキス神をぺちる。


『あっ、こりゃ、このバチあたり猫! 神様の太ももをぺちぺちするやつがあるか』


「フャンフャーン?」


『ぬうー、相変わらず、お主ら一行は神に対する敬意というものを知らん……! まあ、今はあの勇者と大魔導がいないだけましか……』


 オストリカの猫パンチを受け止めながら、ユービキス神がぶつぶつ呟く。


「じゃあ、クリス君。私はこっちの人のお話を聞くから、神様の相手をお願いね」


「わ、分かった!」


 神様担当をまかされ、オストリカとぺちぺちの応酬を繰り広げるユービキスを見た。


『ほほう、やるなお主! この神の速度についてくるとは!』


「フャンフャン!」


『おっと、今のは腰が入ったいい猫パンチであったぞ! だがそれで終わりか? ほれ、ワンツー! ワンツー!』


「フャンフャャン!」


「……なにかしら。オストリカが何もない所で、前足を振り回してるのだけれど」


 リュシーが不思議そうな顔をして、ユービキスがいるところを覗き込んだ。

 神官である彼女には見えていないのだな。


『この女には才能が無いからな。才能というものは、上に行く才能じゃ。人という枠から抜け、その上になる、な。そこに、信心も人間性もなんら関係が無いのじゃ。ほれ、青の戦士団とか言う阿呆どもがおるじゃろう。あれは、才能を持った連中の集まりじゃよ。あんな芸当ができるやつは、第一階層にはおらんかったろう』


 オストリカに組み付かれ、頭によじ登られながらユービキスが言う。

 リュシーが、「オストリカが浮いてる! なにこれ!?」とか叫んでいる。


『じゃが、今の世界はそういう才能がある者たちを求めておる。何せ、どうもバラドンナめが復活したようでなあ……。阿呆な人間もいたものじゃ』


「ねえ、クリス! オストリカが浮いて……。あなたもさっきから、誰と話しているの?」


「あ、うん。神様」


 俺が答えると、リュシーは目を丸くしたのだった。

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