邪神、前向きに検討する!
「……ということで、王選の時が近いのですよ。現王、アルカドラ一世陛下の容態も思わしくない。かの王が崩御なされれば、王座に空位の時を作らぬよう、すぐさま王選が始まることでしょう」
『ほうほう。まだ続けていたのか貴様ら。よくぞ破綻もせずにやってこられたものじゃなあ』
密室にて、二人の男が向かい合って座っている。
片方は、クロリネ家の使い、オラム。
もう片方は、上質な黒いローブに身を包んだ、長身の男。
腰には怪しく光る魔銃をぶら下げている。
「まあ、この選挙という形が腐敗を防いで来たのでしょうな。とは言え、ここ三百年ばかりは、カドミウスとゴールディとプロメトス。この三家が順繰りに王座を回していますが。我がクロリネ家に至っては、記録にある中では三度しか玉座に……!」
『まあまあ、熱くなるものではない。そうれ』
ローブの男が、手のひらを光らせた。
すると、沸き立っていたオラムの気持ちが、スウッと落ち着いていく。
怒りも、落ち込む気持ちもなくなり、心が平坦になっていくのだ。
『うむ。信者が増えたおかげで、力も戻ってきたわ。どうじゃ? 貴様も落ち着いて来たじゃろう』
「はい。ありがとうございます。では要件を申し上げる。バラドンナ殿には、メルクリー家の牽制と、ゴールディが抱えるあの小娘をなんとかしていただきたい。メルクリーは、王選にこそ関わって来ぬものの、私兵集団青の戦士団を使って、常に自分たちを次の王位の中で都合の良いポジションにつけるよう活動しております」
『ほほう、青の戦士団?』
「は。異能、異形の戦士を国内外からかき集めた愚連隊です。構成員一人ひとりの戦力が、一軍にも匹敵すると言われていまして、とてもクロリネ家の私兵では刃が立たず」
『よかろう。強いとは言え、所詮は人間よ。儂がなんとかしてやろう。次に、小娘というのは?』
「はい。それもまた問題でして……。まだ年若い小娘なのですが、世界の外からやって来た希人でして。噂に聞く、勇者とやらの一行に加わっていたとか……。つまり」
『魔王を倒したとかいう連中の一人か。それは厄介だのう。じゃが、その娘は一人きりなのだろう?』
「あ、はい。あれが二人いたらバブイルが大混乱になります」
『うむ。ではメルクリーとやらに仕掛けるとしようか。戦士団、というのが気にかかる。儂の大切な信者に何かされる前に……彼奴らも改宗させてやらんとなあ』
ふっふっふ、と笑う、ローブの男……ジョージに取り付いた、邪神バラドンナなのであった。
「バラドンナ様! 何か美味しいものが出ましたか?」
『茶しか出んかったわ』
「なーんだ。クロリネ家ってケチなんですかねえ」
『そうだろうな。これは、溜め込んでいる金を引き出して、我が信者に還元せねばな。平等が一番じゃ』
「わー! バラドンナ様ふとっぱらー!」
「一生ついていきます!」
三神官を従えたバラドンナは、部屋を後にした。
外に出てきてみれば、そこは第一階層とは比べ物にならないほど発展した街並み。
『よし、ちょっと観光していくかのう! 近々、儂らの支配下になる街じゃ!』
「うおおー!」
四人揃って、街に繰り出していく邪神一行なのであった。




