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長めの休暇が始まる!(仕方なしに)

 俺が現地に到着したときには、もう戦闘は終わっていた。

 折り重なって倒れた青の戦士団。

 ウーウー呻いている彼らの上に、トリーが得意げに立ち、ペスは毛づくろいをしている。

 ポヨンは、そのひんやりとした肌で倒れたダリアとリュシーを冷やしているところだった。


「大丈夫か!?」


 ここまで走ってきたので、ちょっと息切れがする。

 だけど、そんなことに構ってはいられない。

 俺は仲間たちのもとに駆け寄った。


「ううー……やられたあ。さすがに、選王侯家が抱える戦士団は強いわ……」


 結構な怪我をしているダリアが、力なく笑う。


「彼らは、わたしを狙ってきたの。回復魔法を使える神官を、真っ先につぶそうとしたのね」


 リュシーは真っ青な顔をしている。

 彼女の体には外傷は少なくて、どうやらこれは、魔力切れになっているみたいだ。


「ほんと、クリス君がトリーやポヨンを先に行かせたの、正しかったね! 遅れてたらみんなやられてたかも」


 メリッサの後ろで、魔法使いのハンスが魔力切れでぶっ倒れている。

 横でへたり込んでいるのは盗賊のヨハンだ。


「面目ねえ……。もう、死なないだけで精一杯だった……」


「や、それでもみんな生き残っただけで凄いよ。あいつら、化け物みたいな連中だもん」


 俺は心底そう思った。

 ダリアも怪我をしているように見えて、大きな傷などはリュシーが全力で治療した後なのだそうだ。

 だから、彼女は魔力切れでぐったりしている。


「いやあ、なんとかリュシーは守りきったんだけどよ。いよいよダメかと思った時に、お前さんのトリーとポヨンがやって来てな。強いのなんの……! んで、後から来たメリッサがまた無体に強かった……。さすがはモンクだな」


「モンクじゃないよ!?」


 ヨハンに間違った褒め方をされて、メリッサが慌てて否定した。

 ちなみに、襲撃してきた青の戦士団、命までは奪っていないらしい。

 トリーが風で吹き飛ばし、ポヨンが水で絡めて転ばせ、ペスが前足でぺちぺち叩いてまわったとか。

 特に強力だった戦士には、メリッサが石を投げつけて倒したんだと。

 石かあ……。


「戦士の足を、オストリカがぺちぺちやってな。戦士が気を取られた隙に、猛烈なオーバースローからの石投げだ。ただの石で、ミスリルコートされた兜が割れるとはなあ……」


「あれは私もカッとなってたよ。相手の人に兜がなければ即死だった」


 うん、メリッサの投擲を受けたら、そうなるだろうな。

 今度は手加減するね、とメリッサが言っているが、彼女の手加減でも人は死ぬ気がする……。

 結局、四人ともまともに歩くことが難しいということで、男たちはペスに積み、ダリアはポヨンに乗せ、リュシーは俺がおんぶしていくことになった。


「あうう、ごめんね……。体力回復の魔法は、わたし自身の体力がないと使えないから……」


「気にしないでくれよ。仲間だろ」


 そんなことを言いながら、街に戻ってきたのだった。

 いきなり、街中にキメラとハーピーとヒッポカンポスが現れたものだから、ちょっとしたパニックになった。

 いや、トリーは引っ込めようとしたんだ。

 だけど、みんな実体化してるなら自分も実体化している、と駄々をこねたので、俺が折れたのだ。

 今は気分良さそうに、鼻歌みたいなのを歌いながら飛んでいるトリー。

 その背中にオストリカが乗って、ご機嫌でフャンフャン言っている。


「お、おい、ちょっと待てえ」


 街の巡回兵たちが駆けつけてきた。

 彼らは職業軍人で、街の治安維持を主に担当する役割を負っている。

 そんな彼らもちょっと及び腰で、遠巻きに俺たちを囲む。


「な、なんで街中にモンスターがいるんだ」


「それはお前が連れてきたモンスターなのか!?」 


「あ、はあ。みんな大人しいですよ」


 俺が言うと、ペスが、そうだそうだと言わんばかりに『ガオン』と小さく鳴いた。


「いや、大人しいと言ってもだな……。いつ何時、暴れ始めるかもしれないとか街の住民が不安に感じるとか……」


 ぐだぐだ言う兵士たちに、メリッサが近寄っていった。

 懐から取り出したのは、ゴールディ家の独立裁量証。


「ええ……」


 兵士の顔がくにゃっと辛そうに歪んだ。

 色々ごめんな……。


「暴れたらゴールディさんが責任とるからだいじょうぶ」


「いやいやいや! 独立裁量証はそういうのじゃないから!?」


 メリッサの言葉に、兵士からツッコミがはいった。

 青の戦士団を見るにつけ、この裁量証を持っている連中は、それなりに横暴な真似をしてきているようだ。

 街の人たちも、不安げに見守っている。

 やれやれ、仕方ないな。


「大丈夫です! 俺のモンスターは、すごく頭がいいんで! トリー、降りてこい!」


『ピヨー』


 俺の声に応じて、トリーが降りてきた。

 彼女に向かってトリニティを撃つと、トリーのサイズがシュッと小さくなる。


「フャン!?」


 乗っていたオストリカがこぼれ落ちた。

 俺はトリーを腕に止まらせると、落ちてくるオストリカを胸元でキャッチする。


「ほら、こんな風に小さくもできるんで」


 すると、これを見ていた周りの人々から、「オー」「オオー」「小さくなった」「言うことを聞いてるじゃないか」と声が上がる。

 その後、ペスにお手をさせたり、お座りをさせたり(積んでいたヨハンとハンスは転がり落ちた)して、みんなの緊張をほぐすようにした。

 最後には、ペスが芸をすると拍手が起るようになっていた。

 どうやら分かってもらえたようだ。


「それじゃあ、俺たち、怪我人を運ばないといけないんで……」


「あ、ああ。わざわざ呼び止めて済まなかったな」


 思ったよりも、俺たちはめんどくさい相手じゃなかったから、兵士たちは露骨に安心した顔で見送ってくれた。

 その後、リュシーを除くみんなを宿に送り届け、クラリオン・ゴールディ氏に報告を送った。

 これは、ゴールディ家お抱えの宿に、魔法の通信手段があるみたいで、それを使ってメリッサが状況を手短に話すと、クラリオン氏は顔をしかめた。


「あー。君たち以外はダメだったか……。では、作戦を変更しないといけないな」


 なんて言っている。

 何を企んでるんだこの人。

 しばらくメリッサとクラリオン氏が話し合っていたのだが、彼の「グエー」といううめき声が聞こえてきてから、通信が切れた。

 何事かと思ったら、メリッサがガッツポーズをしている。


「よしっ、休暇をねじ込んだよ! その間、クラリオンさんは自分で身を守る感じで!」


「おお……。今もっとも王に近い男から休暇をもぎ取る豪腕……!」


「それだったら、神殿に来てみない?」


 リュシーからの提案だ。

 彼女が所属する光の神教団は、色々な意味で規格外のメリッサと俺に興味を抱いているのだとか。

 でも、あそこって別の選王侯家と仲がいいんじゃなかったっけ。


「神殿で作ってるご飯美味しいから!」


「行く」


「あっ、メリッサが即決してしまった!!」


 少しずつ魔力も回復し、顔色が良くなってきたリュシーだ。

 仲間たちに回復魔法を掛けた後、彼女は自分の足で神殿へ向かうことになった。


「ごっはん、ごっはん」


 メリッサがウキウキで後に続く。

 普段から美味しいものを食べているはずなのに、未知なる料理は彼女の知的好奇心……いや、()的好奇心を刺激するらしい。

 そんなわけで、冒険者生活は少しの間お休み。

 俺とメリッサの休暇が始まるわけだ。

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