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ブラスとの決着!

「ペス! メリッサを送り届けてくれ!」


「クリス君!?」


「俺、魔銃使いとしてこいつをやっつけてから追いかける!」


 ペスのお尻を叩く。

 彼は俺の気持ちを分かってくれて、メリッサを乗せたまま走っていくのだ。

 彼女が降りる暇なんてない。

 俺は一人、ブラスと向かい合う。

 完全に人間ではない姿になったブラスは、血走った目で俺を睨んだ。


「いい度胸だ」


 声まで、元のブラスとは全然違う。

 見た目は、オオカミの頭をした大男。

 変身したブラスは体格まで一回り大きくなっていて、やつの鎧はそれに合わせた特別性なのだろう。変形して、大きくなったブラスをしっかりと覆っていた。


「その度胸に免じて、一瞬で片付けてやるぜ、ガキめ!」


「なんで俺を目の敵にするのか知らないけど……黙ってやられるかよ!」


 俺は身構える。

 いつでもサンダラーを抜ける姿勢だ。

 ブラスは剣をぶら下げたまま、体勢を低くしつつ左右に揺れている。

 距離は十メートルくらい。

 あいつなら、ひとっ飛びでたどり着くだろう。

 俺が、こいつとの一対一で不安じゃないと言ったら嘘になる。

 前回のブラスだって、とんでもない動きをして襲いかかってきた。

 壁や天井を走る人間なんて見たことがない。

 それが、今回は変身して本気を出してきたのだ。


「俺って、ついこの間まで、ジョージのパーティの牽制専門だったはずなんだけどなあ……」


 人生、何が起こるか分からない。

 ずっと脇役みたいに思ってた自分が、まさか正面切って決闘じみたことをするようになるなんて。


「るるるるる……」


 ブラスが喉を鳴らす。

 一瞬、その体勢が低くなったように思えた。

 サンダラーが何かを伝えてくる。

 俺の体は、自然に動いていた。

 ホルスターにかざされた手が、魔銃を抜き放つ。


「させるかよっ!」


 ブラスが地面を蹴った。

 動き出す!

 凄まじい速度だ。一瞬、俺の視界からやつの姿が消える。

 だけど、サンダラーは俺に落ち着くように言うのだ。

 魔銃は抜き放たれながら、正面を捉える。

 そのまま、俺の体は後ろに向かって跳んだ。

 跳び下がった直後に、俺の目と鼻の先を、振り回された切っ先が抜けていった。


「ちいっ!」


 ブラスの舌打ちが聞こえる。

 それに被せるように、銃声が響いた。

 獣人の巨体が、ものも言わずに吹き飛ぶ。

 俺がサンダラーを撃ったのだ。

 俺もまた、銃撃の勢いで尻もちをつきかけた。


「るおおおおっ!」


 叫びとともに、吹っ飛ぶブラスは剣を投げつけてくる。

 俺はこいつを、咄嗟に抜いたトリニティの銃身で受けると、交差するようにサンダラーを放った。

 連続して、雷のような轟音が轟く。

 ブラスはこれを、辛うじて避けたみたいだった。

 地面を転がりながら、獣人が横に移動する。

 そこで、素早く跳ね起きた。

 今度は四足の姿勢。

 もう、鎧を身に着けたオオカミのようになっている。


「速い……! けど、ついていけないほどじゃない」


 俺は二丁の銃をぶら下げたまま、立ち上がる。

 サンダラーは的確に、射撃のタイミングを教えてくれる。

 問題は、サンダラーが要求する反応速度に、俺が及ばないだけだ。

 俺が強くならないと、この銃を扱いきれない。

 だけど、今は持っている分だけでやるしかない!


「るううううっ!!」


 ブラスが駆ける。

 一瞬姿が消えたかと思うと、もう目の前にいる。

 とんでもない速さだ。

 俺はギリギリの所で、やつの牙を回避した。

 お返しにサンダラーを構えるが、そのときには、既に俺の死角へ移動している。

 そして見えないところから、再び襲ってくる。


「サンダラーがなかったら、何回死んでた……!?」


 俺の背筋を、冷たい汗が伝う。

 だけど、見栄を張ってメリッサを行かせたからには、ここは勝って帰らなきゃいけない。

 それに、メリッサが認めてくれた俺が、こんなところでやられるわけにはいかないのだ。


「おおお────んっ!!」


 咆哮と共に、ブラスが俺に肉薄する。

 魔銃使いとの戦い方を知っているのだ。

 絶対に、狙いをつけられるだけの余裕を与えない。

 密接した距離で、連続攻撃を仕掛けて仕留める。


「くそっ……!」


 眼の前に迫る爪と牙。

 俺は、強烈に死を感じた。

 だが、ここでサンダラーが勝手に動いた。

 ものすごい力で、俺を地面に向けて引っ張る。


「うおっ!?」


 俺は堪らず転げてしまった。

 そのすぐ上を、ブラスが通過する。

 転んで一回転した俺は、ちょうどそれを見上げる形。

 天を()くように、サンダラーの銃口が獣人に向けられている。


「ッ!」


 引き金を引いた。

 これは、俺の体を使って、サンダラーがブラスに狙いをつけたのだ。

 寝そべった姿勢から放たれた銃弾は、反撃を予測していなかったブラスの脇腹をえぐり取る。


「ギャンッ!?」


 悲鳴を上げて獣人が離れていった。

 当たった。

 どこから来るか分からないブラスに、俺の銃が命中したのだ。


「構えは、関係ない……? 距離も、狙いさえも」


 俺の呟きに、サンダラーが鈍く輝いて応えた。

 “我が闘争は無形。型に縛られる事なかれ”

 そう、聞こえた気がする。


「難しいこと言うなあ……。だけど、分かった。型って、ブラスの戦い方に合わせてたら駄目だもんな。俺は俺で、好き勝手にやる……!」


 俺の腹が据わった。

 ブラスが体勢を立て直すより早く、俺は次の行動を決断した。

 ダッシュだ。

 ブラスに向けて、突っ込んでいく。

 その途中で、狙いもつけずに魔銃を連射した。

 轟音が立て続けに響き渡る。

 獣人は、慌てて横合いへと跳んだ。

 俺はそっちを振り向きながらジャンプする。

 地面にぶっ倒れながら、空中から銃を連射。

 ブラスが回避していく方向へ、地面を転がりながら、撃つ、撃つ、撃つ。


「て、てめえっ! 魔力が無尽蔵なのか!?」


「俺の魔力は、人より多いみたいでな! 当たるまで撃つ!!」


 ジョージのパーティで、一日中牽制射撃をしてた俺だ。

 これくらいの連射は屁でもない。

 常に、全身を使ってブラスを追い、銃口がやつに向けば引き金を引く。

 実際、下手な魔銃も数撃ちゃ当たる、という言葉が魔獣使いの間にはあるが、俺の拙い射撃はあの獣人を確かに捉えていた。

 耳を削り、鎧を砕き、腕を貫く。


「るううううっ!!」


 ブラスが血反吐を吐いた。

 動きが目に見えて鈍くなる。


「てめえっ……オリジナルの魔銃を、使いこなし始めていやがるっ……!?」


「まだ、俺はサンダラーに振り回されるだけだ。だけど、今持ってる俺の全部で、お前を倒すだけだ!」


 俺は勝負をつけるべく、ブラスに向かって突き進んだ。

 狙いは確かに、獣人の眉間に定められる。

 必殺の気合を込めて、引き金を引こうとした。

 その時だ。


「そこまで! 参った! 降参だよ召喚士殿!」


 俺とブラスの間に、青の戦士団の男が割って入ったのだ。

 だが、俺は構わず銃弾を放つ。

 これを、男はマントを翻し、絡め取ってしまった。


「サンダラーの弾丸を止めた……?」


「君がオリジナルを使いこなせていないことが助けになったな。この勝負、預からせてはもらえないかね?」

 

 長身で、落ち着いた雰囲気の男。

 彼は確か、青の戦士団の団長バリー。

 ブラス一人ですら苦戦していたのに、戦士団の長まで加わっては、勝つことは難しいだろう。

 俺は素早く後退すると、サンダラーを構えた。


「仕掛けてきたのはそいつだ!」


「その通り、それがお館様の命令でもあった。だが、ここでブラスを失うことは我が戦士団にとって大きな痛手だ。お館様からの罰は私が受け、今回の仕事からは撤退することにする。いいかな、召喚士殿」


「それは……俺は構わない」


 本音を言うと、退いてくれるなら助かる、だ。

 無我夢中でブラスを撃退したが、バリーという得体の知れない男を相手に、同じような戦い方をして通じるかと言うと怪しい。

 俺は魔銃を構えながら、彼らの撤退を見逃すことにした。


「礼を言う、召喚士殿。この埋め合わせはいつか必ずすると約束しよう」


 そう告げると、バリーはブラスをマントの中に包み込み……木陰の闇に溶け込むように、消えてしまったのだ。


「なんだ、あいつは……」


 俺は銃を収める。

 そして、思い出した。


「メリッサは……みんなは大丈夫か?」


 彼女は、別の場所でシャドウジャックを探る仲間たちの救援に向かっている。

 それが、青の戦士団ソンブレロの仕掛けた罠だったと分かった以上、あちらにも刺客が送り込まれたと考えていいだろう。


 だが、俺が心配していた頃……。

 メリッサとオストリカが、青の戦士団を相手に大暴れをしていたのだった。

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