青の戦士団の挑戦!
順調なペースで、俺たちは仕事をこなした。
ゴールディ家は俺たちを、自由にさせている。
いや、第四階層で、派手にメリッサが動き回っているので、他の選王侯家の目を惹いているようだ。
クラリオン・ゴールディは表向きいい人っぽかったけれど、絶対、腹に一物を隠している。
メリッサを目立たせておいて、裏では次の選王戦に向けて活動しているに違いない。
その証拠に……。
「待て。ここから先は行かせんぞ」
ほら、まんまと俺たちに釣られた奴に声を掛けられた。
本日は、第四階層町外れに出現する、影のモンスター、シャドウジャックの討伐。
階層は上に進むほど、魔力が濃厚になっていくらしい。
逆に、第一階層からは、地下に進むほどやはり魔力が濃くなっていく。
階層そのものが魔力を帯びているから、その余波でモンスターが生まれることがある……のだとか。
シャドウジャック退治に、俺とメリッサが二人で歩いていた時のこと。
見覚えのある青い鎧の一団が、俺達の前に立ちふさがったのだった。
「あれっ、青の戦士団じゃない。どうしたの?」
メリッサが彼らの素性をさっさと看破すると、戦士団の人たちは困った顔をした。
「どうしたって……俺たちとお前たちは、別の家に仕える仲だろう。それがこんな、階層の辺境で接触するんだから、何が目的かは推して知るべし、だ」
人数は三名。
彼らは皆、各々の武器を抜いた。
やる気なのだ。
「いきなり仕掛けてくるなんて……って、そう言えば、ホテルでもなんか理不尽な理由をつけられて仕掛けられた気がする」
「ああ。あの一件で、メルクリー家はお前……召喚士クリスを危険な人物だと判断した。召喚の力を使わなくとも、我ら青の戦士団と戦えるほどの戦力だとな」
「そうだ。獣人化していないとは言え、ブラスを退ける少年。放置していい相手ではない」
青の戦士団はそんな事を言うと、じりじりと俺たちを包囲しながら近づいてくる。
三人とも、あまり特徴のない顔立ちをしていた。
手にしている武器も、斧と手槍と剣。
同じような顔立ちに同じような体格。
「むむむ……まさか直接くるなんて……。よし、私が二人相手するから、クリス君は一人……」
「そうはいかんのだよ。俺の狙いは、召喚士クリス一人……!」
いきなり、三人の声が重なった。
というか、ここで俺は気付いた。
これ、もしかして相手は一人……!?
三人が一斉に動き出す。
俺を目掛けて突っ込んできたのだ。
慌てて、メリッサが手近な一人を棒で叩くけれど、そいつはブワッという音とともに、影のようになって消えた。
「影!? まさか、シャドウジャックって、私たちをおびき寄せるための!?」
「いかにも! だが遅い!」
メリッサの驚きをあざ笑うかのように、残り二人が俺を前後から挟み撃ちにする。
手槍と斧が、同時に繰り出された。
俺の頭は真っ白。
だけれど、サンダラーとトリニティが淡く輝き、俺に戦い方を教えてくれる。
「サンダラー……!」
魔銃を手にしながら、抜き撃ちに斧を持った相手に射撃を行う。
背中側には、トリニティを抜いている。
大きめの銃が、繰り出される手槍を真っ向から受け止めた。
それと同時に、サンダラーの銃声が響き渡る。
眼の前の男が、影のようになって消えた。
「後ろが本体!?」
「その通り。俺は青の戦士団のソンブレロ。影使いソンブレロだ。我が影は、目くらましだけではないぞ」
そう言うと、敵の気配が背後で増えた。
一気に何人にも分身したらしい。
俺は焦る。
「クリス君、召喚して!」
そこで、メリッサの鋭い声が響く。
声を出しながら、彼女は俺ごしにポイポイと石ころを投げつけているようだ。
ソンブレロが慌てた。
「仲間がいるのに石を投げるな! ええい、危ない! おい、レオン! いつまで隠れている! その女は任せるぞ!」
レオン!?
俺は、第四階層で出会った、同い年くらいの青の戦士団員を思い出す。
灰色の髪で、おとなしそうな顔立ちの男で、メリッサの前だとよく噛み噛みになる。
あいつがここに……?
走る思考とは裏腹に、俺の体はトリニティの引き金を引く。
「ペス!」
『ガオーン!』
ソンブレロ目掛けて、黒い輝きが放たれた。
それは一瞬でペスに変化すると、相手が作り出した影を何体もなぎ倒しながら着地する。
ここでようやく、俺は振り返ることができた。
ソンブレロは慌てて俺と距離を取り、また分身を何人も作り始めている。
メリッサの近くに、何者かがやってくる気配がした。
レオンがやって来たのか。
「こ、こ、こ、こんにちは、メリッサさん」
「あら、レオン君じゃない。久しぶりー」
この状況でも噛み噛みだ。
「遅かったなレオン! その女をやれ! 俺たちでこいつらを片付けるぞ!」
ソンブレロが高らかに、レオンに命令する。
それを聞いて、レオンは顔をしかめた。
「僕は、女性には手を上げぬと決めているのです」
その、レオンのある意味立派な心がけを聞いて、ソンブレロの顔が引き攣る。
「な!? 何を言ってやがる! 武器も持ってない女ひとり、ガキのお前だってやれるだろうが! ええい、ならば俺が二人まとめてやってやる!」
ソンブレロが叫ぶと、やつの姿がまた増えた。
影の数が増してくる。
『ガオーッ!!』
ペスが、ソンブレロの群れ目掛けてドラゴンの炎を吐きかける。
これを、盾を持ったソンブレロが現れ、受け止める。
後ろからは、弓を持ったソンブレロが、次々に矢を放ってきた。
ペスの蛇尻尾がうねり、飛んでくる矢を咥えては落とし、また咥えて受け止める。
「あいつの攻撃、実体があるのか! あっ、また増えた!」
増えたソンブレロは、作り出した分身で俺を回り込み、メリッサに向かっていく。
「どんどん増えるー!」
メリッサも、その辺から石ころとか拾い上げて戦闘態勢だ。
いい加減、武器を持った方がいいんじゃないだろうか。
だけどこの時、一番むずかしい顔をしていたのは、レオンだった。
「ソンブレロさん、彼女を巻き込むのはやめてください。やめないというなら、僕にも考えがある」
「うるさいぞレオン! どけ! そうしなければ、まとめてお前も片付けるぞ!」
「なんですって! 仲間を手に掛けようとはなんということですか! ええい、僕も怒りました!」
レオンが剣を抜く。
あの鞘は、俺とともに革職人の店で受け取ったものだ。
つまり、抜かれたのは魔剣。
レオンは魔剣を地面に突き立てると、襲いかかってくるソンブレロを見据えながら呟いた。
「いでよ、我が眷属。たゆたう魔力に、我は形を与える。我が師シュテルンの名において、眷属よ、我が敵を討て!」
レオンの足元から、影が広がった。
それは一気に立ち上がると、半透明の鎧兜姿に変化する。
これが、眷属とかいうやつか。
ソンブレロの大群と、眷属がぶつかりあった。
うおお、青の戦士団が同士討ちしてる!
「メリッサ! 今のうちに!」
俺は彼女に駆け寄ると、手を握って引っ張る。
「うん! いきなり過ぎて、わけがわかんないよ!」
メリッサが、俺の手をぎゅっと握り返した。
レオンとソンブレロは、激しい戦いを繰り広げている。
ソンブレロの分身を、レオンが生み出した眷属が次々に打ち倒していくのだ。
この隙を見て、ペスがこちらに駆け寄ってきた。
彼は、俺とメリッサの腰に蛇をぐるっと巻きつけると、
そのまま戦場を離脱したのだった。
△▲△
俺たちが襲われたのだから、仲間たちもただでは済まないのではないか。
俺はペスの背中で揺られながら、そう考えた。
「トリー! みんなを助けに行ってくれ! ……あ、ポヨンも行きたいのか。よし、分かった!」
トリニティが火を吹き、トリーとポヨンが飛び出してくる。
ポヨンは登場と同時に、周囲に水を生み出した。
魔力に寄って形作られる、仮初の水だ。
「一応、パワーアップさせとくからな!」
俺はトリニティを連射し、モンスターたちに力を与えた。
トリーは光を放ちながら高速で飛んでいき、ポヨンは中に飛び上がると、魔力で小川を作り出し、流れに乗ってダリアたちの元へと急ぐ。
「やー……。しかし、いきなり仕掛けてきたねえ」
「俺たちをまとめて、ゴールディ家が抱えたもんな。メルクリー家は、クラリオン・ゴールディがいよいよ王選を取りに来たって判断したのかも」
「ええー……。まだ、私は調査の途中なのに。面倒くさいなあ」
メリッサが天を仰いだ。
そう言えば彼女は、重層大陸の地下迷宮に封じられているという邪神を調べているんだった。
ここで青の戦士団が仕掛けてくるのは、メリッサが本当にやりたい仕事の邪魔になるに違いない。
「よし、じゃあ、青の戦士団は俺がなんとかする! とりあえずここを切り抜けようぜ!」
「そうだね。まだ、こっちに戦力が割かれてたみたいだし」
油断なく、メリッサが進む先を見た。
そこに立っているのは、特に見覚えがある戦士団の男。
「ソンブレロとレオンを撒いて来やがったか、ガキめ! だが好都合。このブラスが、今度こそ本気でてめえをぶっ殺してやる!!」
獣のような笑みを浮かべて、青の戦士団のブラスが立ちふさがったのだ。
その全身が、一気に黒く染まり、獣のような顔貌に変化し始める。
これが、ソンブレロが言ってた、獣人化したブラスってやつか!
俺はノンストップで、ブラスとの戦闘に入ることになるのだ。




