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第四階層の初仕事!

 無事、ダリアたちは第四階層の冒険者の店に、登録を完了した。

 第一階層と違って、所属する冒険者たちも妙にフレンドリーだったとか。


「何ていうのかしらね。凄く余裕がある感じなの。第四階層って、冒険者がそれぞれの家に囲われてるそうだから、定期的にお給料が出るのが大きいのかも」


「絶対にそれ。わたしもできることなら、ずうっとお祈りだけして暮らしていたい……」


「ただ、月に何度かは仕事を受けるってノルマがあるんだろ? これはこれで仕事感覚が違うよなあ」


 第四階層の店で、たむろしている俺たちだ。

 ダリアたち四人は、見違えるほどいい装備を身に着けている。

 全部、ゴールディ家の出資で買うことができたものだ。

 クラリオン・ゴールディいわく、「第一階層と第四階層の冒険者で、実力にそこまで大きな差はない。違うのは、装備の品質と戦術の洗練度合いだよ。必要な装備を得て、優れた戦術を学べば、誰でも強者になりうる」とか。

 この戦術とやらは、冒険者の店に専門の図書室がある。

 冒険者なら閲覧自由なので、今は魔法使いのハンスが通いつめているところだ。


「それで、最初の仕事は何をやるか決まったの?」


 メリッサが店のカウンターから、セルフサービスで生クリーム入りのお茶を持ってきた。

 ジョッキに入ったそいつをテーブルに乗せながら、パーティのみんなに問いかける。

 

「もちろん。これ。尖塔山の警備。まずは街に近い仕事から始めてみようと思ってさ」


 そこに置かれたのは、簡易表記と上位表記が入り混じった依頼の紙。

 多分、ここにいる中で、メリッサしか満足に読めないであろう一枚だ。


「ちゃんと読んだ?」


 俺が尋ねると、ダリアは半笑いになった。


「いやー、これでいいかなーって。報酬もかなりいいし?」


「そりゃ、第四階層と第一階層じゃ、物価みたいなのが全然違うんだもの……どれどれ」


 俺は、メリッサからビシバシ教え込まれている上位表記の読解を試す。


「ええと……。尖塔山に、迷宮から上がってきたモンスターが出現します。スライム種の可能性高し。量、多数。駆除を依頼します、と。うえ、スライム退治じゃん」


「げっ、マジかよ……。あれ、武器が腐るから嫌なんだけど……」


 ヨハンが青ざめた。

 ダリアも引きつっている。

 何も考えずに依頼を受けたな。

 依頼キャンセルの違約金は払えないし、どうにかしてこの仕事をこなすしかない。


「大丈夫、さっき、ユービキス様の大神殿に行ってきたから。わたしたちには、光の神(ユービキス)の加護がついているわ!」


 リュシーだけが、脳天気に依頼の成功を確信しているのだった。



△▲△



「それじゃあ、お願いしますよ。スライムの奴、次々に湧いて来るんですよ。一体、どうしてあんな数がいるのかねえ」


 依頼人のおじさんが、詳しい状況を説明してくれた。

 前金の代わりに、寝床と食事は彼が用意してくれる。

 ただし、いつまでも依頼を受け続けられるわけではなく、二週間以内という期限付き。

 ということで、ダリア一行が第四階層で初めて受ける依頼は、スライム駆除という地味で大変な仕事になったのだった。


「また出た!」


「棒で引きずり出して核! 核を突け!」


「ユービキス様のご加護をー! よいしょー!!」


 リュシーが気合を入れて、棒でスライムを引っ張り出す。

 粘液の塊に見えて、こういう明るい所で見ると、スライムというのはちゃんと本体があるモンスターだ。

 核の周りにも、プルプルとした体が存在している。

 そこに棒を引っ掛けて、引っ張り出すのだ。

 仕事を始めてから一週間が経つ。

 みんなすっかり、スライムの扱いが上手くなった。


『ガオー』


 引きずり出されたスライムの核を、ペスがぺちんと叩く。

 すると、ぷるぷる動いていたスライムは、パンっと音を立てて破裂した。

 しおしお、としぼんで行き、動かなくなる。


『ガオガオ』


『ピョルル』


『ブルー』


 俺が呼び出していたモンスターたちが集まってきて、もりもりとスライムを食べ始めた。

 我がパーティは、こうして仕事で出た廃棄物の処理も完璧だ。


「いやあ、きりがないねえー」


 棒を担ぎながら言ったのは、一人でスライムを次々に駆除しているメリッサだ。

 彼女は猛烈な働きで、顔を出したスライムを片っ端から引きずり出し、棒で核を叩いて破裂させる。

 そしてしおしおになったスライムで、オストリカが遊ぶのだ。


「なんかねえ。私、一週間で何十匹もやっつけたけど、これってちょっと多すぎじゃない?」


「確かになあ」


 俺も、スライムの核をサンダラーで打ち抜きながら答える。


「もしかして、本体がいたりして」


 俺の言葉に、メリッサは「ありうる」と目を細めた。


「……スライムが母体から枝分かれする説は知らない」


 魔法使いのハンスが疑問を口にする。

 だが、否定してくるわけでもない。

 パーティきっての頭脳派であるハンスも、このいくらでも湧いてくるスライムがおかしいと気付いているのだ。


「……スライムはこの場所からのみ出現している。他は出現していない」


「ハンス、いつの間に調べてたの!? うーん、そうね。もしかすると、クリスの意見が正しいかもしれないわね」


 ダリアは少し考え込んだ。

 そして、指示を出す。


「よし、やっちゃいましょ。クリス、スライムが出てくる辺りの岩壁を、壊しちゃって!」


「分かった!」


 指示されなくても、やろうと思ってたことだ。


『ガオン』


『ピヨ』


 むむっ!

 ペスとトリー。何か妙案があるらしい。

 ええと……自分たちを弾丸に戻して、トリニティで一度に撃つ?


「分かった、やってみよう。別々に分けないで召喚するってことか?」


 俺は二匹を弾丸に戻すと、シリンダーに装填した。

 そしてトリニティを岩壁に向かって構える。

 こうしている間にも、壁面からはじわじわとスライムが染み出しつつある。

 そこを目掛けて……。


「召喚っ……!」


 叫んでみて、異常に気付いた。

 トリニティのシリンダーが高速回転を始めている。

 いつもなら、纏っている光は青だ。

 それが、トリーの白と、ペスの四色混ざりあった光が縦横に走っている。

 俺の脳裏に、知らない言葉が浮かんできたのは、その時だ。


「複合……召喚……!? 二匹を混ぜ合わせて、一匹の新しいモンスターとして召喚するのか……!」


 トリニティの銃口二つが、輝き出す。

 俺は決心して、引き金を引いた。


「行くぞ、複合召喚!! お前の名は……グリフォン!!」


『ケェーンッ!!』


 銃の音色が響き渡る。

 それは、召喚の音だ。

 現れたのは、真っ白い巨大な翼に、獅子の体。鷲の頭を持った巨大なモンスター。

 それが、白と青の光を帯びながら、岩壁に向かって突進していく。

 炸裂音。

 固そうだった壁が、あっという間に砕け散ってしまった。


『ケェーンッ!』


 グリフォンは一声鳴くと、俺の側まで戻ってきた。

 そして、急に光りだすと、ポンッという軽い音と共に、その姿が二つに割れた。

 ペスとトリーに戻ったのだ。


『ガオー……』


『ピョルー……!?』


「なんだ、お前たちも驚いてるんじゃないか。いや、俺だってめちゃくちゃビックリしたけどさ」


 だけど、感想を話し合っている暇は無い。

 砕かれた岩壁の中から、大きな物が這い出してきたからだ。

 なるほど、それはゼリー状の球体で、今正に、その全身からスライムを生み出しつつあるモンスター。


「いやあ、クリス君すごかったね! さっさとあれをやっつけてから、詳しくさっきのを見せてね! ん、あのモンスター? そうだねえ、マザースライムってことでいいんじゃない?」


 おざなりにメリッサが名付けた、その名前が、以後この巨大なスライムの正式名称になるのだった。


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