表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/100

第四階層冒険者の店へ!

「まさか、あっという間に第四階層に移籍とは……。まずはおめでとうございます。これは前代未聞ですよクリス殿。ああしかし、また新しい冒険者を募集しなくては。ジョージたちもいなくなったし、二組は必要だが……」


 第一階層の冒険者の店の長、ガッドは祝辞に続いて、頭を抱えた。

 冒険者は、冒険者の店に所属する個人経営者のようなもの。

 おいそれと募集して集まるものでもなく、まずはその気のある人間を育てなければならないのだ。

 独り立ちするまでは、公共機関である冒険者の店が面倒を見る。

 今回は、ジョージとダリア、二組のパーティがいなくなる。

 どちらも中堅パーティだったから、ガッドは頭が痛いだろう。

 一方、引き抜かれるダリアたち一行は……。


「ひゃっほう!! いきなり第四階層かよ! それって、上級国民の仲間入りじゃねえの!?」


「わ、私もこれでレディの仲間入り……!? 玉の輿……ぐふふふ」


「第四階層と言えば、ユービキス様の大神殿があると聞くわ。楽しみ……」


「本……魔道具……」


 うん、めちゃくちゃ喜んでるな。

 冒険者って、明日をも知れない身の上だから、あまり悲観的だと精神とか胃をやられて長持ちしない。

 なので、ベテラン冒険者はそれなりに楽観的なんだ。

 さて、俺とメリッサ。


「とりあえず第四階層までみんなを届けるだろ? そしたらもう夕方じゃないか。第三階層行きは明日にする?」


「そうだねー。朝イチで、あの魔物と契約に行く感じだね! 多分、迷宮から中心の尖塔山を伝って来たんだと思うけど……いきなり友好的な魔物がいるとは思わなかったよー」


 クラリオン・ゴールディの決定を店とみんなに伝えた後、これからの計画を練っている最中だ。

 第三階層で見かけた、あの半馬半魚のモンスター。

 あいつと契約したい!

 メリッサも親身になって、計画立案に付き合ってくれる。

 そこへ、神官のリュシーがちょろっと顔を出してくる。


「あら~? なんだか二人とも、ずいぶん仲良くなったみたいな? これは、ユービキス様にご報告しないとねえ」


「ええー! そ、そんなんじゃないけどー」


「うんっ、うんうん」


 俺もメリッサも、ちょっと焦って弁明する。

 あれ?

 なんで否定してるんだ?

 いや、だって照れくさいじゃないか。



△▲△



 こうして俺たちは、慣れ親しんだ第一階層に別れを告げた。

 目指すは、文字通り天上の世界。

 第四階層。

 一週間ちょっと滞在しただけでも、人も店も品物も、第一階層とは雲泥の差があることが分かった。

 まさかあの世界で冒険者をすることになるとは……!


「おお……! 本当に第二階層を素通りしたぜ」


 ヨハンが魔導エレベーターの手すりから身を乗り出しながら、遠ざかっていく第二階層の大地を眺めている。

 第一から第二、第三、第四まで、それぞれ一時間ちょっとかかる。

 つまり、片道三時間の旅ってことだ。

 みんな、第三階層は初めてだったようで、視界を覆い尽くす真っ青な湖に、歓声を上げていた。

 このどこかに、あのモンスターがいるんだよな。


「明日はさ、あの浅瀬から攻めてみようか。後は……第四階層で、潜るようの道具を揃えなくちゃ……」


「メリッサ、潜れなかったもんなあ……」


「あ、あれは偶然! 次は潜れるからね!」


 メリッサに背中をぺちぺち叩かれた。

 俺としては、彼女と一緒に潜るため、手を繋げたし……良かったんだけど。


「フャーン!」


 今度は自分も連れて行け、と言う風に、オストリカが前足をぶんぶん振り回した。

 この、水遊び大好きな赤い猫は、今日はメリッサに抱えられて胸元に埋まっている。


「はいはい、今度はオストリカも一緒に潜ろうねえ」


「フャン」


 メリッサに撫でられて、目を細めるオストリカ。

 その位置、羨ましい……いやいや。何を考えてるんだ、俺。

 まるでメリッサの胸に埋もれたい、みたいな話じゃないか。


「……なーんか、クリス君の視線を私の一部に感じるなぁ」


「いやいや、違うよ! オストリカを見てたんだってば!」


「えー? オストリカを見てて、私を見てくれなかったの?」


「ああ、いや、それは……」


 いじわるな物言いに、俺が慌ててジタバタしていると、メリッサはクスクスと笑いだした。

 そして、そんな俺たちを見てほっこりしている、我がパーティの一行。

 くうー、恥ずかしいところを見られてしまった……!

 やがて、第三階層も遥か下方に遠ざかっていく。

 魔導エレベーターは俺たちを乗せてぐんぐん上昇し、ついに住宅街と商店街に溢れた世界、第四階層へ。


「う、うおおおお」


 ヨハンがまた叫んだ。

 あ、いや、今度はちょっと声のトーンを落としている。

 俺たちの他にも、途中の第二、第三階層で乗り込んできた人たちが、この階層に降りていく。

 だが、第一階層からずっと乗っていたのは、俺たちだけ。

 第四階層は、言わば別世界。

 第一階層に生まれた人間のほとんどは、この町並みも、活気に満ちた賑やかさも知らないまま生きていく。

 それは多分、第一階層が迷宮と世界を隔てるための壁で、ここからが、王国にとっての世界だからなのだろう。

 ちょっと不公平だなとは思う。

 生まれた世界で、その後の人生が全部決まっちゃうんだから。


「クリス君、何考えてるの? 難しい顔して」


 メリッサが、うつむく俺のほっぺたを突っついてきた。


「や、やめろよー。つんつんするなよー」


「だって、クリス君、深刻な顔して考え込んでるんだもん。悩んでる事があるなら、行動して切り開く! それが私の持論だよ!」


 第四階層へは、まるで外国に行くみたいに、入層手続きがある。

 ゴールディ家から発行されたそれを、ダリアが緊張した面持ちで、エレベーター入り口の入層管理官へと手渡した。

 しばらく、書類を精査する時間になる。

 第一階層から、正式に第四階層の住人になることなんて、めったに無いからだ。

 だから、俺は待ち時間に、メリッサとお喋りすることにした。


「あのさ、メリッサ」


「うん?」


「もし、生まれた瞬間に、生まれた場所で全部の人生が決まっちゃうことがあるとしたら……どう思う?」


「うーん」


 彼女はちょっと考えた。

 でも、俺が話したことを、別に深刻だとは捉えていないようだった。


「あのね。それは割と仕方ないかなあって思う。世の中、大体全部、運だもの。生まれたところがいいところだった人は、そういう運の良さがあったんだね。逆に、生まれた場所がパッとしなかった人は、そう言う運」


「不公平じゃない? なんかさ、俺、第四階層の街を見てるとモヤモヤして。第一階層はあんなに貧しくて、みんな必死にその日その日を生き抜こうとしてるのに」


「世の中は不公平なもんだよ。私だって、運が悪かったら死んでたもの」


 メリッサが俺の頬を、両手で挟んだ。

 いつの間にか、目の前に彼女の顔がある。

 大きな目が、緑色の綺麗な瞳が、俺をじっと見つめている。

 彼女は小さな声で、クリス君、まつげ長いね、と呟いて笑った。


「あのね。私、たとえ話じゃなく、死んでたかも知れないの。私は、結構危険な場所にある村で生まれて、外の世界に出るのは自殺行為みたいなものだった。でも、どうしても手に入れたいものがあって、友達と一緒に外に出たの。三人で出ていって、それで生きて村に戻ってこれたのは私だけ。それも、友達も私も魔物に食べられちゃってて、私が一番最後に食べられたから、生き残ったっていうだけ。助けに来た人たちがちょっと遅かったら……私が最初に食べられてたら……私はここにいなかったよ」


「お……おお……」


 メリッサの顔に見とれていた俺だったが、途中からは彼女の話に引き込まれていた。

 とんでもない話だ。

 今では、凄く強いメリッサに、そんな時代があったなんて。

 そんな経験をしてるから、メリッサは時々、大人みたいなことを言うんだろうか。


「ただ、こういう世界の(ことわり)みたいなのを全然無視しちゃう人たちっていうのがいて、その人たちが私を助けてくれたし、私を色々な世界に連れて行ってくれたんだけど……。うん。あれはオススメしない」


「え? なんで? 凄い人たちじゃん! 世の中の不公平とか、そういうの関係ない人たちなんだろ?」


「うーん。つまり、その人たちが勇者パーティって呼ばれてて、だけど、現役の時は世界中に迷惑を振りまいて歩いてた気もするからなあ……。ま、まあ、立場とかそういうのって、なんか凄い武器があればなんとでもなるよ!」


「武器? それってつまり、俺なら」


 俺は、腰に()いた二丁の魔銃に触れる。

 トリニティとサンダラー。

 そして、俺が契約したモンスターたち。


「そう。君は、世界が決めたそういう枠組みを、飛び越えられる武器を持ってるの。だから、そう遠くないうちに、このバブイルだって狭くなってきちゃうよ? そうなったら任せて。私、世界の外側に飛び出すのはベテランだから!」


 そんな事を言うメリッサが、俺にはとても頼もしく見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ