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初めての召喚!

「そもそも、召喚士ってなんだ? 俺は聞いたことないんだけど」


 メリッサが言った、召喚士という職業。

 耳慣れない名前だったので、俺は彼女に聞いてみた。


「あのね、古い文献にあった職業でね? 契約を結んだ魔物を、自由に呼び出すことができる存在なのよ。君は、間違いなくその召喚士なの」


「いや、でも、俺は冒険者になる時、背も低いし腕力も無いし、魔法も使えないから、ある程度のお金と魔力があれば誰でもやれるっていう魔銃使いになったんだぜ? 魔銃の値段はジョージが肩代わりしたから、しばらくは給料なしだったけど……」


「それって、そのジョージって人が言ったの? 君に才能がない、みたいな」


「そ、そうだけど……。だから、俺は魔銃使いしかできないし、こいつを乱射しかできないから、他では通用しないって」


 俺の言葉を聞いて、メリッサがむきー! と怒った。

 あまりにも怒ったので、フードがバサッと外れて、彼女の髪の毛が広がる。

 ちょっとウェーブがかかった長い髪で、色は茶色。

 いい匂いがした。


「そいつ! ジョージってサイテーね! 君は凄いのよ! 古い文献で言われてた召喚士の才能があったし、実際に私の目の前で契約してみせた! なのに、ジョージは君の才能を見ることもしないで、魔銃使いという職業に君を押し込めたんだわ!」


「フャンフャン!」


 メリッサの腕に抱かれている子猫が、そうだそうだと言わんばかりに前足を振り回す。

 その位置、彼女の胸にちょっと埋もれてて、気持ちよさそうだなあ……。


「クリス? クリス君? おーい」


 はっ、いけないいけない。

 メリッサの胸を凝視していた。


「か、変わった猫だね?」


「でしょ。この子は、アーマーレオパルドっていう珍しい魔物の赤ちゃんなの。何匹か生まれた中から、この子の親が私に一匹くれたのよ。だから、私はお母さんなの」


 よし、誤魔化すことに成功したぞ。

 俺が胸を撫で下ろした時だ。

 向こうから、悲鳴が聞こえた。


「誰かが襲われてる!」


 俺は思わず走り出す。

 いつもなら、パーティの仲間やジョージに止められていただろう。他人を助けてどうする。同業者が減れば、それだけ競争相手がいなくなって、俺達が有利になるだろう、みたいな。

 だが、今の俺を止める者はいない。

 迷宮の構造は、ここまでやって来た段階で軽く頭の中に入れてある。

 この階層なら、そう迷うこと無く進めるはずだ。

 悲鳴は、ジョージのパーティが無視した分岐(ぶんき)路の先から聞こえてきていた。

 まだ、罠も何も調べていない、危険なルートだ。


「だけど、見過ごせるかよ!」


 俺は飛び込んだ。

 少し進むと、周囲に罠が発動した跡がある。

 壁に空いた穴から発射された矢は、ずるずると後ろについた鎖に引きずられ、穴に戻っていくところだ。

 地面に広がった染みは、酸だろうか。これも迷宮に床に染み込んでいく。

 これらが完全に元に戻る前に、通り過ぎるのだ。


「いた!」


 罠の先に、彼らはいた!

 見知らぬ冒険者のパーティだ。

 一人が倒れてもがいていて、しかし、他のメンバーは倒れた一人に構う余裕がないようだ。

 彼らの目の前には、大きなモンスターが立ちふさがっている。

 ストーンゴーレムだ。

 しかも、頭が大きな魔銃みたいになっている!


「大丈夫か!」


 俺は駆け寄りざま、ストーンゴーレムに向かって魔銃を連射した。

 こいつで、少しでもゴーレムがこっちを気にすればよし。

 俺が扱う魔銃の攻撃では、ゴーレムクラスにはダメージなんか与えられないのだ。


 ところが。


『グオオーン!』


 俺の放った弾丸は、青い光を放ちながら飛び、ストーンゴーレムの肩をえぐり取った。

 衝撃に、巨体が揺らぐ。

 ど、どういうことだ!?

 いや、好都合だ!


「今だみんな! 後ろに下がって、倒れてる仲間を!」


「あ、ああ! すまない!!」


「すっごい魔銃の攻撃……!!」


 冒険者の一行が、倒れている人物……盗賊の男性みたいだ。

 彼を引っ張って後退する。

 あ、いや、みんなで後退されたら、俺が前面に出ちゃうじゃない……!?


「気をつけて! あのストーンゴーレム、頭からでっかい弾丸を発射してくる!」


「ええ……!?」


 ゴーレムは体勢を立て直し、頭に当たる銃口を、俺に向けている。

 明らかに俺を狙っているではないか。

 やばい、これはやばいぞ。

 俺の手がカタカタ震える。

 なんとか魔銃を構えて、魔力で弾丸を生成しようとするが。


「クリス君! 召喚して! たぶん、名前を呼んだら出てくるよ!」


 ずっと後ろにいたらしい、メリッサの声がした。

 そ、そうか。

 俺は召喚士とやらになったんだ。

 銃口をゴーレムに向けて、俺は叫ぶ。


「出てこい、ペス!! あいつをぶっ倒せ!!」


 すると、シリンダーが高速で回転し始めた。

 描かれた呪文が、青く輝き出す。

 俺は銃の狙いを定めながら、引き金をひいた。


『ガオーンッ!!』


 轟いたのは銃声じゃない。

 獅子が吼える声だ!

 銃口から飛び出した青い輝きが、みるみる巨大化してゴーレムに襲いかかる。

 それは、さっき契約したキメラの形をしていた。


『ガオーッ!』


『グゴゴー』


 ゴーレムが弾丸を発射したが、これはキメラのドラゴン頭が炎を吐いて打ち消す。

 キメラのペスは、勢いをゆるめず、ゴーレムを押し倒した!


『ガオ!』


 ペスが俺を振り向いた。

 銃で撃てって言うのか。

 よーし、やってやろう!


「行くぜ、ペス! おりゃあーっ!!」


 俺は魔銃を連射する。

 狙いを定めるのが得意というわけでもないから、弾丸はペスにも当たっているはずだ。

 だが、不思議と、青い弾はペスの体を素通りし、ゴーレムだけに突き刺さる。

 さらに、ペスが爪や牙、山羊の頭が使う氷の魔法、蛇尻尾の噛み付いて腐らせる毒で、ゴーレムを蹂躙(じゅうりん)していく。


「キ、キメラを従えてる!」


「しかもあれ、すごく強いキメラだ……!!」


 俺が助けたパーティが、やっと余裕がでてきたようで、戦いの模様を観戦している。

 後ろからそんな感想が聞こえてくるのだ。


「よし、ペス、とどめだ!」


 俺は倒れたゴーレムに駆け寄った。

 魔銃のシリンダーが輝きを増す。

 ここから先は、反射的に体が動いた。

 俺は魔銃を構えて、ペスを撃つ。

 放たれたのは、とても強い輝きを放つ弾丸だ。

 これは、キメラを通過するのではなくて、彼と一体化した。

 ペスが一回り大きくなり……その背中に、巨大な蝙蝠の翼が生えた。


『ガオオーンッ!』


 ペスは咆哮を上げながら、ゴーレムに噛み付く。

 そして、その巨体を持ち上げて跳び上がった。

 迷宮の通路いっぱいに広げられた翼が風を打つ。

 持ち上げられたゴーレムは振り回され、迷宮のあちこちに叩きつけられた。

 あっという間に、ゴーレムの巨体が壊れ、崩れ、小さくなっていく。


『ガオーッ!!』


 最後にペスはゴーレムを地面に落とすと、そこ目掛けて猛スピードで突撃した。

 最後に残ったゴーレムの頭部が、粉々に砕け散る。

 ペスは地面に立つと、俺を振り返って得意げな顔をした。

 いや、ライオンの表情ってよく分からないが、間違いなく今のあれは、俺に褒めて欲しい顔だ。


「よくやったぞ、ペス! 凄いぞ!」


 駆け寄って撫で回すと、ペスがゴロゴロと喉を鳴らした。


「だ、大丈夫なの……?」


 さっき助けたパーティの人たちが、恐る恐る近づいてきた。

 先頭は、ベテランっぽい女戦士。

 迷宮用に長さを調整した槍を手にしている。革鎧に編み上げた黒髪。精悍な感じの美人だ。


「ええ、多分……」


「彼は召喚士なの。だから、キメラを従えられるのよ」


 自信なさげに答えた俺を、メリッサが補足した。


「召喚士!? まさか、モンスターを自在に呼び出し、使役するという失われた魔法使いの職じゃない……! それを、こんな若い子が……?」


「それに、こちらのキメラさんはとても優しそう。モンスターは、神に従わぬ恐ろしいものばかりでは、ないのね」


 こちらは、さっきのパーティの神官だ。

 首から下げている、放射線みたいな聖印は、光の神ユービキス教のものだろう。

 神官は、金髪を短く切って、メイスを握りしめたほんわかした女の人だった。

 なんだなんだ、このパーティ、女の人しかいないのか!

 いや、盗賊が男だったっけ。

 他に、影の薄い魔法使いの男がいた。

 俺は助けた彼らと、メリッサとともに、魔導エレベーターへと向かうことになったのだ。


 ちなみに、エレベーター前にペスが歩いてきたら、担当の兵士たちが怯えて、大量に集まってきて戦闘態勢になったので、俺は彼を慌てて弾丸に戻したのだった。

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