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怪しい交渉人!

 まるで、地下第三階層に蓋をしているような、そんな扉だった。

 ヨハンと二人で、両開きな扉の取手を掴む。


「せーのっ!」


 息を合わせて、一気に引き上げた。

 すると、大きな扉が呆気なく開いていく。

 まるで、油を差して、いつでも開けられるようにしていたかのようだ。


「これは、迷宮がクリス君を認めたんだよ。だから、自分から扉を開いたの」


「そんなものなのかあ」


 完全に開け放たれた扉からは、第四階層の空気が流れ込んでくる。

 もうじき、ここに魔導エレベーターができ上がる。

 制覇された階層は、今後自由に行き来できるようになるのだ。


「そう言えば、上の階層の冒険者はもっと深い地下階層を冒険してるって言ったけど……。あの人たちも、浅い階層から始めたんじゃないの?」


 仲間たちが、次の階層に降りる準備をしているうち。

 俺は、メリッサに疑問をぶつけてみた。


「それは色々と理由があってね。実は、地下第四階層まで、もともと地上の階層だったんだって。そして、今で言う第四階層……昔は第八階層だったところは、地下階層まで直通の魔導エレベーターを持っていたの。邪神が復活して、今の地下第一階層までをまとめて封印してしまったというわけ」


「へえ……」


 それは驚きだ。

 つまり、俺たちが恐るべき迷宮だと思って探索していたのは、古い時代の人間の町だったわけだ。

 だとすると……俺たち、第一階層の冒険者に与えられていた、迷宮を踏破しろというクエストは一体なんだったんだろう。

 王国は、古代の町を取り戻そうとしていた?

 それでも、邪神という何かとんでもないものを封印するため、古代の町が犠牲になったんなら、それを取り戻したらやばいんじゃないか?


「なんだろうなあ……。なんか、納得行かない……」


 俺は難しい顔をした。

 すると、メリッサがちょっと背伸びして、俺の頭をなでなでしてくる。


「うん。君は悩むんだね。それがクリス君らしいと思う。私はいつだって手助けできるから、色々考えてみよ」


「うーわー! 子供扱いするなよー!?」


 ちょっと照れて振り払ったら、メリッサは「むふふふふ」と笑いながらちょっと離れた。


「おーい、お二人さん! フラッグを立てたわよ。これで私たちの役割はおしまい。魔導エレベーターができて、冒険者の店が判断をするまでは仕事はお休み!」


 扉から縄梯子を下ろし、第四階層に『フラッグ』を立てたようだ。

 これは、冒険者の店から、全ての冒険者が手渡される“冒険者セット”に入っているものだ。

 階層を制覇したら、下の階層にフラッグを立てる。

 そう、俺たち冒険者は教わる。

 そして、魔導エレベーターが無い以上、無用の長物としか思えない縄梯子も、一つのパーティに一つは必ず常備するよう定められている。

 これって、今俺たちが第三階層を制覇したから意味ができたんだな。


「これが展開されたフラッグかあ……。なんか、名前通りの旗なんだけど、妙にピカピカ光り輝いているっていうか……」


 これを目印にして、上から魔導エレベーターが降ってくるのだ。

 俺たちがやれることは、全部やった。

 後は戻るばかり……。


「いやあ、新しい階層にたどり着くなんて、何年ぶりだ!? これ、歴史に残るぜ!」


「……記録によれば、百年以上の間、第三階層は突破されていない……。第一階層の記録は、大半が失われている上に不正確、だが」


 ハンスが珍しく長く喋った。

 パーティ一知識を持つハンスが、正確なところを知らないんだ。

 誰も分かりはしないだろう。

 ということで、俺たちは第一階層へ戻ることになったのだ。



△▲△



「見事! 記録の上でも、久しく地下第三階層は突破されていなかった。だが、今日ここで、歴史は新たな一ページが刻まれたのだ!」


 冒険者の店の長、ガッドが、高らかに告げる。

 彼の横には、ダリア一行。

 そして、俺とメリッサ。オストリカが「フャン!」と元気に鳴いた。


「この旨は、王国へ伝令を送っている! 迷宮探索は次なる局面を迎え、第一階層へは新しいクエストが下されるだろう。それまでの飲み食いは、冒険者の店が持とう!」


 おおおおおおお、と冒険者たちが歓声を上げる。

 第一階層の冒険者は、十二組。

 全部で五十人ほどいるのだが……今日は少ないような。


「あれっ、ジョージがいない」


「ジョージなら、戻ってこなかったぜ」


 そう言ったのは、他の冒険者。

 戻ってこない、というのは、迷宮で全滅したことを意味する。


「そうか……。ジョージたちは全滅したのか。そうかあ……」


 嫌な奴らではあったが、それなりの期間、一緒に迷宮探索をした仲だ。

 色々思うところはある。

 悶々としながら、店から振る舞われる食事に手を付けた。

 すると、リュシーが光の神の聖印を触りながら言う。


「日頃の行いが悪かったもの。彼らには、光の神ユービキスの加護が届かなくなっていたのでしょう。神の愛し子でなくなった者は、災いに囚われると言います。神の守りを失ったジョージたち一行は、迷宮で生き残ることができなかったのです」


「その割には、俺たちもクリスに助けられなければ、全滅してたけどな……」


「それは、クリスがわたしたちを助けてくれたこと自体が、ユービキスの加護なのです!」


「本当に、神官は屁理屈が得意だなあ……」


 途中で茶々を入れたヨハンだったが、リュシーに苦もなく返されて肩をすくめる。


「ユービキスさんの加護ねえ……? それをなくしたら、迷宮の邪神に魅入られたりして」


 メリッサが、妙に光の神を親しげに呼んだ。

 まさか、光の神と知り合いだったり……?

 いや、流石にそれはないだろう。


 そんなこんなで、俺たち冒険者は開店休業。

 迷宮を探索することは禁じられ、その間の収入は途絶える。

 だが、王国から新たなクエストが下されるまでの間、冒険者の店から食は保証される。

 住はまあ、自分でなんとかするしかない。

 ……ということで。


「おーい、クリス! 網! 網持ってきてくれ!」


「はいよー!」


 宿代を稼ぐため、俺はバイトを始めることにした。

 仕事内容は漁師の手伝い。

 一応、金なら多少はある。

 だが、今の俺は結構な借金をメリッサにしている身だ。

 うん、城が幾つか建つくらいの借金だな。

 少しでも節約するため、宿代は自分で稼がなくては……!


 引っ張ってきた網を手渡すと、漁師はそれを船に積み込んでいく。

 俺はバイトに過ぎないので、船には乗せてもらえない。

 陸で、漁に出る船のサポートだ。

 手取りはあまり良くないんだが、このバイト、売り物にならない雑魚はもらえるんだよな。

 ペスとトリーの餌が稼げる!


「よし、クリス、今日の給料と、後これは雑魚な」


「ありがとうございます!」


 俺は木桶いっぱいの雑魚を受け取り、持ち帰る。

 冒険者の店まで戻ってから、ペスとトリーを召喚だ。

 二匹が、むっしゃむっしゃと雑魚を食べているのを眺める。


「ちょっと、いいかな」


 そこへ、声がかけられた。


「はい?」


 俺が振り返ると、後ろに中年の男が立っている。

 第一階層ではなかなか見かけないような、上質な身なりをしている。

 これ、第四階層ではよく見た服装だな。

 つまり、貴族とかそれに準じるような地位の人間って言うことだ。

 そんな人間が、この第一階層に来るなんて珍しい。


「クリス君、だね? オリジナルの魔銃を使う、魔銃使いにして召喚士」


「ああ。そうだけど」


 俺は、ちょっと警戒する。

 俺が召喚士だって言うことを知っている。

 こいつは誰だろう。

 いや、冒険者の仲間たちには広まっている話だから、他に知っている人がいてもおかしくないか。


「私はオラム。君をスカウトにやって来たんだ。選王侯、クロリネ家が、君の力を求めているんだよ」


「俺を……選王侯がスカウト……!?」


 これはなんだか、きなくさい話になってきた。

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