大活躍の召喚士!
第一階層に戻ってきた、俺とメリッサ。
ダリアたちは一週間の休みを得たため、元気いっぱいだ。
早速、新しい魔銃を携えて、迷宮に挑むことになった。
一気に第三階層まで降りて、力試しだ。
「二丁のオリジナル魔銃なんでしょ? 凄いわね……! 私、オリジナルなんて初めて見たわ」
「俺も俺も」
「わたしもです」
俺が抜いたトリニティを覗き込む、仲間たち。
白い異形の魔銃は、自ら光を放ち輝いている。
「そ、そんな大したことは……あるけどね」
ガンベルトから、ペスとトリーの弾丸を取り出すと、魔銃に装填する。
これから向かうのは、ダリアたちを救出した第三階層の奥。
探索を断念した場所だ。
この間のようなゴーレムや、もっと恐ろしいモンスターがゴロゴロいるかもしれない。
そのために、先にモンスターを召喚しておくのだ。
「召喚!」
トリニティのシリンダーをセットすると、青い輝きを放ちながら回転し始める。
青だけじゃない。
ペスの四色の輝きと、トリーの白い輝き。
光が混じり合いながら、シリンダーの回転が増し……。
「いでよ、ペス! トリー!」
三つの銃口のうち、二つが火を吹いた。
輝きを纏いながら、ペスとトリーが飛び出してくる。
なんだか、前に召喚したときよりも、力強い印象になっている気がする。
『ガオガオーン!』
『ピュイーッ!』
俺たちに任せてくださいよ、クリスさん!
……みたいなことを言っている。
「これは……私たちの出番、無いかもね……?」
「楽して第三階層を攻略できりゃ、儲けもんだぜダリア」
どんどんと突き進んでいく、ペス。
次々に、ゴーレムやキメラが姿を現すが、ペスの敵ではない。
普通のキメラよりも一回り大きな彼は、キメラの群れを跳ね飛ばし、ゴーレムをブレスで焼き払い……。
『ピョイッ』
「空から来る? うん、任せたよ、トリー!」
俺の横から、真っ白なハーピーが飛翔した。
そして、天井間近から滲み出そうとしていた、粘液状のモンスターに飛びかかる。
「あれって、スライムじゃない! 気づかずに下を通っていたら、溶かされてたかもしれない」
メリッサが唸る。
トリーはスライムに直接触るのではなく、風を起こして粘液状のモンスターを散り散りに吹き飛ばしていく。
あるいは、周囲の石を持ち上げて叩きつける。
染み出してきたスライムは少しずつ小さくなり、ついにその本体を現した。
透明な粘液状の体に、そこだけオレンジ色をした核が浮かび上がる。
『ピョーッ!』
「ああ、任せろ! サンダラー!」
ホルスターから、もう一丁の魔銃を引き抜く。
俺は、スライム目掛けて引き金を引いた。
魔力の弾丸が、スライムの核を撃ち抜く。
モンスターはぐずぐずに崩れ、落ちてきた。
『ガオー』
「いやいや、ペスが前衛をやってくれたおかげだよ!」
『ピョルルー』
「トリーがお膳立てしてくれたおかげさ!」
「クリスさんがモンスターさんたちと喋ってるのね……」
「不思議な光景だ」
「みんなも、モンスターと仲良くなればお話できるようになるよ?」
当たり前みたいな顔をしてメリッサが言うのだが、それはどうだろう……?
ちなみにメリッサには、ペスやトリーの言葉が理解できるらしい。
オストリカの言葉も分かるのか聞いてみたのだが、オストリカは本当に赤ちゃんなのだそうで、あまり意味の無い言葉を口にしているとか。
そして。
「はい、いよいよ第三階層の一番奥だねえ」
メリッサが平然と言う。
だが、地下第三階層は、何十年もかけて第一階層の冒険者たちが攻略している迷宮なのだ。
それを、ほんの一日で最奥まで到着してしまうなんていうのは、普通じゃない。
「だって、上の階層の冒険者たちは最初からもっと下の階層を攻略してるでしょ? 迷宮は下に行くほど、貴重な素材が手に入るし、重層大陸バブイルの謎に迫ることもできるんだから」
つまり、第一階層の冒険者は、はじめから実入りが少ない階層の探索しか許されていないわけだ。
この辺、生まれた場所が第一階層だったと言うだけで、到達できる場所が決まっているわけで。思えば、世の中の理不尽みたいなのが詰まっているなあ。
「おいでなすったわよ! あれが第三階層のボスよ!」
それは、キメラによく似ていたが、よくよく見るともっと悪趣味な外見のモンスターだった。
『ほうほう、たまーにおるのぢゃよなあ。多少出来のいい冒険者が、わしの所までたどり着くことが』
巨大な獅子の体に、紫色の老人の頭を生やし、大きなコウモリの翼を生やしたモンスター。
「マンティコアじゃない! なんでこんなところにいるの!」
メリッサがマンティコアと呼んだモンスターは、俺たちをじろじろと眺め回す。
彼の後ろには、大きな棺のようなものがあった。
恐らくは、あれが地下の階層へと向かう扉なのだろう。
「みんな、構え! やるわよ!」
ダリアの号令に合わせて、ヨハンが、ハンスが、リュシーが戦闘態勢に入る。
ただ、うちのパーティ四名の実力では、このモンスター相手には歯が立つまい。
「ペス、トリー、オストリカ! あとメリッサ!」
『ガオ!』
『ピュ!』
「フャン!」
「はーい! ……ねえ、なんで今私、あの子たちと一緒に呼ばれたの」
思わず、ノリで。
そして戦いが始まった。
△▲△
『やれやれ。わしが顔を出した時にここまで来るとは、運の無い奴らじゃのう。ま、わしがおらなんだら、扉も姿を現さぬ。ここから下に行きたくば、わしを滅ぼす他は無いのじゃがな?』
軽口を叩きながら、マンティコアが大きな翼を羽ばたかせる。
彼の体は牡牛ほどもあり、そんな巨体が悠々と空に舞い上がる。
この辺りだけ、迷宮は広大な空間になっていて、マンティコアが自在に飛び回れるようになっているのだ。
浮かび上がったモンスターは、ごにょごにょと魔法を詠唱し始める。
マンティコアの周囲に、禍々しい黒い光が集まってきて……。
「ペス! 炎のブレス!」
『ガオーッ!』
俺の指示に合わせて、キメラのペスが炎を吐く。
これも魔法の一種で、炎が束になって一直線にマンティコアへと襲いかかる。
『ぬおっ!? キメラごときがわしに逆らうかよ! しゃあっ!』
マンティコアもまた、反撃に魔法を解き放つ。
恐らく未完成だった魔法が、炎のブレスと相殺しあって消えていった。
「ペス! ヤギの魔法だ! トリー! 風を起こせ!」
『メエー』
『ピョルルルル!』
ペスのヤギ頭がごにょごにょと魔法を詠唱し始める。
その頭上をトリーが飛び越えていき、マンティコアの周囲を飛び回りながら、猛烈な風を起こし始める。
『ハーピーまでじゃと!? しかもこやつら、強化されておる!!』
マンティコアの目が見開かれた。見つめるのは、モンスターたちに命令を与える俺。
『ま、まさか貴様、召喚士か!?』
「その通りだ!」
俺はサンダラーで、弾丸をぶっ放す。
雷鳴がとどろき、猛烈な勢いで弾はマンティコアに炸裂した。
『ゴワーッ!』
トリーの風で身動きが取りづらくなっていた相手は、この一撃で落下してくる。
そこへ、ダリアたちが押し寄せた。
槍や短剣、魔法で、ポカポカとマンティコアを叩く。
『ええい! こちゃこちゃと鬱陶しい!!』
マンティコアが青筋を浮かべながら起き上がる。
ダリアたちは、わーっと跳ね飛ばされた。
あ、いや。
一人だけ、悠然と残ってるのがいる。
メリッサだ。
『なんじゃ小娘! ぷくぷく肉付きがよい体をしおって! 喰ろうてやろうか!』
「ぷくぷく!? ムキー!!」
メリッサの逆鱗に触れた!
彼女はその辺りの石を拾うと、それで無造作にマンティコアの頭を叩いた。
『ホゲエッ!?』
ボグッ! と鈍い音がして、一瞬、マンティコアが白目を剥く。
「今だ、ヤギ!」
『メェー! “酸の雲”』
毒々しい、緑色の雲がマンティコアとメリッサを包み込む。
あ、しまった、と思ったが、メリッサは片手でパタパタ扇いで、近くの酸の雲を振り払った。
魔法をまるで、蚊か何かを退治するみたいに……と思った俺である。
マンティコアには、魔法の効果は抜群だ。
『ギョエーッ!』
絶叫しながら、第三階層のボスモンスターはのたうち回る。
「とどめだ!」
俺は、トリニティとサンダラーを構えた。
両手の魔銃が、魔力の光を放ちながら鳴動する。
「ペス! トリー! 強化する! 一気に決めるんだ! 俺も行くぞーっ!!」
サンダラーを連射しながら、トリニティの引き金を引く。
銃口から溢れ出した光が、ペスとトリーを包み込み、強く輝かせた。
『ガオーッ!!』
『ピョルーッ!!』
地からペスが。
空からトリーが襲いかかる。
そして正面からは、俺のサンダラー。
巨体に一斉攻撃を受けたマンティコアは、『ウ、ウグワーッ!?』と断末魔の叫びを上げると、どう、と地に伏したのだった。