邪神バラドンナ、がんばる
今日も邪神は頑張っている。
『ええい! 全く先に進めぬではないか!』
ぷりぷりと怒りながら、迷宮の壁に八つ当たりする男。
彼は、邪神によって精神を支配されてしまった、ジョージという冒険者だ。
彼の口を使って話しているのが、長い間迷宮に封じられていた邪神、バラドンナ。
『いたい!!』
「バラドンナ様、ジョージは正直どうでもいいんですけど、お体をいたわって下さい」
「バラドンナ様が死ぬと、俺たちみんなまた死ぬんで」
後に続く、彼の信者たちが、心配して近寄ってくる。
男の戦士に魔法使い、女盗賊。
どれも、ジョージのパーティメンバーだった者たちだ。
迷宮奥深くの強力なモンスター、ケルベロスによって殺された彼らは、邪神バラドンナによって復活させられ、信者となっていたのだ。
神は信者がいなければ、その力を十分に発揮できない。
ということで、バラドンナは手近な彼らを信者にしたのだ。
『うむ……! だが、迷宮がな……。どこまで行っても出口が見えないのだ』
「そりゃそうですよ。ここ、地下何階層かは分からないですけど、まずは上り階段を探さないといけないんですよ」
魔法使いの言葉を聞いて、バラドンナ、びっくりする。
『なにっ! いきなり外に出られるのでは無いのか』
「世の中そう上手くできてませんって」
「バラドンナ様、あたし、また死ぬのいやですからね。慎重に行きましょう、慎重に」
『うむ、確かに。モンスターどもは儂が生み出したようなものだから、恐るるに足らん。だが、あの悪辣な神どもが残した罠が、なんともたちが悪くてな……!』
ここに来るまで、バラドンナと信者一行は、何度も強烈な罠にかかり、その度に信者は全滅し、それを邪神が復活させて来ていた。
大変な時間と魔力のロスである。
『慎重に、慎重にか。よし、分かった。儂、落ち着く。じっくり調べながら進んでいこう』
「流石はバラドンナ様!」
「話が分かる!」
「どこかのジョージとは大違いだぜ」
『儂をもっと讃えよ』
やんややんや、と盛り上がる邪神一行。
いい気分になったところで、彼らは再び迷宮探索を開始した。
そして……。
『あっ』
「あーっ!! バラドンナ様がテレポーターに引っかかった!」
「全然慎重じゃないじゃん!」
「バラドンナ様ー! バラドンナ様ーっ!!」
世界はまだ、邪神の復活を知らない。