ガンベルト!
会食ではちきれるほど食べ、ホテルに戻ってきた。
すると、部屋ではモンスターたちがベッドを占領して大暴れしていた。
オストリカとペス、トリーが、スプリングの効いたベッドで飛び跳ね、カーテンにぶら下がり、絨毯の上をごろごろ転がる。
「おーおー、元気ねえ」
ニコニコするメリッサ。
ホテルの人は怒らないだろうか。
いや、きっと大丈夫だな。
「お待たせ、みんな! 飯をもらってきたぞ!」
「フャーン!」
オストリカが歓喜の叫びを上げる。
ペスも、蛇のしっぽをぶんぶん振り回し、ご飯を待っている。蛇が目を回してる……。
俺が担いできた保存容器を空けると、中にはたっぷりと、肉が詰まっている。
『ガオーン!』
『ピョロー』
ペスもトリーも大喜び。
モンスターたちにご飯をあげつつ、彼らの毛並みをもふもふと撫でる。
小型化させると、可愛いものだなあ……。
とても、恐ろしいモンスターだったとは思えない。
召喚士として彼らと契約するということは、特別なことなのだ。
たっぷりとご飯を食べた、モンスターたちは、自ら弾丸に戻ってしまった。
いつもよりも、弾の輝きが強い気がする。
「さあ、クリス君。今日は寝ようか。明日はまた、行かなきゃいけないところが……」
まだまだ、俺はメリッサに連れ回されるみたいだ。
でも、彼女について回るのは、不思議といやじゃない。
メリッサは、俺の知らなかった世界を見せてくれるからだ。
「おう! どんと来いだ!」
俺は元気よく答えた。
△▲△
あっという間の一週間。
いよいよ、革職人に依頼した、魔銃と弾丸用の収納装備が完成する時が来た。
メリッサと連れ立って職人街まで出ると、そこでまた、レオンと会った。
「こんにちは」
レオンは礼儀正しく、頭を下げてくる。
なんだか、第四階層にいる間、彼とは妙に縁があった気がする。
女性が苦手らしく、メリッサとはまだ目を合わせて話せないが、俺とはちょっと打ち解けて会話できるようになっていた。
「やあ、レオン。君も職人に何か頼んでいたのか?」
「ええ。僕は魔剣の鞘を。カトブレパスの皮をなめした鞘は、危険な魔剣の力を封じることができます。これで僕も、本来の魔剣を使うことができる」
「レオンは腰に魔剣を下げてたと思うけど」
「はい。これは魔剣を模して、王国で作られた数打ちです。それなりに丈夫ですし、威力も向上していますが、本当の魔剣と比べれば、おもちゃです。クリス君の魔銃と一緒ですよ」
「なるほどー」
「クリス君はバッチリ、私が鍛えたからね!」
「あ、そ、そうですか」
メリッサが話に入ってくると、途端にレオンは静かになった。
本当に女の子が苦手なんだなあ……。
「おう、あのとんでもない魔銃の坊主か。できているぜ」
約束の時間に店に入ると、職人が待っていた。
用意されていたのは、赤い色に染められた革のベルト。
そこに、銃を収めるホルスターが二つ取り付けられている。
「これ、両方とも全然形が違う……?」
「おう。オーダーメイドだからな。こいつが、お前さんのガンベルトだ」
受け取ると、俺の手に心地よい重みが掛かった。
この色は、俺の髪の色に合わせたんだそうだ。
メリッサの特注だけど、割と俺も気に入っている。
腰に巻き、紙袋に入れてきた魔銃をホルスターに収める。
「坊主の青い銃は、それ、早撃ちに向いてるだろ」
「分かるんですか?」
「採寸させてもらっただろ。こいつは、抜いたまま扱う銃じゃねえ。抜いて構える動作と、シリンダーが同機する構造になってる。構えた瞬間にはシリンダーによる詠唱が終わってるんだ。後は引き金を引くだけさ。だから、こっちはその青い銃専用のホルスターになってる。逆に、そのおかしな形の白い銃は、まあ形を合わせただけだ。俺もそいつだけはお手上げだ」
職人は、サンダラーの特性を見抜き、専用のホルスターを作ってくれたということだ。
ただ、彼にもトリニティはどう扱っていいのか分からなかったと。
これは、早撃ちするような魔銃じゃないしな。
実戦はサンダラーで行い、召喚はトリニティ。
使い分けはメリッサと練習したから、それなりにできるはず。
「ありがとうございます! 最高の仕上がりだ!」
銃を収め、抜く仕草をしてみて、そのスムーズさに驚く。
心の内を素直に告げると、職人はうんうんと頷いた。
「実戦で試してみな。それで、白いおかしな銃の使い方が分かったら、また来な。そっち側も調整してやるよ」
「ぜひ、お願いします!」
これは、楽しみができてしまった。
また、絶対に第四階層に来なければ。
俺は固く決意した。
第一階層に戻れば、ダリアたちが待っていることだろう。
「いいじゃん! 似合ってるよ!」
俺がガンベルトを装着した姿を見て、メリッサも我がことのように喜んでいる。
何から何までまで、彼女には世話になりっぱなしだ。
新しい武器、新しい戦い方。
これで、これからもらった分を返して行かないとな。
「そちらが、君のガンベルトですか。なるほど、魔銃は僕の剣ほどじゃじゃ馬では無いようだ」
鞘を受け取ったらしき、レオンがやって来た。
職人が、彼の装備した鞘と魔剣を見て、頭を掻く。
「いや、そいつには参ったよ。なだめて、すかして、ようやく採寸させてもらった。オリジナルはみんな知性があるもんだが、そっちの坊主の剣は特に気むずかしいな」
「はい。ですが、僕の“ソウル・ガッシュ”は、この鞘を喜んでいます。ありがとうございます。素晴らしい仕上がりです」
レオンの魔剣は、真っ黒いロングソードだった。
いやな圧迫感を覚える。
だが、ホルスターに収まった、トリニティとサンダラーが微かに鳴動すると、魔剣が放つ圧迫感は急激に収まった。
「なるほど……。その二丁を相手にすれば、ソウル・ガッシュと言えど危ういか……! クリス君、改めて、君はとんでもない武器に選ばれたのですね」
レオンが鋭い目線をこっちに投げかけてきた。
まるで、すぐにでもこの場で勝負を始めそうな雰囲気。
専用ホルスターで、サンダラーが唸る。
俺を使え、と急かしてくる。
「待て、サンダラー。ここは店の中だ。それに、レオンは敵じゃない」
「ええ。僕は、今は君の敵ではありません。だけど、君がゴールディにつく以上、青の戦士団とはぶつかり合うことになるでしょう。その時が、僕と君が戦うときだ」
「俺はゴールディ家に味方したわけじゃ無いんだが」
強いて言うなら、メリッサの味方だ。
彼女は、権力争いとは違う次元の目的を持って動いてる。
だから、ゴールディがパトロンに付いているとは言っても、必ずしもあちら側というわけじゃない。
いや、彼女の場合、本当の目的は物見遊山の旅かもしれないなあ……。
レオンの気迫を受け止めつつ、メリッサのことをぼんやり考えていると、当の彼女が間に割り込んできた。
「そこまでー! 今日はそういうのが目的じゃないでしょ。どうしてもって言うなら、私が相手になるよ!」
メリッサ、腕まくりをする。
えっ、魔剣相手に素手で!?
これにはレオンも仰天したようだ。
「い、い、いや、そんな気持ちはないんです……! つい、剣のやる気に当てられて……。あっ、ソウル・ガッシュがすっかり大人しくなっている」
「まあね、強い武器を手に入れてはしゃぐ気持ちはわかるよ。レオン君、男の子だもんね。でも、ほら。クリス君は魔銃を装備しても、あのように落ち着いてるよ」
「ああ。サンダラーはやる気なんだけど、トリニティがなーんかノンビリしててな……」
二丁の銃はそれぞれ性格が全く違うようだ。
同時に運用したら、バランスがいいかもしれない。
「なるほど……! 二つのオリジナルを装備しているというのに、あの落ち着きよう。さすがです、クリス君」
いや、俺はなんも考えていなくて、魔銃同士が偶然バランス取れてるだけなんだけど。
「僕も次に君と会うときには、この剣を制御できるようになっていると誓いましょう。さらばです、クリス君。ご、ごきげんよう、メリッサさん」
「なんでメリッサにあいさつする時だけ噛むの」
レオンは去って行った。
それなりに物騒なところのあるやつだった。
俺が気になるのは、彼が再会する時までに、メリッサの前で緊張する癖が治っているだろうか、ということなのだった。
そんなことを考えつつ、メリッサを見ていたら、彼女が首を傾げた。
「ん? 私の顔に何かついてる?」
いや、なにも。