新たなる相棒!
そいつは、店の一番奥に鎮座していた。
古びた魔銃が並ぶ中で、一際異彩を放つ見た目。
「知っているとは思うが、魔銃ってのはあたしらよりもずっと古い時代に作られたもんでね。その頃の遺跡が迷宮の中にあるのさ。そして、そこで掘り出されたのがこいつら。オリジナル。あんた達冒険者が使ってるのは、基本的にはレプリカの数打ちさね」
そこに並んでいる古い魔銃たちは、俺の目から見ても並外れた代物ばかりだと分かった。
大剣のように長い銃身を持ったもの。
縦に二つ、大きな銃口が空いたもの。
特大のシリンダーに、オマケのように銃身が付いたもの。
オーソドックスな見た目なのに、近づくだけで寒気を感じるもの。
「でも、こいつらは見ただけで使い道が分かるってものさ。クリス……と言ったね? あんたにしか使えないってのは、これさ」
「……なんだ、これ」
その白い銃は、見たことも想像したこともない外見をしていた。
まず、シリンダーが輪切りになっていて、上を向いている。
そこには三つの穴。普通のシリンダーは、六つから九つの穴が空いていて、そこに魔力で作り出した弾丸を詰め込む。
魔銃を握っている時だけ、魔力は弾丸の形になる。
だけど、三つだけの穴なんて、魔銃としては欠陥品だ。
「そいつはね、弾丸を詰め込む事ができないのさ。この銃を手にしても、魔力は弾丸になりゃしない。まるで、最初から確たる形を持った弾丸を詰め込むために、あつらえられたみたいなのさ」
銃口が三つあって、銃身は三角形の断面をしていた。
つまり、これ……輪切りになったシリンダーに、すでにある弾丸を込めて、三発同時に発射する魔銃というわけだ。
しかも、魔力を弾丸に変化させる機能が無い。
「クリス君。ペスやトリーは、まだ弾丸の形をしてるの?」
「ああ、うん」
俺がポケットを漁ると、そこから二匹の召喚モンスターである弾丸が出てきた。
彼らは、手のひらの上で鈍く輝く。
「それさ! この銃は、あんたのような召喚士が使うために作られた、専用の武器なのさ! この世界の、他の誰にだって使えやしない。さあ、手を伸ばしな」
俺はお婆さんに言われるまま、その風変わりな銃に手を差し出した。
すると、俺に反応して、銃のシリンダーがぼんやりと青く輝き始める。
その時、俺の頭の中に、銃の名前が流れ込んできた。
「……トリニティ。こいつ、トリニティって言うんだ」
名前を呼ぶと、銃が唸った。
『ヴゥゥン……』
まるで、俺の呼びかけに応えたみたいに。
それと同時に、俺の手の中にあった、ペスとトリーも震える。
間違いない。
お婆さんの言う通り、これは召喚士のための銃。
俺だけのための魔銃だ。
「こ、これ……これをくれ! あの、お金は無いけど、必ず払うから……」
俺の隣で、にっこり微笑んだメリッサが財布を開けた。
「じゃあ、お婆ちゃん。この子……トリニティと、それからこっちの子をちょうだい。代金は魔法石でいい?」
メリッサの財布から、内に輝きを閉じ込めた石が、幾つも転がり出る。
「ま、魔法石……!」
魔法石は、迷宮で発掘されるとても貴重な石だ。
第三階層では、まだほんの数個しか見つかっていない。
石一個で、小さな城が立つと言われるくらいの価値がある。
「そうさね。メリッサちゃんの頼みだ。あたしもここは太っ腹なところを見せなくちゃね! どーんとまけて、石五つでいいよ!」
「い、五つ!? 城が五つ立つ!?」
「はい、クリス君! トリニティだけじゃ、君自身が戦えないでしょ。これは護身用」
俺に渡されたのは、トリニティと、オーソドックスな形の魔銃。
トリニティは赤がベースで、そこに金色のラインが走った派手な銃だ。
もう一つは、青がベース。そこに銀色のラインが走っている。
「オリジナルを二丁持った魔銃使いなんて、特級冒険者でもなければいないよね。ヒュー! かっこいい!」
「そ、そ、そうか?」
俺は、手にした二丁の、ずっしりとした重みに圧倒されていた。
「イカスじゃないか。あたしもあと五十年若かったら放っておかないね」
「そ、それはどうも」
俺はお婆さんに、引きつった笑いを返した。
△▲△
凄まじい圧迫感に包まれた店を後にすると、どっと疲れが押し寄せてきた。
「いきなりすげえところに案内されてしまった……」
「そう? だって、クリス君の実力を発揮するには、ここ以外無いんじゃない? 召喚なんてレアすぎる力、専用の道具で活かさなきゃどうしようもないもの。ま、君なら銃の代金くらい、すぐに返せるから!」
「持ち上げられている気がする……! それで、後はあれだろ? 弾丸をしまうポーチを作りに」
「そうそう。あとはホルスターね。トリニティは大きいから、腰の後ろに装備したほうがいいかも。そっちの青い子も、なんなら並べて装備しちゃう?」
「それがいいかなあ……。でも、そんな形のホルスター見たことが無いんだけど」
「じゃあ、作っちゃおっか」
「へ!?」
……ということで、俺はメリッサに手を引かれて、革職人の家まで案内された。
ここは、ゴールディー家を始め、選王侯家御用達の革細工を作っているのだそうだ。
「看板に金色の飾りが……」
「これね、先々代のゴールディーさんがプレゼントしたんだって。ゴージャスだよねー」
「もうね、掛かっている金額がおかしいよ。麻痺してくるよ俺は……」
「フャンフャン」
オストリカが、俺の腕をペチペチ叩いた。
「いたいいたい」
「フャーン」
「麻痺してないねって、オストリカが」
「そりゃあ麻痺してないけど……オストリカ、細かい言葉の意味も分かるんだなあ」
赤い猫の頭を撫でると、彼は目を細めてゴロゴロと喉を鳴らす。
「さあさ、ここで最後だから。ちゃっちゃとホルスターの注文して、今夜の宿に向かおう?」
「えっ!? 今日もらえないのか?」
「特注だね。一週間くらいかかるよ。それでもものすごく急いでもらうんだけど」
ということで、革細工の店で細かに、俺の体と銃を採寸した。
弾丸用のポーチも、普通の魔銃なら無用の長物だ。
俺だけが使うための専用装具。
なかなか無い注文だと言うので、職人が張り切って、長いこと俺の体中を測りまくった。
というわけで、注文が終わった時点で、俺はさらにぐったりとくたびれてしまったのだ。
「もう、普通に冒険するよりも疲れる……! 疲れた……!」
「まあ、慣れないことをすると、精神的に来るよねえ」
メリッサはけらけら笑いながら、俺の肩を叩いた。
「お疲れお疲れ。くたびれた時は、甘いものを食べるに限るよ?」
「また食べるのか!」
「甘いものは別腹でしょ?」
「ふと」
「ふーとーりーまーせーんー!! ほら、クリス君、今日は全部私のおごりなんだから、キリキリついてくる!」
俺はメリッサに肩をがっしりと抱えられて、連行されることになった。
いや、あの。
この密着状態はかなり……年頃の男子としてはドキドキして困る。
あ、やばい、柔らかいっ。
いい匂いがするっ。
クラクラしながら、メリッサに引っ張られていく俺。
手近な飲食店に入ることになった。
店の中に動物を連れていけないということで、軒先に並べられた座席に腰掛ける。
俺とメリッサ、横一列になる。
間にオストリカが、ちょこんと座る。
「あ、すみませーん! 注文お願いしまーす」
メリッサが手慣れた風に、店員を呼んで注文を始める。
俺とメリッサには、冷やした甘いお茶。オストリカにはミルク。
「いやあ、今日は歩いたねえ。歩きに歩いた!」
「そうだなあ。人混みの中を歩くのって、ここまで疲れるもんなんだな。第一階層って、そこまで人が多くないだろ? だからもう、人が多すぎて疲れるっていうか……」
「あー、分かるかも。私も、生まれはこんな都会じゃなくて、第一階層みたいな村なんだよね。食べるものもあんまりなくて、毎日必死だったなあ……」
「メリッサもそうなのか。意外だなあ」
「そお? 私、クリス君に近いタイプだよ? 生まれも、それから世界が一変してしまうようなキッカケも」
メリッサの大きな目が、俺を見つめている。
彼女の明るい緑色の瞳の中に、俺が映っていた。
それはまるで飲み込まれてしまいそうなくらい強い視線で……。
だから俺は、メリッサが口にしたキッカケ、という言葉を聞き逃していたのだ。