権利請願
有益とは、生み出した成果物に対してその分野における実効性があるというのが、大多数の者に、大いに承認される際には存在が確かめられる概念である。
こうした成果物を製作できるならば、クリエイターは効果の度合い、製作回数等によって天才か秀才と呼ばれる。勿論、有形か無形かは問わない。
私は、客観的に天才、秀才であったか。これについては、謙遜ではなく否、といえよう。ただ、選ばれたのだ。確立の海から私が立法に携わる者として。
異世界にきた当時の話。
以前までは感じられていた時の連続性を感じることが出来ない。配色の選択肢を灰色に奪われた世界で目前の人々が静止している。
当然、当惑する。夥しい汗が出てくる。落ち着きを得るために、右ポケットから真鍮のライターを取り出す。オイルと金属の匂いがする。左ポケットから煙草を取り出し、口に咥え、右手で火を着けようとする。
キンッ!シュボッ!
着火がトリガーであったのかはわからぬが、その刹那、世界の歴史、人々の営み、見識等の情報が概括的に脳の中に流入してきた。どんな感じだったかって?そりゃあ、心地よいわけがない。私は激しい頭痛に苛まれた。
・・・うう、思い出しただけでまた頭が・・・。頭に手をやる。
「だからいつも程々にって言ってますよね?珈琲の飲み過ぎですって!」
「違う・・・。」
例えるならば、俯瞰であった。一つも迂遠な行為はせずに、この世界での必要な知識を獲得した。
強制ダウンロードが終わり、痛みが引いた時には、全てを理解した。私の使命が秩序の再構築であることも。実をいうと、私は一度も世界のムーブメントを見ていない。過去も同様に。前述した秩序の崩壊の瞬間すらも。時計は動かない。
だが、流入してきた知識が偽りで無いことは、確信している。・・・違うな。
絶対的な何かが作用し確信させられているのだ。
原則があれば、例外もまたある。
ユアだ。さっきから口を挟んでくるこの女性の名前である。静止した世界における自分以外の例外。
彼女は、私のこの世界の住人かとの問いに対して、わからないと答えた。毎日会話も弾むが、多くは語らない。どこから来たのか、何があったのかは未だにわからない。私は日々、法理論や法規の作成について考えるが。彼女は相談相手であり、私が欲する筆記具や嗜好品、食事を与えてくれる。特に紅茶と珈琲は素晴らしい。頭が良く、私が忘れていたことも詳細に覚えている。
私ではなく、彼女が法を作った方がグッドデザイン賞でも取れるのではないだろうかと思って、口に出したこともあったが、ユアは全くその気がない。相談をすると、期待を超える回答が返ってくることがしばしばであるので勿体ない。
優秀なスペックを有していながら、最大限に活用していない人に時折抱くこの感情が、やはり私は凡人なのであろうなと再認識させてくれる。
私とユアの奇妙な関係は、そこそこ長く続いている。お互いの深いところは探らない。また、彼女は助言はくれるものの、最後の意思決定は私に委ねる。あくまでアドバイザーに徹するというのが彼女のポリシーなのであろう。
随分と脱線してしまった。・・・今日はこれくらいにして流石に寝るか。続きは明日考えよう。
「『明日やろうは馬鹿野郎』って言葉と『明日やれることを今日するな』みたいな言葉が昔あったのだけれど、どちらを優先しようか。」
「わたしは後者のが好きですね!」
静止した世界でユアと私は笑った。明日っていつだろう。