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プロローグ

「汝に栄光と、そして呪いを」

 ――降りしきる雨にうたれながら、不意に“それ”が弱く声を発した。俺に理解できるよう、わざわざ人のコトバで。

「我が身に刃を突き立てた汝に、誉れを。そして呪いあれ」

 驚嘆と怨恨とを半量ずつ、均等に宿した呪詛の言葉だ。俺は伏していた顔を持ち上げ、自ずと“それ”を仰ぎ見た。

 山のように巨大な体躯、闇を形にしたような黒い鱗。100年に一度、この地に訪れる災厄――【黒竜】。

 口腔から吐き出す火炎で街を蹂躙し。鋭い爪牙で人間を切り刻み、食い千切り。歩みだけで大地を砕いて文明を屠り去る……。この地・ストラブルクに現れる、終焉を招く死の獣。その【黒竜】はしかし、今や力無く血溜まりに沈んでいた。

「我を壊した人間は汝が最初だ。誇れ、この偉業を。そして悔やむがいい、己の愚かな選択を」

 【黒竜】は潰れた眼を動かして俺を見据えた。

「我が死ぬとき汝も死に、また我が生まれ落ちるとき汝も生まれる。――これは呪いだ、勇ましきヒトの子よ。永劫に生まれ、そして死に、我と戦え。我を再び殺してみせよ」

 沸々と煮え立つ激情がかいまみえる、狂った音の連なり。俺は薄く笑い、辛うじて機能する右手で無精髭(ぶしょうひげ)を撫で、そして。

「呪いだとかは、まあよくわからんが。そんなに言うならまた殺してやるさ。お望みどおり、何度でも」






 ――ふと意識が覚醒する。

 生い茂る常緑樹の、葉の間をぬって日射しが差し込んでいた。鼻をつく濃い緑の香り。今度の目覚めは森の中か、なんて感想が湧いてでる。

「ふわああ……」

 大きな欠伸と背伸びをして、倒れていた体を持ち上げた。随分と長いこと眠っていた感覚。“六度目の夢”を見ていたらしかった。

 両腕をぐるぐる回す。両足をぐいっと伸ばす。まだ気だるさはあるが、じゅうぶん動く。

「……さて。ンじゃまあ、行きますか」

 俺はポリポリと頭を掻いて、どこへともなく歩きだした。


 どうせやることに変わりはない。俺は世界を救うだけだ。

 

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