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死亡報告

「うあぁぁぁあぁぁぁあぁああああぁぁぁ!!!!」


斥候に出た仲間を待ちながら、休息を取っていた勇者一行の前に赤い人影が飛び出して来る。

赤い人影は顔から地面に落ちると、うめき声を上げてうずくまる。


「誰だ!?」


いち早く反応した団長が剣を引き抜き警戒し、続いて星宙が誰何する。


「黒川!黒川じゃないか!誰にやられたんだ!!」


うめいたまま動かない人影の正体は、クラスメイトである黒川 昌人が血にまみれた姿だった。

その様子に驚いた星宙が慌てて黒川に駆け寄る。


「そいつは、やられたんじゃなくてやった方みたいだぞ。」


声を掛けられた方向、黒川が飛び出してきた方向を見れば、同じくクラスメイトの桐崎 琢磨が鬼のような形相で立っていた。


その顔は普段笑みを絶やさなかった桐崎の様子からは考えられないほど怒りに満ちたものだった。


「やった方…?どういうことだ?」


「こいつが椛を…鷺沢 楓を殺したんだ。」


星宙が問いかけると、桐崎が黒川を睨みつけながら吐き捨てるように言う。

それを聞いた黒川が声を上げる。


「俺はやってない!あいつを、鷺沢を殺してなんかない!!」


「嘘を吐くんじゃねぇよ!!これがその証拠だ!」


桐崎は棒状の物を投げ捨て、一枚の布を突きつける。

それは血まみれになった黒川が王国から下賜された杖と、一枚の破れた布だった。


「これはコイツの杖と楓の服の一部だ。

俺がコイツを見つけたときに近くに落ちていたんだ。」


「詳しく状況を聞かせてもらえないか?」


話を聞いていた団長が桐崎に説明を求める。


「…ああ。俺が斥候に出ているときに、ここから外れた位置に人の気配を感じたんだ…」


───


俺が感じた気配の近くに行ってみると、そこには血まみれの黒川が、同じく血まみれの杖を持って呆然と立っていた。


「おい黒川!何があった!」


「ヒッ!?」


ただ事ではないと思って駆け寄ると、黒川は驚きと怯えの混じった様子でこちらを見た。

その反応に訝しみつつも、黒川に詰め寄る。


「き、桐崎!?こ、これはその…。」


「怪我はないのか!?どうしてこんなことになって…!?」


状況を把握するために辺りを見回せば、地面に付いている血痕が川のほうへと続いているのが見えた。

近づいて川を覗き込んでみるが、何もない。しかし、視線を黒川に戻そうとしたとき、足元に何かが落ちているのを発見した。

拾って確認してみれば、それは一枚の布の破片だった。


それが何であるか確認するために[鑑定眼]を使用すれば、こう表示された。


─────


名称:布の破片


概要

何かの拍子に破れた服の一部。


所有者:鷺沢 楓


─────


「どういう事だ…。黒川、何があったんだ。」


改めて黒川に問いかければ、目を泳がせて何も答えない。


「魔物に…やられたのか?」


そう問いかければ黒川はハッとして語り始めた。


「そう!そうなんだよ!

ちょっと一人で散歩がてら森の散策をしてたんだけどな、ものすごく強い魔物に会っちまって、何とかここまで追い込んで川に落としたんだ!


いやー手ごわかった。けど、何とか勝ったぜ!」


そう捲くし立てるように語る黒川。


「じゃあ、この布は何なんだ?」


「あ、あれ?俺の服破れちまったのかな?拾ってくれてありがとう。こ、今度直してもらうよ。」


黒川に布を突きつけて質問すれば、捜していたものを見つけたといった風な反応を見せ、布を取ろうとしてきた。

それをかわして回し蹴りを入れ、黒川を木に叩きつける。


「嘘を吐くな。これは椛の服の破片だ。

何故それがこんな場所にある!!」


怒鳴りつければ、歯をガチガチと鳴らして目を今まで以上に泳がせる。


「さ、鷺沢のだなんて、俺は一人で来たのにこんなとこにあるわけ…」


「しらばっくれるな!![鑑定眼]に出たんだよ!この布の所有者は椛だってな!」


黒川の襟を掴んで持ち上げ、再び木に叩きつける。


「そ、そうだ!!お、俺は鷺沢にここに呼び出されて…レベルの上がる俺が気に入らないって…」


「臆病者で我欲の無い椛が、そんなくだらない理由で危険を冒す筈がない!」


懐から、王国から下賜された魔道具のナイフを取り出し、黒川に突きつける。


「ヒッ!?俺が呼び出した!!俺が呼び出したんだ!!」


「何故呼び出したんだ?」


「それは、ええっと…その。」


「何故呼び出したと聞いている!」


「き、気に入らなかったんだ!俺を差し置いてハーレムを作ろうとしている鷺沢グェ!?」


あまりに下らない理由を聞かされ、思わず黒川を殴りつけてしまう。

駄目だ、落ち着け。まだ聞かないといけない事があるだろう。


「そんな理由で椛を殺したのか?」


「こ、殺してない!勝手にアイツが自分の腹を刺して…。」


「そんな話信じると思うか?凶器は明らかにお前の杖だろう?」


「本当なんだ!鷺沢が俺の杖を奪って、自分の腹を刺したんだ!」


「今の椛とお前にはステータスに差がありすぎる。椛が簡単に杖を奪えるとは思えないな。」


「嘘じゃない!信じてくれ!!」


「話にならない。今すぐお前を殺してやりたいところだが、お前と同じにはなりたくないからな。

沙汰は皆のところに戻ってからだ。」


一旦休憩地点に戻る判断を下した俺は、黒川を引きずって戻っていった。


───


「そんな事があってここまでここまで連れて来たんだ。」


桐崎が語り終えると、勇者一行の中から声が響く。


「嘘だ!楓が、楓が殺されただなんて…。」


召喚された勇者達の担任である、渚 恵理だ。

渚は集団の中から飛び出し、桐崎に詰め寄る。


「なあ桐崎、嘘だよな?楓が死んだなんてそんな筈…。」


渚の問いに対し、桐崎は視線をそらして俯く事で答える。


「そんな…。」


その反応を見た渚は力が抜けたように、へなへなとへたり込んだ。

それを見た勇者一行は、そのいたたまれない様子に視線をそらす。


「黒川?嘘だよな?鷺沢を殺したなんて嘘だよな?」


その中で、星宙が一人黒川に問いかける。

その問いかけに嬉々とした表情で黒川が答える。


「そうだ!殺してない!絶対に殺してない!信じてくれ!」


「確実に、お前がやった証拠はあるんだ。そんな戯言誰が信じるか。

それとも、やってない証拠でもあるって言うのか?」


「そ、それは…。」


割り込んで入った桐崎の質問に、黒川は答えられずに口を噤む。


「ほら見ろ。罪を問われたくないために吐いていた嘘なんだろう。

このクズめ!」


「あ、あああああ…何でだ!これから俺は英雄としての人生を歩む筈だったのに!皆にもてはやされて最高の人生を送るはずだったのに!!

女にモテまくって、力を手に入れて…」


桐崎のとどめの一言で黒川はへたり込むと、自らの願望をブツブツと洩らし始める。

それを聞いた勇者達は顔をしかめ、黒川に侮蔑の視線を送る。


「…今回の遠征はここまでだ!直ちに城まで帰還する。各自速やかに仕度せよ!

第一班の者は黒川 昌人を拘束。


それと副団長!副団長は居るか!?」


団長が帰還命令を下し、副団長を呼ぶ。

しかし、副団長からの返事は無い。それに代わって、今拘束されようとしていた黒川が口を開く。


「ファレナだったら落ちた鷺沢を追って、川に飛び込んだぜ。俺達の後を追ってたんだろうなぁ。

けど、あの流れじゃ助からねぇな。良い女だったから俺のハーレムに加えてやろうと思ったのに。もったいねぇ。ハハハハハハハハハハ!!」


「そんな…副団長まで…。」


「で、でも副団長は死んだわけじゃないんだろ?その内戻ってくる可能性も…。」


「そうだ!まだ副団長はまだ生きてるはずだ!」


黒川の言葉に動揺を隠せなかった一行だが、仲間の一人の言葉に希望を見出し、次々と同調していく。


「いや、残念だが、副団長はあれでもかなりの手練れだ。その彼女が今の今まで戻らないということは副団長にも何かあったということだろう。

あまり期待は出来ない。」


しかし、団長の言葉に皆呆然とする。


誰もが言葉を発さない中、白蛇の森に黒川の不気味な笑い声だけが響いていた。


───


「楓、行ったみたいだね。」


城への帰還の道中、桐崎と渚が他に聞こえないよう小さく会話をする。


周りに怪しまれないよう、表面上は二人とも気落ちしたように見える。


「そのようだな。


しかし、黒川も災難だったな。桐崎に見つかる前にこちらに戻れていれば、少しは罪を軽く出来たかもしれないのに。」


「他人事みたいに言うね。教え子を殺人犯に仕立ててしまったというのに、教師として自責の念とか無いんですか?」


「無いな。楓を害するなら全て敵だ。」


「正直だね。まあ、知ってたけど。


それより、渚先生迫真の演技だったね。これで皆には椛が死んだって印象付けられたんじゃない?」


「桐崎こそ、なかなか良い演技だったぞ。しかし、最後のはどうなんだ?あんなの悪魔の証明じゃないか。」


「良いんだよ。やった証拠は椛自身が作ってたし、勢いに任せれば落とせた。

ただ、団長が口を出さないかと思ってヒヤヒヤしたよ。」


「彼は勘がいいからな。下手をすればひっくり返されていたかも知れん。

それに、どちらかといえば見逃された気もする。」


「けど、今はこうして成功したから良いよね。」


「そうだな。だが、黒川の様子を見た限り、楓も相当出血したようだが大丈夫なのか?」


「副団長も行ったみたいだし、大丈夫じゃない?椛はあの程度で死ぬ玉じゃないよ。」


「副団長、か。彼女は実力もあるし、楓の話によれば[契約魔法]で簡単に裏切る事は出来ないそうだが…。」


「好きな人の近くに別の女が居るのは看過できない?」


「あまり好ましくはない。」


「でも今は頼るしかない。納得できないなら…次会った時、椛に告白でもすれば?」


「無理だろう。楓は彼女だけを見ている。そこに入る隙などは…。」


「あの人、椛に何人もの女を養えるだけの甲斐性を持った男になれって言ったみたいだよ。

比喩じゃなくてマジで女囲っとけって。」


「何だそれは!?初耳なのだが!?」


「言ってないみたいだからね。先生は椛の大切な人だから、告白したら喜んで迎えてくれると思うよ。

椛はああなってから独占欲だけは強くなったみたいだし、知らない場所で傷つくくらいなら自分の物にして手元で守りたいってね。重いよねー椛は。」


「…嬉しくは無いな。出来る事なら楓の一番に…。」


「それこそ無理だと思うよ。アイツの一番は彼女だ。」


「分かっているさ。それでも、私は楓の一番になりたいんだ。その為に努力するだけだ。

たとえ、無意味な事でも。」


「難儀なもんだねぇ。

でも、応援させてもらうよ。とてつもなく面白そうだから。」


「相変わらず性格が悪いな。」


「よく言われるよ。


さて、俺はこれで。あんまり長居しても皆に怪しまれちゃうからね。

渚先生も気をつけて。ケロッとしちゃうと変に思われるから、暫くは演技続けてね。」


「そちらこそ気をつけるのだぞ。城に戻るまで黒川を睨みつけるくらいした方が良い。」


「分かっているさ。じゃあね、先生。」


会話を終えた二人は静かに別れた。


───


椛は抜け出すことに成功。けど、必要な事だったとはいえ余計な火種も撒いて行っちゃったね。

他にもいくつか解決してないし…。余計なイベントは俺が処理しちゃおうかな。彼女なんかは蛇足だから俺が貰おう。根は良い子だし、好みだからね。


それでもアイツの物語は確実に波乱万丈になるね。やっぱり゛しおり゛になって正解だ。面白い。


けどこれからどうしようかな…。一番近くで観察できると思ったから゛しおり゛になったのに、別れちゃったし。

他の゛しおり゛に協力してもらおうかな。となれば…彼女なんかが最適かなぁ。俺と違って信頼を得られるかも。となれば連絡しないと。


…もしもし?始めまして、777枚目。108枚目です。

ええ。今回はあなたに読んでいただきたい物語が。まだ見つけてないんですよね?主人公。

はい。とても面白い物語です。馬鹿で愚直で臆病者のひねくれ屋。けれども大切なものは身を削っても守り抜く。そんな壊れた主人公、読んでみたくありませんか?


…興味を持っていただけたようで何よりで。それでは私と共同で…いえいえ、私は良いのです。他の゛しおり゛の中には自分の見つけた物語を他人に読まれるのを好まない者も居るようですが、私の見つけた物語はいろんな゛しおり゛の方に読んでいただきたい。物語というのは読む人によって見方が違う物。私は自分と違う見方の意見も聞きたいのです。


ご理解いただけたようで、では早速彼に接触して頂きたいのですが…え?今そんな事に?不味いなぁ。

他に協力してもらえそうな゛しおり゛が近くに居ないのですよ。この世界の゛しおり゛の大半は自分の物語を見つけているようですし…。


必ず接触は出来るのですね?


…ええ、仕方ありませんね。ではそのように。あなたが彼と出会うまでに書かれた物語は、彼自身に語って頂きましょう。


はい、次は直接会ってみたいものです。では、良い物語を。


…さて、暫く間近で見れないのは残念だけど、面白い物語を期待してるからね。椛。

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