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激流ダイビング

琢磨「先生!ゆーしゃ達のハイペースに合わせていた鷺沢くんが息してません!!」

楓「おっぱい…揉んだら…生き返る…。」

恵理「こらー。まだ息してるじゃないか。ちゃんと息の根を止めてあげなさい。」

楓「調子乗りました、すんません許してくだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「めっちゃんこ疲れたんだけど。」


「椛体力ないなぁ。」


「仕方ないだろ。お前らより圧倒的にステータス低いんだし。」


森の開けた場所にぶっ倒れて琢磨と会話する。

あれから何匹か魔物を倒し、今は休憩の時間だ。


と言っても、俺以外の奴らは疲弊した様子はない。

耐久も高いし巨鳥以外に苦戦した相手も居なかった。皆アドレナリンが出て興奮しているのだろう。


対して俺は耐久値はこの中で一番低い。周りにペースを合わせるととてつもなく体力を消費する。

その上俺も何回か戦闘をしたので、今もものすごく死にそうになっている。


「にしても、あいつらすごいなぁ。これだけ戦ってまだ疲れた様子を見せてない。

体力的にも、精神的にも。」


「異常だね。あれだけ血がぶっしゃーぶっしゃー飛び散る中でショックを受けた様子がないなんて。」


「これも腹黒王女が何かしてんのかね?」


クラスメイト達は全員、精神をすり減らした様子は見せない。日本出身のあいつらが全員殺しの現場にかち合った事があるとは思えないし、腹黒王女が何かしてるとしか思えない。


「それなら、前に王女様が心を安定させるおまじないを知ってるって言ってたわね。もしかしたらここに来る前にそれを使ったのかも。」


「わざわざ隠れてそんなの使ってるとしたら、国賓にする対応じゃないよな。」


「召喚されたばかりのときの皆の落ち着きようも、同じ事をしていたのかもしれんな。」


「副団長…あんた就職先間違えたんじゃない?」


「前にもいったじゃない。王国が不審だとは思うけど、ここに就いたのは間違いではなかったと思うわ。

だって、貴方に会えたのだもの。」


副団長が俺にウィンクをして擦り寄ってくる。鎧着てなきゃ嬉しかった。

それを見た恵理姉が反応する。


「おい、副団長。楓に色目を使うな!」


「あら、どうして?好きな人にアピールするのは自由でしょう?」


「他の人間にならともかく、保護者としてそれは認められん。」


「保護者、ねぇ?それ本音な「生徒が近くに居る手前、本音を言ったら面目が立たないのだ。察しろ。」そ、そうなの。正直ね。」


「あれ、椛。先生って面目なんてあったっけ?」


「言ってやるな琢磨。露骨だけど直接的なアピールはしてないから公然の秘密なんだ。一応薄皮一枚分くらいあるんだよ。」


「楓、桐崎。お前達後で話し合いな。」


「「こっわーい。」」


「男二人が声合わせてそんな事言うな。気持ち悪いぞ。」


実際、恵理姉は学校で俺に対する態度が他クラスメイトに対する物と違った。直接的に狙っているような行動はしていなかったし、教師の延長線上にギリギリ入る行動ばかりではあったが。

しかし、見る人が見れば俺に惚れているのは一目瞭然。特に女子なんかはそういうお話に敏感なわけで、クラス内に噂が広がるのは早かった。そんなわけで今ではクラスの全員がそれを知っている。

まあ、教師が生徒に惚れているなんて噂が広がれば問題になるが、恵理姉はそういうところを上手くやるから、処分されるような事はなかった。


なんて事を考えているとクラスメイトの一人、ゆーしゃくんの幼馴染で学級委員の冴島(さえじま) (りん)がこっちに歩いて…あれ、何か怒ってね?

俺に向けてものすごく怒りの感情を向けてるし。顔には出してないけど、ものすごいこっちに怒り向けてるし。


学級委員は俺達の前まで来ると歩みを止めた。


「桐崎君。あなた斥候向きのスキル構成だったわよね?」


「そうだよ。俺のジョブは大盗賊だからね。斥候も潜入もお手の物だよ。」


潜入してアイテムボックス盗んできたしね。


「じゃあちょっと来てくれる?頼みたい事があるの。」


「デートのお誘いかな?琢磨君モテモテだねぇ。」


「いやー。モテる男は辛いですなー。」


発言すると学級委員は俺だけをキッと睨みつける。

何で俺ここまで目の敵にされてんだろ。学級委員怒らせるようなことしたかな?


「この先の様子を見て来てもらいたいの。さっきの鳥みたいな魔物が居たら大変だし。

他の斥候向きの人たちにも行って貰うから、団長のところに集合しておいて。」


「あ、はい。そういうことならお任せあれ。今行くよ。」


琢磨が立ち上がって団長のところへ歩き出す。


「それと、渚先生も来てください。

団長達と今後の予定について話し合いをしますので。」


「分かった。行こう。」


「いってらっしゃーい。」


琢磨に続いて恵理姉も立ち上がったので、手を振って見送る。


しかし学級委員は戻らずに俺を一際きつく睨みつけて口を開く。


「…何であなたは付いて来たの。」


「へぁ?」


突然聞かれ間抜けな声が出る。


「何しにあなたは遠征に付いてきたのかって聞いてるの!!

自分の置かれている状況も理解しないでレベルも上がらないくせに戦闘訓練なんかして、唯一強くなれる魔法の練習もサボって、女性をアクセサリーみたいに侍らせて、皆が真面目に強くなろうとしているのに邪魔するようにここまで付いて来るなんて、ふざけるにも程があるのよ!」


学級委員が叫ぶと周りから注目が集まる。


対して俺は今の言葉で怒りを向けられている理由に納得した。


彼女の言っていることは、俺達以外のクラスメイト達の視点から見たときそのままなのだろう。

レベルは1で固定されているのに無駄な戦闘訓練ばかりをやって、魔法訓練は最初の数日だけ出ると後はサボり。普段は女性を侍らせている、それも教師と副団長。

更に遠征にまで付いて来てお荷物になっている。一応魔物を狩っているとはいえ、弱い魔物しか相手をしない俺がお遊びで来ているように思えるのだろう。ステータスの問題で弱い敵しか相手できないとは分かっていても、今までの俺の態度を見てきて感情で怒りを抑えられないと。


これだけ聞けば、魔王を討伐しようと努力しているクラスメイトを侮辱しているように見える。


団長からもフォローを入れてもらっているが、納得がいっていないのだな。

特に彼女は真面目なタイプだったので、それが許せなかった。さっきの俺のふざけた一言もあって爆発したというところかな。


とりあえず謝って場を収めようと口を開くと、それに割り込んで副団長が口を開く。


「待ちなさい。鷺沢君は真面目に考えてここまで付いて来たの。

それを…」


「副団長は黙ってください!だいたい、あなたもあなたです!

なんなんですか、訓練場で堂々とむ、む、胸を揉ませるなんて!!あなたは彼を鍛えるためにわざわざ個別で訓練をしたのではなかったのですか!!」


学級委員が顔を赤くしながら怒鳴る。恥ずかしいんだね。


「ぐうの音も出ない事言われちゃったわね。」


「そこを突かれると何もいえないんだよなぁ。」


「やっぱり、真面目に考えてなんかなかったんじゃない!

あなたみたいな奴なんか…」


「そこまで。冴島さん行こうぜ。呼び出した本人が話し合いの場にいてくれないと困る。」


こちらの様子を見て戻ってきた琢磨が学級委員の肩に手を置いて止める。

恵理姉の方は少し離れた所で微妙な表情をしている。今ここで恵理姉が入っても、副団長のように俺にべったりだった彼女の言葉に説得力はないし、仕方ないか。


止められた学級委員は不服そうな顔をしながらも頭が冷えたのか、俺に構っている暇はないと思ったのか団長達のところに戻っていく。


一緒に戻っていく琢磨に手を合わせるジェスチャーで礼を言うと、サムズアップをして団長のところへ歩いていった。


「…ごめんなさい鷺沢君。私が軽率だったせいで。」


「副団長のせいじゃないよ。大体俺の行動が原因だから。」


残された二人で謝りあいつつ、回りの様子を窺う。


クラスメイト達は俺に軽蔑の感情を向けている。学級委員と同じ事を考えていた者が居るということだ。


早く抜け出すタイミングを見つけないと、遠征中ものすごくギスギスした雰囲気で生活せにゃならんな。


なんて考えているとまたこちらに近づいてくる人間が居た。


あれは…誰だ。あれ、本当に誰だ。

クラスメイトに居た気はするが、ゆーしゃくんや不良クンみたいに目立ってたわけじゃないから殆ど記憶にないや。


「やあ、鷺沢君。大変だったね。

でも、冴島さんを怒らないであげてよ。自分達が真面目に訓練してる横でイチャつかれたら、誰でもイラっときちゃう物だからね。」


ヒョロっとした眼鏡の彼は、俺の前まで来ると表面上友好的な笑顔を浮かべて話しかけてきた。


「俺も今までの行動が軽率だったと思うよ。ごめん、不快だったかな。」


「いやいや、そんな事はないさ。周りが強くなる中、自分のレベルが上がらないなんていわれたら、自棄になって癒しを求めるものだと思うよ。」


「あーうん。ありがとう。」


別に自棄って訳じゃないけどね。


「それで、何か用かなえーっと…黒川君。」


スキャンをして名前を見るのと一緒に相手を観察する。黒川(くろかわ) 昌人(まさと)、ジョブは魔道士で得意魔法は[闇魔法]の上位魔法[邪魔法]と[火魔法]。スキルは魔法サポート系。

豪華な装飾の付いた杖を持ったローブ姿だ。


マジで何しに来たコイツ。あまり覚えてないけど、学級委員のフォローをしに来るような奴でもなかったはずだぞ。


「いやね、ちょっと鷺沢君とお話したくてね。

…実は君が強くなるための方法についてのお話なんだ。」


「…何?」


ひそひそと小さな声で言われた内容に眉をひそめる。


「でもここで話すわけにはいかないんだ。

出来れば、二人だけで話がしたい。副団長も居ないほうが良い。

さっき森の中に調度良い場所を見つけたから、そこで話がしたいんだ。


何、そんなに長くなるわけじゃないよ。」


「強くなる方法…ねえ。」


怪しいなー。何のためにコイツは俺にそんな事を教えるのだろうか。わざわざ森の中に行く理由も思いつかない。

そもそもコイツは強くなる方法なんて知らないだろう。向けられる感情は怨み、明らかに嘘だ。


しかし、俺がここで食い付かないのも変な話だ。

怨みなんて向けてくる輩とは係わり合いになりたくないが、正直に信じられないと言って断っても、コイツの様子からしつこく粘ってくるだろう。


…森の中に入ってクラスメイト達から離れるのは好都合か。

明らかにコイツに付いて行くリスクに対してリターンが見合っていないが、何か仕掛けてくるならそれを利用して抜け出せば良い。


副団長に視線を合わせると、とりあえず付いて行くという考えを察してくれたらしく、口を開く。


「行ってくると良いわ。もし出発しそうになったら私が待ってもらうように言っておく。」


「なら決まりだ。行こう。付いて来て。」


そうして俺と黒川は森の中に入っていった。


───


「で、強くなる方法ってのは何なんだ?」


黒川はかなりの激流の川近くで歩みを止めた。俺達のいる場所から川までは高さがあり、落ちれば助かる事は難しいだろう。


俺は川を背にして、黒川は俺を挟んで川の反対側に位置取る。その気になれば俺を川に突き落とす事も可能だな。


「…ハハ…ハハハハハハハ!!!

馬鹿だなぁお前!そんな方法あっても教えてやるわけないだろう!!」


途端、黒川から俺へ嘲りの感情が向けられる。


やっぱり嘘か。俺嘘嫌いなんだよなぁ。


「何…だと…!?」


とりあえず話を合わせておこう。コイツの目的を聞き出さねば。


「何のつもりだ!!」


「何のつもりだぁ?


お前が何のつもりだよ!レベル1の癖に調子乗ってよぉ!!

この召喚は何の為の物か分かるか!?これは神様が俺に与えた、俺がハーレムを築いて英雄になる物語なんだよ!!」


あ、コイツ駄目な奴だ。世界が自分の思い通りに進むと信じて疑わないタイプ。

煽りたくなるわ。


「勇者のジョブはゆーしゃ、星宙に取られてんのに?」


「黙れぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!

勇者なんてアイツにやらせておけばいいんだ!!本物の英雄は俺だからな!

いずれ絶対、星宙が失敗して俺が新しいリーダーになる時が来るんだ!!そしたら俺は周りの女から惚れられて…うへへっ。」


マジかよ。英雄願望だけじゃなくてニューリーダー病も発症してんのか。


「なのにお前は俺のハーレム要員の恵理とファレナに手を出しやがって…生意気なんだよ!!」


「…あ?」


コイツ、恵理姉の事呼び捨てにしやがったか?恵理姉に手を出す奴…俺の大切な人を害する奴…いっそここで殺して…待て、落ち着け。まだ話を聞こう。


「じゃあ、ここで俺を殺そうってガ!?」


腹に蹴りを入れられて倒れる。


「そんな野蛮な事はしねぇよ。俺はお前と違って頭が良いからね。

ここでお前に死なれても、俺と一緒に森に入るところは見られてるんだ。疑われたら簡単に逃れられないしぃ。


お前には、身の程を弁えて貰うだけだ!!」


再び何度も何度も腹を蹴られる。


それがコイツの、この根暗の目的か。


自分の目的の為だけに、優しいフリをして利用する。邪魔な奴は蹴落として進む。あのクズ共と同じか。

反吐が出る。


何より、コイツがくだらない事でも嘘を吐いたのと、恵理姉を勝手に自分の物扱いしている事が許せない。


「レベル1の雑魚風情が調子に乗るからこうなるんだ!!ハハハハハハハ!!

…あ?」


足を掴んで蹴りを止め起き上がる。

コイツが魔法職だったのが助かった。筋力値が低いので俺でも受け止められる。


「お前嘘吐いたよな?」


「…なんだよいきなり。雑魚の癖に。」


「恵理姉に手を出すつもりなんだな?」


「いずれ俺の女になるんだ!何が悪、うわぁ!?」


よし決めた。コイツの人生潰す。


根暗の足を引っ張って引き倒し、その拍子に根暗の手から離れた杖を取る。


「俺さ。どんな事でも嘘吐く奴とか、俺の大切な人を害する奴とか大っ嫌いなんだよね。」


「お前、何言って…?」


「この杖の装飾豪華だよな。…人一人殺せそうだ。」


「!?ま、まさか…俺を殺して…!?」


根暗を跨いでローブを踏みつけ、逃れられないようにする。

そして、根暗に顔を近づけ人に嫌悪される二チャっとした笑みを浮かべる。


「お前の英雄人生、始まる前にここで終わりだ。」


「や、やめろ!やめろ!!俺は英雄になる男なんだ!!」


根暗は恐怖のあまり腰を抜かして魔法の詠唱も忘れているらしい。

冷静だったらこんな状況になるはずないのにな。


杖を勢い良く振りかぶる。


「じゃあな。」


「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」


グサリ、と肉を刺す感触。杖は腹に突き刺さり、あたりは赤く染まっている。


「ゴフ…。」


「な、何が…。」


俺は゛自分に゛突き刺さった杖を引き抜くと、硬直している根暗の腕を取って杖を握らせる。根暗の手にべっとりと血が付く。

こみ上げてきた吐き気に逆らわず口を開くと、口から大量の血液が吐き出される。


その様子を、根暗は返り血に染まった顔で呆然とこちらを見つめている。


俺はフラつく足で川べりに近づくと振り返って根暗に声を掛ける。


「じゃあな根暗。皆によろしく伝えてくれよ。


よろしく出来ればな。」


そう告げて俺は川に飛び込んだ。

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