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゛弱いと思われ絡まれる゛これ異世界転移の定番

「痛い目みてもしらねぇからな!」


目の前でケタケタと笑っている不良クンを尻目に恵理姉に「完全に調子乗っちゃってんじゃん、戒めるんじゃなかったの?」という意味を込めて視線を送る。


あ、逸らされた。


しかし、やることになってしまったのだから仕方ない。

腹黒王女に完全に役に立たないと判断されて放りだされても困るから、手元に残すだけの価値はあると思わせないといけないしな。


ため息を吐きつつ手に持った槍の調子を確かめ、なぜ不良クンと模擬戦をすることになったのか思い出す。


───


書庫で情報収集を行って数日後の今日、俺は戦闘訓練の方に参加していた。


あの後魔法についての進捗を聞かれ、「[契約魔法]を使えるようになったが、試しに使ってみるということも難しいのでまずは身を守る手段として戦闘訓練を受けたい。」と説明した結果、魔法を使える戦闘職のクラスメイトが戦闘訓練に移行するのにあわせて俺も戦闘訓練に参加することになったのだ。


実際は[契約魔法]を直ぐに使用することも出来ないわけではないのだが、少し準備が必要なので試しに使うのが難しいというのもそれほど嘘ではない。


戦闘訓練ではこの国の騎士団の団長と城で王女の護衛をしていた副団長の女性が指導を担当している。

団長というだけあってレベルは67。ステータスも高くかなりの実力者だそうだ。

彼は少し前までは前線で魔王軍と戦っていたらしいが、今は俺たちの指導のため一時的に後退してきたらしい。


そんなわけで二人の下で指導を受けていたのだが。


「今日は互いの実力を測ったもらう為、お前たちには模擬戦をしてもらう。」


指導係ということで周りの他の人間のように畏まった態度ではなく、厳しく接してくれとゆーしゃくんが行ったので威厳のこもった強い口調で話す団長。


その言葉にクラスメイト達が少し騒がしくなる。


「静かに。

今回行う模擬戦は騎士たちを相手にした打ち込みとは違い、本格的な対人戦になる。

怪我をするものも出てくるだろうから真剣に行うように。


模擬戦の組み合わせはこれまでの訓練を見てきて実力がだいたい同じ者を我々で判断させてもらった。

加減を多少間違えても耐えられるだろうし、我々も全力でサポートさせてもらう。


何か質問はあるか?」


クラスメイトの一人が手を上げ、団長がそいつを指名する。

アイツはこのクラスの不良クンだったか。


不良クンは俺をちらちらと見ながらニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて口を開いた。


「団長さーん。明らかに俺たちと実力が釣り合わないのが一人居るんですけどそいつはどうするんですかぁ?」


どう考えてもこれは俺のことだろうな。

思い出せば、俺がレベル1だと知って嘲りの感情を向けていた中にいた気がする。


団長は目を細めて呆れの感情を不良クンに向けると、一瞬だけこちらに目を向けて口を開いた。


「そうだな…。聖魔法で傷は治せるが、下手に大怪我をしても困るか…。


しかし、彼は身を守るためにこの訓練に参加しているからな。多少は対人経験をしておくといいと思うのだが。」


「それなら俺が相手をしてやりますよ。

こっちに来る前に剣道をやっていたからうまく手加減出来る自信がありますよ。」


不良クンは完全にこちらを向き、嫌らしい笑みを湛えて提案した。


これただ俺を叩きのめしてスカッとしたいんだな。

分かりやすい奴だ。


団長さんは俺と不良クンを見比べて少し思案している。

特に俺を見て深く考えているな。だが向けられてくる感情は心配といった物より期待や好奇心といった類だ。


「…よし、ならば鷺沢の相手は大木にやってもらおうか。

鷺沢、それでも良いか?」


団長は何かを思いついたようで俺に確認を取る。


模擬戦か…どうしようか。

とりあえず不良クンのステータスをスキャンで確認してみるか。




─────


大木(おおき) 一也(かずや)


Lv6/80 ジョブ:魔剣士

HP45/45 MP23/23

攻撃56

筋力41

魔力21

防御40

耐久43

速度42

精神5

幸運21


ジョブスキル

[魔剣使い]

[魔力強化(剣)]


エフェクトスキル

[心眼]

[言語翻訳]

[成長補正]


技能スキル

[剣術Lv12]

[歩法Lv5]

[心眼Lv3]


補正スキル

[攻撃補正Lv4]

[筋力補正Lv4]


耐性スキル

[刺突耐性Lv3]

[斬撃耐性Lv3]


─────




ここ数日の訓練でレベルが上がっているようで、魔法系のステータス以外は俺のものをすべて上回っている。

異世界人特有だという[成長補正]もレベルアップに一役買っているらしい。


魔剣士は魔剣といわれる魔法が込められた剣を使うことに特化したジョブだ。

しかし今は訓練だ。刃引きされた武器を使うのであまり関係ない。


問題はエフェクトスキルと技能スキルにそれぞれある[心眼]か。

エフェクトスキルの[心眼]は体感時間を引き延ばして思考する時間を得るスキル。

対して技能スキルの[心眼]は培った技術により、一瞬の間に的確な状況判断を行う技術だ。こっちは俺も持っている。


一応、あの人の下に居た師匠たちにみっちり鍛えられたので多少腕に自信はあるし、この程度の差なら負けるつもりも無い。

ステータスで底上げされている体に慣れるためにも対人戦を経験しておくのも良い。


けどここで下手に勝って目を付けられるのは…いや、逆だな。

ある程度実力を見せて俺を手元に置くだけの価値を見出させるか。


今腹黒王女は俺を役立たずだと思っている。

ならばこのまま時がたてば動きづらくなるだろうし、下手すると処分される可能性もある。


それなら面倒だがこのチャンスを逃す手は無いか。


「…いくつか確認しても?」


「言ってみろ。」


「これは゛実践を想定した゛戦闘訓練ですよね?

何か制限はありますか?」


団長はピクリと眉を動かすと口を開く。


「特に無い。

過度に相手を傷つけなければ何をやっても構わん。」


「では、使う武器の数と種類は?」


「使えるものなら何をいくつ使っても良い。」


「………分かりました。それでは模擬戦の相手は大木でお願いします。」


一分ほど間を置いて団長に返事を返すと、彼は一つうなずいて指示を出した。


「ではこれより模擬戦を開始する。

一回目は大木対鷺沢で行う。他の者は周りでよく見ておけ。」


───


不良クンとの距離がそれなりに離れた位置に立つ。

不良クンのステータスなら2、3秒で詰められてしまうがそれだけあれば十分だ。


不良クンの装備は剣1本。

大して俺は一番得意な槍と腰に2本の剣。

どれもしっかりと刃引きされている。


リーチではこちらが有利だがステータスではあちらが有利。

油断せずにしっかりと相手を見据える。


「そんなに武器を持って扱いきれるのかぁ?

武器を多く持ってりゃ勝てるってわけでもねぇんだぞ、分かってんのか?」


不良クンがこちらを挑発してくるが無視して槍を構えるとあちらも舌打ちを一つして剣を構える。


「二人とも準備はいいな?」


審判役の団長に返事を返す。

不良クンも返事を返すと団長は腕を振り上げた。


「それではこれより大木対鷺沢の模擬線を行う。

両者共に構え…開始!!」


団長の腕が振り下ろされると同時に不良クンがこちらにまっすぐ突っ込んでくる。


速い。けど師匠たちに比べればまだまだ遅い。


ならば対応できる!


「っせい!」


構えていた槍から即座に手を離し、腰の剣を抜くと同時に横薙ぎに投げつける。


「んな!?」


剣を投げつけられるとは思ってなかったのだろう。

勢いに乗っていた不良クンは急ブレーキをかけ、のけぞって剣をかわす。


そこへ一つ仕込みを加え、今度は俺が距離を詰めると不良クンに右足で蹴りを入れる。

が、腐っても戦闘職。持っていた剣で受け止められる。


「ッラァ!!」


だが不良クンはのけぞったままの姿勢だ。下から上に突き上げるようにして足に力を込めてやれば簡単に後ろに倒れる。


ステータスは上がっても重さは変わらないんだし、地に足が着かなきゃ踏ん張ることも出来ない。


不良クンが完全に地面に倒れる前にもうう一本の剣を引き抜く。

すると不良クンは[心眼]で起動を予測したのか、俺の剣の軌道に自分の剣を持ってきた。


まあ、もともと斬り付けるつもりなんて無いけどね。

蹴り上げていた右足で大きく踏み込み、剣を抜く勢いで柄頭を腹に叩き込む。


「ゴフ…!?」


ここまでの戦闘でかかった時間は一瞬。ステータスで身体能力が上がっているから出来る芸当だ。


完全に倒れこんだ不良クンに止めを入れるため、上段から剣を振り下ろす。


「!舐めるなぁ!!」


しかしこれも剣に止められ、筋力の差で俺の剣は弾き飛ばされてしまう。

今の俺は武器が一つも無く、姿勢は万歳状態。対して不良クンは倒れたままではあるが剣を持っている。


ステータス差もあるので形成逆転。不良クンは薄ら笑いを浮かべる。

なので俺も対抗して他人に嫌悪される二チャっとした笑みを浮かべる。


「!?」


「これでしまいだぁぁぁ!!」


驚愕の表情の不良クンに今しがたキャッチした槍を逆手に持った状態で振り下ろす。

剣を振りぬいたままの不良クンは反応する事ができず、槍は真っ直ぐに突き刺さる。


槍は不良クンの顔の直ぐ横に刺さって止まった。


「そこまで!!

勝者鷺沢!!」


団長の号令で槍を引き抜く。

この槍は最初に持っていたものを手放したときに俺の脚の上に乗るようにして、不良クンの下に踏み込む際に上空に蹴り上げておいたものだ。


それを調度剣が弾かれたタイミングで俺の手元に落ちてくるように調整しておいた。


これもステータスが無ければ出来ない芸当だ。

しかし、ステータスがあれば今の戦闘が出来たかというと疑問が残るだろう。


で、あればなぜ俺が今の戦いを出来たかといえば、団長に戦う意思を伝える前の一分間の間に[情報魔法]のとっておきの一つ、゛予測演算゛を使用したからだ。


これは目的と現在得ている情報を入力すると、何をどう行えば目的を達成できるか計算をしてくれる。

結構いろいろな事に対する予測を立ててくれるので、とんでもない魔法だと思うのだが…まあ、[情報魔法]自体とんでもない魔法だし、今更だな。

便利だから気にしなくていいだろう。


周りからは勝てないと思われていたのだろう、驚きの感情が向けられている。

まあ、周りの認識ではレベルが上がらず、魔法も碌な物が使えず、多少武器の扱いを心得ている程度の人間だ。

技能スキルもレベルは不良クンよりも下、普通は勝てると思わないか。良くて少し粘るくらいに思っていたか。

[弱者の覇気]もその考えに拍車を掛けていたのか。


「…うん?」


周りから向けられる感情の中に一つ恋慕の感情が混じっている事に気づく。

その方向に目を向ければ騎士団の副団長が居た。


俺が副団長を見ている事に気づいた彼女は笑みを浮かべて手を振ってくる。


俺の中での彼女の認識は表情をピクリとも動かさず、淡々と仕事をこなすクールビューティーだったのだが…


「きゃっ。」


軽く手を振り返せば憧れのアイドルに手を振り返しててもらえた少女のように顔を赤らめる副団長。

頬に手を添えていやんいやんと腰を振っている。


…彼女の認識を改めないといけないらしい。


まあ、今は彼女は置いておこう。

団長がこちらに歩いてきているので評価でも聞かせてもらおうかね。


「……け…な。」


「あ?」


そう思い、団長を待っていると足元から声が聞こえた。


「ふざけるな!

あんな試合は無効だ!」


「…何言ってんだお前。」


不良クンが叫ぶと勢い良く立ち上がって俺に剣を向けてくる。


「卑怯だろ!剣を投げてくるなんて反則だ!

そうだろ団長!」


俺に負けた事が認められない様子の不良クンは近くに来た団長に同意を求めた。

団長は呆れた目を不良クンに向けて口を開く。


「いや、鷺沢は反則行為などしていない。」


「な!?」


「俺は゛相手を過度に傷つけなければ何をやっても構わん゛と言った。

鷺沢は俺の言葉を聴いて持てる力を全て活用して戦っただけだ。

そうだろう?」


団長に問いかけられて俺は頷く。

しかし、それでも納得のいかない様子の不良クンは尚も団長に詰め寄る。


「けど、絶対卑怯だ!剣は投げるし足を出すし!」


「だからなんだと言うのだ。

お前は戦場でも同じことを敵に言うのか?

そんな事を言っても相手は容赦してくれないぞ。


それに、卑怯と言うのはお前のような奴を言うのではないか?

自分より弱いものを無理矢理戦いに引きずり出して痛めつけようとする。

それを卑怯と言わずなんと言う?」


団長に問いかけられた不良クンは黙り込む。


「他の者も覚えておくといい。ステータスは絶対ではない。

今回はそれほど差があったわけではないが、もっと大きなステータス差を覆される場合もある。

あまり自分の力を過信するなよ。」


団長の言葉に他のクラスメイト達が返事をする。

それを確認した団長は俺に向き直る。


「お疲れ様だ鷺沢。

しかし、ステータスに差のある人間を倒すなんてすごいじゃないか。

さっきはああ言ったが、スキルも魔法も使わずに倒すのは難しい事だからな。」


「…団長さん、アンタ俺を利用したんだろ。」


団長は俺が勝ったときに驚きの感情を出さなかった。

ならばこの数日の訓練の間に俺たちの実力を完全に把握したと言う事だろう。


だから明らかに俺を叩きのめす事だけを考えていた不良クンの案に乗った。

ステータスが全てではない事をクラスメイト達に教える為に。


「気づいていたか。」


「そりゃ分かりますよ。

他人をボコボコにしてやろうなんて考える奴の提案に乗るんだから、何か理由があると考えるのが普通だ。

誰だって考えればそれくらい分かる。


まあ、団長さんにしてみればもっと圧倒的な勝利で…えーっと大木の鼻っ柱を折って欲しかったのでしょうけど。」


あぶね、不良クンの名前を忘れてた。


それは置いておくとして、明らかに増長している不良クンがそのまま戦場に出れば何かやらかす可能性が大いにある。その伸びきった鼻を俺に折ってほしかった。

団長から向けられた期待と好奇心はそういう意味だろう。


今回は俺が正面から叩きのめすのではなく奇策を用いた戦い方をしたから失敗っぽいけど。

短慮な不良クンは俺にも団長にも不満を募らせるだけで終わりそうだ。


「…本当に、レベルが上がらない事が惜しいな。」


「レベルが上がらない分は他より努力して埋めさせてもらいますよ。

それより二回戦の準備をしたほうがいいですよ。

行きましょう。」


無いものねだりをしても仕方ないからね。

Lv上限:1を取り除く方法を探しつつ強くなる方法を探るしかない。


今出来る自身の強化を考えつつ、訓練場の脇へと歩いていった。

楓「圧倒的じゃないか、我が魔法は」

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