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俺にそういう趣味はありません

「ウキー!(飯ィィ!)」


「゛ガード゛!」


一匹のゴリラがファレナに木の上から飛び掛るが、彼女の防御魔法で現れた半透明の盾に防がれる。

その隙に木から下りていた残りの2匹のゴリラが、ファレナと俺に迫る。


その動きは゛予測演算゛で分かっていたので、俺を捕らえようと突き出された手をサイドステップて避ける。


「ウッホォォ!(良い男!)」


そして懐にもぐりこんだ俺は槍を薙いで、ゴリラの腹に一撃を加える!


「クッソ!硬い!」


が、俺の攻撃では相手の防御値を越えられず、刺さるどころか1ミリも刃が通らない。


早々にダメージを与える事を諦め、槍がゴリラに当たった勢いを利用して後ろに飛び、離脱する。


ファレナの様子を見れば、彼女は迫るゴリラの拳に一撃を加えて腕を使えなくしたらしい。

レベルが高いって良いなー。


現在俺達は川の拠点を引き払って、アルメリア皇国に向けて移動中。


その道中にこのゴリラ共が襲ってきて現在は戦闘中だ。

ここ数日で初めて見る魔物だ。




─────


名称:モンキーコング


概要

群れで暮らすゴリラの魔物。…ではあるが、サルの尻尾を持ち、「ウキー!」と鳴くのでどっちつかず。

腕の力と、ドラミングで音の衝撃波を飛ばす攻撃に注意が必要。

たまに「ウホッ」というどこか含みを感じさせる鳴き方をする固体が居る。


─────




スキャンを掛ければなんだか恐ろしい説明が返ってきた。

ウホウホ鳴く個体目の前に居るじゃねえか。絶対背後を取られないようにしないと。


一応知能はあるようで、俺の耳にはウキーウキー言ってる言葉の意味が理解できる。

しかし、話しかけても『喋る人間珍しい!食ったら強くなれそう!』という返答しか帰ってこない。


相手さんはこちらを完全に狩るつもりらしい。

ならこちらも全力で狩らせてもらいましょう!


「ファレナ!仕込みだ!ガード一つこっちに回してくれ!」


「了解!゛ウォールガード゛!」


先ほど彼女が使用した゛ガード゛より一段階強固な半透明の壁が俺の周囲に現れ、ゴリラ達の攻撃から身を守ってくれる。


彼女が得意とするのは[防御魔法]を使用する守る戦い。だから俺の護衛にはうってつけだ。


「ウッホォォォオ!(男オォォォォォ!)」


俺に攻撃してきた奴が激しく攻撃を加えるが、゛ウォールガード゛はビクともしない。

さすが元副団長。安心と信用の防御魔法だ。


さて、今のうちに仕込みを終わらせないと。


槍を背負って[情報魔法]のパネルを開き、周りの木に次々とスキャンをかける。現れたアーカイブに゛書き換え゛で一文を付け加えて適応!


元々木に起こる現象を引き起こすだけなのでMP消費はとても少ない。


一通りの仕込みを終え、ファレナの様子を見る。


俺にガードを回しつつも、巧みに2匹のゴリラの攻撃をかわし、守り、確実にゴリラのHPを削っていっている。

2対1でも善戦するなんて元副団長はすごいね。


が、そこで焦れたらしいゴリラ達がファレナから距離を取って木に登る。

距離を取ってドラミングで攻めるつもりなのだろう。


枝に乗り、木に掴まっていた手を離して同時攻撃を仕掛けようとする。


「ウキィィィ!?」


が、先ほどまでゴリラたちの体を支えられていた筈の枝が突如としてへし折れ、手を離していたゴリラは真っ逆さまに落ちていく。


もちろん、急激に劣化したわけではなく、俺が木に゛老朽化している゛という一文を加えて引き起こしたのだ。


その隙を逃さず、近い位置に居たゴリラにファレナが突撃する。突然の落下に対応できないゴリラは動けず、ファレナは心臓に剣を突き立てた。


「ウ…キィ…。」


その一撃でゴリラは絶命する。


ファレナは剣を引き…抜けない!?あのゴリラ最後に胸筋で剣を封じやがったのか!


そうこうしている間にもう一匹が起き上がって体勢を整え始めた。


ファレナも筋力値はあるので時間を書ければ引き抜けるだろうが、そうしていては残りの1匹に狙い撃ちされる。


なら別の剣を使えば良い。


俺はアイテムボックスからある物を取り出しつつ、腰に挿した剣に手をかける。


「ファレナ!」


呼びかけにこちらを向いた彼女が、俺の行動を理解したようで゛ウォールガード゛を解除する。

それと同時に俺は剣を引き抜き、勢いのままに投げつける!


ミスリルの剣をキャッチした彼女がもう一匹のゴリラへ向かって行く───ところで俺の体に衝撃が走る。


身体を持ち上げられ、゛ウォールガード゛を攻撃していた固体と目が合う。


「ウホッ(良い男!)」


捕まった。最悪の奴に捕まった。これから俺のケツの貞操は儚く散らされてしまうんだ…。


なんて、目の前でガンガンやっていたのにこれくらいの事を予想できないはずが無い。


「そういうのはつなぎを着た男に言え!」


アイテムボックスから取り出した物───恵理姉から貰ったライターを着火して息を吹きかける。

激しく広がった炎がゴリラの顔面に燃え移り、驚いたゴリラは俺を手放す。


「ウッホオォ!」


このライターは川の拠点で、゛息を吹きかけると燃え広がる゛ように改造しておいたのだ。

言うなれば、息をスプレーの代わりにした簡易火炎放射機だ。


ゴリラが混乱しているうちにバックステップで距離を取り、槍を構える。


のた打ち回ったゴリラは火が消えると、こちらに向けて性欲の感情を向けてくる。

うげぇ。まだ諦めてないよ。


さっきの火も碌なダメージになってないし、ピンチだね。どうするか…。


なんて考えているとゴリラの首から血が噴出し、俺の近くに丸い物体、ゴリラの頭が落ちてきた。

首を失ったゴリラの身体は地面に倒れ伏し、その上にファレナが着地する。


「助かったよ。もう少しで俺のケツは使い物にならなくなるところだった。」


「こちらこそありがとう。ミスリルの剣が無かったら少しキツかったわ。」


差し出された剣を鞘に収め、槍を背負う。

ファレナの来た方向を見ればあちらのゴリラも首を刎ねられている。


「しっかし、森の奥は文字通りレベルが違うな。俺の攻撃が全く歯が立たん。」


ゴリラの死体から採取できる物を剥ぎ取りつつ会話する。


「この森の名前の由来、封印された大蛇が居るという場所は王国に寄った場所にあるそうよ。

だから魔力を発している大蛇に近づいているここの魔物は特にレベルが高いの。レベル1で生き残っている方がすごいわ。」


レベル1で生き残っている方がすごい、か。それでもこのレベルの上がらない身体じゃ、どちらにしろ生きていくのは難しいだろうな。

となると人の居る場所に着いてからは安全圏で仕事を見つけて生活か…。けど、直ぐに仕事は見つからないだろうな。


働きやすいのは冒険者かな。この世界の冒険者というのは、魔物の討伐がメインの何でも屋といった側面もあるらしい。

俺は冒険者のギルドで登録を行い、安全な仕事を請け負って生計を立てる。ある程度したら恵理姉と琢磨との連絡手段を探さねえと。今のところの理想はそんな感じか。


「ねえ、楓。」


そんなことを考えていると、自分の剣を回収して残りのゴリラ2匹の死体を引きずってきたファレナが声を掛けてきた。


「なんだ?」


「貴方は元の世界に帰りたいとか思わないの?」


「…どうしたんだ急に。」


突然そう聞かれて一瞬呆ける。


「話してて思ったの。この世界は貴方にとって、とても生きにくい世界でしょう?

元々この世界に生まれたわけじゃなくて、強制的に召喚された。

元の世界に残してきた家族も居るでしょうし、帰りたくは無いのかって。」


「そういう事か。」


確かに俺の身の安全を保障してくれる場所は今は無いし、強引に連れて来られて戦いを強制された。

残してきた家族も居る。こんなの嫌になる奴が大半だろう。


「うん。帰りたいよ。けど、今はその気持ちは少ないかな。まず帰る方法を知らないし。


両親は他界してるし。あ、気にしなくて良いから。もう割り切ってる。

残してきた家族は妹と、俺達を引き取ってくれた伯父さん伯母さんくらいかな。

皆大切だし元気にしてるか気になるよ。でも人外の化も…俺の戦いの師匠達が守ってくれるから、それ程気にしてない。今の俺にはどうしようもないしね。


なら今は俺にできることをする。俺と一緒にこっちに来た大切な人、恵理姉を守りたいし彼女が悲しまないようにしたい。

城に残してきて何をって思うかもしれないけど、城に居たって俺は殺されてただけ。ちゃんと勇者一行としての力を持った彼女の身の安全は保障されてる。なら、彼女が悲しまないように俺が確実に生き残る道を選ぶ。


そのためにもまずは強くなる道…まずLv上限:1を解くことが一番の目標だ。その前に俺の身の安全を確保しないといけないけどね。


まあ、いろいろ話した訳だけど、簡単に纏めると帰りたいけど帰れないから俺の中の優先順位を考えて強くなる事を優先した感じ。だからやっぱりいつかは、帰りたいなぁ。」


「…そう、やはり帰ってしまうのね。」


その答えを聞いた彼女は寂しそうに声を出す。


その反応に少しだけ嬉しくなる。俺も誰かに好意を向けられるのは嫌じゃないからね。理由がなければ。


「もし元の世界に帰れたら、ファレナも付いて来る?」


その言葉にファレナは大きな喜びの感情を送ってくる。


「本当に!?」


「良いよ。俺の家族はそれぐらいで動じる人達じゃないし。むしろ美人のファレナは歓迎されるんじゃないかな。あ、でも妹は混乱するかなぁ?

まあでも、来たいのなら来て貰って良いよ。」


俺は信じるに値する相手には、恩に礼を尽くす。

彼女には何度も命を救ってもらっているのだ。俺の世界に招いて家で受け入れるくらいお安い御用だ。

伯父さんと伯母さんのすねかじりなのが痛いけど。


「行きたい!私貴方の世界に生きたいわ!」


「なら決まり。゛契約成立だ゛。」


その言葉で俺とファレナの間に光球が現れ、その中から文字のような鎖が飛び出しそれぞれの腕に巻きつく。

そして役目を終えた光球は消えていく。


その光景にファレナは驚きを示す。が、前回程は驚いていない。


「これって[契約魔法]の…。」


「そう。俺は約束は守るからね。゛絶対契約゛で破らないという意思を示させてもらったよ。」


腕の文字に触れて契約書を取り出す。





─────


絶対契約 対象:ファレナ・ジークフリート


契約内容

・鷺沢 楓は己の生まれた世界に帰る場合、ファレナ・ジークフリートを共に連れて行く事。



以上の内容で契約成立とする。


─────




これで良し。゛契約魔法゛は発動させたら俺でも勝手に解除できない。


「これはちょっとやり過ぎじゃないかしら?」


「そうかも知れないが、俺はできるだけ目に見える形で誠意を表したいんだ。」


「フフッ。貴方が誠実だって事くらい分かってるのに。」


困ったように笑うファレナ。


「だとしても俺はやりたかったんだ。


さ、話はこれで終わりだ。採取してさっさと行くぞ。」


その後、ゴリラ達の死体から必要なものを剥ぎ取った俺達は、再び森の奥へと歩み始めた。

???「やらないか」

楓「やらねえよ」

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