腹黒王女
8/25 リット共和国をリット王国に変更
「申し訳ございません。」
アーミリオン王国王女、エリシア・アーミリオンの執務室。
そこで自らの主に謝罪する王国騎士団団長───リックス・ケルニコフ。
彼は、先日行われた勇者達の遠征についてのほうこくに来ていた。
「良いのです。確かに貴方の監督責任が問われる部分はありますが、一番の厄介者を始末できたので良しとしましょう。
世間には今回の遠征の目的は、定期的な魔物の討伐と言う事で発表しておきます。」
「は。寛大なご処置を賜り感謝いたします。
…しかし、エリシア様。私の見立てですと、彼は恐らく生きているものと思われます。副団長も彼を追いかけて行ったようです。
そちらはどうなさるおつもりでしょうか。」
リックスは今回の遠征で行方不明になった二人───召喚された勇者一行の一人である鷺沢 楓と、騎士団の副団長であったファレナ・ジークフリートを思い浮かべながら王女に問う。
「それは放っておいても大丈夫でしょう。報告にあった川は森の奥へと流れるもの。であればたどり着いた先で魔物に殺されます。
ステータスが平均以上でも、レベル1の人間が生き残れるような場所ではありません。」
王女はそれに対し、なんでもないかのように答える。
「しかし、副団長はなかなかの手練れです。森から出る事だけに集中すれば、抜け出す事も可能かと。」
「ええ、彼女の腕は理解しているつもりです。あれはなかなかの物でしたね。彼女であれば良い手駒になっていたでしょう。
しかし、それでも森から抜け出す事は出来ないでしょうね。今あの森には゛傀儡師゛の゛人形゛が居ます。
元々遠征の最終日に勇者様方に討伐して頂くために配置していたもので、森の奥から外に出ようとする者を優先的に狙うように指定している゛人形゛です。
たとえ彼女でも勝つことは出来ないでしょう。゛荷物゛を抱えた状態であればなおさらです。
気にする必要はありませんよ。」
「は。出過ぎた事を申しました。」
「それよりリックス。勇者様方のご様子は?」
リックスは王女に問われ、下げていた頭を上げるとこの部屋に報告に来る前に見た勇者一行の様子を思い出す。
「まず、今回の騒動の犯人である黒川 昌人ですが、現在は城の貴族牢に捕らえてあります。
彼はなにやら、゛英雄になりたい゛という強い上昇志向を持っていたようでして、それが閉ざされたとも言える今の状況に、とても絶望している様子です。」
貴族牢とは貴人や要人などが罪を犯した際に、ある程度快適な空間に捕らえておくための牢である。
そこに黒川が居ると聞いた王女は少し思案した様子を見せる。
「…英雄になりたい、ですか。それは使えるかもしれませんね。」
「何をなさるおつもりで?」
リックスの疑問に、王女は男女問わず誰もが見惚れるような微笑を浮かべ答える。
「もう一度チャンスを与えるだけですよ。それより続きをお願いします。」
「は。鷺沢と縁の深い二人、勇者達の師であるという渚 恵理、並びに親友であったという桐崎 琢磨は、渚は塞ぎ込み、桐崎は黒川に対する怒りに満ちている状態です。
桐崎はともかく、渚の方はこれからの訓練に身が入るかどうか…。」
「その二人は様子を見ましょう。私からもいつもより強めのアプローチを掛けてみます。」
「お手数をおかけします。残りの者達ですが…。鷺沢は他の者からはあまり良く思われていなかったようですが、やはり仲間が死んだというのは堪えるのでしょう。何人かは脱落者が出てしまうかもしれません。
そちらの方もお願いします。」
「ええ。分かっています。勇者様は私の大切な戦力。せっかく召喚したのですから、役に立って頂かないと。」
「最後に星宙 光一とそのパーティですが、彼らは他の者達と違い今も訓練場で鍛錬を行っているようです。
特に、星宙は゛今回の事は弱かった自分の失態だ。二度と仲間を失わないようにもっと強くならないと。゛と言っていましたね。」
それを聞いた王女は、勇者達の前ですることのないニヤリとした笑みを見せた。
「彼はとても優秀で、そしてとても扱いやすいですね。彼ほど聞き分けの良い人間はそうそう見つからないでしょう。私はとても良い物を召喚したようです。
彼が居れば計画も大きく進む事でしょう。」
王女は目の前にリックスが居るのも構わずに、恍惚とした表情を浮かべる。
しかし、リックスはその顔に反応も示さず淡々と報告を続ける。
「勇者達の様子についての報告は以上となります。それと、帰還の道中で゛掃除屋゛と゛プロフェッサー゛からの報告が有りました。
『マストムへの潜入完了。予定通り計画を実行する。』だそうです。」
「その報告ならば私の元にも届きました。彼らならば上手くやってくれることでしょう。」
「では、私からの報告は以上となります。何かご用命がおありでしたらお申し付けください。」
「伝令を。゛ウェディング゛に、南の゛リット王国゛の王族はたいへん美しい容貌を持つらしい。と、お願いします。」
「承知いたしました。それでは失礼いたします。」
報告を終えたリックスは一礼し、部屋を出て行った。
「後はアーミリオンを潰せばアルカとの全面戦争。ふふっ。今から楽しみね。」
自分以外誰も居なくなった部屋で王女はニヤリと笑うのだった。




