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三匹迷宮物語  作者: 九十
十五夜会議
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其の九

 進むことしばし。突き当たりの部屋へとタロウ達は行き当たった。

「この部屋があっちにも繋がってると思うか?」

「どうだろうね。そうだとすれば結構なんだが…」

 迷宮の作りとしてはそうはならないだろう、とキュウスケが言う。どうも遺跡型の迷宮には何度か潜っているようだ。

「あんまりうまくいきすぎている。こういったときには最後の部屋にとんでもない仕掛けがあったりするのさ」

「感知する方法は?」

「物理的なもんなら扉が閉まる、魔法的なもんなら魔法陣が浮かんできて別のところに飛ばされたりとかな」

 入った瞬間に入り口を見失った森都の迷宮のようなものがあるらしい。それを判別する方法はこれだ、とキュウスケが小さい水晶を見せてくる。

「これを放り投げる。すると、魔力に反応して魔法陣が浮かび上がることがある」

 本当は高位の迷宮にしか使わないやり口だけどな、と続ける。

「どうにも嫌な感じなんだよな。こっち来てから監視がついてるしよ」

「ああ、ずいぶんぶしつけな視線が来てたな」

 俺のファンかね、とビルが笑って見せる。タロウたちだけではなく、他のパーティーにも監視がついていたようだ。この分ではメナス達の方にもついていたかもしれない。

「どうにもきな臭いよな」

「政治絡みであるからには、そういうこともあるでござろう」

「しっかし、なんのために見張ってたのかね?」

「さあな。ま、今できることをやるしかねえだろうよ」

「それもそうだ。じゃ、開けるぞ」

 コウイチの言葉にごもっとも、とうなずいたキュウスケが、最後の扉を開く。ゆっくりと開かれていった扉の先は、三角形の部屋であった。


 最初の柱が建っていた空間に似た、ひんやりとした空気が漂ってくる。ついでに、床の上には細かい砂の粒が所々丘のように積もっていた。

「広さを測るか」

 タロウがそう言って砂の山に近づく。すると、ばっと飛び出てきた小動物がタロウを取り囲み、一斉に石のつぶてを飛ばしてきた。

「おっと」

「大丈夫か?!」

 キュウスケが叫んで麻痺薬をぶちまけるが、さっと波が引くように避けた鼠が逃げて砂のなかに戻っていく。それを見たキュウスケがチッと舌打ちをくれた。そのまま一度扉を閉じ、通路へと戻る。

「駒鼠だ。素早くて、小知恵が回る」

「怪我するほどじゃないから、大丈夫だと思うけど…」

 タロウが体を確認しながら怪我がないことを告げると、ビルが呆れたようにいい放つ。

「そりゃあんただけだ。普通は結構痛いもんだよ」

 あいつらの魔術は鎧を素通りするからな、と続ける。

「ああ、それで直接衝撃があったのか」

 どうも鎧の上からではなく、直接衝撃が来ていたような気がしていたのだ。

「なに、こやつは虹鮭の突進食らっても無傷だったのだ。これくらいならば大したことはないのでござろう」

「あれは見ものだったな」

 にやにやと笑ったコウイチが思い出したようにタロウを見る。

「そ、そうなのか。けどよ、あいつらが狙うのは普通よわっちいやつからなんだが…」

 何でよりによって一番体格の良いタロウに向かって行ったのか、と悩むキュウスケに、タロウはエンブレムを見せた。

「これが、怪物を引き寄せる魔術具らしいんだけど…」

囮寄せ(オーダー・デコイ)か!そりゃあんたに向かうしかねえだろうな」

 よく考えたらさっきの針兎もあんたに向かっていってたな、とキュウスケは納得したようだった。沈黙を保つ砂山を注視しながら、タロウは魔術具についてキュウスケに尋ねる。

「ああ、それは大型の怪物討伐や、通路を塞ぐような怪物を移動させるために使われるやつでな。囮寄せ(オーダー・デコイ)って呼ばれるやつだ」

 怪物にしかきかねえから、普通に見ることはすくねえが、と付け加える。

「なんだ、やけに詳しいな」

「おう。俺は生まれはジュゴン大陸の新都でよ。ちいせえ時には冒険者の話をよく聞かせてもらってたんだ。旅ができるくらいでかくなってから、親父と一緒に里に移り住んだのさ」

「それで、いろいろ詳しいわけか。こっちには遺跡形の迷宮は少ないからな」

 ビルが得心した様子でキュウスケと会話をしている。


「あちらにはこういった人工物のような迷宮があるのでござるか?」

「そうだな、神都や学都は明らかに建造物の迷宮があるそうだ。お目にかかったことはないけどよ」

「へえ」

 それは是非とも潜ってみたい。ちょっとだけ興味を引かれたが、今は迷宮の調査中だ。話題を駒鼠に戻す。

「一匹ずつ切るか?」

「魔術で部屋ごと焼くのも悪くはないでござるが…」

「あー、そのあと俺の矢打ち込んで、丸焼きにすっか?」

「おい、あんたらめちゃくちゃ言うなよ」

 主にゴーシュとビルの提案に、キュウスケが唇をひきつらせている。タロウもそれはちょっとどうかと思ったので、口をはさんだ。

「それだと、俺らまでなかには入れなくなるんじゃないか?」

「それもそうでござるな」

「んじゃ、止めにするか」

 あっさり引き下がった二人とタロウに対し、キュウスケが声を荒げて突っ込みを入れる。

「ちげえよ!部屋まるごと焼くって、そんなん普通の魔術師ができることじゃねえっての!」

 広い部屋だったろうが!と叫ぶキュウスケに、タロウは先程の部屋を思い浮かべる。奥行きは十メートルほどだったろうか。

「うまく風で煽ってもらえれば、十分可能だと思うのでござるが…」

「だよなあ」

「これだから魔術師ってやつは!」

 キュウスケが涙目になって叫ぶ。魔術師に嫌な思いででもあるのだろうか。耳をすますと、口の中でぶつぶつと呟いているのが聞こえた。

「ちくしょう。なにが私に名案があります、だ。俺をおとりにしやがって。お前なら足が早いからいけるってじゃねえよ、くそ親父」

 なにやら多感な幼少気を過ごしてきたらしい。彼の父親も冒険者だったのだろう。タロウはなにも聞かなかったことにした。


「で、結局ワンパターンですか」

「しょうがなかろう。効率がよいのでござるから」

 駒鼠ごと網にかかったタロウは、コウイチが剣でザクザクと切り刻む音を聞きながら、手元が狂いませんように、と祈った。

「なんつうか、あんた苦労してんだな」

 同情の目を向けてくるキュウスケ。ビルは部屋の隅で腹を抱えて転げ回っている。タロウの体を張った戦術がツボに入ったらしい。

「ぶははは、はははは」

「そこまで喜んでもらえると、芸人冥利につきます」

 ビルに虚ろな表情をしたタロウがそう言うと、笑い声はいっそう強まった。



「あらかた掃除し終わったな」

 コウイチが駒鼠を光にし、部屋の計測に移る。一番左側にまっすぐに延びた壁があり、それを底辺として三角になるように二つの壁が延びていた。キュウスケが水晶を放り投げては罠を確認し、魔法陣が作動しないことを確認する。

「よっしゃ。とりあえず大丈夫だろう」

「おつかれさん」

 労ったコウイチが巻き尺をもって端に向かう。まずは底辺部分の計測。

「三十メートルぴったし」

「ういっす」

 ビルが地図に書き込んで、タロウもそれを己の地図に書き込んでいく。コウイチとゴーシュが移動して、二辺の長さを計る。

「両方とも三十メートル。正三角形だな」

「そうなのか?そっちが長い気がしたんだけどな」

 念のため角度も計ったが、部屋の角度はすべて六十度。本当に正三角形のようだ。

「これで調査は終わりかね。今何時だ」

 キュウスケが床から砂を少しとって、小分けにした袋に入れる。これも産出品の扱いとなるらしい。

「いま八時ちょい過ぎだな。急いで戻るか」

 コウイチが腕時計を確認し、そう告げる。行きとは違って戻るだけだから、それほど時間はかかるまい。最後にもう一度だけ計測を行い、部屋を出ようとしたその時。


「おい、ヤバイぞ!」

 キュウスケが叫ぶまでもなく、全員が理解していた。黒い石のような床と壁全面に、いくつもの魔法陣が出現している。くるくると回りながら明滅するそれを見ながら、タロウはがくりと膝をついた。

「おい、タロウ!」

 近くにいたビルが慌てて抱き起こそうとしてくれるが、急激に視界が黒く染まっていく。魔力がごっそりと吸いとられているのが、しびれていく手足の感覚でわかった。

「あっちもか!」

 キュウスケの叫びに、なんとか目だけをそちらに向ける。底辺部分の壁が透明に透き通り、タロウと同じようにセイラが膝をついているのが見てとれた。

 つるつるとした鏡のような黒い壁に、あちらの魔法陣とこちらの魔法陣が互いに写し出されている。透き通った壁を通り抜け、それらが向こう側とこちら側にたどり着く。いっそう光を増したそれらは、グニャリと形を変えて大きな魔法陣と小さな魔法陣に分かれた。

 なんとかお前らだけは部屋を出ろ、と声にしようとして。タロウの意識は急速に闇へと引きずり込まれていった。




 明日の投稿はちょっとさかのぼって会議編です。

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