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三匹迷宮物語  作者: 九十
十五夜会議
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其の五

 しばらくタロウ達は隣にある控え室で休息をとり、荷物をほどいてゆったりとしていた。いつ呼ばれるのかわからないため、外を出歩くこともしづらい。

「やれやれ、日程の説明とか無いものかな」

 こちらの旅は極めて流動的だ。ガッチリと詰めてもその通りに行くことが少ないため、その場その場で説明されることも多い。今回は迷宮に挑むこともそうだが、審判を最初に受けることになるだろうとテイルが道中話していた。

「うむ。できればきっちりと説明が欲しいでござるな。それにしても鳥の臭いが強いでござる」

「そうだな、一応処理はしてあるみたいだけど」

 なんの羽かわからないが、見たこともない虹色や金属を思わせる輝きを放つ羽飾りがあちこちに飾られている。ここで捕れる魔獣のものだろうか。

「…」

 会話に加わらず、黙り込んでいるコウイチを見る。不機嫌というよりも、考え込んでいるようだ。ミノリの事だろう。タロウたちが思っていたよりもミノリの地位が高いことがわかり、動揺しているのだろうか。

「失礼します」

 コンコンとドアがノックされて、入室を許可するとやはり青を基調とした衣装の鷹人族の男が入って…、

「なんだ、お前らか」

 とその態度を一変させた。鉱都にて知り合った、ラプトーリアルガーディアンのグルドであった。


「とりあえずゴーシュ、詠唱をやめてください、ここ燃えやすいもの一杯あるから」

 刀型の媒体をすらりと引き抜いて、詠唱を開始したゴーシュにお願いしておく。渋々といった様子で後ろに下がったゴーシュにホッとしながらも、タロウは用件を聞いた。

「ああ、この部屋付きになった。もてなしをさせてもらう」

 言葉と同じくでかい態度をとったグルドに、タロウはやんわりと今後のスケジュールを尋ねる。

「うむ、今回、百一回目の十五夜会議の本会議は明後日。月が出てから行われる」

「夜にあるのか?」

「当たり前だろう。そもそも貴様等、十五夜会議と言われる理由を知らんのか?」

 知らない。名称は有名なのだが。表情で察したのだろう、もてなしの一環か、グルドが説明してくれた。

「都市間協定が結ばれた当時、都市は種族ごとに寄り集まったもので、種族間の対立は千年戦争を引きずったまま最悪と言ってよかった」

 そこで、当時の王、王都の人間族の代表であるカイエンは一計を案じた。まず海族の生き神とも呼ばれたリュテス大公に月を共に楽しみませんか、と言付けを届け、勇猛さで知られた新都のガウス王にはこちらの月はそちらよりも美しく見える、といった手紙を送った。

「他の都市にもそれぞれ、その都市のものにふさわしい送り文句を考えて送られたそうだ」

 かくして。疑心や疑念をはらみつつ、王都に十二都市の重鎮たちが集まった。そのどれもに月見を口実とした文句があったため、また、一年のうちもっとも美しく月が見えるようにと共通語からとった言語で、十五夜会議とその名が定められた。

「それが今も続く会議の始まりだ」

 ふん、となぜか誇らしそうにしているグルドに礼を言って、ついでにタロウは気になっていたことをたずねた。

「共通語って、そのとき定められたんだよな?」

「そうだ。神より召喚されし異国の勇者の母国語だそうだな。それについてもこんな逸話がある」

 まとまった条文や会議内容を、どの種族の言語で書きしるすかもめたとき。にわかに天から光の柱が降りてきて、その中心にはまるで見たことも聞いたこともない衣装をまとった男が凛として立っていた。彼はすべての種族の言語を読み、聞き、しゃべる事ができたという。

「それで、その男の母国語がこの世に存在しないものであるということが解ったので、カイエン王はそれを使うことに決めたのだそうだ」

「なるほどねえ」

 どの種族でも使われていない言語なら、誰からも文句のつけようが無いということだ。

「随分と視野の広い王さまだったみたいだな」

 復活したらしいコウイチがそう話す。

「そうだな。だが、彼の名前はなぜか伝わっていない。ついでに、十王の里にある衣装はその男のものとそっくりだそうだ」

「衣装って、これのことか?」

 羽織をつまんで持ち上げると、グルドは首肯した。着物は異世界からの文化交流のおかげらしい。洋風のズボンやシャツだと、少し成長すると使えなくなってしまうし、着物は獣人に受けがよかったのかもしれない。

「それだと、勇者様は獣人がお気に召したようだな」

「というよりも、獣人が勇者の母国を気に入ったという話だったと思うが。そちらの方が詳しいのではないか?」

「百年前の資料はあまり残っておらぬ」

「そういえば貴様等はそのころ人間族と争っていたのであったな」

 百年前だとまだ戦争真っ最中だろう。九十年前に人獣戦争が終わり、和平条約が結ばれているのだ。

「で、それはいいとしてよ。今後の予定は?」

 コウイチがそう切り出すと、グルドも懐から手帳を取り出して中身を告げる。

「まず、本会議は今言ったように明後日からだ。だが、その前日、お前たちの審判が行われる」

「あー、まった。今日からの予定を順に頼みたいんだが。バラバラに言われても困るんでね」

「そうだな。では、まず今日はここで食事と旅の疲れを癒してもらう。湯編みは準備が整い次第知らせに来る。それから、明日は審判。明後日からの本会議は貴様等には関係ない、と」

 パタンと手帳を閉じてしまうグルドに、タロウは肝心の事を聞いた。

「あの、迷宮にはいつ行くんですか?」

 首を肩につくほどかしげたグルドが、もう一度手帳を開く。しばらくじっと見つめ、また閉じる。

「知らん」

「聞いてこい!」

 ゴーシュが近場にあった羽を引き抜いてグルドに投げつけると、ダーツのようにまっすぐ飛んでいく。がしっとそれを手でつかんで見せたグルドが手首を捻って投げ返す。

「もてなすのではないのか?」

 媒体でそれを叩き落としたゴーシュがそう尋ねると、

「誰も見ておらんのだから問題ないだろう」

 と問題発言を返してくる。

「ええと。あの。落ち着きませんか、二人とも」

 タロウの言葉がむなしく響くなか、ゴーシュが姿を蛇に戻し、グルドに襲いかかった。グルドも負けじと鷹の姿になって迎え撃つ。

「あーあ、始まったよ」

 げんなりとしながらタロウは隅に避難する。眼前ではでかい鷹と緑色をした蛇が、どたばたと戦っていた。高価なものを壊した際は、ここの人に請求することにしよう。そう決意して、滅多に見られない鷹と蛇のガチバトルを観戦するのであった。



「もう少しであの野郎の羽をもぎ取ってやれたものを…!!」

 ゴーシュがいきり立ってそういうが、風呂の準備ができたとでかい鳥人族の男が知らせに入らなければ、いつまでも続いていたかもしれないのだ。その鳥人族に聞いたところによると、迷宮には明日の審判の後、二時間ほど潜ることになる。

「十分暴れただろうがよ」

 呆れ顔のコウイチも、特に止めなかったところを見るに面白がっていたのかもしれない。

「おっと。あれが大浴場か」

 教えられた通り歩いた先には、それぞれの入り口に男女に別れた鳥人族がいた。

「それじゃ、また後で」

「ああ」

 コウイチと別れ、ゴーシュと脱衣所に入る。

「豪華な作りでござるな」

「そうだな。なんていうか、王族の風呂場っていうイメージそのままだよな」

 適当にタオルを巻いて洗い場に入ると、ごうごうと流れる湯が広い湯船に並々と注がれている。沸かした湯を引いているのだろう。

「しかし、あれは趣味が悪いでござる」

 ゴーシュの指した先には、蛇を押さえつけた鷹の像と、その蛇の口から流れ出る湯があった。

「まあ、マーライオンみたいなものだと思えば…」

 タロウの言葉は響かなかったようで、体を洗って湯船に浸かるまでゴーシュはそれをじっと見つめていた。

「さすがに、風呂まではついてこないか」

 控え室に移動してからずっと感じていた視線は、ここにはいるときには消えていた。先ほどのグルドのふるまいといい、どうもきな臭い。嫌な予感を忘れるように、タロウは湯船に全身を沈めた。



「して、グルド。あの者等は?」

「はっ。客人の身分で大騒ぎをするような不届き者です。頭の方は足りないと思われますな」

 宝石をちりばめられた一室で、グルドは巨大な鳥人族の足元で背筋を伸ばして報告していた。

「そうか。ならばよい。懐柔も容易だろうて」

 巨体にみあう巨大な椅子に座った男は、金でもつかって取り込むか、と呟いた。

「今回の会議で、我々は都市へと昇格することになる」

 いままで散々根回ししたからな、とぼやいた男は、グルドに向かって命じた。

「あの地を這う者共を、決してモアにいれるでないぞ」

「しかし、ヨウム様。迷宮の承認は彼らの報告によって行われますが…」

 反論するグルドに、くどい、と男は一蹴した。

「何があっても、中央にやつらをいれるわけにはいかん。やつらは鼻が利くからな」

 引き続き監視を続けろ、との命令に敬礼を返し、グルドは部屋を辞した。

 小国家群の空に、鈍色の雨雲が立ち込める。今年の名月をのんびりと鑑賞することは、グルドにはできそうになかった。



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