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三匹迷宮物語  作者: 九十
十五夜会議
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其の四

 狭い路地をひたすら歩くと、今度は開けた場所に出た。行き交うのはみな鳥人族ばかりである。市場だろうか、肉や魚がところせましと並び、新鮮な果物や野菜などが露天に並んでいる。

「どんな造りになってるんだ?」

 ここまではずっと狭い路地が続いていたのに、突然開けた土地に出る。いまいちこの国の形が見えてこない。

「小国家群は種族ごとに国をつくり、壁をつくる」

 ロッカセンがタロウの疑問に答えた。

「まず南東の入り口には草原を必要とするラプトーリアル。西には湿地を必要とする大型の鳥人族、さぎ系統のヘレン。東にはふくろうの住むミネルバ。北に海鳥たちの楽園ラルス。そして中央には全鳥人族をまとめる“モア”がおかれているよ」

 テイルがそのあとを引き継いで補足した。

「最初はちょっとした村程度のものだったと聞いているね」

 初めは壁に囲まれた集落であった。次に防衛のための城や物見、外側へと向けて拡大していく。住人も増え、他の種族との争いも激化したため外側に迷路のような狭い通路、内側に居住区と政府機関が集中する造りとなった。

「内から外に向けて発展していったわけでござるな」

「その通り。しかも、彼らには翼があるため下を通る必要すらない」

 最終的にほとんどの鳥人族が建物の上を飛んで移動することになったため、あのような動きづらい通路が完成した。

「ん?それだとでかすぎないか?」

 コウイチのいった通り、小国家群が肥大しすぎている。一番外側の城壁よりも中に、湿地も北の海岸も東の森も内包している事になる。

「事実、そうなっているな。魔獣ごと城壁の中だ」

「それは、大丈夫なのか…?」

「それを留めるため、いくつもの神具や魔術が壁に埋め込まれているのだよ」

 そういってテイルは煉瓦と土でできた壁や建物を指差した。じっくりと見るが、タロウには判別できなかった。普通の赤褐色の煉瓦と土を塗られた壁にしか思えない。

「見た目でわかるようにできていたら防壁にはなるまいよ」

「ですよね」

 困ったように微笑んで、テイルがそうタロウにさとす。タロウはそっと目をそらした。と、青く染めた皮鎧に白い槍を持った鷹族の青年がこちらに向かってくるのが見えた。


「お待たせいたしました!“モア”より案内を拝命しております、ガルケと申します。海都のテイル様とロッカセン様でございますね?」

 彼は真新しいシワひとつ無い衣服を翻し、ピシリと敬礼を行った。

「そうだよ。こっちの三人は迷宮を探索してもらう冒険者たちだ」

 ロッカセンの言葉にこちらに向けても遠いところご苦労様でした、と声をかけ、こちらですと青年は先にたって歩き出す。

「あれ、タキージャは?」

 彼女の姿が見当たらない。タロウが辺りを見回していると、ロッカセンがこそっと耳打ちした。

「彼女は十五夜会議に出られないよ。役職を解かれて、今は部外者だからね」

 もと神都のお偉いさんであることは確かだが、資格が無いと見なされるらしい。

「それだとなんでついてきたんだよ」

「観光じゃない?」

 コウイチのどこかトゲのある言葉に、ロッカセンはにこりと笑ってそう言った。



 タロウたちは階段を登り、建物の屋上に出た。上から見た小国家群は複雑な曲線を描いて見える限りずっと細々とした路地があちこちに続いている。

「こちらに」

 先導するガルケに続いて、いくつもの屋上を渡り歩き、ひとつの影になった建物の中へと下っていく。建物の中は日差しを遮って涼しく、風通しもいい。それでいてどこからか光が届くように設計されているらしく、十分な明るさがあった。

「この魔法陣が会場の建物へと繋がっております」

 案内された一室には、部屋を埋め尽くすような魔法陣が刻まれて、ゆっくりと明滅していた。

「それじゃ、お先に」

 ロッカセンがコウイチとテイルを両手につかんでその上に乗る。光を増した魔法陣に線が走り、その姿が揺らめいてふっと消えた。

「さあ、私たちも参りましょう」

 にこやかにタロウとゴーシュを促して、ガルケは共に魔法陣へと足を乗せた。


「見事な部屋ですね」

「ありがとうございます。しかし、海都のスフォルツァンド宮殿には負けますよ」

 ロッカセンの言葉に、部屋に待機していた鷹族の女性は謙遜して、ご用があればそちらのベルを鳴らしてくださいと言って部屋を辞した。

「おい、なんのつもりだ」

 つかまれていた腕を振り払って、コウイチがロッカセンを睨み付ける。

「なにって、ほら、罠だったりしたら困るじゃん?おれあんまり強くないしさ」

 首をかしげてみせるロッカセンに、コウイチは背を向ける。反対側の椅子に座っていたテイルがそうカッカするな、とたしなめるも、イラつきは収まりそうになかった。


「よっと。着いたか」

「ここでござるか。随分と目に優しくない部屋でござるな」

「お疲れさまです。時間になりましたらお呼びいたしますので、ごゆるりとおくつろぎください」

 ガルケはカッと足を揃えて敬礼し、部屋を出ていった。

「お主、何をそんなにイラついておるのだ」

 コウイチの不機嫌を察したのだろうゴーシュが言葉をかけてくるも、コウイチはだんまりだ。

「やれやれ、ちょっとテイル。席外してくれる?」

「では、庭を案内してもらってきましょう。ここの庭園は美しいと評判ですからな」

 テイルが赤銅色のベルを鳴らすと、扉が開いて鷹族の女性が入ってくる。ゆったりとした、背中の開いている青を基調とした衣装だ。翼の邪魔にならないよう背中の空いた服が一般的らしい。先ほどの市場でも色は違うが似たような形をしていた。

「お呼びでしょうか」

「この国の誇る庭園を是非とも拝見させていただきたいと思いましてね」

 テイルの言葉に、女性は品良く微笑んでて承知した。


「で、なんだ」

 地を這うように声を低くしたコウイチがロッカセンにグルグルと喉をならしながら詰問すると、ロッカセンはため息をついて椅子の背もたれにずるずるとだらしなく座る。

「品が無さすぎ」

「あ?」

「だーかーらー、ミノリ姫の伴侶になるには君はちょっと建前が無さすぎるよ」

 人目がなくなった途端だらだらとし始めるロッカセンにそのようなことを言われても、コウイチが納得するはずがなかった。

「あのさ、ミノリは海族のなかでも結構重要なお姫様なんだよ。その伴侶が海族でもなく、女性で、しかも半端な冒険者って誰が納得するの?」

 眠たげな、しかし感情の見えにくい目をコウイチに向けてロッカセンがつまらなそうに言う。コウイチは棒を飲んだように固まった。

「それは、でも、ミノリが決めることじゃないのか?」

「そりゃあ彼女の一存でそこの虎を伴侶につけることはできる。彼女の持つ権力はそういうものだよ」

 カテリーナの代理でしかないおれと違ってね、とロッカセンは続ける。

「だからこそ、君はここで自分の価値を示しておかないといけない。ミノリの伴侶にふさわしいか、それだけの実力を有するものか?幸い王都のギルドマスターは実力主義だ。今現在の都市の実力者は総じてその傾向にある」

 故に。今ここである程度の顔繋ぎと後押しを受けられるように、それらしく振る舞え、ということらしかった。

「わかったよ。で、どうすりゃいい」

 憮然ぶぜんとしたままだが、コウイチがロッカセンに尋ねる。

「おれにわかるわけ無いじゃん」

 ていうか自分で考えてよね、と言葉を残し、ベッドにぼふっとダイブする。巨体であるロッカセンを受け止めてびくともしないそれに感心しつつも、タロウはそっとコウイチを盗み見た。

「ひっ」

 コウイチは、ちょっと子供には見せられない感じの形相でロッカセンを見つめ、牙をむき出しにして声なく笑っていた。

「血の雨が降りそうでござるな…」

 同じものを見たらしいゴーシュが、近寄ってきてそっと呟いた。何故かはわからないが、二人の相性は大分、相当、悪いようであった。




ロッカセンが腹黒くなっていく。どうしてこうなった…。

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