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三匹迷宮物語  作者: 九十
十五夜会議
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其の三

 それから一月ひとつき。小国家群に近づくにつれて、周りの景色も草原一色に染まってきた。種族ごとの国の集まりである小国家群の入り口は南東に位置するラプトーリアル国。鷹族の王族の支配する猛禽類の鳥人族が住まう土地だ。

 大街道を歩く一行の隣を、馬車をかたどったゴーレムが通りすぎていく。ほろもなにもない荷車に動力をつけただけのようなそれは、土の色をしていた。

「それほど早いわけでもないんですね」

 隣をひょこひょこ跳ねるように歩くカンナをみながら、そう話しかける。

「ゴーレムの事ですか?そうですね、あれの速度は人をひかないよう、かなり制限されています。重い荷物を運ぶ商人が使うことがほとんどで、なかでもここ小国家群と海都の間ではそれほど往来がないので質が高いとは言えませんね」

 すれ違うゴーレムを観察すると、確かにそれほどきっちり作られているわけではないようだ。所々木をくりぬいただけのようなものから、土を箱形にして車輪をつけただけのお粗末なものも散見される。

「ゴーレムを扱える人が少ないんですか?」

「学都のゴーレムを扱う事を学んだ人々は、学都から出たがりません。慣れ親しんでいるのもありますし、学都はゴーレム遣いの給料が格段に良いんですよ」

 都市圏では時給が高いが、田舎では同じ仕事でも給与が低い現象がこちらでも起きているらしい。

「それに、ゴーレムを扱える人を増やそうと苦心しているみたいですが、人気がないんです」

「え?楽しそうですけどね、自分でゴーレムを操るのは」

 こちらではロマンではないのだろうか?巨大ロボ。いや、概念自体がないのか。勇者もっと頑張っておけよ。身勝手な苦情を心で唱えつつ、タロウはカンナの言葉を待った。

「うーん、向き不向きがかなりあるみたいですね。得意な人は一年たたずに使いこなせるようになるし、苦手な人は十年たってもメインディッシュのお皿ぐらいの量しか動かせない人もいるみたいです」

「そうなんですか」

 キリーに聞いた通り、適性がないと扱えない代物らしい。いつか迷宮で代替品でも出ればいいのだが。

「やはり、錬金術師を師弟制にしたのがまずかったですね。あれから極端に学都への流入が減っていますから」

 学都の学院に入るのには、入学金授業料と多額の資金が必要になるらしい。師弟制になるまでは無償で錬金術師達から資金を得られたらしいが、現在のところは弟子でないと貸すことができないようになっているそうだ。

「それ、もっと規模を拡大してできないんですか?どこからでも借りられるようにするとか…」

 良く考えればこの世界は銀行に類する組織も世界規模での経済をコントロールする組織も見当たらない。どうやっているのだろうか?

「それは、ギルドでも取り組もうとしていることなのですが…。人材が圧倒的に足りなくてですね」

 信用が必要になってくるので、迂闊には取り扱えないのはわかる。

「それに加えて、民間の金貸しとの権利問題も発生してまして」

「それは…。めんどくさそうですね」

 公的な金融業が出てくる前に民間の金融業者が地盤を作ってしまったため、下手に手を出すと手を引かれて経済的な空白ができるし、資金が回らなくなるところもある、ということだった。

「もういろいろこんがらがってて、全部壊して一から作り直したいぐらいにめちゃくちゃなんですよ」

 問題点としては人材育成が間に合わない、そのための金も捻出ねんしゅつが難しい、世界規模の監視システムができていない、といったところか。ずいぶん歪に出来上がった世界といえた。


「それもこれも千年戦争が悪いんです。あれがなければ資料の散逸も技術の失伝も防げていたはずなんですが…」

 ぎりぎりと歯を鳴らしながら、そう悔しそうに漏らすカンナに、タロウは気になっていたことを聞いてみた。

「あの、俺らは歴史に詳しくないんですけれど、具体的には何があったんですか?」

「ああ、そうでした。十王はそういった方針でしたね。うーん、かいつまんでご説明すると。当時は都市ではなく、国と呼ばれるいくつもの国家が大陸中に栄えていました」

 ある時、国々は原因はわからないが唐突な争いを始めた。当時持てるだけのすべての技術を使い、禁忌である生命の改変にまで手を出した。

「それが、今も残る軍蟻や生ける屍を作り出す鬼火(ランターン)ですね。戦争中にあちこちに散らばったまま、今でも回収しきれていないものも少なくありません」

 そして、激化していった戦争の終幕は唐突に訪れた。戦えるものがいなくなったから、とも、終わらぬ争いに嫌気が差したから、とも言われているが、その理由も定かではない。

「本当にわからないことばかりです。長命である妖精族や竜族、精霊族も口を閉ざしたままですしね。ただ、そのどさくさで本来ジュゴン大陸にあったと思われれるものがこちらにあったり、その逆があったり。千年戦争以前の歴史はしっちゃかめっちゃかですよ」

 戦時中の略奪、盗掘、私財を守るために国外に持ち出したもの。様々な思惑が絡み合い、当時の遺産はあちこちに散らばった。

「迷宮からの産出品がそれだ、という輩もいますが、そうではないんですよね。産出品はその奪い合いなど我々の事情を除いて生活の役に立ちます。ですが、遺物はどの時代においても争いを生む異物でしかない」

 理に反するものばかりが遺物として発見されており、発見されたどれもが各都市で厳重に管理されている。

「まあ、私たちの代でいろいろと決着がついてくれればいいんですけれど、難しいでしょう」

「問題が山積みってことですか」

「基本的なところができていないんです。基本が大事なんですが、だれもそれに手を回す余裕がないんですよ」

 錬金術師をそれに当てられればまた違ったのかもしれませんが、と最後に呟いて、カンナは前方をタロウに示した。レンガや土を積み上げられた堅固な城塞。小国家群の入り口、ラプトーリアル国の鷹人族の門番がまるで阻むように槍を交差させていた。




「すんなりと通れたな」

「そりゃあ、海都のギルドマスターの手形があるからね」

 あっさりと門番に通されたことにコウイチが驚くと、ロッカセンが緑と赤の入り交じったマーブル模様の板を手でもてあそび、あっけらかんとそう言った。

「まあ、これで通れなかったら都市入りは無理だものねえ」

「そういえば、都市に入るときに税金はかからねえのか?」

「かからないわよ。いちいち計算するのも面倒だし、かけちゃったら商人が遠退くのも見えてるじゃない」

 まあ王都と森都、神都は絶対に人が来るでしょうけどねとジャキータが続けた。

「神具に頼っている所は多いでござるからな。森都では治療のため、王都は…」

「噂に聞こえし霊薬エリクサーだね。怪我を治療する、というより治癒させる」

 魔獣に襲われたり、人とのいさかいで重症を負った者の最後の希望。あらゆる外傷を治癒する霊薬。ロッカセンの言葉を受けてエコロが続けた。

「痕は多少残りますが、日常生活を送れるくらいには回復します。産出量は多くありませんが」

「ですけれど、多少高価ですわね」

 そんなことを話しながら入り組んだ狭い路地を歩いていると、翼の刻まれた彫刻と魔術具があちこちにあるのが目に入る。

「あれは?」

「ああ、あれは小国家群特有のものです。建物をご覧になってください。一階に入り口が無いでしょう?」

 カンナの言葉に良く見てみると、たしかにどの建物も玄関が無かった。上を見上げると格子の下りた窓らしきものがあるが、張り出したベランダや廊下のようなものも見当たらない。

「ここでは、鳥人族をはじめとする翼のある種族が住人の大半を占めています」

 ですからこのように、とカンナがその魔術具に手を伸ばす。ゆっくりと明滅を始めたそれの下方、足元から強烈な風が吹き上げた。それはカンナの服をめくり上げ、下着姿が一瞬タロウの網膜に焼き付く。

「あら。失礼をいたしました」

 何事もなかったかのように服の乱れを直し、説明を続けるカンナ。タロウはどうにか平静を装って、話の続きを聞いた。

「これを使って、翼で屋上まで飛び上がるわけですね」

「この狭い通路を羽ばたけるのか?」

 コウイチが二メートルほどしかない通路を指していうと、使わなくてもできますよ、と言うが早いか。タンッと地面を蹴って飛び上がり、両側の壁を交互に跳ねるように移動して十メートルはある建物の上へと消えた。

「やれやれ、では皆さま。後程のちほど

 そういって一礼したエコロも、同じように飛び上がって上へと消えていく。

「え?」

 呆然と見ていたタロウに、テイルの声が聞こえた。

「あの二人は身体能力が人間とは思えないほどの超人だ。気にすることはない」

 ロッカセンも続ける。

「あれだよ、森都のシュロの人間版というかさ」

「ああ、そういうことでござるか」

「あれの同類か」

 納得するコウイチとゴーシュ。それを見て、タロウもようやくあの二人が王都のギルドマスターと、その護衛であることを思い出したのであった。



 四月馬鹿短編を日付が変わってから投稿します。内容は水毬、内容はほんのりブラック。あいつらの性質を考えたら、そうならざるを得なかった…。

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