其の一
黄金郷のおばあちゃんが子供になっているマジックを修正しました。おかしいと思ったらお願いだから教えてください。お願いします。
道端にうずくまっている女性に声をかけたら姫と女騎士でした。なにやら質の高そうな薄い布を何枚も重ねた衣装の女の子と、軽鎧に腰には剣を佩いた女性がタロウの目の前にいる。どういうことなんですか、神様。混乱しているタロウをよそに、テイルが二人に保存食を渡していた。
「これでも食べたまえ。まだ宿がある地域には遠いからな」
「ありがとうございます」
「助かりました、テイル殿」
そう言うなりお姫様が勢い良く乾パンを頬張る。モグモグと頬を膨らませている姿はハムスターのようにみえるが、なにぶん見た目の儚げな様子とはまるで一致しない姿だ。
「!」
大きな目をさらに見開いて、胸をどんどんと叩く彼女。
「姫、水です」
白銀にきらめく鎧を身に付けた騎士がコップを差し出すと、勢い良く喉をならして飲み干す姫。
「あの、お知り合いですか?」
隣に立つテイルに尋ねると、追加の食料を渡しながら声だけで説明してくれた。
「彼女、年若い方が王都のギルドマスターカンナ殿。そちらの武装した女性が護衛であるエコロ殿だ」
「はあ。え?二人で小国家群に向かっているんですか?」
「二人とも君が襲いかかっても返り討ちに合うほどの戦闘のスペシャリストだよ」
その代わりに、生活能力はこの様だがな、とテイルは指を指した。
ひたすら食べ続けること一時間。ようやく人心地ついたのか、優雅に礼をとって見せるカンナとエコロ。
「本当に助かりましたわ、テイル殿」
「まったく。魔獣を狩ろうにもこの辺りには食べられそうなやつが少なくてな」
「君たちはいいかげん頭を使うことを覚えるべきだと私は思うね」
辛辣なテイルの言葉にも動じず、にっこりと笑って姫が言う。
「まあ、大街道を歩いていれば、必ずどこかの都市の代表にお会いできるのですから、それについていった方がお得ではないですか?」
「うむ。国家の兵をいたずらに引き抜いてくるわけにもいかぬしな」
至極普通の事のように言ってのける主従にタロウが戦慄を隠せないでいると。
「いや、それ他の人たちの迷惑になっているだけだからね?」
ロッカセンから常識的な突っ込みが入った。
「それでは、皆様。よろしくお願いしますね」
「賊の類いは任せてくれ。その代わり、ちょっと食料を分けてくれると助かる」
胸を張って頭のおかしいことを言っている二人にタロウが判断に困ってテイルを見ると、特になんでもないことのようにあっさりと承諾されてしまう。
「どちらにせよ、全員が揃わねば会議の開催もできん。経費はあとで王都のギルドに請求するから、この中から使ってくれ」
皮袋を取り出してタロウに押し付けた。とはいえ、食料を売っているような宿場町につくまでどのくらいあるのかわからないのだが。
「なに、あと三時間ほど歩けば最初の町が見えてくるはずだ」
テイルによると、この先に神具を貸し出した知人の町があるらしい。そこで食料の確保もできるそうだ。タロウはほっとして、とにかく歩くことにした。
「あの、タロウさん」
「なんですか?」
もじもじと上目使いにタロウに話しかけるカンナは、タロウの腰ほどの身長しかない。艶やかな黒髪も、翡翠色の目も美しく、ふんわりといい匂いが漂ってくる。
「ちょっと用をたしにいきたいのですが」
「なんで俺にそれを言う!?」
絶叫したタロウだが、良く考えればこの一行に(身も心も)女性は一人しかいない。
「エコロさん!ちょっと!」
あわてふためいてタロウがエコロを呼び、姫の状態を伝えると、
「わかった。ではタロウ殿、この布を持って立っていてくれ」
とポンと大きめの布を渡されてエコロは下がってしまう。どうやら円柱状になっているそれをぽかんと見つめて。
「え?ちょ!」
「タロウ殿、お早く」
タロウは逆セクハラってこういうことなんだろうか、と自分の社会人経験のなさを呪いながら布を広げた。
「ありがとうございます」
無言で一礼したタロウは近寄ってきたエコロに布を返し、ささくれだった心を癒すため遠くの空を見上げた。強い日差しが降り注ぐ大街道は、どこまでも青い空が続き、雲ひとつない。
「大丈夫かね?そろそろ見えてきたぞ」
テイルの言葉に前を向くと、赤茶色の建物が視界に飛び込んできた。
「あれが今日の宿、宿場町レリオットだ」
「煉瓦、ですか?」
「そうだ。ここの煉瓦は小国家群の産出品でもある。よい土がとれるらしいな」
近づくにつれて、煙突や高さのある建物が見えてきた。思っていたよりも発展しているようだ。
「町に入るのははじめてですね」
「そうか、では宿をとったら少し時間をとろう。食料品の補充を頼む。私は友人に挨拶にいってくるよ」
「わかりました」
町の入り口には武装した人物が立っていたが、特に問題もなく通ることができた。テイルとは顔見知りらしい。宿を決めたあとはそれぞれ好きにしてよいとのことだったので、休憩もかねて町中を見て回ることにした。
「あの。なんでついてくるんですか?」
タロウの後をついてくる主従に振り返って尋ねると、くいくいと服を引っ張られる。
「食料はあちらの店がよいと思います」
「タロウ殿、姫にひもじい思いはさせたくないのだ。どうか言う通りにしてくれないか」
柔和な微笑みを浮かべてエコロがタロウの手をとってぎゅうっと握ってくる。
「いっ。わかりました」
どちらにせよ食料は補充するしかないのだ。逆らう必要はないだろう。
「ありがとうございます。行きましょう、エコロ」
「はい、姫」
乾燥キノコあります、と書かれた看板のある店へと歩いていく主従を見やって、タロウは小声でステータスと呟いた。
【Nameタロウ(三膳太郎) Lv14 Age16 skil:経験累積 怠惰の神の加護 HP95/99 MP 99/99 STR31 INT21 AGL5 LUC1】
生命力が減っている。狂い熊の一撃を受けても減らなかった生命力が。触れた感じ、竜族ではないような気がする。タロウは決して敵対しないことを心に誓いつつ、二人の後を追った。
「おお!これは森都産のドライフルーツですよ!この凝縮された甘味が美味しいんですよね。こっちは黄金郷のミラクルナッツ!滅多に王都には出回らないんです。しかもお安い!」
「ようございました、姫。こちらは竜宮の味噌ですね。水毬型豆腐も売っていますよ」
いろいろと手にとって興奮している主従を前に、タロウはぼんやりと事の経緯を見守っていた。もうめんどくさい。この袋渡して好き勝手にさせた方がいいのだろうか?
「タロウ殿もどうだ?」
エコロが水毬豆腐と書かれた袋をタロウに差し出す。ポテトチップスぐらいの袋に、丸いスポンジボールのようなものが一杯になっている。水毬を模した豆腐らしい。
「これも保存食なんですか?はじめて見ましたけれど…」
「おや、ご存じないのですか?水毬は水分と魔力でできていますが、乾燥地帯にいるものは水分がなくても活動できるように、このくらいのガラス玉になって転がるんですよ」
不思議生命体の話は驚くことばかりだ。どうも、水分がなくなっても生きていけるらしい。そうなったやつらは自由に転がって移動しているそうだ。しかも…。
「水分を取るとまた大きくなるんですよ」
「斬っても突いても死なないからな。訓練相手になってくれるし」
王都の兵士は水毬相手に訓練をしているのだろうか?タロウの疑問をよそに、主従は次々と藤製のカゴに商品を詰め込んでいく。三つのカゴを一杯にして店主の前に持っていくと、ぎょっとしたようにタロウを見てくる。
「にいちゃん、食べすぎは体に毒だよ」
「八人いるんで、大丈夫です」
なんだ、そうかいと納得して、店の親父は商品を手早く手にとって計算していく。
「よっしゃ。袋はいるかい?」
「お願いします。大きめのやつで、頑丈なものを」
カンナがあっさりと決めたそれは、伸縮性のある飛び兎の筋を使った丈夫な風船のようなリュックサックだ。
「あいよ。しめて金貨二十枚になります」
「え?」
「竜宮産の水毬豆腐と、黄金郷産のエーモンドとミラクルナッツ。それから海都産の必勝鰹節と減る昆布。どれも最高級品だ」
「そうなんですか…」
道理で聞いたことないなあ、と思いながらも、タロウはきっちり金貨二十枚を支払ったのであった。もちろんテイルの財布から。
「ふふっ、では早速調理に取りかかりましょう」
「え?まだ三時なんですけど…」
あのあと鍋も購入した姫様は、宿の庭で薪を組んで不適に笑っていた。自分で料理をなさるらしい。
「仕込みを考えると、ギリギリですわ。さあやりますわよ」
「姫、これを」
ギャルソンみたいなエプロンをつけたエコロが、姫にエプロンを手渡す。パステルカラーのポケットがついたタイプだ。タロウにもずいっと差し出されたエプロンは、デフォルメされた竜の絵がかかれている。
「竜族の魔力が込められたエプロンだ。どんなしつこい油汚れも弾く」
「使い道を間違っている!!」
タロウは叫んだが、その言葉を無視して主従は剣と鍋をそれぞれ手に持った。
「それで切るつもりなのか!?」
タロウの突っ込みは、残念ながら彼女たちに思い止まらせることはできなかった。
お姫様って、こんな感じだよね?ごめんなさい。




