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三匹迷宮物語  作者: 九十
海都に
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其の二十

 ロッカセンと名乗った男は、ウミウシの海族なのだそうだ。モルテルスとは砕けた会話をしているあたり長い付き合いのように見える。

「ミノリちゃん、治ったんだって?おめでとう!これ、お祝い」

 豪華な貫頭衣についたカンガルーのようなポケットから、ロッカセンは貝の首飾りを取り出してミノリに渡す。

「ありがとうございます。綺麗、どこの貝なんですか?」

 淡い色をした桜色の首飾りは、ミノリの容貌によく似合っていた。

「ええとね、忘れた」

「おい、変なもんじゃねえだろうな」

 喜ぶミノリを見て複雑な表情をしていたコウイチがロッカセンに尋ねると、モルテルスが答えた。

「呪いなどはかかっておりますまい。こやつはアホですが呪いに関しては専門家ですからな」

「アホってひどくない?」

「そうなんですか?だったら俺も見てもらおうかな」

「あ、私の時は呪いじゃないって言われちゃったんで、たぶんタロウさんも同じだと思います」

 聞けば、加護は呪いとして扱われないそうだ。タロウはがっかりしたが、ひとつ思い当たったことを聞いてみた。

「もしかして、呪術師だったり?」

 ロッカセンは眠たげな目をちょっとだけみはって、タロウに返す。

「よく知ってるねえ。でも残念、おれは違うよ」

「では、スキルでござるか?」

「んー、内緒」

 テヘッと舌出して見せるロッカセンにげんなりしていると、

「失礼する。こちらにモルテルス殿がおられると聞いたのだが…」

 と低めの声が響いて、背の高い飴色あめの髪をした女性が小判鮫亭に入ってきた。

「あっ」

 ロッカセンが慌てて巨体をモルテルスの後ろに隠そうとするが、まるで効果がない。

「カテリーナさん。おひさしぶりです」

「ああ、ミノリ。回復したそうだな。なによりだ」

 親しげに会話をするミノリ。以前話に出たカテリーナという女性だ。

「相変わらずの美しさですな。なにかご用ですかな?」

「ああ。少し困りごとでな。力を借りたい。そちらのロッカセンと共に」

 ちらり、とロッカセンを一瞥し、カテリーナはモルテルスに助力を頼む。

「我輩は構いませんが…」

 タロウを見上げるモルテルスに、タロウは行ってくれば?と答えた。

「まあ、依頼は話聞いて来るだけだし、いいんじゃねえの」

「そうでござるな。今のところここの迷宮は攻略が難しそうでござるし」

 コウイチとゴーシュも同意する。

「ありがたい。パーティーメンバーをお借りする」

 整った面に微笑みを浮かべ、カテリーナが謝意を告げる。そこにジャキータがお茶を持ってきた。

「はい、どうぞ」

「!?」

 それを見たカテリーナの様相がみるみるうちにひきつっていく。タロウ達がぎょっとしていると、天をつかんばかりの怒声が耳を貫いた。

「ジャキータ!!おまえのせいでこちらがどれだけ迷惑を被ったと思っている!!」

 まるでわかっていたかのように耳を塞いでいたジャキータは、ひょうひょうとこう言った。

「やあねえ。怒鳴んないでよ、リナ」

「馬鹿者!おまえ神都がどうなっていると思ってる!」

「わかってるわよ。だから、ここにいるんじゃない」

「なんだと?」

「まあ、ここで話すのも、ね」

 そういって周りを手で指し示すジャキータ。はっとしたカテリーナが口をつぐんだ。

「そうだな。モルテルス殿、ロッカセン、ジャキータ。悪いがうちに来てくれ」

「そちらの冒険者さん達も一緒の方がいいと思うわ。なんたってシュロのお墨付きよ」

「そうか。ではご足労願いたい」

 タロウ達の方を向いてカテリーナが言ってくる。しかし、

「何故、お主がそれを知っている?」

 ゴーシュがタロウと同じ疑問をタキージャにぶつける。それを見て、タキージャはにっこりと微笑んだ。



 一行は海都の中央、宮殿といって差し支えない場所へと案内された。カテリーナは海都の行政機関“スフォルツァンド”、その最高指揮官である白水卿はくすいきょうである。

「さて、まずはタキージャ。おまえの話を聞こうか」

「ええ。まず、アタシが解任されたのは遺物を盗まれたからじゃなくて、その前よ」

「なに?」

 内容もわからぬまま話が進むが、その前に前提がタロウ達には理解できない。

「待った。そもそも彼女、は何者なんですか」

「ああ、そうか。知らなかったんだな。こいつは神都の僧侶、死霊殺しを得意とする集団の中でも最高位を持つ退魔師だ」

 退魔師は死霊、地球でいう幽霊や悪魔といったものを払う役と同じだが、こちらではそれが目に見えて実在する。死んだはずの人が別人となって生き返ったり、幽霊が強大な力を得て害をなす。それを神の身許に送るのが仕事である、スペシャリストだ。

「それでね、まあ若造達が反乱みたいなことをし始めたのよ。暇なのかしらねえ、じじいとばばあはとっとと出ていけって追い出されちゃったのね」

「つまり、選挙によっておまえら重鎮が軒並み神都を追われたと考えていいのか?」

「そうなるわね」

 神都は完全な直接選挙制度をとっていたため、捨て子や育てられない赤ん坊を育てる孤児院が多数存在する神都では若者の力が圧倒的に強い。

「それでまあ、どうにもならなくなったからアタシ達は世界中に散らばってそれぞれの仕事をしようってことになったわけ。まあできる事といったら浄化作業と解呪がほとんどになっちゃうんだけどね」

「それで、おまえがここにいる理由と何が繋がる」

「盗まれた遺物はあれよ?結界の張り直しと、すべての都市に散らばって対策を打つよう命じたのよ」

「なるほど。それでは今現在主要なところではあれは使えんということだな?」

いいえ(・・・)。大陸の上、海の中ではまったく使えないわ。竜ちゃんにお願いして魔法陣敷いてもらったもの」

「…頭が下がる」

「もともとアタシたちのせいだもの。それぐらいはね」

「あー、なんか見えてきたかも。もしかして魂抜くやつが持ってかれちゃったの?」

 ロッカセンが会話に参加し、とんでもないことを言う。タロウ達が驚いて言葉に詰まるなか、ジャキータが肯定した。

「そうよ。あの死霊も死人も大量生産できるやつ。折角厳重に保管してたのに若い子達はだしちゃったみたいね」

「それは、やばいんじゃあ」

 タロウが口を挟むと、ジャキータが大丈夫よ、と言って続ける。

「ついさっき、伝言が届いたわ。なんか海上に島造って、抵抗するための魔法陣敷いてるからさっさと助けに来いってね。今は船を遠回りさせたり遠ざけて被害が出ないように頼んでるわ」

「なるほど、それで船がつかないわけだ。そちらのメンバーもつれてきたのは、どういったわけだ?」

「単純よ。セイレーンがいるわ」

「そうか。彼らには効かないんだな?」

「ええ。高位の冒険者を連れていくよりも確実だわ。装備も一級品だしね」

 カテリーナがタロウ達を見てにやりと笑う。嫌な予感がしたタロウ達は腰を浮かせるが、モルテルスに止められた。

「断っても、森都の時の二の舞ですぞ」

 言外に指名依頼が発生すると言っている。逃げ場はなかった。

「それでは、そちらの話も聞こうか」

 モルテルスとジャキータによって鉱都と森都での行いが暴かれていく。皇子救出、白幻亀が拒絶しなかったこと、軍蟻と戦って無傷であること。

「十分だ。では、依頼を行いたい」

 向き直ったカテリーナがタロウ達を見つめた。アイコンタクトをとるも、モルテルスを除く全員が半笑いだ。いやとはいえない日本人。代表してタロウが答えた。

「前向きに検討します」

「よし。では早速向かってくれ。案内はジャキータがするだろう。船を貸し出すから港へ向かってくれ」

 やはりというか、水球世界の人物相手に回りくどい日本語は通じなかった。



 ギルドに延期を申し入れ、謝ったあと宿にもどって荷造りをする。それから港にある船に乗り込んだ。小さめの船の中には、高価な魔術具がこれでもかと詰め込まれていた。全部使ってでも止めてこいと言うことだろう。

「それじゃ、いくわよ」

 海族本来の姿を表したジャキータとモルテルスが横に並ぶ。冗談じみてでかい。白と黒に色分けされた彼女は、竜族である鯨を抜かせば最強と名高いシャチであった。

「では、少々急ぎますゆえしっかりと体を固定しておいてください」

 タロウ達はその言葉にがっちりと体をベルトで船体に固定した。

 こうして、世にも奇妙なる大鯰族と鯱族の牽く船は最初からトップスピードで一路、神都から盗まれた遺物を取り戻すべく人工島へとむかったのであった。搭乗者を気絶させて。


「ねえ、なんでおれだけ船に引きずられてんの!」

 ウミウシを船にロープで結びつけて。



 ウミウシは重量オーバーです。泳ぐの他二人に比べても遅いですしね。

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