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三匹迷宮物語  作者: 九十
海都に
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其の十七

 消火活動や負傷者の手当て、その他の活動に追われた黄金郷は、一夜明けて皆が遅い休息を享受きょうじゅしていた。ギルドに集まったタロウ達は、ムジナからことのあらましを聞いている。

「では、捕らえていた賊は全滅。ギルドの職員も数人が負傷し、集落の中からも数人が行方不明と言うことでござるか?」

「情けない話だけどその通りよ。手引きをした人と、襲撃者は別みたいだけど」

 蔵の管理をしていた一人、セシルから杖を奪うことには成功したものの、そのまま昏倒こんとうして目覚めない。呼吸も脈拍もあるが、ずっと眠りについたままだ。

「で、追加の応援は来るのか?」

「要請を出したわ。昨日報告したぶんとあわせて、それなりの人数を送ってもらえることになったの」

 ギルドの方からそれなりの人数を割いてくれるとのことだったので、期待しても良いだろう。

「しかし、何が目的だったのかね」

 コウイチ呟くとムジナは首を横に振った。

「わからないわ。でも、あなたたちも助けてくれてありがとう。本当に助かったわ」

 治癒魔法を使いっぱなしだったミノリはモルテルスと共に休んでいる。タロウ達は奔走していただけだった。

「いえ、放っておけなかったので」

「できることをやっただけだ」

「そうでござるな」

 めいめいに返事をして、ムジナがあなたたちも休んでちょうだい、と言ったため、その言葉に甘えることにした。


 宿に戻り、一眠りするともう夕方になっていた。平屋から出ると、いくつか燃えた跡が残っているものの、作り直された木造の小屋や新しく何かを作る音が響いてくる。集落は大丈夫な気がした。そうして辺りをぼうっと見ていると、クアトロに呼び止められる。

「疲れてるところ悪いが、団長があんたに礼を言いたいって言ってるんだ」

「いや、大丈夫です」

「そうか?ありがとう」

 クアトロは笑うと、先にたって歩き出す。その後を就いていきながら、タロウはクラブの容態をたずねた。

「もう意識が戻って、普通に動いてるよ」

「それはすごいですね」

 タロウの見た限り、数日は回復に時間がかかりそうだと思ったのだが。

「あいつは昔から頑丈でな。怪我しても人より早く治っちまうのさ。まあ、俺等は元々頑丈にできてるんだけどな」

 スキルや加護の影響だろう。タロウは団員に怪我が酷いものはいないと知って、ほっとした。

「着いた。中で待ってるから、行ってくれ」

「え?あ、はい」

 土でできた小屋に案内され、その一室にタロウは入っていく。クアトロは外で待つようだ。

「キリーさん」

 中にはこれまた土でできた椅子に腰かけて、キリーが宙をにらんでいた。タロウを見ると微笑みを浮かべて歓迎する。

「おう、タロウか!呼びつけて悪いな、まあ座れ」

「失礼します」

 勧められた椅子に座って、タロウはキリーと向かい合う。

「まずは、クラブを助けてくれてありがとう」

「よしてくださいよ。俺はただ近くに行っただけで…」

 実際タロウがしたことと言えば、駆けつけただけ、である。礼を言われるようなことはほとんどできていなかったように思う。両方とも逃がしてしまったし。

「いや、あんたがいなかったら今ごろあいつの葬式をやるはめになってただろうよ。助かった。あんたの動きにはそれだけの価値があったってことだ」

 真面目な顔つきで言われ、言葉につまる。戸惑いを感じたのだろう、キリーは借りはいつか返すよ、と言って、ここからが本題だと言った。

「あんたとクラブが見た、ナニかだがな…。恐らくゴーレムだ」

「ゴーレム、ですか」

 正直タロウにもあれが何に見えたかと言えばナニか、としか言いようがなかった。色の着いたところてんに見えなくもなかったが。

「ああ。ノームは土をゴーレムにする。だからウンディーネに習ったものだろうと思うんだ」

 キリーの話によると、ゴーレムを扱うにはその魔術への適性、それと構築理論が必要なのだそうだ。土のゴーレムは土の性質を理解してはじめてそれが形を作り、水なら水、風なら風、火なら火、金属なら金属と言った具合に。

「さしずめ風のゴーレム作るのには気象予報士レベルってことか?」

「気象予報士が何かは知らんが、天候を見るのがとくいなやつらは多いな。まあ、そんな風に結構専門的な知識がいるのさ。だが基本は魔術や魔法と変わり無い」

「なんでそれを俺に?」

「顔も見たんならまた襲ってこないとも限らないからな。まあ、役に立ててくれ。クラブがあんた以外に見つからなかった理由はワシにもわからん」

「ありがとうございます。ギルドの方には?」

「さっき報告しておいた。まだ若いのに大変だね、あの姉ちゃんも」

 それにはうなずいて、いくつか雑談をしたタロウはその場を辞した。


「タロウ!」

「クラブ!本当に歩いてるよ…」

 走り寄ってくる様は、体に穴が空いていたとは思えないほどの元気のよさだ。

「へへ、スキルが生き延びるのに向いてんだ。それよりありがとうな!助かったよ」

 ブンブンと手を握って大きくふられ、タロウは苦笑しながらも無事を祝った。とそこにジャックが現れる。

「クラブ。恩人を困らせてどうする」

「おっとっと。いや、つい興奮しちまって」

 ばつが悪そうに頭をかいて笑うクラブを横目に見て、ジャックがタロウを真正面から見た。

「本当に、いろいろとありがとうございます」

「いえ。そちらこそ活躍してたみたいじゃないですか?」

 あまりにも感謝されていて面映おもはゆいので、話題をそらす。聞いた話によると彼は集落に入ってきた魔獣をすべて退治して回っていたらしい。その場面を見られれば勉強になったかもしれないと少しだけ残念に思っていた。

「いえ、むしろ集落の皆さんが率先して退治されていましたよ。ですが操られているのではなく、ただ追い込まれてこちらに逃げ込んできていたようですね」

 その光景を思い出したのか苦く笑ってみせる。種類も大型の狂い熊から牙兎までまるで統一されていなかったそうだ。

「まあ、狂い熊は食卓にあがってましたしね…」

 バーベキューの具になっていたあいつを思い出す。世の無情を感じながら、タロウの脳内では戦闘民族>狂い熊の図ができあがっていた。

「それより、クラブが見つからなかったことに関してですが…」

「なにか心当たりがあるのか?」

「ええ。神都にある神具の種類に、そういったものがあると聞いたことがあります。特定の者だけを隔離かくりできるとかで。ですが、厳重な管理下におかれていると聞いていたので同じものかはわかりませんが」

 ありがたい情報だ。タロウだけがクラブを発見できたのも、ステータスの高さゆえかもしれない。神具関連なら精神力が関わっている可能性は高いだろう。

「それ、ムジナさんには?」

「今しがた話してきました。ですが知っていたような気もしますね。ギルドマスターを務めていらっしゃいますし」

「そうですね。いろいろとありがとうございます」

 タロウ達は冒険者として管理される側なので、話せないこともあっただろう。ホイホイ内情を話されても困るので、妥当だとうな判断と言えた。

「いえ、このくらいしかお役にたてませんから。クラブを助けていただいた礼には足りませんがね」

「あ、俺もなんか…」

 ポケットをあさりだしたクラブを止めて、ジャックが建設的な話をするよう仕向ける。

「気づいたことって言われてもなあ。あ、そういえば。あの男の方なんだけどさ」

 頭を抱えていたクラブだが、はっとしたように話し出す。

「どうも、どっかで見たような顔の気がした」

「!?おいそれ重要すぎるぞ」

「早く思い出せ」

 タロウに続き、ジャックも驚いたようにクラブを急かす。クラブは意識がはっきりしていなかったことを前置きし、

「たぶん、王都で見た」

 と言った。


 クラブはジャックに引きずってギルドに連れていかれた。タロウも二人の顔の似顔絵を作るために行ったが、クラブの話はそれだけでもっと探す範囲を狭めることができるだろう。

「あれ、ええと。リードラン、どうしたんだこんなところで」

 宿に戻る途中、リードランが哀愁を漂わせながら外のござの上で体育座りしているのを発見した。

「タロウ…」

 ぼんやりと顔をあげた彼は、目が赤くなっていた。誰か不幸でもあったのだろうか。

「それがよ、っその」

 しゃべろうとして、喉をつまらせるリードラン。タロウは無理に話さなくて良い、と言おうとしたが、

「なんか、女性たちが遠巻きにして俺を見てヒソヒソ話してんだ」

 と言うリードランの言葉に首をかしげた。

「どうしてそうなったんだ?」

「わからねえ。俺は、俺はただ。正直に自分の気持ちを伝えただけなのに…」

 フラれでもしたのだろうか。惚れっぽいやつだ。

「まあ、ほら。調子悪いときは誰にでもあるだろう?くよくよするなよ」

「おう…」

 がっくりとうなだれるリードランが、

「俺は変態じゃないのに…」

 とぼそりと小声で言うのを聞きながら、タロウは暮れゆく薄暮はくぼの道を宿へと向かったのだった。



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