其の十四
間に合わず。ごめんなさい。
ギルドに賊を引き渡し、タロウはムジナと話をしていた。リードランから道中聞いた話によると、捕まえた賊は森都での事にも関わっているらしい。顔を険しくしたムジナが森都に連絡をいれ、とりあえず依頼の件について話すことにした。
「それでは、隠れ家には遺体しかなかったということですか…」
「ええ、どれもきれいな状態で、金銭価値のあるものは残っていませんでした」
タロウ達が隠れ家らしい洞窟に踏み込んだとき、それほど時間のたっていないだろう冒険者風の遺体が七体倒れていた。
「持ってきていただいた魔力証ですが、どれも指名手配犯のものです。小国家群の大街道沿いの村や町から盗み、殺しと一通り悪事を働いたもの達のようですね」
大街道沿いには自然と村や町が集まる。都市から安価に貸し出された神具を使って農業をしたり、旅人や商人を相手に宿を提供するものや、近くの野良迷宮からの産出品を買ってもらおうとするものなど様々だ。そうして集められた金品を狙って賊が近づいてくる。冒険者を装うものや、商人に成り済まして一夜にして村が滅んだ事例もあるそうだ。
「冒険者が人襲ってりゃあ世話ないな。冒険しろっての」
「ある意味ではしているのでござろう。人族社会での法律もなにもかも投げ出して、な」
基本的には各都市の明文化された法律が適用される。審官がいるところではそれなりの秩序があるが、ただのごろつきの集まりであるところも珍しくはないのだという。そのため旅慣れた商人や冒険者は、必ず審官の有無を神に訊ねる。
「都市での暮らしが窮屈だ、とおっしゃる方が独立されてのことですから、そうそう咎めるのも難しいのですよ」
神具の貸し出しには冒険者登録が必須であるため、経営や統治に失敗したものが犯罪者となることがあることがわかる。
「でも、なんで理想の集落を作ろうとして失敗するんでしょうか?」
ミノリが単純だが答えにくい質問をしてくる。原因は様々だろうが、例えば天災等の自然災害。あるいは先程のように悪意ある何者かによる人災。
「誰もが楽をしようとすれば、その分誰かが働かねばならぬ。あくせく働いても、そうすれば今度は働かぬものが楽をしているのを見て不公平だと感じる。人とはそういったものとは無縁ではいられぬのだろうよ」
「それは、まあ穿ちすぎだろうよ。けど結局普通の暮らしってのは、作るのが難しいってことだな。それぞれがちょっとだけ譲り合って、余剰分をみんなで分ける、そういった分配には知恵も胆力もいるってこった」
「なにやら小難しいこと言ってるな。ようは、みんなが納得するような公平ってのは全員が同じだけの働きをして、同じだけの辛いことも分かち合わなきゃってことだろ?」
「ですがまあ、能力には個人差というものが常に付きまといますからな。どうしたってできることには違いがあるし、向いてないものが一定数存在してしまう。結果的にもっとも優れたものが皆をまとめる、という方式が都市ではとられておりますな」
ミノリはしばらく考え込んで、ぽつりとこぼす。
「みんな幸せになれればそれが一番いいのにね」
それを祈って、成し得なかったものが多いことは、地球でも水球でも歴史が物語っていた。
「そう考えてくれる人が、一人でも増えればきっと世界はよくなりますよ」
ムジナが締め括って、その話題は終わりを告げる。依頼料の銀貨を五枚受け取って、タロウ達は宿となっている民家へと戻っていった。
「よう、浮かない顔してんな」
木造の平屋へと戻ると、クアトロが声をかけてくる。タロウはちょっと笑って聞いてみることにした。
「クアトロって、どこで剣を習ったんだ?里の方では見ない剣術だからさ」
里の剣術は集団戦を意識しているため、それほど深くは切り込まない。浅い傷をつけて、相手を弱らせるのを目的とするからだ。ユリトキなど一部の剣士は、外から帰ってきた里のものに指南を受けている。それに比べて彼の剣筋は致命傷となるところを切り裂くようにしていた。
「そうだな、俺は新都の出身なんだ。ガキの頃から力が強くってな、喧嘩ばっかりしてた。そしたら親父がてめえは俺の息子じゃねえって放り出しやがったのさ。で、冒険者になって…」
そのときのパーティーを組んでいた先輩から、色々な剣術を習ったらしい。
「変わった人でな。戦うのが楽しくて楽しくてたまらねえって人でよ。ま、あっさりと死んじまったんだがな」
「それは、」
「気にすんな。満足して死んでいったのさ。普通の社会では到底真っ当な暮らしができなかっただろうから、冒険者が性に合ってたんだろうよ」
「そうか。新都ってのはどんなところなんだ?」
再度の質問には、困ったように眉を下げて、実力主義ってところかね。と彼は答えた。
そうやって話をしていると、出番が来たらしくクラブが呼びに来る。
「じゃ、またな」
「ああ」
クアトロを見送って、戻ろうとしたタロウをクラブが引き留めた。
「あのさ、ありがとな。護衛引き受けてくれて。今さらだけどよ」
鼻を擦りながら笑って、そう言ってくるクラブは、ポツポツと話始める。タロウはうかつに足を止めたことを呪って、それでも話を聞くため座り直した。
「俺は王都で生まれて、親にあっさり捨てられたんだ。それから冒険者の荷物持ちとかして食ってたんだけどよ。団長が誘ってくれたんだ、お前愛想がいいから俺んところで営業やってくれってよ。俺にとって親は団長で、面倒見てきてもらってんだ。演劇は才能ないらしくってさ、ジャックさんにもクアトロさんにも敵わねえ。何をしてもダメなのが俺なんだ。でも、みんなそれを怒ったりしねえんだ。優しい人ばっかでさ、金儲けには疎いし、それでもなんとかなるさってな人たちでよ」
一週間の旅でタロウも感じていたことだ。どうにもこうにも劇団員からは悪意というものが感じられなかった。
「良かったな、生きててさ」
「おう!」
それから、タロウはクラブから今までの旅の話を聞いた。団長が詐欺に引っ掛かってみんなで逃げまくったこと、ジャックが神都で仲間になったときの話、クアトロが商売女に振られて落ち込んで、壇上で台詞を忘れた話。
「へえ。ジャックが最近はいったってのはビックリだな」
「そうだろ?あっという間に馴染んじまってさ」
キリーが信頼しているように見えたのと、あの劇をやって見せるだけの実力からして長いことやっているものだと思い込んでいた。
「リベルタ姉さんは、海都でだけ出てもらってんだ。俺らはどこにでも行って、芝居をするのさ」
「旅をみんなでできるのは嬉しいよな」
一人旅もいいだろうが、分かち合える仲間は貴重だろう。
「そうなんだ。おんなじところに行っても、毎回どっか違うところがあるんだよな。服装の流行りとか、食べ物の種類とか」
細かいところに気がつく質らしい。たしかに接客向きと言えた。いろいろと話し込んだ末、クラブがはっとする。
「悪い、仕事してたんだろ?疲れてるよな」
「いや、そこまで厳しいものじゃなかったしな。むしろ話が聞けて楽しかった」
そうタロウが返すと、へへ、と笑ってクラブがありがとうと礼を言って芝居小屋へと引き返していった。
タロウはそれを見送り、眠気が襲ってきたので、少しだけ眠ることにした。
「?」
眠りから覚めてすぐに、焦げ臭い臭いが鼻をつく。
「どうしたのでござるか?」
本を読んでいたゴーシュと、同じくうとうとしていたモルテルスが寝ぼけ眼でこちらを見てくる。
「いや、」
焦げ臭くないか、と聞こうとしたところで。けたたましい音の鐘がなる。慌てて外に飛び出ると、空に浮いた鐘が短い間隔で何度も打ちならされていた。
「なんだ?」
「火事だ!方角は…あっちだ」
鐘を聞いていた隣の家の男が、慌ててすっ飛んでいく。タロウ達もあとを着いていくように、そちらに向かって駆け出した。




