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三匹迷宮物語  作者: 九十
海都に
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其の十二

 ギルドにて護衛依頼の半分を終えたことを署名してもらい、次に魔獣討伐の依頼票を受けとる。

「ごめんなさいね、こんなおばさんが受付で。若い子はみんな忙しくって…」

「いえ、ギルドマスター直々(じきじき)に受付をしてくれるなんて、光栄デス」

 表面上にこやかであるが、逆らってはいけない人物だとタロウの本能は告げていた。ただのおばさんが、二つの都市から集められた冒険者たちのギルドマスターにつける訳がないのだ。そして、ムササビの獣人はこの巨大化した植物中では最大の効果を発揮するはずだ。逃げてもあっさりと捕まるのがおちだろう。

「それでは、内容をご確認ください」

 票には、『百舌鳥もずの討伐』とある。

「百舌鳥は魔獣の一種で、農業を行っているものを狙って襲いかかってきます」

「怖すぎる!」

「ええ。毎年毎年困るのよね。やつらをどうにかするのに気をとられて、なかなか作付さくつけが進まないのよ」

「いや、それなら神具を使えばよいのでは?」

 頬に手を当てて困っていると言うムジナに、ゴーシュがもっともな突っ込みを入れる。

「あら、農業を良く知らない子の発言ねえ。いちいちこの規模の作物を受粉させる手間がどれくらいになるかご存じ?自然の手を借りた方が手っ取り早いし、ある程度魔獣がどれくらい増えるかの先読みができるのよ」

 魔獣には小型のものも含まれる。つまり、あちらでいうところの蜜蜂や蝶など、花粉を運ぶ役割のあるものも弾かれてしまうのだそうだ。

「まあ、いいけどよ。それなら、どうしてもっと大々的に冒険者を誘致しねえ?」

 コウイチの言うように、そうすれば効率は良くなるだろう。しかし、ムジナは首を振る。

「いいえ、それはここに人たちが嫌がったのよ。以前、受け入れたことがあってねえ。でも、みんな三日と持たず辞めていったわ」

 その際、盗みを働いたものがいたらしく、余計に身元のわからない者を住まわせることには反対する住人が大勢いるらしい。

「それなら、冒険者も同じなのでは?」

 タロウ達も完全な部外者である。

「大丈夫よ。あなた達が劇団の護衛を受けてくれたおかげで、説明の手間もはぶけるわ」

「顔見知りだから大丈夫ってことですか?」

 ミノリが尋ねると、それもあるけど、とムジナが話し出す。

「彼がノームであることが一番の理由ね。植物を利用して農業を行っているけど、私たちは自然の恵みと共に生きているわ。そして、ノームはすべからく大地の神の守護を受けているもの」

「一種神の使いとしての見方をされているのですな」

「なるほど。二形持ちが獣人にとって崇拝対象になるのと似たようなものでござるか」

 要するに、信用を彼らは重んじるらしい。それならば里の獣人族とも似ているところがあるだろう。

「では、早速お願いできるかしら?」

「いけるか?」

 タロウの問いかけに、全員が、とうなずいた。



「しかし、どうやってこれほどの植物を育てているのでござるか?」

「魔法じゃないのか?」

「某もそう思っていたでござるが、それにしては魔力の感覚がおかしい。これほど大規模ならばそれなりの魔力場が形成されていてもおかしくないのだが…」

 道中腕を組んでゴーシュが眉をしかめる。知らない単語だ。

「魔力場ってなんですか」

「うむ。地場のようなものである。キリー殿が大街道では神具とゴーレムが干渉すると言っていたでござろう?」

「ああ、そうだったな」

 大規模な魔法同士が接触すると、魔法に乱れが生じるらしい。場合によっては効果が打ち消されることもあるので、街道沿いでは大規模魔法の使用は禁止されていた。

「さて、つきましたよ」

 ゴーシュの疑問は笑うことで受け流し、こちらを振り返る。ムジナの手が差しのべられた方を見て、タロウはげんなりとした。巻き付けられたつるに階段のようにみぞが刻まれていた。

「寺の階段じゃあるまいしよ…」

「何千段って観光地にあるやつにそっくりだね」

「修行だと思えばよろしいのです」

「モルさん、歩く?」

 壺に入って運ばれている身分のモルテルスにむかって、タロウはそっと微笑んだのであった。



「いや、頼んだよ」

「こんなひよっこにあいつらの討伐なんぞできるのかねえ」

「なあに、すぐわかるさ」

 上にあがったタロウたちに好奇の視線が向けられる。よそ者がくるのが珍しいのだろう、彼らは自分達の作業を行いながら、こちらを気にしていた。

「葉脈を切り開いて、そこに植えているのか。しかし、どうやって死なせずに利用しているのだ…?」

 先ほどからゴーシュはうなりっぱなしである。地球の常識はもとより、エルフに最先端と言わしめる蛙人族の農業は間近で見ても理屈が理解できない。

「植物をそのまま利用してるから、水を引く手間は省けてるよな」

 灌漑かんがい工事を行わなくて済むのだ、そのぶん植物を巨大化させる手間があるので、どちらが良いとも言えないが。

「うむ。しかし、水耕栽培だけでは…」

 具体的な技術についてはわからない。しかし、見る限りでは大量の水を使う作物が多いような気がする。穀物類、稲や大豆などだ。

「結構しっかりしてますね」

 ミノリが足元を確認しながら言った。しなりはするが、柔らかい感触が反ってくるだけでとても丈夫そうだ。現にひとつの葉に数人が乗っているが落ちそうな様子はない。そして、人も作物も密集していないようだ。

「まあいいじゃねえか。仕事すんぞ」

 数々の疑問を置き去りにして、コウイチが言葉を発する。

「それもそうだな。モルさん辞典にはなんて?」

 琥珀本を見ていたモルテルスが内容を音読する。

「『百舌鳥には様様な種類が確認されており、種類によっては体表に毒を持つ。また肉食性で素早く、魔法に耐性があるものも確認されている』」

「大体ギルドで確認した通りだな。ミノリ、これもっててくれ」

 タロウは森都で購入した魔術書をミノリに渡す。

「動きが鈍くなったらそれを使ってくれ。回復に徹してくれると助かる」

「わかりました」

 こっくりとうなずいて、ミノリは後ろに下がる。

「さて、どっから来るのかね」

「まあ、臭いでわかると思うけど」

 襲ってきたものは専用の魔術具で凍らせるよう頼まれている。毒も使い道があるらしい。フッと頭上を影がよぎった。

「ギュギュッ」

 鋭い叫びをあげて百舌鳥がこちらに飛びかかってくる。その姿は完全に捕食者のそれだ。

「なめやがって。焼き鳥にしてやるよ!」

 ふわり、と飛び上がったコウイチが百舌鳥に近づき、剣で思いっきり殴った。

「おっと」

 どさりと落ちてきたそれを網で受け止めて、ゴーシュが魔術具で凍らせていく。

「一発でござるな」

「まあ、早さではコウイチの方が上だろうね」

 現在コウイチは鉱都のブーツを履いてパーティー最速の人と化している。コウイチが叩き落とし、タロウが受け止めゴーシュが凍らせる。ミノリとモルテルスは毒を受けた場合の回復と、農家の皆さんに百舌鳥がいかないように足止めを担っていた。

「おらあっ!」

 なにかから解き放たれたようなコウイチの叫びと共に、ボトリ、ボトリと百舌鳥が落ちてくる。

「絶好調でござるな」

「だよなあ」

 どうやら、今回はタロウの出番は無さそうである。そう理解して、辺りの警戒を行いながらタロウは素晴らしい高所からの眺めを堪能たんのうしたのであった。



「いや、見直したぜあんたたち!」

「まったくだ。見たかよ!あいつらの怯えた顔!」

「いい気味だっての。毎度毎度邪魔してやがったからな」

 がやがやとタロウ達が討伐した百舌鳥の山を見て、蛙人族の男達が興奮したように叫んでいる。

「ま、それよりもだ。今日でとりあえず必要なぶんの作付と収穫ができた。“comodo(コモド)”の到着と、腕利きの冒険者達を称えて、乾杯!」

 あちこちに鉄板や網が置かれ、肉や野菜の焼ける匂いが鼻を刺激した。歓迎と一仕事終えたことへのお祝いもかねて、盛大な宴会が行われていた。

「すっげえ」

 ジュウジュウ焼ける音と匂いに、タロウは唾を飲み込んだ。炭火焼きの鶏肉をとって食べる。塩と胡椒こしょうのみの味付けだが、やけどしそうなくらい熱せられた鳥の油と絡んで旨味を引き出している。

「ああ、もう幸せ。肉万歳」

 いくつか放り込んだあと、回りを見渡す。コウイチは早速焼おにぎりを食べていたし、モルテルスはミノリと一緒にあちこちで豊富な食材を食べ歩いている。ゴーシュは農業の手法を聞き出そうとして飲み比べを挑まれていた。

「田楽がある」

 味噌がたっぷり塗られたそれは、間違いなくこんにゃくである。ゆっくりと食事を楽しんでいると、すっと湯飲みが差し出された。ムジナである。

「ありがとうございます」

「いえいえ、お疲れさまです。楽しまれていますか?」

「もちろん。やはり採ったばかりのものが一番美味しいですね。この肉とか」

 皿に山盛りにされた肉をあぶってタレを瓶からかける。ニンニクを使ったタレのようだ。柔らかく、それでいて臭みもない良質な油が口に広がる。

「気に入っていただけたようでうれしいわ。今日の朝とれたばかりの狂い熊(マッドベア)のもも肉よ」

「…そうなんですか」

 タロウでさえ倒すのがやっとなそいつを、今朝とれたと言う彼らは、やはり農耕民族ではなく、戦闘集団(プロフェッショナル)の間違いだろうな、とタロウは思うのであった。



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