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三匹迷宮物語  作者: 九十
海都に
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其の八

 ギルドに戻ったタロウ達は、ロクロが報告を済ませるのを待っていた。生態調査の依頼を出したのはギルドらしい。

「悪いな。一人でいかせたのはこっちの不手際だ」

ヴァルフレードがそう言って頭を下げてくる。それにコウイチが答えた。

「いや、こっちも収穫があったからな。調査内容はこっちにも教えてくれるんだろ?」

「ああ。書類にまとめて宿の方に届けさせるから、少しまとめる時間をくれ」

 宿を教えて、いくつか気になることを聞いた。

「その、迷宮の情報なんだけれど。こっちから買い取りの依頼を出すことはできますか?」

 タロウの言葉にクッと片方の眉をつり上げて、ヴァルフレードが可能だ、と告げた。

「しかし、あんた達は中位の冒険者だろう。依頼を出すよりも、自分達で潜った方が安上がりだろう?」

「そりゃあそうなんだがよ。濡れるのは好きじゃねえし、私たちが求めてるのはもっと広範囲の迷宮品なんだ。いちいち自分達で潜ってたら命も時間も足りねえのさ」

 コウイチの言葉に、ヴァルフレードは納得したようにうなずいた。

「なるほどな。あんた達は探索者シーカーか。それなら、細かい条件を詰めて依頼を出した方がいい。じゃないと正確な情報が得られないからな」

「では、報酬は銅貨一枚から銀貨一枚までの間。買い取る情報の内容は中位以上の迷宮の産出品、主に使い道がよくわかっていないものに限る、といったところでどうでござるか?」

「そうだな、人数はどんくらいにする?あと誰が聞きに来るんだ?」

「そうでござるな…、期間は今から二月ほど。人数については、大体三十人ほどで某等の中から二人ほどが話を聞きにいく。一度にパーティごとか、個人ならば数人まとめて同じ日に話を聞きたい。場所はギルド直営の酒場などがあるでござろう?」

 ヴァルフレードは書類に書き込み、こちらに見せてくる。共通語でこのように書かれていた。


 ・中位以上の用途不明の迷宮産出品の情報を求めている

 ・買い取り価格は銅貨一枚から銀貨一枚の間

 ・場所、日時等はギルドにて知らせる


「これでいいか?人数と場所はそろったらギルドから使いをやる。他に質問は?」

 タロウ達は顔を見合わせ、特にないことを伝えた。署名を求められて、タロウが代表して片仮名で書類の末尾に記名する。

「これで完了だ。あとは人が集まるのを待つだけだな」

「あ、あと蛙族の集落に行く依頼があるって言ってたよな?それも見せてくんねえか?」

「おう。いくつかあるから、複数受けてくれても構わねえぞ。今あるのはこの三つだな」

 コウイチの言葉にいくつかの書類を抜き出して渡し、手続きをして来る、と席を外した。

「どれどれ。商人の護衛、魔獣退治、劇団の護衛だな。どれかやりたいやつあるか?」

「コウイチがやりたいのがあるんじゃないのか?」

「いや、なんでもいい。悪くはねえんだが、こっちの食事は小麦粉系ばっかだろ?米が食いてえ」

「そんなもんか」

 食事にこだわりのなかったタロウはうまければよいので特に気にしていなかったが、コウイチには早くも禁断症状が出ているようだ。

「パスタもスープも味や形にバリエーションがあってよいと思うでござるよ?」

 ゴーシュもそれほど気にしてはいないらしい。モルテルスもミノリも首をかしげている。

「頼む。米がいいんだよ」

「まあ、仕事のついでに米買ってくるのなら別にいいけど。今在庫があるのか?」

 時期的にあちらも雨季なのではないだろうか。

「あそこの農業体制はすごいぞ。数年分の食料が溜め込まれてるはずだ。高台にあるから、雨季の影響もそれほどないはずだ」

 いつのまにか戻ってきていたヴァルフレードが答えてくれた。

「そうなんですか?それなら別にいいか」

「そうでござるな。最先端の農業だとエルフ達も言っていたし、見てみたい気はするでござる」

 ハウス栽培さいばいなどが勇者から伝わっていてもおかしくはない。

「場所はここから半月ほど西北西にいったところだな。どれも募集が明日まで、出立は明後日になってるが受けるのか?」

 森都と海都を底辺に、頂点を小国家群の三角形を作って、ちょうどその中心ぐらいに蛙人族の集落があるらしい。

「どうする?」

「我輩は構いませんぞ」

「私は賛成です」

 海族ペアは賛成、コウイチ、ゴーシュは暇をもて余すよりも仕事の方がいい、と返事が帰ってきた。

「それじゃあ、魔獣退治と劇団の護衛を両方受けられますか?」

「できるぞ」

「しかし、蛙人族の依頼は海都にのみ発注されるのでござるか?」

「ああ、森都に出ることもあるが、魔術ならあいつらも得意だしな。それに、小国家群とは仲が悪い」

 高台にきょを構えているので、大型の鳥人族にとっては欲しい土地なのだろう。

「では、その二つを頼むでござる」

「承った。今日中に、劇団の方には顔を出しておいてくれ。依頼主は“comodo(コモド)”劇団のキリーだ。当日混乱がなくてすむように、それと準備するものがあるか聞いてくれ」

「わかりました。それじゃあ、これで」

「おう。気いつけてな」

 ヴァルフレードから依頼の受注票を受け取って、タロウ達は劇団の方に向かった。



「すいません、キリーさんいますか?」

色鮮やかなテントの森を抜けて、タロウは以前来た劇場へと顔を出す。ぞろぞろと行っても邪魔だろうと言うことで、タロウが代表して行くことになった。じゃんけんで負けたと言うこともある。

「おお!タロウじゃねえか。来てくれて悪いんだが、実はここの支配人からもう出てってくれって言われててな。“ミッドレス”って歌姫がここにくるらしい」

 キリーはタロウを見て嬉しそうにしていたが、次にしょんぼりと肩を落とした。

「あ、いえいえ。実は、ギルドの依頼を見てこちらにうかがったんですけど…」

「なに?いや、あれは中位以上の冒険者に頼んだはずだが…」

 タロウは無言で魔力証とオパールに似た中位証明を取り出した。

「なんと!お前さん初心者じゃなかったのか。ジャックとクアトロの動きが見えてたって言うから、十王のところのやつだとは思っていたんだが」

 思っていたよりも十王の里の獣人の評判はいいらしい。

「ええ、里の出身です。それで、私の他に四人。五人のパーティーで護衛依頼を受けようと思うんですが、なにか必要なものってありますか?」

「いや、大丈夫だ。こっちで受け持つ。ありがとな、たいして旨味のない依頼を受けてくれてよ。ほんとはリベルタに頼みたかったんだが、指名依頼が入ったとかで抜けらんなくってよ」

 それで、ギルドに依頼を出したとのことだった。

「大丈夫ですよ。これでもそこそこ稼いでますから。それに、仲間達も蛙人族の集落には興味があるみたいで、こちらとしても渡りに船です」

「そうか。あらためてよろしくな、タロウ」

「お願いします」

 差し出された手をガッチリとつかんで握手する。タロウ達のような武器を持たない手だ。そして、彼ら芸術家は他の武器を持っている。

「出立は明後日。通りが騒がしくなる前の朝六時、ギルドの前に集まってくれ」

「わかりました。荷物とかはどうやって運ぶんですか?お手伝いしましょうか」

 劇の小道具などはいろいろとかさが増えるのではないだろうか。

「いや、大丈夫だ。おんぼろだが、ゴーレムが一体あるから、それで荷物は運べる」

「本当ですか!私、ゴーレム見るの初めてなんですよ」

「まあ、あんまり期待しないでくれ。ほんとぼろっちいやつだしよ」

 タロウの食いつきに驚いたのか、控えめになるキリー。それでもタロウはゴーレムに思いを馳せる。人の形なのだろうか、それとも。魔獣の家畜化が難しいため、魔力によって動く移動手段が確立された水球世界アクアスにおいては、自動車のような役割を果たすのがゴーレムであろう。

「期待するなっていってんのに…」

 タロウの表情から隠しきれていない期待を読み取ったのだろう。キリーがどこか遠くを見つめている。と、そこに張りのある声がタロウにかかる。

「お、タロウじゃないか」

「クアトロさん」

「ちょうどよかった、クアトロ、彼のパーティーが依頼を受けてくれたぞ」

 キリーがそういうと、クアトロはにやっと笑う。

「俺とジャックの読みが当たりましたね。あの動きを見てたんだから、只者ただものじゃないって言ったでしょう?」

「まったくだ。つくづくワシは見る目がないな」

「団長の見る目は役者にしか効かないんですよ。戦闘はからっきしじゃないですか」

「おう。それさえあれば劇には事足りる。それ以外に何がいるよ?」

「商才ですかねえ」

「違いねえ!はっはっは」

 仲がいい彼らを見ながら、ひとつの疑問が沸き上がった。リベルタの役は誰がやるのだろうか。

「リベルタさんのやった役は誰が代役をするんですか?」

「それな。タロウ、やってみるか?」

「お、いいね。お姫様役やるかい?」

「勘弁してくださいよ…」

 うっかり濡れ鼠になった薄物をまとった自分の姿を想像してしまい、げんなりする。筋骨たくましい獣人が、お姫様役。悪夢そのものである。


 情けないタロウの言葉に、がらがら声で一際大きくキリーが笑い、クアトロとタロウも、その声につられて劇場に響く笑い声をあげたのだった。


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