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三匹迷宮物語  作者: 九十
海都に
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其の三

 瑠璃るり色の姿をしたウミウシ族の友、イセ・ロッカセンはその体をせまい水路へとすっかり同化させていた。つまり、みっちりと隙間すきま無く詰まっている。

「モルルン、助けてくれない?」

 うねうねと動く様は、陸上の人族が見たらば間違いなく魔獣の一種だと思うだろう。あきれ果てながらも、モルテルスは解決策を教えてやった。

人形ひとがたになれば抜けられるのでは?」

「あっ!その手があったか!」

 言うなりロッカセンは魔術を詠唱し、体の輪郭りんかくが曖昧なものへと変化していく。それほど時間をかけずに人形へと戻ったロッカセンは、先ほどの姿の十分の一の大きさもない。

「やれやれ、助かったよモルルン」

「いったい何をしていたのですかな?」

「実はね、って。ミノリちゃんは?一緒じゃないのか?」

「ああ。そのことで今回は報告に来たのです。よければロッカの家で詳しい話をしたいと思うのですが…」

 長話をここでするのも、加護の事をここで話すのも避けたい。モルテルスの要求に、ロッカセンは真面目な顔をして、彼の住処すみかへとモルテルスを誘った。



「そうか!よくなったんだな。よかった」

 水路より海に程近い、光の差し込む海底に築かれたロッカセンの家で、モルテルスは事の顛末てんまつを話した。予想した通りおどり上がって喜んだロッカセンは、しかし自分の予想とは違ったものになったと言う。

「水圧が関係してるんじゃないかと思ってたんだよなー」

「水圧、ですか?」

「うん。ほら、陸の上と海の中じゃこうぎゅっ、と縮められる感覚が違うじゃん?子供の頃から体弱かったって聞いたから、そのせいなのかなーと。違ったみたいだけどね」

 からからと笑うロッカの言葉に、モルテルスは何かを思い出しかけるが、水に映った月のようにその姿は揺らめいて消えてしまった。

「まあ、あなたの言う通り森都へ行ってみたお陰です。感謝しますぞ、ロッカ」

「やだなあ、そんな大したことしてないって。ほら、ミノリちゃんみたいなかわいい女の子のためならおれはなんだってするともさ」


 基本いいやつなのだが、女好きは病気の域に達している。そういえば、と水路にはまっていた理由を聞いてみる。

「ああ、あれね。ふふふふふ、あそこさあ、人魚の女の子がよく通るんだよね。マーメイド・バーの娘達が近道に使ってんの」

 それを、こっそりばれないように眺めるのが最近の日課だと言う。モルテルスはあとであの場所を警備兵に通報することにして、どうやって見つからないようにしているのかを尋ねた。人魚も他の者の魔力を感じ取れるはずだから、見つかってしまわないのだろうか。

「それね。まず、見えない位置に身を潜めます」

「全然潜めていなかったようですが…」

 むしろはみ出していた。

「おやつ持ち込んで食べてたら太っちゃってさ。それはともかく、そのまま自分の魔力を周囲と馴染ませて、だんだんと薄くしていきます」

 海族でも容易ではない高等技術をアホらしいことに使っている。

「そうしたら、無心に近い状態になるっしょ?そしたら薄目を開けて、上を通り過ぎていく人魚の娘達を見放題ってわけ」

「やれやれ。そのようなことをせずとも、一緒にお食事でもどうですか、とお誘いすれば良いことではありませんか」

 そう呟いたモルテルスの言葉に、上体を持ち上げて過剰に反応を返すロッカセン。

「っかー!このモテモテモルテルスめ!自分は声かけた女の子から断られたことなんか無いんだろ!おれなんか声かけても、は?ちょっとマジうけるんですけどー、みたいな反応しか帰ってこないんだよ!ざけんな!ウミウシの何が悪いっていうんだよ。ナメクジみたいとか言うなよお」

 後半は涙声である。モルテルスはロッカセンに人魚を紹介する約束をさせられて、なおかつ酒をおごる約束までさせられたのであった。





「お兄さん、うちは実力のある役者ぞろいだよ。見てかないかい?」

「こっちはあの有名なトビウオ旅団の公演だ!見なきゃ損だよ、寄ってってくれ!」

 声を張り上げてあちこちの天幕から呼び込みの声がこだまする。頑丈そうな建物のある通りから外れ、タロウは即席のテントや劇場が並ぶ通りへと来ていた。サーカスのような物から、演劇まで幅広い催しが行われているようだ。色とりどりの天幕は、大きさも様式も多様である。

「結構な賑わいだな」

 イチリョウに勧められた潜水船は、カップルが多かったのでいたたまれなくなって逃げてきた。コウイチにでも教えてミノリと見てきてもらおう。

「兄さん、冒険活劇に興味はないかい?いまなら一席たったの銅貨三枚で、元冒険者“蝶舞”のミューメルの舞台が見られるよ!」

 タロウの腰にある槍を見て駆け出し冒険者だと思ったのだろう。鎧も籠手も、必要ないだろうと思って宿に置いてきた。それより気になるのが出された名前の方である。まさか本人ではないだろうが、このところ娯楽に縁がないから、見ていくのも悪くはないか、とタロウはその男に銅貨六枚を握らせて、

「一番良い席を頼む」

 と言った。男は嬉しそうに顔をほころばせて、任せときなと胸を張った。



 明るさを抑えたそこそこの広さの劇場の、二階席へと案内される。中は、古い映画に出てくるような簡素に作られた椅子とテーブル、舞台には幕が降りたままだ。変わったところと言えば、席と席の間に人一人が通れるだけの幅がある水路が巡らされている事だ。演出の一環だろうか。

「ここからなら良く見えるぜ。飲み物も食事も軽いもんなら用意できる。酒は夜にならないと出せねえけどな」

 テーブルについたタロウにメニューを渡し、クラブと名乗った男はカウンターへと戻っていく。周囲の客を見ると、頼むものが決まったら空のグラスを掲げて呼ぶらしい。メニューを見ると、共通語でパスタ、スープ、フライとある。種類は豊富で、トッピングも様々だ。

「お決まりですか?」

 グラスをあげると、クラブとは別のいかにも二枚目役者風の、エプロンをつけた男がよってくる。

「たらこスパゲッテイと、コンソメスープをお願いします」

「かしこまりました。飲み物はいかがいたしましょう?」

「水を一杯」

「お預かりします。銅貨二枚のお支払です」

 先払いらしい。こういう所ならその方が揉め事も少ないだろう。タロウは銅貨を三枚支払って、グラスを渡す。男はふっと笑って奥へと引っ込んだ。


 届けられた食事を食べながら、タロウは舞台を見つめる。客が半分ほど入ったところで幕が上がり、まだ若い魚人の青年が怪物の被り物をし、ミューメル(役)らしい女性に翻弄されている。

「なかなかだけれど、本人には敵わないかな」

 軍蟻との戦闘で見たミューメルの動きにはほど遠い。それでも実際の戦闘とは違う劇で、ここまでの動きを魅せることに関しては成功していると言えた。舞台の主役に華があるのだ。指先の動きからひるがえされるマントの動きまで、パッと品のあるしぐさが美しい。

 話の筋はいまいち頭に入ってこなかったが、役者達が努力を重ねている事は察せられた。ぎこちなかった動きも、これから公演を重ねることでなんとかなるだろう。


「いかがでしたか、お客様」

 注文を受けてくれた男が皿を下げながら感想を求めてくる。そういえば、この男も役者だと思っていたのだが出ていなかった。

「そうですね、話がとっ散らかっていて、どこに焦点をおけば良いのかが分かりにくかったです」

 真っ正直につげると、驚いたように目を見張ってから思いっきり吹き出す。

「あははははっ、そこまではっきり言われたのは初めてですよ!」

 目に涙を浮かべるほど笑った男は、ぐっと声を潜めて実はこの劇よりも次のショウが見所なんですよ、と耳打ちしてくる。

「見所?」

「はい。ご覧になりたければこのまま、席に座ってお待ちください。とびっきりですからね」


 男の言ったまま、席に座って待っていると、下ろされていた舞台の幕が再び上がった。

 一人の魚人がぼろ切れのような衣をまとって舞台におどり出る。それを追うように数人の魚人が手に得物を持って舞台に上がった。

「?」

 この時点でタロウは違和感を覚える。なにかが、さっきまでとは決定的に違う気がする。


「『さあ、追い詰めたぞこの盗人め!その秘宝は我らがコノシロ家の宝。薄汚い手で触った罪は、そなたの命で償ってもらおう!』」

 追いかけてきた男達のうち、一番ごてごてした衣装を着た男が気勢をあげる。


「『これは異なこと。この宝はもともと我らメロー一族に伝わる宝。盗人っと言われるべきはお主らの方ぞ!』」

 ぼろをまとった役者がその声をあげる。その声に、タロウは聞き覚えがあった。


「リベルタさん?」

 舞台の上で、一触即発となった二つの勢力は、男の号令で一斉にぼろをまとった者へと襲いかかっていった。

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