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三匹迷宮物語  作者: 九十
海都に
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プロローグ

 一度書いていたらまったく関係のない話になっていて書き直していたら遅くなりました。ごめんなさい。

 水無月の始め。タロウの姿は海都のゴンドラ船の上にあった。都市中に張り巡らされた水路の上を、ゴンドラ船がいくつも行き交っている。

「兄さん、海都に来んのは初めてかい?」

 八本の手足で器用にゴンドラを操るタコの海族が聞いてくるのに、と返し、ついでに気になることを尋ねる。

「潜ったまま上がってこない海族達はどこにいったんだ?」

 先程から、水路に飛び込んだまま一向に浮かんでこない魚人族達が一定数いた。むろん彼らは水中でも呼吸ができるだろうが、何をしているのか。

「ああ、ここの水路は地下で横に繋がってるんだよ。それを利用して配達やら移動やらするやつが多いのさ」

「へえ。でも上がったときびしょびしょなんじゃ」

「まあな。だから濡れてもいいものだけだよ」

 魚とか、貝とかな。男の言葉に納得して、よく目を凝らすと、たしかにコンテナを持って飛び込む者が多い。

「それで兄さん、あそこがギルド」

 角をすうっと曲がって右手側に、見事な螺鈿らでんを施した建物があらわれる。碧、緑、白、と様々に光を反射して、観光客らしき人たちの目を一身に集めていた。

「うおお!」

「気に入ったかい?」

「もちろん。凄いな、これ」

 ゴーシュ達も連れてくればよかったかな、と思いつつも、タロウはゴンドラ船に銅貨一枚を払い、道へと降りてギルドへ向かった。









「おい、モルテルス!道あってんのかよ?!」

 巨大化したモルテルスにくくりつけられた輿こしの上、コウイチが叫んでいる。ゴーシュはぐったりと青い顔をして、タロウは跳び跳ねてくる水しぶきを浴びて口を開けない。一行は、濁流といっていいほどの川の流れに身を任せていた。

「はっはー、あっておりますぞ!証拠に、魔獣には出くわしませんでしょう?!」

 体にぶつかるもろもろを者ともせず、モルテルスが返事をする。森都の東を流れるこの葉川(リーブズ・リバー)は、雨季になると山からの大量の雨水をとりこみ大街道もろとも巨大な一つの河と化す。そこを今、タロウ達は周りの物が見えないぐらいの速さで一気に下っているのであった。


「じい、ちょっと休憩しようよー!」

 ゴーシュの顔色を見たミノリがヤバイと思ったのか、モルテルスにそういうと、わかりました、と返事をして流れの緩やかな支流へと入るモルテルス。河のあちこちには、こういった水を逃がすためのため池や支流がいくつも造られている。道路のサービスエリアみたいなものだろうか。何度か休憩を挟みつつ、タロウ達はここまでやってきていた。

「助かった」

 ゴーシュは服が汚れるのも構わず、地面へと突っ伏す。コウイチは濡れた体をブルブルと振って水気を飛ばしていた。

「やれやれ、海族の言うことは信用しない方がよかったな」

「まったく。こうなることを予想できなかった某達の甘さもあるでござるがな…」

 森都を出るとき、今出るんですか!?と驚いたエルフ達の驚きを思い出す。こういうことだったのだ。上流ではそれほど水が増えているとは思わなかったので、素直にモルテルスに従っていた。

「あはは、ごめん。ちょっと自分達基準で考えてたみたい」

 ばつが悪そうにミノリが笑っている。

「いや、責めてる訳じゃないんだけどね…。ちょっと予想外すぎた」

 タロウの予想としては、巨大なモルテルスに乗ってゆっくりと川をくだるイメージだったのだ。ヨーロッパとかでよくあるような、船に乗ってドナウ川とかを渡るイメージである。

「台風とかで増水した川をさらにスピードを増して下るはめになるとはな…」

 雨が降るからと着ていた雨具を完全に脱ぎ去って、コウイチが乾いた笑いを漏らす。

「ま、まあ。お三方。もう一時ほどで海都には着きますからな。もうしばしご辛抱いただければ…」

 ちょっぴり反省したのか、ハイになっていたモルテルスがそう言った。ここまで一週間もかかっていない。普通に歩いていけば二月はかかるだろう距離で、驚異的な速さであった。

「もう着くのか。便利っちゃあ便利だな」

 休憩をとったタロウ達は、再びモルテルスに乗り組んだ。




「見えて参りましたぞ!」

 モルテルスの言葉に前方を見ると、緩やかに円を描いている巨大な水場があった。その奥には五十メートルはあろうかという巨大な門が鎮座している。不思議なことに、門の周囲からは流れは勢いをグッと遅くし、ゆったりとした流れへと変わっていた。

「止まられよ!」

 門の脇に控えた海族、魚人系だろう人々が慌てて飛び出してくる。まさかこんな風に来るやつがいるとは思っていなかったのだろう。

「ご苦労様です。我輩はモルテルスと申します。こちらは姫とご友人の方々ですな」

 モルテルスが名乗ると、槍を構えた男達が直立不動になる。

「はっ!モルテルス殿とは露知らず、ご無礼いたしました!」

「モルテルスって誰っすか?」

 一人の若者が首をかしげると、中年の男がしかりつける。

「ばか野郎!お前なんかが呼び捨てにしていいお方じゃない!クラーケンを一人で退治できるほどの大鯰族の英雄だ!」

「す、すいませんっした!」

 慌てて謝る若者だが、そのモルテルスに乗っているタロウ達はものすごく居心地が悪い。

「なに、構いませんよ。それより早く審官殿の審判をお願い致しますぞ」

「え?いえ、そんなことをしなくとも…」

「規則は守られてこそその効果を発揮いたします。相手がどのような貴人きじんであれ、あなた方は職務を遂行すいこうするのがよろしい」

「は、はっ!」

 門の方からするすると赤いころもをまとった人魚が近づいてくる。ボディラインがはっきりとわかり、いろいろと眼福であった。

「それでは。『我が仕えし真実と正義を司る神々よ。この者達の罪はあるやなしや?』」

 すうっとタロウたちを魔力が包み込み、消えていく。初めて聞く詠唱だが、門での審判はそれほど時間をかけずに行えるようになっているようだ。

「…はい。彼らには罪はございません。モルテルス様、お会いできて光栄ですわ」

 優雅ににっこりと微笑んだ人魚は、モルテルスに触れるだけのキスをして去っていった。


「じい、顔がゆるゆるになってるよ」

「!いえ、別にやましいことなど考えてはおりませんぞ!」

 ミノリの冷たい声に、はっとしてモルテルスが答えるが…。

「いや、そもそも上からじゃお前の顔見えねえっつうの」

「あっ」

 コウイチの突っ込みに、モルテルスは己の失態を悟った。




「どこでもいいから、宿に連れていってくれ…」

 完全に消沈したゴーシュを背負い、タロウ達は小判鮫こばんざめ亭と書かれた宿の前にきていた。ミノリによると、個室が多く用意されており、なおかつ値段も手頃なのだそうだ。

「イチリョウさん。すいません、部屋空いてますか?」

 ミノリが率先して宿の主人らしき小型の魚人族に尋ねる。

「おお、ミノリちゃんじゃないか!久しぶりだねえ。個室が三部屋、二人部屋が二つ空いてるよ」

「どうします?」

「うーん。俺は個室がありがたいかな」

「某も…」

「どっちでもいいぜ」

「我輩は姫に従いますぞ」

 ゴーシュ、タロウ、モルテルスが個室。ミノリとコウイチが二人部屋となった。

「個室は一ヶ月銀貨八枚、二人部屋は銀貨十枚。朝食と夕食付きだ」

「はい。これでお願いします」

「お、おいミノリ」

 そうなるとは思っていなかったらしいコウイチが声をかけるも、ミノリはさっさと支払いを済ませてしまった。

「さっ、いきましょう先生!」

「うおっ。引っ張るなって!」

 鍵を受け取ったミノリはコウイチを連れて階段を上がっていった。慣れない旅で、コウイチも頭が鈍っていたらしい。

「個室は二階の突き当たって右二部屋と、その向かいだな」

「どうも」

 鍵を受け取って、タロウは支払ってもらった分の働きをすべく、二階の部屋へとゴーシュとモルテルスを放り込んだ。






「えへへへ」

「やれやれ」

 嬉しそうに荷ほどきをしているミノリに、困ったやつだとため息をついた。

「いいじゃん。先生も私も女同士なんだしさ!」

「はたから見りゃあな」

「それに、先生だって子供には興味ないっていってたでしょう?」

 いたずらっぽく笑ってみせるミノリ。見た目が変わって、だいぶ女らしくなったと思う。昔は見た目のことでいろいろと悩んでいたようだが、いまではどこから見ても女の子だ。だからこそちょっと困る。海族は先程の人魚もそうだが発達しているのだ。いろいろと。

「先生。ご飯食べに行こうよ!」

「そうだな。タロウはギルド行くって言ってたし、ゴーシュも動きたくねえだろうからのんびりするか」

 太陽は真上に来ている。ちょうど昼時だ。コウイチはミノリと共に海都へと繰り出した。




「おーい、生きてるかい?」

「水を頼むでござる」

 ぐったりしているゴーシュが気になったのだろう、イチリョウと呼ばれていた魚人族が部屋をヒョイっと覗いてきた。そちらを向いて水を頼み、再度ベッドに突っ伏した。

「そうだろうと思って持ってきてるよ。船酔いかい?」

 手際よくコップに水を注いでくれ、差し出されたそれを飲んでひとごごちついた。

「いや、鯰酔いでござる」

「は?」

 目を丸くするイチリョウに弱々しく笑って、ゴーシュは少しの間眠ることにした。





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