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三匹迷宮物語  作者: 九十
森都へ
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其の二十四

 珍しくシリアス回。落ちがない、だと…。

 叫んでその場に崩れ落ちた男をなんとかなだめて、タロウがお茶を勧める。男は虎耳をへたりと伏せて、熱い茶をちびちびと飲んだ。

「その、まあほら。あれだよ、ちょっと忙しかっただけで忘れてた訳じゃないっていうか」

「タロウ、それでは忘れていたと言っているのと同じでござる…」

 目をそっとそらしたゴーシュが忠告をしてくるが、遅い。遅すぎた。目の前の虎がいじけ始める。

「どうせ、オレは忘れ去られるような影の薄い男だよ。がんばって獲物をとってきても、もっとでかい獲物を他のやつがおんなじ日に狩ってきたりするんだろ?知ってた」

 うっとうしい。というよりも介抱してやる義理はないし、放っておきたいのだが、部屋においていくのもためらわれる。


「じゃ、タロウ、そいつの相手よろしく」

「某らはギルドに行って、ついでに迷宮に潜ってくるでござるよ」

「あ、まって先生」

「我輩をお忘れなく!」

「ちょ、ふざけんな!」

 そそくさと準備をした四人は、タロウと虎人族の男を置いてさっさと外出してしまった。逃げやがった。逃亡を得意としているタロウは出遅れたことに気づいたが、あとの祭りである。


 体育座りをしてぶつぶつとなにか言っている男に、しかたなく話しかけた。

「えー、と。俺はタロウってんだけど、あんたは?」

 敬語を使うのもバカらしかったので、ぞんざいな口調になってしまった。だが、虎人族の男は気にした様子はなく、名乗り返す。

「オレは虎人族のデンエンが息子、トユキだ。タロウって、ユキナガ王の息子のタロウか?」

「そうだけど。よくわかったな」

 つうっと目を細めて、よく似てる、と呟くトユキ。その視線に嫌なものを感じつつも、話を戻す。

「それで、決闘って話なんだけど…」

「いや、もういい」

「は?」

「姐さん、小さい女の子とすっげえ仲良さそうだった。里にいる男達はモテる姐さんが恋人の一人もいないのに不思議がってたけど、そういうことなんだろ?」

「そういうこと?」

「つまり、幼女が好みってことだよ」

 ぜひその言葉をコウイチに聞かせてやりたかった。タロウはあながち間違ってもいない気がしたので、適当に返事を返しておいた。

「たまたま好きになったのが彼女だったんだよ。それに、成人するまでは保護者がくっついてるから手出しはできないし」

「そうか。両思いなんだな。姐さんが幸せならいいや。へへ、フラれちまった」

 照れたように笑うトユキに、タロウは話の通じるやつでよかった、と心底ほっとする。

「ありがとな。話ちゃんとしてくれて」

「いや、こっちこそ忘れててすまん」

 なんとなく穏やかな空気が訪れ、お開きムードが漂う中。ふと、トユキが聞いてきた。

「タロウ、あんた強いんだよな?」

「え?まあそれなりに」

「じゃあさ、その。暇なときでいいんだ、オレに稽古つけてくんねえかな」

 不安そうにこちらを見てくるトユキに、戸惑うタロウ。ほぼ初対面であるこの男にそこまでしてやる必要はないのだが、下手したてに出られると弱かった。

「ああ、まあここにいる間、時間があればな」

「本当か?!よっしゃ、じゃあ約束な」

 パアッと表情を明るくしたトユキは、振り返り振り返りこちらを見ながら去っていった。


「なんだったんだ?」

 虎人族というのは気分屋が多くて困る。猪人族はタロウの立場上馴れ馴れしいものなどいないので、トユキの扱いは弟に対するものに近くなってしまった。虎人族らしく発達した筋肉を持っていたが、タロウとそう年は変わらないだろう。


「まあ、いいや」

 部屋に戻って読書でも、と振り返ると。

「あんたさ、兄貴のときも思ったんだけど、ガードがゆるゆるだぞ」

 バカにした目付きで頬杖をつき、こちらを見るビルと目があった。どこから入ってきたかは庭にある草履で見当がついた。

「ガードって。別段戦おうって訳じゃなかっただろ?それにオレの方が強いはずだし」

 自信過剰ぎみではあるが、事実でもある。里のものには負けない自身があった。

「 あんたマジでいってんのか?本気?」

 ますますあきれた目付きになっていくビルに、何が問題なのかわからないので困惑するしかない。

「いや、わかんねえんならいいや。まあ、そのうち嫌でもわかるだろうしな」

 わかりやすくため息までつかれると、あまり愉快な気分ではなかった。つっけんどんに用件を聞く。


「それで、何か用か?テルは?」

 タロウの言葉にひょいと肩をすくめて話し出すビル。

「オレらだっていつでも一緒ってわけじゃねえから。兄貴はこの間の軍蟻で結構な負傷者が出たから、新兵が使い物になるよう訓練してる。しばらくは兵舎づめだな、ありゃ。それで、オレが伝言を言付かってきたってわけでね」

 詳しく聞いたわけではないが、初めは優勢だった森都の兵士達は、あの変異で上下に機動性を持った軍蟻に苦戦し、相当な数の怪我人が出たらしい。

「で、内容は、本を新しく書き直したから見てくれってさ。なんか二話以降を改稿して書いてるっていってた」

「そうか。わかった、読んどく」

 テルには、妹と同じ名前の二人が誰ともくっつかないこと、幸せになることを条件に同じ名前を使うことを許可した。話を聞くと言った手前、読んでおいた方がいいだろう。

「あのさ、あんた、本当にあれ読んでんのか?」

 言伝てへの返事をしたタロウに、聞き返すビル。

「そうだけど?」

「そうか。あんたはそう(・・)なのか。まあいいや、兄貴に伝えとく」

 何かを振り払うように頭を振って、ビルは庭へと消えていった。

「なんなんだ?あいつ」

 得心がいかないタロウだったが、追求することもなく、部屋へと戻って本を読むことにした。











「それで、私になんの用ですか?」

 コウイチ達はシュロの部屋へと強引に案内させて、話を進めようとしていた。モルテルスとミノリは別室で迷宮の資料を見ている。

「聞きたいことがいくつかある」

「手短にお願いしますね。これでも結構忙しい身の上なんですよ」

 机の上にある大量の書類を嫌そうに指してすっとぼけるシュロに、ゴーシュが切り出す。

「ミノリが加護を変化させることは知っていたのでござるか?あまりにもタイミングがよすぎる」

 事実、あの時点でミノリ共々呼び出されなければ加護が変わることはなかっただろう。

「これでも、それなりの年月は重ねていますからね。質の高い軍蟻が攻めてきていて、ミリアンがいて、ミューメルも、試験官として呼んでいたドレイスも、バッセルもいた。そして都合が極めていいことに、狩人がいる。そして神の加護に苦しめられている少女はあなたの知り合いと来ている」

 うんざりしたように、あるいは忌避感すらただよわせてシュロは吐き出す。

「こういった場面を何度も見てきました。いつも、勇者と呼ばれるものや、英雄と言った面々が揃うときです。ならば、おそらく今回もあなた達が軍蟻の殲滅に必須な要素(・・)なのだろうとね」

「それは、経験則、のようなものと考えてよいのでござるか?」

 シュロの感情に気圧けおされながらも、ゴーシュが発言する。見事な金髪をうざったそうにかきあげて、シュロが応えた。

「ええ。神々はそのようなものをお好みになられるようですからね」

 今度こそはっきりと皮肉を口にして、微かに口の端を歪める。


「そうか。それじゃあもうひとつ」

「おや、そんなに少なくていいのですか?」

望むもの(・・・・)を与えるんだろ。タロウのやつは普通に金か魔術具とか物を考えてるみたいだけどな。オレらの分は別だ。…階級レベルがゼロになるとどうなる?」

 その質問をした後のシュロの変化は劇的だった。くつくつと笑い声をあげながら、その瞳には隠す気すらない怒りの感情が燃え上がる。

「なるほど。彼がそうですか。なるほどね」

「おい、一人で納得してんじゃねえ。説明してくれ」

 急激な変化に戸惑いながらも、コウイチが返答を促すと、シュロは単的に答えを返す。

「ゼロになっても死にません。普通の人なら病魔や魔獣に殺されて終わりでしょうが、階級の下がる呪いにかかったものは死にません。やるべきことを成すまではね」

「呪い?加護ではないのか」

「同じことでしょう?あなた達は加護を平気で喜びますが、それは有利なことがあるからです。不利なことでも、その神にとっては加護なのでしょう。ミノリの事例のようにね」

 確かにミノリの場合には加護が肉体の成長を妨げていた。ミーティアの医者も、加護が変化した後のミノリは健康体そのものだと太鼓判を押している。


「なすべき事とは一体?」

「わかりませんよ。そんなことわかるわけがない。全ては過ぎ去った後、その結果を見てしか判断できない」

「役に立たねえな」

 コウイチが悪態をつくと、シュロは話は終わったとばかりに書類へと目を向ける。

「それから、あまりタロウに無茶を押し付けないよう頼みたいでござるな」

 ゴーシュの言葉に、スッと目を細めてシュロが返す。その声にはからかいや同情に近い感情が含まれているように感じられた。

「私があちこちに首を突っ込むのと同様、彼の拾い癖、とでも呼びましょうか?あれは治りませんよ。ユキナガの子はやはりユキナガに似ますね」

「知ってんのか?」

「ええ、とてもよく。まあ、精々変な者を拾ってこないように気を付けてあげることです」


 今度こそ話は終わりだと手を振って出ていけと示すシュロに、廊下に出たコウイチとゴーシュは得られた情報を吟味ぎんみしていく。

「どう思うよ?」

「嘘をついているようには見えなかったでござるな。しかし、やはり某らが記憶を持ってここにいることと関係があるのでござろうか?」

「そこを気にしてどうする。やれることやるだけだろ、オレらはよ」

 コウイチは本当にそう思っているようだ。ゴーシュは思考を巡らせるが、今の時点では情報が足りていなかった。ステータスのことも、加護のことも。考察するための情報が足りない。

「やはり、早めに神都か学都を訪ねた方がよいのでござろうか」

 神都には千年戦争でも壊れなかった遺物が眠るというし、学都は神都よりも幅広い方面の研究が行われている。

「神都は解放されてるが、学都はどっかコネ作らねえと無理だな」

「そうでござるな。とりあえずは見落としがないようひとつひとつ見ていくしかないでござるな」

 歯がゆくとも、森都で情報を集めるという当初の方針を優先させるのが建設的だろう。

「急がば回れともいうしな」


 資料室にいるミノリとモルテルスを迎えにいくため、コウイチとゴーシュは歩きだした。




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