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三匹迷宮物語  作者: 九十
森都へ
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其の十七

 ミノリは、イエスと言った。ただ死を待つのは嫌だ、とも。落とし物として届けられたモルテルスをまじえて、新しくなったパーティーの編成を確認する。ミノリは治癒系統の魔法が使える、モルテルスはギルドで見せた通り水を扱う魔術が得意なのだそうだ。

「じゃあ、今まで通り俺が引き付けて他のみんなで攻撃ってスタイルで良いかな」

「うん。大丈夫。怪我したら言ってね」

 元気よく返事をしたミノリが嬉しそうに笑う。冒険も楽しめる心があるようだ。コウイチに男に戻ってもらいたい筆頭でもあるだろう。

「ふむ。しかし怠惰の神とは初めて聞きましたな。有名どころでは戦神や海神、あるいは風や火等ですが。しかもそれを受けて平然としておられる御仁など普通はおりませぬぞ?」

 モルテルスとミノリにはこちらの事情も話してある。二百才を越えるモルテルスでも聞いたことがないとすると、他に知っていそうなのは竜ぐらいのものだろう。


「まあ、休息すれば階級が戻るだけましかな」

「そうですな。ともあれ、我輩は陸上では本来の半分の力しか出せませぬ。皆さんの力をあてにさせてもらいますぞ」

 初めミノリを迷宮に連れていくことを渋っていたモルテルスではあったが、タロウ達の実力を計り終えたらしく今では協力的である。シュロとのパーティに連れていかなかったのは強すぎるため、だそうだ。確かにシュロとモルテルス二人の方が攻略の進みは良いだろう。

「しかしあやつめ、我輩にはきっちりとしたことを言いませんでしたな。そうとわかっていたなら始めから姫様と二人で迷宮を攻略できたものを」

「難しいでござろう。お主小さくなってはいるがそれなりに重量があるでござるからな」

 モルテルスが小さくなったりでかくなったりできるのはスキルのおかげらしい。

「ふふふふふ!これまでの永きに渡ってこのスキルが有用だとは思いませんでしたが、これのお陰で姫様に陸上までついてこれるのですからな!」

 通常の人に変ずる術を持っていても海族は陸に上がりたがらない。乾燥すれば皮膚に異常が出るし、そもそもがでかすぎて窮屈になるからだ。小さい種族でもおおよそ三メートルにはなるし、モルテルスは大型の種族にはいる。地球にはいなかったが肺魚と鯰のハイブリッド種だそうだ。


「さて、ではどうなさいますかな?神都に向かいますか?」

「いや、ここで装備をあつらえた方がよかろう。なにしろ魔術においては右に出るもののいない都市でござる」

「そうだな。ミノリ、普通の服はミリアンと買ったんだろ?じゃあ、探索用の装備も揃えないとな」

「はい!どんなのがいいかな?」

「治癒効果を高めるものが都合がよいでござるな」

「あと、防御力もそこそこあると安心だね」

「姫の召しておられるローブは国宝級ですから、それが一番良いものですぞ?」

「え!?」

 モルテルスがとんでもないことを言ってくる。タロウ達はミノリのローブを見るが、それほど違いがわからない。

「それは海獺らっこ族の巨匠ヴィンテージが作り上げた逸品もので、姫がお生まれになった際に献上された品です。自動で大きさも調節されますし、姫の特質に合わせて作られておりますからそれ以上のものは迷宮品しかないかと」

 あっさりと防具の問題が解決した。

「それなら、もう少し森都で経験を積んで情報収集かな。ここなら病院も知り合いもいるからまだ聞けることがありそうだし」

「そうでござるな。ミリアン殿にも話を伺いたかったが、呼ばれていってしまったでござるし」

 ミリアンは旅館に帰ってくるなりギルド職員のハルエルについていってしまった。あれほど慌てる師匠を見たのはずいぶんと久しぶりだ。

「ふむ。森都は特性上狙われやすいですからな」

「狙われやすい?」

「はい。医療、木材資源、魔術書やエルフそのもの。賊やその他の悪意を持つものが放っておくにはもったいなさすぎるほど揃っております。タロウ殿もここに入る際審官(しんかん)より魔術を受けたでしょう?」

 たしかにその記憶はある。

「森都の出入り口は二つ。西の渓谷けいこくと東の川をさかのぼる道しかありませんが、そのどちらにも常時兵を配置してありますな。それ以外は山脈に取り囲まれておりますから、冬の間は越えるのは難しい」

 それ故に、春を待って賊が活発化するということらしい。川の先は海都へ向かう大街道に繋がっているのでそのまま下っていけるそうだ。

「それなら、もう少しして雨季に入るのを待った方がいいと思う。川が増水するから、じいに乗っていけばあっという間に海都に着けるし」

「そうですな。それならば我輩も全力を出して下れますから」

「安全は確保しておきたいよな。俺はそれで良いと思うけれど」

 コウイチとゴーシュも賛成を示したので、昇格試験をミノリに受けさせて、時期がくるまで迷宮に挑む方針を固める。タロウ達は明日ギルドに昇格を申し込むことにして、早めに眠りについた。



「なんだか騒がしいでござるな」

 ゴーシュの言った通り、ギルドの中は騒々しさを増していた。エルフはもちろん、人や獣人の姿も見受けられる。いずれも武装した冒険者達だ。タロウ達は受付に並び、順番を待つ。

「お待たせいたしました。あら、タロウさん」

 ウェンデルも忙しそうだ。次々と来る冒険者を的確に対応しながら誘導していた。

「どうも。今日はミノリの昇格をお願いしにきたんですけれど…」

「そうですか。ちょうど今日、昇格試験を合同で受け付けているんですが参加なさいますか?」

「合同で?」

「はい、春先など季節の変わり目には大勢の冒険者の皆様がいらっしゃるので、数十人単位で行うことにしています」

 一人ずつや少人数に一人一人職員がついていてはらちが明かないので、一斉に試験を行うようだ。

「それ、ちゃんと試験になるんですか?」

 ペーパーテストと違い実戦を含む試験だ。すべてに目が行き届くものではないと思うのだが。

「問題ありません。簡略化されていますが、魔法、体術、連携等実力者を試験官にそろえていますから。それで、どうなさいます?」


「ミノリ次第だな」

「そうでござるな」

 ミノリは少し考えて、

「やりたい。お願いします」

 と答えた。ウェンデルに用紙をもらい記入していく。性別、年齢、種族。書き込んだ紙をウェンデルが受け取り、判を押して返してくる。

「時間になりましたら名前を呼びますので集まってくださいね。それまではギルドの中でお待ちください。その際にはパーティメンバーの名前と性別、種族をこちらに書き込んで試験官にお渡しください」

 言われた通り、ギルドの中で待つことにした。



「実力者か。誰が来るんだろうな」

「わからぬが、顔を繋げればありがたいでござるな。情報の種類も増える」

 ギルドの壁際に設置された椅子に座ってタロウ達は雑談にきょうじていた。

「あ、俺ちょっとトイレいってくるわ」

「早く帰ってこいよ」

「おう」

 コウイチが席を立ちギルドの外に設置された公衆トイレに向かう。何気なく見送って、顔を戻すとミノリが緊張した面持ちで話しかけてくる。

「あ、あの!」

「なんだ?」

「なんでござる?」

「お二人は先生と恋人同士なんですか?」

「違う」

「やめてください」

 恐ろしい発言に即座に否定するタロウとゴーシュ。何をどうしたらその発想が浮かんでくるのか。そう尋ねると。


「だって、お二人とも先生と仲が良いし。先生今は女性だからそうなのかなって…。本当はもっと早く聞きたかったんですけど、勇気がでなくて…」

 そんな風に見えるのだろうか。タロウもゴーシュもコウイチを男として扱っている。風呂や着替えに配慮はするが、別にうっかり見てもすまん。程度でお互い済ませている。何より二足歩行する虎の見た目では、上級のケモナーでもなければ性的対象にはならないだろう。

「安心するでござるよ、ミノリ殿。某らは一ミリたりともそのような感情はござらん。純粋に、仲間として頼りにはしているがな」

「ゴーシュの言う通りだ。残念ながらおっさんと恋愛はしたくない。あれ、よく考えると俺もおっさんじゃねえか!」

 うっかり気づいた現実に、タロウは大きく動揺した。前年齢を足すと…。だめだ。考えるな。今は十代だから。花の十代だから!


「わかりました。それじゃあ、ちょっとだけ応援してもらってもいいですか?本気なんです、先生のこと」

 クスクスとタロウの自爆に笑いながら、ミノリが控えめなお願いを口にする。

「かまわぬ。といってもなにをすればよいのか見当がつかぬが」

「俺もよくわからないんですけど」

 どうやらゴーシュもそっち方面には疎いらしい。仲間がいたことにほっとする。

「ええと、二人でいる時間を長めにしてもらえたらな、とか、先生が好きなものとかこっそり教えて欲しいんです」

 そのぐらいならばお安いご用である。コウイチの好きなもの。酒、か?だが、ミノリが加わってからは明らかに控えている。味の濃いつまみになりそうなものも好んでいたが、最近はめっきり減った。おっさんくさいものをミノリの前では出さないようにしているのだろうか。

「好きなものは、思い付かないな」

「某もよくわからぬ。思いきって本人に聞いてみれば良いのではござらんか?」

「え、でもなんか恥ずかしいっていうか。驚かせたいんですよ」

「気持ちはわからぬでもないが。まあ、これから探っていけばよいのでは?」

 パーティーを組む以上必然的に一緒にいる時間は増えるため、観察していれば何かわかるだろう。


「そうですね。これから、ずっと一緒にいられるんですよね」

 ミノリは一緒に買い物にいったり、お風呂とかも?と一人で盛り上がっている。

「おはようございます皆様。手続きは済んだのですかな?」

「モルさん、おはよう。今日は早かったね」

「どうにも、朝は苦手でしてな。つい二度寝してしまいます」

 モルテルスは早朝に弱かった。日が出てくると次第に目が覚めるらしいが、それまではボケッとしている。壺の中でこっくりこっくりと船をこいでいることもしばしばだ。


「お、帰ってきた」

 遠目にコウイチがギルドに入ってくるのを確認する。時間がかかっていたようだが、調子が悪いのだろうか。

「む?誰か一緒でござるな」

 ゴーシュの言う通り、虎人族の男が一緒だ。黄の勝った縞模様をしていて、それなりにしなやかな動きでタロウ達の前に現れる。


「貴様がコウイチあねさんの許嫁か?俺と尋常に勝負しろ!」

 タロウは叩きつけられた言葉を咀嚼そしゃくし、コウイチを見やる。コウイチは力無く首を振って、関わるなと言うジェスチャーをしていた。ご遠慮します、と言うよりも早く。

「姫の思い人を略奪するとは何事か!いざ、尋常に我輩と勝負せよ、小僧!」

「は?」

 虎人族の男は突如とつじょとして参加してきたモルテルスに目を丸くし、困惑していたが、やがて気をとり直したのかでは明後日みょうごにち、ライラック亭にて待つ!と言い残し去っていった。


「ふん!我輩がちりにかえしてやりますぞ、あのぬすっとめ!…なぜ皆様そのような目で我輩を見るのですかな?」

 温度の無い視線に怯えたように身を引いたモルテルスが不思議そうにしている。


 タロウは旅館に帰ったら、板前に鯰のさばき方を習おうと思った。




 モルテルスが暴走している。おかしい。マスコットキャラのつもりだったのだがお笑い枠に入っている気がする。

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