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三匹迷宮物語  作者: 九十
森都へ
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其の十

 それから五日間。タロウ達のパーティは毎日七種を集めに来ていた。森都の迷宮ダンジョンでは、鉱都と比べて回復が早い。鉱都では一年かけて回復するが、森都では一日で中の草花は回復し、木であっても一週間すれば元に戻るそうだ。

 そのため消費される大量の紙も十王の里に届けられる新鮮な果物も量をまかなうことができている。

「つうか畑は単なる趣味だろ、これだとよ」

「まあ、塔の中は直径で二キロはありそうでござるからな」

 襲い来る怪物達を捌きながら、コウイチがそう嘆息する。外側は直径五百メートルほどで、それでも塔としては規格外に大きいが、それよりも迷宮の中は広く感じる。草原のような一階、ひらけた森のような二階、湿原のような水辺のある三階となっていて、ここ一週間朝から七種を採り、昼食を海棠かいどう旅館で食べ、昼からは迷宮を探索していた。


「そういやタロウ、お前階級レベルは問題ないのか?」

「ああ、動きっぱなしでもそれほど影響してない。けれど、念のために明日から三日ほど休んだが良いかもな」

「経験値が数値として出てこない以上、休息をとった方が良いだろうな。それがしの防具も出来上がる頃でござる」

 パナセーアでの入院中も昨日も確認したが、階級は下がっていなかった。格下相手の戦闘や、直接手を出して勝たないと経験になら無いということなのだろうか。


「防具って、前のやつと同じのか?」

 深紅のローブを着たゴーシュを思い出す。確かに効果も見た目もよかったが、ゴーシュにはあまり似合っていないように感じていた。

「効果は同じだが、見た目や素材を多少変更してあるでござる。あれは少し派手すぎたでござるよ」

「魔術師だって一目でわかるいでたちだったじゃねえか。どんな風になったんだ?」

 コウイチが尋ねるが、できてからのお楽しみでござる、とゴーシュはそっけない。こいつの服ははっきり言って継承式前のゴチャゴチャした色合いの着流しと、寒中水泳で助けられた後の毛布にくるまった姿しか見ていないのであまり信用ならない。


「まあ、目立つのはしょうがねえか。タロウの鎧からしたって隠しようがねえもんな」

「一応羽織でごまかしてはいるけどね」

 鎧の上から大きめの羽織を着て赤と銀の鎧姿を目立たないよう努力しているが、タロウ自体がでかいので結構目立つ。

「そういやコウイチ、そっちの防具はどうしたんだ?色が変わってるみたいなんだけど」

 コウイチの鎧はいつの間にか茶色の皮から深い青地のものに変わっている。

「迷宮用にな。軽いし強度もそれなりにある。あの双子に聞いて動きやすい皮鎧がないか探したんだよ」


 彼らのすすめなら恐らく森都で一番良い鎧だろう。遊撃を担当することの多いコウイチには動きを阻害しないことが重要らしい。

「そうか。それなりに役に立つんだな」

「あの双子には手厳しいでござるな」

「どうも、相性が悪いとしか思えないんだよ」

 苦笑するゴーシュに、どうしても馬が合わないと伝えると、さらに苦味が増した笑みが返ってくる。

「まあ、実力者と縁ができたぐらいに思っておけばいいだろ。それより、上がるか?」

 双子の実力は認めるしかない。弓の腕を見たのはビルの方だけだが、テルも遜色そんしょくない腕前であることは物腰から想像がついた。里の弓使いは少ないが、それでもその数少ない彼ら精鋭と視線の配りかたや、矢筒の位置、接近戦に備えた体の鍛えてある部分などが偶然とは言えないほどよく似ている。


「そうだな。三階まで上がって、降りてこよう」

「あいよ」

 螺旋階段を上ると、霧のようなもやに包まれた。それを抜けると一行はすでに二階に到達している。眼前には木漏れ日の差し込む森が展開しており、木々の間を駆け巡る怪物達の気配がざわざわとこずえらす。

「まんま春の森って感じだな。小動物しかいねえのは低位だからか?」

「そうでござろうな。さっさと中位になれれば上にも行けるが、夏と冬の領域には行きたくないでござるよ」


 中位に上がるには、実績を証明するために迷宮に入った回数、推薦状、特定の怪物の討伐が必要だ。ウェンデルの説明を聞いてミリアンに確認したところ、推薦状は書いてくれるとの事だったので、あとは回数を稼いで職員に同行してもらって怪物を倒せば位が上がる。

「こないだまで寒かったし、夏は汗が気持ち悪いしな。魔法陣でさっさと移動できた方が有り難い」

「暑さにも弱いのでござるか?」

「好きなヤツがいるのか?」

 鉱都でさんざん寒さをののしっていたコウイチだが、暑さもダメらしい。とはいえ、少しは共感できる。毛皮が湿気を吸うとベタベタして来るのだ。とてもじゃないが、動きたい気分ではなくなる。


「俺も暑いのはダメだからそうしたいな」

「まあ、某も好き好んで暑さを体感はしたくないでござるよ」

 意見は一致しているので、三階から上には上がっていない。三階から六階までが夏の領域で、それから三階ずつ秋・冬と続いて、十三階から中位の冒険者の入ることができる階になる。必要がなければ夏より上の領域に行くことはないだろう。

「しかし、こいつら直接攻撃してこないから俺は反撃のしようがないな」

 ピシピシと飛んでくる木の実や石を拾い集め、い寄ってくるつたをブチブチと引きちぎりながらタロウはうんざりした様子で呟く。初めに二階へと足を踏み入れたときから物を投げてくる金剛栗鼠や犬猿、忍び寄ってくる蔦を力ずくで適当にあしらっている。


「お前だけじゃなくてゴーシュすら傷一つついてねえからな。まあ、直接来ない限り放置でいいだろ」

 コウイチが一応敵を探索しながら気の抜けた返事を返してくる。実質ダメージが無いので、迷宮探索というよりただの散歩と化していた。

「まあ迷宮内部にも慣れてきたでござるから、後は三日後に試験を申し込んで中位に昇格してもらえばまともな迷宮が見れるでござろうよ」

 鉱都では鉱石をとってくるだけだったので、森都では真っ当に怪物達との戦闘や、中位の迷宮の雰囲気を体験しておきたかった。


「さて、三階だな」

 森を抜けて、階段の前に出る。再び階段を上って行く三人に、その姿が見えなくなるまで石が投げつけられていた。







「しかし、森都は街中においても植物が多いでござるな」

 七種を旅館に帰るコウイチに持たせ、タロウはゴーシュをともなってアンバーへと向かっていた。琥珀本を見たいというゴーシュと、押し付けられたテルの本を返すためである。

「そうだな。見える限りでも染井吉野ソメイヨシノ花水木ハナミズキ沈丁花ジンチョウゲが咲いてるな」

 タロウが花の咲いている木を指すと、ゴーシュが驚いたような顔をする。

「詳しいでござるな」

「家の庭に植えられてるからな。ボタン母さんが好きで、花の咲くやつは教えてもらったんだよ」


「そうでござったか。某はあまりそういったことには関心がない故、花が咲いている、ぐらいにしか思ってなかったでござるよ」

 そういうこともあるだろう。タロウだって、ボタンから手伝いを頻繁に頼まれていなければ、見分けがつくようにはならなかったと思う。

「ところで、コウイチの事なのでござるが…。最近、様子がおかしくないか?」

「ああ、ちょっと酒飲んでる時間が長いな」

 やはりか、と頷いたゴーシュが、ためらいがちに訊いてくる。

「何が原因か、心当たりはあるでござるか?」


 横で戦うコウイチを見て、気づいたことならいくつかある。それをゴーシュに伝えると、腕を組んで険しい表情を作った。

「対処のしようがないのが痛いでござるな」

「まあ、俺も似たような状況に陥ったことはあるからなんとも言えないんだけどね。やっぱ俺らよりも年上で、しかもどう考えても普通の仕事に就いて働いてた社会人みたいだから、受け入れがたいんだろうな」

 戦うコウイチが、光の粒子になって消えていく怪物達を見るとき、体にほんの少し余計な力が入るのを真横で見ている。恐らく、“ゲームのような”世界に慣れることができないでいるのだ。

「前世の記憶というのも、良し悪しでござるな。弱音を吐くような男でもないから、余計に対応しにくい」

「まわりに当たり散らすぐらいなら俺等で聞いてやれるんだけどね」


 ここでも前世が邪魔をする。会話の端々から、自分が一番年上らしいことを悟っているコウイチには、年下の野郎に励ましてもらうような事は受け入れがたいだろう。

「さて、折り合いをつけるか、もしくは迷宮には潜れなくなるのか。どちらにせよ、コウイチにしか決められぬでござろうな」

「そうだな。サポートはしたいけど、現実と虚構の混じったような世界でどうにか説得するのは難しい。ぶっちゃけ、俺は前の世界に適応できなくて、この世界に親しみを感じてるからこっちを全肯定しろとはコウイチには言いにくいし」

 なにしろ普通の社会人としての生活すらできなかったのだ。妹や両親に申し訳ないとは思うが、タロウはこちらで狩りをしたり、迷宮に潜っている方がよほど充実しているし、生きている実感が持てた。


「そうでござるな。某も、前の世界は窮屈きゅうくつであったから、こちらのほうが好ましいのでござる。責任はつきまとうが、自由な感じがするのでござるよ」

 前世を思い出しているのか、遠くを見つめているゴーシュ。春というのは、浮き立つ心と同時に、しまいこんでいた何かの芽生えもうながすような作用があるのかもしれない。二人は、アンバーに着くまでの間、会話をすることはなかった。



「おや、いらっしゃい。今日は一人じゃないんだね。そちらは蛇人族の方かな?」

 店に入ると、相変わらず麻の上下を身に付けたさえない感じの男が出迎えてくれた。

「今日は、ってここに来たのは二回目ですよ」

「うん、でもまた来てくれるような気がしていたんだよ。タロウくん」

 ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべるソルバス。

「某は確かに蛇人族でござるが、よくお分かりになられましたな、御店主」

「君たちの魔力は独特だからね。歳を取った分、そういったことには鋭くなるのさ」

 そんなものなのだろうか。首をかしげながら、タロウも気になっていたことを聞く。

「俺、名乗りましたっけ」

「あっはっは、君は今森都では時の人だよタロウくん。君の名前はウィリアム兄弟から聞いてね。しかもテルの方を冒険者に誘ったんだって?」


「誤解です!」

 誘ったわけではない。断じて。決して。タロウはソルバスにことの経緯を話すことにした。誤解が解けることを祈って。





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