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三匹迷宮物語  作者: 九十
森都へ
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其の五

読み流し推奨

 ソルバスと名乗った店主は、頬を掻きながら気まずそうに笑った。

「いや、ごめんごめん。机の上でやればよかった。怪我してないかい?」

 今日の朝まで足を負傷して入院してました、とは言えなかったので別のことを告げる。

「人一倍頑丈なので大丈夫です。それより、何の本ですか?」

 マホガニー材で作られたテーブルに広がっている本には、緑色のキャンバス地に金で『女神様は見ていた~午後のお茶会はアーモンドのかおり』と書かれている。ジャンルを統一してほしい。学園ものなのか、それともサスペンス風なのだろうか。

「これは学園で起こった殺人事件を解決していくストーリーで人気の恋愛小説だよ。かわいい庶民の女の子が事件に巻き込まれて王子さまや騎士さまに助けられながら最終的には世界を脅かす魔王と戦う物語で…」

「あ、ごめんなさい。もういいです」

 予想以上のカオスであった。なにも考えないことにして、手近にあったピアスに加工された本を手に取る。


「これ題名がわからないんですけど、どうやって見分けるんですか?」

 金具を見てもそれらしきものは書いていない。

「ああ、表面を軽く擦ると、ほら」

 ソルバスが琥珀の表面を擦ると、ホログラムのように文字が浮かび上がってくる。

「『共通語入門』、ですか」

「うん。迷宮に関するもの以外の本でも、どれも特殊な加工で耐久性がいいから、加工を頼んでくる愛書家の人もいるよ。これはディスプレイ用の品だね」

「そうなんですか。それはおいくらなんですか?」

「これは銅貨二枚だね。元値が銅貨一枚だから倍の値段だ」

「どれも加工すると二倍ぐらいになるんですか?」

「いや、紙の量によって加工代が上がるから、一律二倍ではないよ。そうだ、時間があるなら商品の耐久性を見ていくかい?」

 時間はあるし、どれ程丈夫なのかは見てみたい。


「お願いしてもいいですか?」

「いいよ。それじゃあこっちに」

 カウンターの横に開けたスペースがあり、そこでライターを使ってソルバスが本に火をつけようとするが、燃えない。手に取って見てみるが、すすもついておらず、縮んだ様子もない。

「へえ、凄いですね」

「それだけじゃないよ、今度はこれだ」

 空の桶に水を注ぎ、ごしごしと破れるのではないかというぐらい強く擦る。布で水気を拭き取って手渡されたが、文字もちゃんと読めた。



「どうだい、すごいだろう」

「ええ、本当に凄いです。これ地球でもあれば良かったのに」

 スペースは節約できるし、持ち運びに便利だし、燃えてなくならない。素晴らしい技術である。

「ちきゅう?」

「いや、なんでもないです。それで、怪物モンスター迷宮ダンジョンの本と都市についての本、それから大陸図があればそれも欲しいんですけど…」

 タロウが目的の本を告げると、ふらふらと店内を移動して、ソルバスがいくつかのアクセサリーを手に取ってくる。いちいち擦って題名を確認しないところを見るに、どこに何が置いてあるのかは把握しているようだ。


「おまたせ。それならこの辺りのものかな」

 題名を次々と表示していくソルバス。

『ゾロモンの指輪』

『レンドリアス教授の華麗なる転進』

『十二都市観光案内』

『アメーバ大陸鳥瞰(ちょうかん)

『ジュゴン大陸鳥瞰』

『低位迷宮探訪』

『中位迷宮探訪』

『高位迷宮探訪』

『大街道ゴーレムダイヤグラム』

『厄介な怪物たち』

『怪物と魔獣の間』

『定型迷宮と不定形迷宮についての考察』

『探し物はなんですか?~欲しいものはここの迷宮で見つかる』

『超攻略!遊都であなたも億万長者に!』

『迷宮虎の巻』

『迷宮竜の巻』

『迷宮必携』

『生き残る法則』

『シュタイナー日誌』

『怪物辞典』

『迷宮にしかない植物』

『迷宮にはいない動物』

『野良迷宮をやっつけろ!』

『十二都市にあるギルド特色』

『迷宮の心得』

『とあるゴールデンパーティの記録』

『中位冒険者から脱出するために』

『高位冒険者を目指そう!』

『怪物百科』


 存分に突っ込みどころはある。が、どこからいけばいいのか。タロウは固まり、ソルバスは立て板に水のごとく怒濤どとうの勢いで喋り始める。

「まず『ゾロモンの指輪』こいつは怪物を愛して怪物の生態系を自然のままで観察しようとした人族の試みで、なんと迷宮に神具をありったけ持ち込んで住んでいたとある博士の随筆ずいひつだ。発売から結構な年数がたつが、読んでおいて損はない逸品だよ。

 次に『アメーバ大陸鳥瞰』『ジュゴン大陸鳥瞰』はタダタカという鳥人族が実際に飛んでその姿を写し取ったもので、見た目の図と地上の測量結果を書き表したものとの二種類、さらに都市毎の地形を詳しく書き込んだものが十二枚、アマノ諸島の詳細な地図もついている。次に…」


 延々と続くソルバスの話を聞き流しながら、タロウは一つずつ手に取って中身をパラパラとめくっていく。必要そうなものとそれ以外を選り分け、カウンターの右側に寄せた。


『ゾロモンの指輪』

『レンドリアス教授の華麗なる転進』

『十二都市観光案内』

『アメーバ大陸鳥瞰』

『ジュゴン大陸鳥瞰』

『低位迷宮探訪』

『中位迷宮探訪』

『高位迷宮探訪』

『大街道ゴーレムダイヤグラム』

『厄介な怪物たち』

『怪物と魔獣の間』

『定型迷宮と不定形迷宮についての考察』

『探し物はなんですか?~欲しいものはここの迷宮で見つかる』

『迷宮虎の巻』

『迷宮竜の巻』

『迷宮必携』

『シュタイナー日誌』

『怪物辞典』

『迷宮にしかない植物』

『迷宮にはいない動物』

『野良迷宮をやっつけろ!』

『十二都市にあるギルド特色』

『迷宮の心得』

『とあるゴールデンパーティの記録』

『怪物百科』


 計二十五冊。ざっと見た感じで役に立ちそうなものを選んだ。

「すいません、これください」

「え?こんなに?いや、まだ説明が…」

 急にさえぎられて狼狽ろうばいするソルバスにだめ押しする。

「これください」

「わ、わかったよ。久しぶりに話を聞いてくれるお客さんが来てくれたと思ったのに…」

 ぶつくさいいながら本を確認して値段を計算するソルバス。

「しめて、金貨十三枚、銀貨二枚、銅貨三枚だよ。…お金持ってる?」

 日本円にしておよそ百三十二万三千円。恐ろしい値段だが、一生使える価値があり、森都以外の土地ではもっと高価であってもおかしくない。財布から金貨十三枚、銀貨三枚を出してカウンターに置く。


「ありがとうございます…。ええと、大量に買ってもらったので、オマケにこれをあげます。これは琥珀本を保存する容器だよ」

 本と金具を近づけて本から琥珀に戻し、ソルバスは棚から直径五センチほどの円盤を取り出す。琥珀本をアクセサリー部分に固定している金具からペンチで開いて取り外し、爪ほどの琥珀を円盤の台座に埋め込んでいく。

「綺麗ですね」

 円盤にはまった琥珀が描かれた紋様と調和して、美しい細工品へと昇華する。

「だろう?さあ、あとはこれの暗号を設定してくれ。言葉でも数字でも好きなものを書き込むといい。僕はお釣りを用意してくるから」

 三つの円盤全てに琥珀本を嵌め込んで、裏返しにすると奥へと引っ込んでしまうソルバス。

「暗号?裏に書き込めばいいのか?」

 どうもあの店主は説明が足りない。ひっくり返された円盤の裏を見て、少し考えて元の世界での名字を書き込んだ。書き込んだ文字は吸い込まれるように円盤に消え、何事も無かったかのように冴えざえとした青みがかった輝きを見せている。


「お待たせ。ちゃんと書き込んだかい?」

「はい。けど、何のためなんですか?」

「それは大富豪とかの家にあるもので、貴重な琥珀本を守るために考案されたものでね。書いたものの魔力と形を記録してその人以外は取り外せなくするためのものだよ」

 試しに、とソルバスが琥珀を引っ張るが、まるで溶かして付けたかのように動かない。そのまま持ち上がってしまう。今度はタロウが試すと、あっけなく外れた。

「高性能ですね」

「大量に買ってくださるお客さんにはお渡ししているんだよ。無くしてしまったら嫌だろうし、何よりお礼の意味を込めてね。はい、お釣り」

 銅貨六枚と紙幣が一枚返ってくる。無言で見つめると、冷や汗を流しながらソルバスが言い訳を始めた。


「ごめん、今銅貨切らしてて」

「板銅貨もないんですか?」

 硬貨は信用性は高いが重いため、大抵のものは銅貨一枚以下にはならないよう十個一組などに値段が設定されているが、それでも高いようなものの場合にはその下の硬貨として四角に加工した板銅貨が流通している。一枚百円ほどの換算だ。対して、紙幣はあまり取引に好まれない。時として喧嘩になるほどだ。

「元から無いです…。大丈夫、森都の中では普通に使えるから!」

「それならいいですけど」

 森都に来てからまだここでしか買い物をしていない。問題があるようならまた来ればいいかと思い直して受け取った。

「あ、これ忘れてるよ」

 ソルバスが『女神様は見ていた~午後のお茶会はアーモンドのかおり』を差し出してくる。返そうとしたが、なにかに使えるかもしれないと思って受け取っておく。貧乏性がいまいち抜けきれないタロウであった。




「買いすぎたかな」

 必要だと思ったから買ったが、琥珀本にする必要は無かった。まあ、邪魔になったら売ることに決めて、海棠(かいどう)旅館へと戻ろうと歩いた。道を歩いていると、横から飛び出してきた誰かがタロウを避け損ねて尻餅をつく。

「大丈夫ですか?」

手を差し出すと同時に円盤に固定し忘れていた琥珀本一つが転がり落ちて、本がそのエルフの頭上に落下する。

「うわ、ごめんなさい!大丈夫ですか!」

「いててて、ん?これは私の書いた本じゃないか!」


 その男は、タロウの落とした『女神様は見ていた~午後のお茶会はアーモンドのかおり』を手に取って驚愕の声をあげる。タロウは聞かなかったことにして旅館へと向かった。








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