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三匹迷宮物語  作者: 九十
森都へ
32/181

其の三

 最後三分の一説明回。設定に矛盾等見つけられましたらお気軽につっこんでください。

 異様な酒臭さに目が覚めた。ゆっくりと起き上がると、酒瓶を持って椅子に座ったコウイチがいる。

「お、目えめたか。着替え持ってきたぞ。ついでに昼飯」

 袋に入った着替えと、トレイに乗ったサラダとパンとジャム。ついでに水の入った大きめのコップ。エルフ達の好む食事である。肉は売っているが、他の都市より割高なのだそうだ。

「なんか臭いんだけど…」

 たまらず抗議の声をあげるが、コウイチはどこ吹く風とばかりに聞き流す。

「よく寝てたな。もう朝だぜ。ま、厳しい戦いだったらしいじゃねえか?メルと背の高いミリアンって美女がきてあらかた説明はしてもらった。迷宮はお前さんが完治してからってことだな」

「そうか。悪いな」

「気にすんなよ。ゴーシュはミリアンに連れられて防具を作りに行ってるからちょうどその辺りには出来上がるだろ」

「早いな」

 自分の時は一ヶ月ほどかかったのだが。

「基本魔術師の防具は布とかだからな。サイズを調整すればいいだけだろうし。それじゃ、伝えることは伝えたから帰るわ」

「ああ、ありがとう。コウイチ、お前は防具要らないのか?」

「あん?」

 部屋を出ていこうとしていたコウイチが上半身だけ振り返る。

「ここならあんまり動きの邪魔にならないようなコートとかマントぐらいあるんじゃないか?武器はこの間サーベルで充分みたいだけど」

 コウイチは鉱都で手に入れたサーベルを森都に着くまでに使っていたが、本人のいう通り呪いは影響を及ぼさず、火力も上がって殲滅せんめつ力は増していた。 短時間で森都まで来れたのもそれのおかげである。

「そうだな。外套がいとうぐらい見繕っておくか」

 そう返事をして、今度こそコウイチは出ていった。





「ベジタリアン仕様だな。味はついてるけど」

 サラダをつつきながらタロウはボヤく。到着してからさほどたっていないため全てがこれだとは思わないが、場合によっては外に魔獣を狩りにいった方が良さそうだ。新鮮な野菜はパリパリと音をたてて咀嚼そしゃくされて飲み込まれていく。

「ごちそうさまでした」

 手を合わせて水を飲み干すと、ちょうど薬と包帯を持ってナーセリアが入ってきた。

「おはようございます、タロウさん」

「おはようございます」

「ふふ、可愛らしい彼女さんですね。朝からずっと部屋で待ってらしたんですよ」

「違います!彼女じゃなくて、迷宮の仲間で!」

 とんでもない一言に毛が逆立つ。確かに外からみれば同じ年同士の獣人の異性二人だが、普段のやり取りから考えてコウイチは本人が申告する通りタロウよりちょっと年上ぐらいのおっさんである。見た目は女性だが虎の直立した姿。色々な意味できつかった。

「あ、あらそうなんですか?失礼なことを言ってしまってごめんなさい」

 タロウの剣幕に驚いたように謝ってくるナーセリア。

「いえ、わかってくれたなら大丈夫です」

「ええ。それではちょっと足を見せてくださいね」

 ナーセリアがタロウの足側に回って包帯をといていく。薬を塗った湿布を取り替え、包帯をくるくると巻いて留める。

「はい、経過は順調です。年のため明日まで泊まってもらって、明後日の朝退院できると思うわ」

「ありがとうございます。あ、このトレイどこに返せばいいんですか?」

「ああ、それは廊下のボックスに入れてくれればいいわ。業者さんが回収してくれるから」

「わかりました」

「それから、時間を潰すなら病院の中に本が読めるスペースもあるし、近くに図書館もあるから」

 胸ポケットからメモを取り出して、簡単な地図を描いてくれるナーセリア。礼を言って受け取り、しばらくはゆっくり朝寝と決め込むことにした。






「タロー、お昼ご飯だよー」

「ん。メルか」

「メルさんです。我が海棠旅館かいどうりょかんからデリバリーです」

 チェストの上にどかっと重箱のようなものを置くメル。タロウは起き上がって近づき、なかをのぞく。

「おお、すごいな」

「でしょう。お客さん達に大好評なんだよ」

 ない胸を張っているメルはさておき、中身はすべて和食だ。蒲鉾かまぼこ、煮付け、だし巻き玉子にさわらの塩焼き。二段目にはおにぎりと昆布の佃煮つくだに、梅干し、沢庵たくあんと青菜漬け。

「良かった。昼もサラダとパンだったらどうしようかと思った」

「あはは、私たちは野菜と果物だけでも生きていけるけど、獣人の皆は一杯食べるからね!」

 タロウが心から呟くと、メルが笑ってうなずいた。野菜と果物の他に穀物類も食べるが、エルフは総じて食が細い。同じ妖精族であってもドワーフとエルフのように、趣味から適性まで幅は広い。


「食べていいか?」

「もちろん!召し上がれ」

「おう。いただきます」

 手を合わせて頬張っていく。出汁だしの染みた卵焼き、おにぎり、塩の効いた鰆。メルが緑茶を湯飲みに注いでくれる。それを飲んで煮付けを食べ、残った汁にご飯を入れる。それをかきこんで食べ、他のおかずも消費していく。最後に空いた器におにぎりを入れて青菜と昆布をのせ、お茶をかけて茶漬けにする。

「ふう。ごちそうさまでした」

「お粗末様そまつでした。おいしかった?」

「ああ。めちゃくちゃうまかった。特に昆布の佃煮がうまかった」

「ほんと?えへへ、それ私が作ったんだ」

「そうなのか?」

「うん。調剤とかせんじ薬とか作るのとおんなじで、栄養があるもの作るのも私たち薬師にとっては重要なんだよ」

「そうか。幅広いな」

 もとの世界の薬師にはそれほどの意味合いは少なかったように思うが、寿命の長いエルフにとっては栄養も学んで複合的に医療が行われているようだ。


「あ、メル。図書館ってどっちかわかるか?本を読みたいんだけど」

 残念ながらナーセリアは芸術には向いていないようだった。辛うじてカタツムリの角に見えるものがふたつ描いてあるだけで場所がわからない。

「あ、それなら借りてきてあげるよ。なに読むの?」

「え、いやそこまでしてもらわなくても…」

「いいからいいから。どんなの?」

 引く様子のないメルに折れて、タロウは迷宮と怪物について書かれた本をいくつか、大陸図についても持ってきてくれるよう頼んだ。

「それじゃあ、いってくるね」

 足取り軽やかにメルが出ていくと、すれ違いのようにミリアンとゴーシュが入ってきた。


「タロウ、お見舞いに来たわよ」

「名物のフルーツ盛り合わせでござる」

 ゴーシュが差し出してきたバスケットを受けとる。中には瑞々しいフルーツが入っている。

「サンキュー。師匠もありがとうございます。ゴーシュ、それ新しい装備か?」

 ゴーシュは深紅に金の刺繍が入った豪奢なローブを着ている。腰には刀が太いベルトで固定されており、不思議な見た目になっていた。

「うむ。ミリアンどのに見繕っていただいた。防御と魔術の威力を上げるにはこれが一番効率が良いのでござる」

「そうなの。魔力消費率と減衰率と実際の魔力の揺らぎが…」

 ミリアンが得意そうに専門的な話を始めるが、タロウは良く理解できなかった。つまり、一番物理攻撃に強くて、一番魔術の効果がうまく伝わる装備のようだ。

「そういや、里の人たちどんな用だったんだ?」

「うむ。あとのことは心配要らないということと、媒体を持ってきてくれたのでござる」

「なるほど」

 見たことがあると思ったが、同じものだったらしい。


「タロー、本借りてきたよ。あれ、ゴーシュさんとミリアンさんだ」

「早いな」

 メルが本を持って帰ってくる。三十分も経っていないだろう。本をチェストの上に置いて、会話に参加してくる。

「あ、ミリアンさん迷宮の方どうなりました?」

「私の推測通り高位に認定されたわ。迷宮として使用するなら、ギルドの職員に言って管理をお願いするといいわ。中に何があるのか調べるなら私が手伝うわよ?」

「おじいちゃんとおばあちゃんはそのつもりみたいです。二人とも嬉しそうにしてましたね」

「お元気よね、ディルさんもアンさんも」

「迷宮は私有地の扱いになるんですか?」

「そうね、森都では申請すればギルドと連動して職員も派遣してもらえるし、以来の仲立ちもやってくれるわよ。もちろん年にいくらか払わないといけないけど」

「色々と凄いでござるな」

「だなあ」

 迷宮産のものは場合によっては一財産だ。エルフがおおらかなのか、それともあまりそういったものにさして興味がないのかもしれないが。

「おっと、それじゃあ今日はこのくらいでおいとまさせていただくでござるよ」

「ああ、悪いな」

「いや、コウイチなどは遊び呆けてすごく楽しそうでござるし、某も色々教わることができているのでありがたいでござるよ」

「見込みありそうだからね。新しい弟子ゲットよ」

「そうか」

 ゴーシュがそう言う所をみると、まだ師匠はへまをやらかしていないらしい。そのうち天然が表に出てくるだろう。遠い日の記憶を探りながら、タロウはゴーシュたちを見送った。




「さて、メルが借りてきてくれた本でも読むかな」

 まだ昼を少し過ぎたくらいだ。今までそれほど苦労しなかったので後回しにしていたが、森都で情報収集に専念するのもいいだろう。五冊ほど積まれており、どれも結構な厚みがある。

「基本的なのからいくか」

 タロウは『大陸ごとの都市、そこに繁栄する種族について』という本を手に取った。著者はジン・マクスウェル。共通語(日本語)で書かれている。



水球世界アクアスには二つの大陸が存在する。一つ目は十王じゅうおうと鳥人族の小国家群、妖精族の鉱都こうと森都しんと、一部海族の住まう海都、人族が大半を占める王都、灼熱しゃくねつ砂都さとのあるアメーバ大陸。

 二つ目は最も新しい都市新都(あらと)、神都、学都、古都の三大魔法都市、炎樹をようする炎都えんと、一年中を冬に閉ざされた氷都ひょうとを築いたジュゴン大陸。

 その間に、大陸ではないが島が集まってできた大地、アマノ諸島がある。そこには享楽きょうらくみやこ遊都ゆうとがある。


これら十二の都市で暮らす種族が今現在人族と一括ひとくくりで呼ばれている』


「長い」

 文句を言いつつも、タロウはその先を読み進めていった。



 『各都市は迷宮ダンジョン無しには成立しない。迷宮は資源を、魔術具を、私たち人族に必要なものを産出してくれる。鉱都なら鉱物、森都なら植物、王都は霊薬エリクサー、砂都は怪物達の一部を、海都は霊酒ソーマ、氷都・炎都は作るのが難しい武器防具、学都・古都は魔術具、魔法具。新都は精密な秤、そして何より重要なのが怪物や魔獣を避けることのできる神都にて発見される神具だ。これにより大街道を整備して都市間の移動ができるようになり、交易によって都市同士の迷宮産出品が交換され、我々の発展に大いなる貢献こうけんをしている』






 タロウは苦戦しながらも読み進めていった。夜がゆっくりと更けていく。








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