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三匹迷宮物語  作者: 九十
鉱都へ
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其の十六

 間に合わなかった。すいません。

 ミント達とプールへ行った夕方。タロウ達は、ドーナーの店へと来ていた。迷宮に使えそうな道具を聞き出すためである。歓迎してくれたドーナーは、カウンターに商品を並べていく。


「こっちの種は、月光草だ。湿気が多く暗いところでよく育つし、ほのかに光るから暗い迷宮にはもってこいだな。五十粒銅貨五枚で売ってる」

「その花は知っているが、育つのに数日かかるのではござらんか?」

 たまに夜営していると岩影などに自生じせいしている、淡い黄色の発光植物だ。

「こいつは改良種でな。魔力さえ供給してやればものの数分で育つ。けど、一日しか持たねえ」

「明かりも良いんだけどよ、水気が多いのはなんとかならねえか。火魔術が通りにくいらしくてな」

「あー、それなら、コストは高めだが、これはどうだ。団扇仙人掌うちわさぼてんって言ってな、もともとは乾燥地帯の植物なんだが品種改良してどんな土地でも水気を蓄えられるだけ溜め込む。魔力を与えると急成長して、やっぱり一日で枯れる。十株銀貨一枚だ」

 そう言ってカウンターの上に干からびた布のようなものを置くドーナー。

「それにするか?」


「うーむ。土系統の魔術具などはあるのでござるか?」

「それならこの辺りだな。けどよ、迷宮で迂闊うかつに土系統の魔術具はつかわないほうがいいぜ。水がある部分をうめれば、それだけ回りがせばまっちまうからな」

 迷宮が狭くなるのは困る。あまりに狭いと自由に戦闘を行えなくなるし、視線が通らないので魔術も使いにくい。

「そうでござるな。外であれば好きなだけ土を使って埋め立てるなりせき止めるなりできるのでござるが…」

「無理にあの迷宮にこだわらなくても良いかな、と思い始めてるんだけど…」

 タロウがそういうと、二人は揃って反対意見を述べる。

「いや、目的のもんがある迷宮があんな感じだったりしたら、諦めるわけにはいかねえからな」

「そうなのでござる。低位の迷宮のうちに準備をして対抗できるようにしておかねばなるまい」


「なんだ、兄ちゃん達本格的に冒険者やるつもりらしいな。そうだ、あんたたち金に困ってる訳じゃねえんならこれはどうだ?防石床セーフフロアつって、土の魔術具だが、広げると石の床に変わる魔術具だ。効果時間は二時間、使い捨てだがちゃんとした足場になる。一枚で一メートル四方、十枚組で金貨一枚だ」

「それがいいんじゃねえか?」

「そうでござるな、それを十セットもらうでござる」

「十セット?…あんたたちほんとに冒険者やるのか?低位の迷宮なら、一日の稼ぎはお宝見つけて銀貨十五枚、採取依頼なら下手すると装備品の手入れと消耗品合わせて利益は依頼料込みで銀貨数枚くらいにしかならねえぞ?」

一日で全ての迷宮を探索するのは難しいから、数週間かけて魔術具を発見したとしても魔術具一つ金貨百枚として一日あたり約金貨三枚、三十万くらいなのではなかろうか。

「そりゃあ、ちゃんと使える魔術具なら良いけどな。明かりになる魔術具なんかは今はどこにでもあるから、それだけじゃなかなか売れねえ。ドワーフのつくった魔術具が高いのは細工に凝ったり、名のある細工師や刻印師が作ってるせいだな」

 水道につけると水が赤くなる魔術具とか、投げても真っ直ぐ飛ばないブーメランだとか、役に立たないものもあるらしい。



「ついでに呪いがかかっているやつは解呪する手間もあるから金がかかる。比較的金になる迷宮は都市に管理されてたり、野良迷宮は金になるのをわざわざ教えるやつはいねえよ」

 そういわれればそうである。飯の種をあちこちで話すやつは食べていけないだろう。

「まあ、最近は村とかが管理してる迷宮もあるらしいがな」

「なるほど。つまり金になるかどうかはまちまちだってことだよな」

「厳しいねえ。魔獣狩ってた方が金になるんじゃねえか?」

「そりゃあんたたち獣人ぐらいのもんだろ。怪我をしないように損傷の少ない魔獣を狩るのは、普通のやつらには厳しいって気づけよ」

「お主らだって化け物じみた量の酒を消費しておるではござらんか。普通の獣人でも厳しいでござるよ」

「あれは長寿の秘訣ひけつだからな。で、防石床十セットな。まいどあり」

 ゴーシュの皮肉にちゃめっけで返し、棚から下ろした防石床をカウンターに置くドーナー。防石床の見た目は、お菓子などの箱に使われている板紙に近い。

「うむ。確かに」

 グルドからもらった金額は結構大きかったので、まだ余裕があった。









「さて、どれから行く?」

 ドーナーの店にいった次の日。途中まで探索した迷宮の三叉路に再び来ていた。今度は早さを優先したため、一時間ほどで到達する。

「ちょ、まってください」

 駆け足に近い状態だったせいで一番後ろを遅れてついていったタロウは、息を整えるのがやっとだ。

「おっせえなあ。鍛えとけよ」

「いや、お主が早いのでござる。正直某も休憩したいでござるな」

 ぶっちぎりの早さで洞窟内を駆け抜けていったコウイチ。はっきりいってタロウは匂いを追いかけてきただけで姿は見えなかった。

「そうか。まあ、どれから行くか考えるのも良いな」

コウイチは三つの通路を左端から見ていく。一番左は少し高くなっている。真ん中は水気が多い。一番右は石が均一きんいつならされたようになっていた。

「左端からいってみるでござるか」

「どれからでも一緒な気はするけどな」

「じゃあ、これ打っておこう」

 タロウが(くさび)を左端の道の前に打ち込み、一と書いておく。

「帰りには持って帰らないといけないんだったか?」

「それは鉱都の迷宮の話でござる。だが、使い捨てるものでもなかろう」

 雑談をしつつ、緩やかな坂を上っていく。それほど歩かないうちに、行き止まりになった。

「ハズレか」

コウイチが無遠慮に壁を叩いて歩く。ある一ヶ所を叩いた瞬間、べろりと壁が剥がれ、丸く空いた穴からツチノコ達が飛び出してきた。

「おわっ!」

「またお前らか!」

 その姿を認めたゴーシュが問答無用で焼き払う。細かい光の粒子となって消えていくツチノコ達。

「あーあ、可愛いのにもったいない」

 タロウが残念そうに呟くと、ゴーシュが盛大にため息をつく。同意は得られなかったようだ。


「次行くか」

 通路をとって返し、真ん中の道を行く。水気が多く、足元も滑りやすい。奥に行くにつれて光が射してきた。

「やけに明るいな」

「そうでござるな」

 そのまま進むと、魔力灯が要らないほどに明るくなった。右に折れ曲がった通路の先には小さな澄んだ泉があり、その先には石櫃いしびつがおかれている。

「あからさまに怪しいんですけど」

「毒性のある水だったりしそうでござるな」

「買った魔術具使えば良いんじゃねえか」

「沈むんじゃ?」

「足場になる、といっていたから、多少の浮力はあるでござろう」

「んじゃ、俺がいってくるわ」

 コウイチが魔術具を広げて泉に設置する。大体五つもあれば向こう側にたどり着きそうだ。難なく渡りきったコウイチが石櫃を開け、中身を持って帰ってくる。

「楽勝だな。こんなんが入ってた」

 手にはブーツが握られている。

「魔術具でござろうか?」

「帰ってからのお楽しみだな」

 紐の部分を結んでバックに取り付けた。





「では、最後。一番左の通路でござるな」

「あんまりぱっとしねえな」

「低位の迷宮だからそれほど凝った作りにはなってないんだろ?けど拍子抜けなのは確かだな」

 楽なのは良いが歯応えがない。贅沢なのだろうが、イージーモードではあまり楽しめなかった。今度は磨かれた石のような通路で、歩きやすく先が見通せる。三十分ほど歩くと大きく開かれた部屋が見えてきた。

「広いな。こないだの迷宮よりも広いんじゃねえか」

 半径だけで十メートルはありそうだ。縦にも五階建てのビルくらいの高さがある。コウイチはさっさとなかにはいって行く。


「コウイチ、罠などを考えるともうちょっと気を付けた方が…」

 タロウが注意を促すと同時、部屋の中心に立ったコウイチの足元から光が噴出し、巨大な魔法陣がへやいっぱいに広がる。

「コウイチ!そこから離れろ!」

 さっと飛び退いたが、ますます光は強まっていき、陣の中心に三メートル程の剣歯虎があらわれた。目は血走り、口の間からはよだれが溢れだしている。


「うわ、ラスボスっぽいな」

「来るぞ!」

 剣歯虎が走りよってくる。それほど早くはなさそうだ。

「『火の主、偉大なる生命の灯火、かの野獣を焼き付くさん』」

 ゴーシュの詠唱が響き、魔獣へと迫る。避ける様子も見せずに突っ込み、焼かれながらもタロウ達に襲いかかってきた。

「おっと。そらっと」

 コウイチが細剣をつき出すが、毛皮をすべっていくだけだ。

「手強いな。タロウ、ゴーシュ、攻撃は任せた」

「了解」

「離れたときに打ち込むでござるよ」


 コウイチに避けられ続けて標的を変えることにしたらしい。タロウに向かってくる剣歯虎。

「好都合だな」

 つかんで動きを止めようとするが、力任せに振り切られる。力比べでは負けているかもしれない。打撃に切り替えていく。

「はっ!」

 頭や間接部分を狙う。固いが、手応えはある。剣歯虎も前足の爪を振り回してくるが、当たっても衝撃がくるだけだ。五発ほど当たり、ダメージはあるだろうにそれでも突進してくるのをやめない剣歯虎。

「『火の主ー』」

「タロウ、避けろ!」

 ゴーシュの魔術が発動するのに合わせて体を引く。火に包まれて苦鳴をあげながらもさらに襲いかかってくる。

「ぎゃおおおおおううっっっ」

 力は変わっていないが、動きは鈍くなっている。狂ったように目の前のタロウに襲いかかってくる剣歯虎だったが、次第によろけはじめ、どうっと倒れ伏した。それでもこちらを睨み付けてはグルグルと唸っている。とどめにゴーシュが魔術を放つと、鳴き声をあげて赤い光となって消えていく。


「やれやれ、結構強かったな」

「お主、武器を変えたがよいのではござらんか。思い入れがあるわけではなかろう」

 コウイチが持つ細剣は鍛冶師の見習いが打つような一般のものである。牽制にはなっても、傷を与えることはできていなかった。

「魔獣を狩るのに問題はねえし、低位の迷宮なら大丈夫だと思ってたけどな。新しいの買うわ」

「それにしても、一つだけ文句を言いにいった方がいいよね」

「だな」

「賛成でござるよ」

 勝ちはしたものの、これほどの怪物モンスターが出てくるのならば低位の迷宮ということはあるまい。苦情を言いにいってもよいだろう。





「あれ、なんか落ちてないか」

 タロウは剣歯虎が消えていった後に棒のようなものが落ちているのを見つける。近寄ってみると、二振りのサーベルが残されていた。





 

【Name血蝙蝠 Lv10 skil:吸血 HP10/10 MP 5/5 STR20 INT10 AGL15 LUC10】

【Name槌野子 Lv10 Age16 skil:魅了 HP20/20 MP 10/10 STR25 INT15 AGL10 LUC30】

【Name剣歯虎 Lv15 skil:破砕 狂気の神の加護 HP45/45 MP 20/20 STR30 INT10 AGL5 LUC10】



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