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三匹迷宮物語  作者: 九十
鉱都へ
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其の十三

 鉱都に戻った後、犯人達とは無関係であることを審官達によって証明され、ギルドの一室へと通される。テーブルと椅子があり、その会議室のような部屋の中にはエールド皇子とグルドが待っていた。


「皇子を待たせるとはいい度胸だな。槍の錆びにしてくれる」

「グルド。何故あなたはそんなに喧嘩腰なのです。彼らがいなければ、私は死んでいたのですよ?」

 山を下る最中もこのような感じだったので、タロウはこれは度の過ぎた高度なツンデレだと思うことにした。そうすれば腹もたたない。

「気にしてませんよ。それより、待っていたというのは?」

「ああ、貴様等には大体の事情と口止めを行っておこうと思ってな」

「その皇子様の治癒魔法ちゆまほうについてか」

 治癒魔術ちゆまじゅつではなく治癒魔法ちゆまほうと呼ばれるのはそれが永続的なものであるからだ。魔術師は多くても、魔法使いの数は少ない。

「そうだ。軽軽けいけいに言いふらされても困るからな」

「そのようなことはせぬ。が、説明してもらえるのはありがたいでござるよ」

「そうだな、では」



 まず、直接皇子をさらったのは土竜族のイルド。迷宮産の道具を使って外見をごまかし、さらに薄闇の中だったためグルドが誤認。



ふくろう族を連れてこなかったのは?」

「私一人で十分だと思ったからだ」

「で、味方にも裏切られて薬でおねんね、と」

「うるさい!それで、まあ普通に考えて、料理を作ったやつか持ってきたやつが怪しいのだが、ガーディアン全てを拘束するのは難しい。しかも、皇子の居場所がわからない」

 そこでギルドに難癖をつけて、行方不明をアピール。プラスガーディアン達が勝手な行動をとれないように連れまわす。

「それで知らないとこで皇子がヤバイ状態におちいった、と」

「ほんのちょっと離れて、どう動くか観察しようと思っていたら、セドリアが話があると言ってきてな」

「セドリア?」

「ガーディアン唯一の女性です」

「ああ、彼女でござるか」

 最初はなかなか話をせずに、迷っていた様子だったが、グルドを隊長から外すために皇子の狂言誘拐をたくらんでいることを話した。

「審官どのに確認してもらったが、彼女は本当に皇子をしいするつもりだとは思っていなかったようだ」

 問い詰めたが、皇子の居場所は知らされておらず、その間にグスタフら五名ほどがいなくなっていたので、慌てて飛び回って探していたとのこと。

「山の方で煙が立っていると教えてもらったので、恐らくそこだろうと思ったのだ」

 狼煙のろしも役に立ったようだ。



「そういえばお主、二形もちだったのでござるな」

「あの姿が一番早くてな」

 二形持ちとは主に獣人や魚人系統の一族にまれに見られる特徴で、直立する哺乳類・魚類の姿と完全な獣形、魚形の二つのかたちを持つもののことである。蛇人族など獣人族が人の形に化けるのとは逆に、人獣形の者が獣へと変ずる。迷宮に入ってきたグルドは、完全な鷹へと姿を変えていた。


「ってことは、王族じゃなくても結構な権力者ってことだな」

 完全な獣形になれるものは獣人族の間では崇拝すうはいに近い尊敬をうける。そのため周囲の権力者やつなぎを持っていたい有力商人などがこぞって集まってくるのだ。

「俺は元々ガーディアンになるつもりだったが、初めから隊長としてつけられたのはそれもあるだろうな。だが今回の失態を考えると隊長職からは外れることになる」

「当然でござろうな」

 ゴーシュが深くうなずいた。



「そういえば、奇跡の皇子ってのは?」

「ああ、それは私が三神の加護を受けているからです。どの神かは明かせませんが」

「そりゃあすげえな。大体ひとつ加護があれば十分食っていけるっていうしな」

 加護は複数受けることはできるが、相反あいはんする加護があり、また加護を受ける条件が定かではない。信仰は自由であるが、複数の加護を得られるものはそう多くない。

「ってことは、それのせいか。あのめちゃくちゃな回復のしかたは」

 グスタフの傷があっという間に治癒したことを思い出す。あれほどの傷が短時間でふさがってしまうのはいくら治癒魔法使いでも異常である。

「それだ。そのことについて口止めをしておこうと思ってな」

「グルド、彼らは信用できる方々だと思います。誓っていただくことはありませんよ」

 やんわりとグルドに諭して、その目をじっと見つめるエールド皇子。

「ですが…」

 足をカチカチと鳴らしながら、いいよどむグルド。

「必要ありません。知っているものは知っている話です。それに私の信仰する神も問題ないとおっしゃっています」

「…わかりました。今回は皇子を助けた功績をかんがみて、お前らに強制はしない。それから、これは今回の事に対する謝礼だ」

 懐から取り出した袋をテーブルの上に置く。口止め料も含まれているのだろう。

「じゃ、ありがたく」

「気前がいいね」

「某はいらぬ」

「もらっとけ。お前森都で装備揃えなきゃなんねえだろ」

 コウイチの言葉に渋々受けとるゴーシュ。

「そういえば、結局貴様らは何なんだ?エールド皇子から強かったとだけ聞いているが、冒険者にしては変に勘が良いし、それなのに装備は貧弱(きわ)まりない」

 タロウ達は目配せをしあい、頷く。代表してタロウが発言する。

「狩人です」

「貴様らみたいな狩人がいるか」

 しくも異世界に来てまで名言を現地の人からもらうはめになったタロウ達であった。












 あの後いくら説明しても信じてもらえず、狩人にあこがれている十王のところの奴ら、ということになってしまった。しまいにはゴーシュと取っ組み合いになりそうだったところを、引きずりながらギルドを出てきた。

「お前な、いい加減にしろや。ああ?魔術師なんだから真っ当に組み合っても負けるだろうが。飛んでるときに打ち落とせ」

「そっち?いや、やるなよゴーシュ、すっげえもめることになるからな、それ」

「わかっているでござるよ。夜闇に紛れてこっそりやるでござる」

「止めてください、ホントに。まじで」


 物騒なことを言い出したコウイチが、急ににやにやとして話し出す。

「あの説得は熱かったな、タロウ?いや、オジサンびっくりしたわ」

「まったくでござる。おもしろかったでござるな」

 ゴーシュがまでもにやにやと笑いながらこちらを見てくる。こういったからかいには反論しないことが一番である。タロウは口をつぐんだ。

「なんだ。言い返さねえのかよ?ま、いいわ。いいんじゃねえの、ああいうのも」

「少し冗長ではあったがな」

 正直、余り何を口走ったか覚えていない。というより思い出したくない。記憶の奥底に沈めておくことにした。




「あ、乙女の涙返しにいかないと」

「そうだな。それ貴重品だしな」

 金貨百枚分の値打ちのある品をいつまでも持っているのはちょっと怖い。記憶をたよりに、パフィリジックへと向かう。

「すいませーん、ドーナーさんこれ返しに来ました」

 タロウが声をかけながら店にはいると、二人のドワーフがいた。片方は今日の朝見たドーナー、もう一人は野良着に着替えたドップラー。

「なんであんたがここに?」

「なんでって、ここは鉱都で一番魔術具やらなんやらが充実してるからな。姿を他の者に見せかけるような魔術具があるかどうか聞いてたんだよ」

「嘘こけ。堅苦しいのが疲れたっていってサボりに来てるだけだろうが」

「気にすんなよ。皇子が見つかった以上他の審官達でなんとかなるからな。それよりお前ら、お疲れさん。やるじゃねえか」

 素直に称賛の言葉を受けておく。


「ん?二人が知り合いってことは、最初から連絡がいってた?」

「いや、あんたらがこいつの肝いりだってのはさっき聞いたばっかだ。そいつは役に立ったか?」

 タロウの手のひらにある乙女の涙を見てドーナーが尋ねる。

「いや、使う機会無かったから返しに来ました」

 その言葉に驚愕きょうがくするドワーフ達。

「使わなかったって…。ガーディアンとやりあったんだよな?」

「それで無傷って、どうなってやがる。いや、怪我がなくて何よりだ」

 それもそうだなと呟いて、ドーナーが乙女の涙を受け取った。


「ドップラー殿、迷宮にはいつ頃行けそうでござるか」

 忘れていた。それが本来の今日の予定だったはずである。

「おう。明日ラプトーリアルから使者が来るから、もろもろ考えて一週間後くらいだな。けど自分達で潜るってんなら止めはしねえよ。必ず低級の迷宮から挑戦しろよ。あとトイレは入る前に必ず済ませろ。そしてなんか見つけたらこの親父のところに持ってこい。呪いやらなんやら変なもんが見つかるときもあるからな」

「親父っててめえには言われたくねえわ。俺より年上だろうがあんた」

 ドワーフの性別と歳は見分けるのは困難である。声を聞けばある程度の見当はつくのだが。


「了解」

「はいはい」

「気を付けます」

 めいめいに返事をして、店を出た。




 宿に帰る途中。今さらだがと前置きしてコウイチが聞いてくる。

「大丈夫だったのか?」

「何が?」

「確かに。ほぼ一人で相手をしていたようなものでござるからな」

 遠回しな言い方に頭をひねる。相手。大丈夫か。自分の今の状態。ステータス。

「ああっ!ステータス!」

 慌てて自分のステータスを確認する。





【Nameタロウ(三膳太郎) Lv13 Age16 skil:経験累積 怠惰の神の加護 HP99/99 MP 99/99 STR31 INT21 AGL5 LUC1】



 階級が下がっている。なのに賢さ(INT)が上がっていた。



「しまった。完璧に忘れてた」

 愕然がくぜんとするタロウを見て、ゴーシュとコウイチもことの次第しだいを悟る。

「こりゃ、しばらく迷宮はお休みだな」

「で、ござろうな。どのくらいで回復するのでござるか?」

「二週間ぐらい…?」

 コウイチがゲラゲラと笑う。まあ、大金も入ったことだし、金に困ることはない。気楽に楽しむことになったのである。







【Nameガーディアン(一律) Lv17 HP25/25 MP 10/10 STR25 INT15 AGL25 LUC10】


【Nameグスタフ Lv17 Age40 skil:蹴爪 HP30/30 MP 20/20 STR35 INT20 AGL30 LUC10】



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