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三匹迷宮物語  作者: 九十
鉱都へ
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其の十

ちょっと主人公が酷いです。ご注意を。

 太陽の光が山道を照らす。境界線を越えて、タロウを先頭に山道を行く。申し訳程度に整備された山道をれて、生い茂ったやぶを掻い潜っていく一行。

「しかし、なんであいつは俺等にわざわざ話しかけてきたのかね」

「そりゃあ、美の女神のご加護をお持ちの方に引寄せられたんじゃないか?」

「かもしれぬな。もしくは、猪人族の鼻の良さを知らぬ可能性もあるでござるよ」

 十王の統治する里にいたのならば、多少の差こそあれ他の獣人達の特徴も頭に入っているが、それ以外のところでは長所も短所も隠すのが一般的である。この辺りはステータスの内容を人に軽々しく話さないのと同じようなものであった。



 宿で打ち合わせた通り、風下から足元に気を付けて移動する。相手が獣人ならば気づかれる可能性が高いが、ピンポイントで跡をつけられていることに気づいていなければ奇襲をかけられるだろう。自然と口数は減り、相手の動きをトレースするようにして最適な行動を図る。手の動き、足運び、視線の動きを見ることで、何が必要かを考えて役割を実行する。迷宮を抱かぬ十王の治める土地、不可侵協定が結ばれたいまでも恐れられる、狩人の本領発揮であった。



 先頭を歩いていたタロウが立ち止まり、手で指し示す。太い縄を足元に広げ土で隠し、細い糸を木々に紛れさせて張っている。どこかに外れると音の鳴る仕掛けがあるはずだ。近くに拠点があるのだろう。こういったやり口は、山賊や狩人が周囲を警戒するときのものだ。

「ちとまずいな。やつら、山歩きに慣れてるぜ」

 逃げにてっされれば、逃してしまうかもしれない。

さらわれたものの確保が優先でござるよ」

「まあそうなんだけど。一人ぐらいは説明のために捕らえたいよね」

 できれば全員を捕まえて、少年も無事であるのが望ましい。原因が国のゴタゴタの場合、すでに亡き者となっているだろう可能性が非常に高い。そして、もうひとつ。他と交わらないものが多数を占める鳥人族は、高値で売れる。都市間協定で奴隷制が廃止されて百年以上がたつが、屋内で人目に触れずに、あるいは契約を強いて奴隷同然の扱いを行う者は後を絶たない。


「胸くそ悪い話だが、みつからなきゃあ審判しんぱんにかけられることもねえからな」

 審判にかけるには段階的な手続きが必要で、その支援者や恩恵を受けているものが無意識的にかばうような行動を取ることがあるため、保護される対象が行方不明や事故死する事例が多発する。

「全ての迷宮を管理できるようになればいいのでござるがな」

 今だそれを成しげられる組織は存在していなかった。都市ごとに迷宮を管理するギルドはあっても、世界全ての迷宮を把握している機関や機構はなかなか組み上がらない。

「今はその事を言ってても始まらないよ。それより、どうする?予定通りやるか?」

「気取られにくくするために、少数で来てしまったからな。近くに人を呼べるように狼煙のろしでもあげるでござるか?」

「だな、じゃあゴーシュ。戦闘のどさくさでこの薪を燃やせ。こいつは煙が出やすいから周りから集まってくるだろうぜ」

 そういって赤い紐で結ばれた薪を差し出してくるコウイチ。ストーブはカモフラージュのつもりだったのだろう。

「わかった。ではご武運を」

「あいよ。行ってくるぜ」

「俺が先だから突っ走るなよ」


 ゴーシュを置いて、二人が先行する。


「しかし、少々ばかり予想が外れたでござるな…」

 宿で話し合ったときは、山賊か不法者辺りだろうと見当をつけていたが、必要以上に用心深い。いまいち目的がわからないのも釈然しゃくぜんとしない。国の中の話ならガーディアンもギルドに持ち込まず、自力で取引を行うだろう。売り払うのが目的なら、ここまでの危険をおかす必要はないと思われる。いくら高値で売れても、その前に捕まってしまえば身の破滅である。警備がザルだったとはいえ、都市に侵入してわざわざ大事になりそうな相手をさらうのは割にあうまい。




「捕まえればわかることでござるな」


「誰をつかまえるんだ、兄ちゃん?」

「な、に…」

 声が聞こえたのと同時。振り向こうとしたゴーシュはあらがいがたい眠気に包まれ…。



「やれやれ、三度魔術をかけてやっとおねんねかい。さっさと後始末しな」

 猫の獣人が狐の獣人に指示を出すが、狐の獣人は頭をふって拒否する。

「いいじゃねえか、メイリーン。鳥の坊っちゃんには手出しできなかったんだ。こいつでちょっと遊んだってよう」

「悪趣味だねえ。まあいいよ、他に仲間がいるかもしれないから人質になってもらおうじゃないか」

 にいっと唇をいやらしく歪めて、メイリーンと呼ばれた猫族の女がゴーシュを蹴り飛ばす。

「さっさと行くよ、ヴェムノー」

「あいよ。楽しみだなあ、どこから食べようかな」

 舌なめずりをして、ヴェムノーがゴーシュを担ぎ上げる。

「へっへ、身が詰まってる感じだな。旨そうだ。やっぱでかい方が食べがいがあるよなあ」

 後には静寂のみが残されていた。




「ここだな」

 タロウは特に臭いが強い洞窟の前で足を止める。鳥人族と、土竜族の他にも獣人族の匂いがしている。自然に空いたものと、迷宮の違いはたった一つである。臭いがするか、しないか。自然のものは中の土や苔の匂いがするが、迷宮は外からは一切の匂いが感じられないのだ。

「やっぱ中に入るしかないかな」

 迷宮の中にいるのなら、こちらから出向くしかあるまい。

「初迷宮だな。神具はまだもつかな」

 起動している神具を取り出す。紋様はうっすらと淡い光を放っている。

「充分だろ。一人で探索か」

 距離を離してコウイチがついてくるはずである。意を決して迷宮の中へと踏み込んだ。




 よくある土壁の洞窟だ。しかし土というよりも石に近い。鉱都の迷宮の影響を受けているのだろうか。まっすぐに続く道を進む。高さは三メートルはある。狭い横道が数本あるが、臭いの強い方向にさっさと進んでいく。

「明かりが漏れてるな」

 相当油断しているようだった。まあ普通山脈にはいって一日で追っ手がたどり着くとは思わないだろう。ギリギリまで進み、中に飛び込む。

「どわっ!」

 何かが顔に巻き付く。

「振動で近づいてきてんのが丸分かりなんだよ。ボケ!」


 ゴッ、と鈍い音がして胸の辺りを殴られたような衝撃が襲う。痛みはないが、転がって距離を取り、顔に張り付いた布をつかんで取り去った。そこは直径十メートルほどの開けた空間になっており、前には直剣を手にした土竜もぐら族のイルド、その奥には金色の目をした鷹族の少年が壁に寄りかかっている。猿ぐつわをされているが、元気そうに身じろいでいた。

「へえ、ギルドにいた兄ちゃんじゃねえか。俺の一撃を受けて立ってられるなんて大したもんだな。けどよ、一人できたのは間違いだったな。ベッピンさんもいりゃあ可愛がってやれたんだけどなあ」


 攻撃が効いていると思い込んでいるらしい。虹鮭より弱かったのだが。とりあえず、弱ったふりをしてよろけながら立ち上がってみる。

「まったくだ。仲間と来るべきだったよ。冥土めいどの土産に教えてくれないか。どうして、誘拐なんかしたんだ?」


「あん?そりゃあ頼まれたからよ。ホントは殺せって話だったがよ、ガキを殺すのは寝覚めが悪い。砂都に出て売り払っちまった方が高値がつく。あそこは常に人手不足だからな」

 親切な山賊がいたものだ。殺せと言われていたならばお国のゴタゴタのうちだろう。それを欲をかいて売り払うことにした、そんなところか。

「おっと、誰に頼まれたかは言えねえぜ?けどよ、金もらって誘拐して、ついでに売り払う。こいつは貴重な労働力として大切にされて、俺らは大金持ちになる。これぞ誰もが幸せになる素晴らしい発想ってわけだ。じゃ、兄ちゃん。サヨナラだ」

 剣を振り上げ、突っ込んでくるイルド。真正面からの剣を左の籠手で受け流し、右の拳を叩き込む。



「やるじゃねえか。ちっとは楽しめそうだな」

「面倒だな…」

 楽しそうにするイルドを見て、タロウは呟く。思ったよりも固い感触だ。そこそこ鍛えているらしい。盾だけでも借りてくるべきだったと思いながらも、まあいいか、と構え直す。今の感触からして、あと十発ほど殴ればおとなしくなるだろう。


「面倒だと?そっちだって俺の一撃喰らって立ってんのがやっとじゃねえか。もう一発いくぜえ!」

 いのししの自分よりもよほど猪らしい勢いだ。相手が地に伏せるまで殴ればいいというのには賛成だが。

「おらあああああっ!」

 先程とまったく同じ動作を繰り返す。今度は少し深く入った。

「ぐ、け、結構やるじゃねえか。最後の力振り絞って、てやつか。何を笑ってやがる?」

「ん、いや。すまない。上手く入ったんで、つい」

 タロウが答えると、初めてイルドが逡巡しゅんじゅんを見せる。

「どうした。来ないのか?」

「え?ええと…」

 首をかしげて聞いてみる。イルドはあちこちに視線をさ迷わせ始めた。



「タロウ、そのへんにしとけ」

「弱いもの虐めはカッコ悪いでござるよ」

 声の方に視線を向けると。

「メイリーン!ヴェムノー!」

 気絶してグルグル巻きにされた二人と、それを引きずったコウイチとゴーシュの姿。



 最後まで抵抗したイルドは、ボコボコになって意識を飛ばすはめになったのであった。



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