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三匹迷宮物語  作者: 九十
鉱都へ
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其の八

 大鷹族の青年が、威圧するようにその場に集まった者達を睥睨へいげいし、大声で叫び始める。

「鉱都に来ていた我々の主、美しきエールド皇子が何者かによって誘拐された!よって貴様らを審判しんぱんにかける!」


 ざわつき始める一同。突然のことでどうして良いかわからず、困惑するものや犯罪者扱いにいきどおるものもいる。


 十王率いる獣人族は十二支から竜と鳥を除いた者の集合国家であるが、竜は空全体を占め。鳥族は棲息域せいそくいきはばがあり過ぎるため、飛ぶもの、飛ばぬもの、渡るもの、その他棲息する地域によって小国家をなしている。

「グルド殿、それは違います。あなた方の要請によってここに集められたもの達に協力してもらうのであって、手がかりを探し出すために審官によって判断してもらうのです」

「どちらでもよい。さっさと魔術を使え!」


 話すだけ無駄と考えたのか、職員の一人がこちらに向き直って事情を説明する。

だまちのような形になってしまい申し訳ない。昨晩、鉱都に滞在しておられたラプトーリアル国のエールド皇子が何者かによって連れ去られた。こちらの方々の話では、ギルドのカードを首から下げていたらしく、魔術師なのは間違いないそうだ」

「ここにいるセドリアと同じくらいの体格の者であった。お主らのようにな」

 一人の女性の鳥人族が示される。

「見てたんならもっと詳しくわかりそうなもんだがね」

 誰かが小声で反論するが、夜行性ではない鳥人族にはよく知られた特性がある。鳥目である。夜目が利かないのだ。それを知っている獣人達から疑問の声が上がる。




ふくろう系の獣人達は混ざってなかったのか?」

「貴様ら地をうしか脳の無い者共でも考え付くようなことを我らが考えておらぬとでも?もちろんそのつもりであったのだが、きゃつらめ、鉱都に発つ直前になって取り止めを進言してきてな」

 長々と続く愚痴をまとめるとこうなる。国がもめているこの時期に外遊は好ましくない、日延ひのべをと訴えたフクロウ族と、王族派の最大派閥である大鷹の一族がもめたらしい。夜しか見ておらぬお前らに説教はされたくないと。

「んなアホな…」

 獣人達は賢者とも称される梟族の忠告を無視して誇らしげにしている大鷹族の青年を呆れた目で眺め、次いで一緒にいるガーディアンの面々にも同じ視線を向ける。ガーディアンは目を合わせようとはしない。一応自分達の犯した過ちについては自覚があるらしかった。




「お国の話はその辺で。では、申し訳ないが皆様に協力をお願いしたい。我々が行うのは、ただ一つ。幼い鷹族の少年を見たか否か、これだけです」

 いつのまにか集められたもの達を取り囲むように審官が立っている。魔法の準備が調ったようだ。

「見たことがある、というかたにはお話を聞かせてもらいますが、それだけです。誘拐犯扱いされることはないのでご安心ください」

 簡単に犯罪者かどうかを判断するには、あなたは犯罪者ですかと聞けばよいのだが、いくら審官であっても直接そんなことを聞けば犯人扱いしているのと同然である。疑いのある人物に向かってあなたは犯人ですかと聞くのは尊厳を傷つけるし、信頼関係にも大きく関わる。故に、こうして回りくどいものにならざるを得なかった。


「では。『汝、法の下、それを守るものか?なれば安らがん。されど、法を侵し、法の下にあるものを脅かすならば、その魂は審判の神によって裁かれん。公平なる法の番人、審判の神よ。鷹族の少年を見た者を、我ら敬虔けいけんなる信徒に指し示したまえ』」

 一呼吸もたがわぬ詠唱が審官達によってなされ、部屋の水晶が光を帯びて、光の波に包まれる。目を開けていられないほど強くなった光に目を閉じること数瞬。


「いかがだ?審官殿」

 ガーディアンの中でも特に背の高い壮年の大鷲族の男が尋ねる。

「…おりませんな。この中に鳥族の少年を見たものはあなた方ガーディアンを除いては一人も見当たりません」

「馬鹿な!このような事をしでかすのは冒険者と相場が決まっておるのだ!貴様らはそれでも審官か!」

 少々言い過ぎのキライはあるが、冒険者と呼ばれるものの一般的な印象はこのようなもので、よそ者であって得体が知れないというものもあるが、成功すれば普通に働いていてはどんなに頑張っても手に入れられないほどの栄光と財産を築くことができる事へのやっかみも混じっていた。



「聞き捨てなりませんな、グルド殿。その言葉は我々審官に対する侮辱と見なしてもよいのですか?」

 審官は名誉職でもある。加護を受け続けることでその人の身の清らかさを神が保証しているとも言える。そのある意味では法の代理人とでもいえる審官と事を構えれば、迷宮を管理する都市は当然として、国家間の信頼をも揺るがしかねなかった。

「い、いや。申し訳ない。つい皇子のことが心配で…。それでは我らはこれで失礼する」

「待たれよ。未だ謝罪がなされておらぬが?」

「申し訳ない、この通りだ」

 審官達に頭を下げるガーディアン。それを見て、一番刺繍ししゅうの少ない審官が怒りをあらわにする。


「違うでしょう。我らではなく、ここに集まられた冒険者の方々への謝罪です。あなた達はどこまで我らを馬鹿になされば済むのですか!」

「テイラー、そうかっかするな。しかしラプトーリアル国の方々、彼ら冒険者は我が都市にとって共に働き、共に生きる大切な仲間でもあります。どうか、ご理解を」

「失礼をいたしました。皆の者、頭を下げよ」

「グスマフ!この隊の隊長は俺だぞ!」

 グスマフと呼ばれた大鷲の鳥族が真っ直ぐにグルドを見つめる。フイッと目を逸らしたグルドが、嫌々ながら頭を下げた。


 そのままガーディアン達は部屋を後にし、職員達が口々に非礼をびる。

「すまん、お前ら。どうしても断れなくってな」

「頼むぜまったく。俺らはまっとうに働いてんのにこんなことされちゃあよお」

「まあまあ、いいじゃない。これで私たち審官様お墨付きで堂々と胸を張ってあいつら見返せるのよ?なかなかできないわよ、こんなこと」

 狐の獣人を猫の獣人が宥めて部屋を出ていく。それぞれ文句を言いながらではあったが、鳥人族のあまりのおバカさ具合に毒気を抜かれていた。



「まったく、やれやれだぜ。どうしてこうあいつらは脳筋ばっかなのかねえ。どうおもうよ?」

「某ははっきりいってあいつらとはかかわり合いになりたくもないでござるよ」

 狼人族の男が話しかけてくる。

「あん?あんた蛇人族か。ならそれも頷ける話だわな」

 歴史的に見て蛇人族と鳥人族は争った年数が長いせいか、それとも性格が単純に合わないせいか非常に仲が悪い。どちらも湿地帯に住むものが多いため、百年前まで領地争いをしていたのだ。結局蛇人族が十王の治める土地の方にほとんどが移住したのでその争いは終結している。


「時おり森都で鉢合わせるのでござるが、威張り散らしているのがものすごく鼻につくのでござるよ」

「わかるぜ。あいつら俺らが飛べねえからってバカにしすぎなんだよな…。」

 確かに彼らの筋力は強く、その狩りの仕方も空中で飛行する魔獣をあっさりと捕まえたりと見映えのするものだが、高いプライドも合間っていまいち他の種族とは馴染みにくかった。

「しかし、それだけ強いのも事実であるから、難しいのでござるよ」

 その言葉に唸りながらも同意する狼人族の男。すると、人間族の男が呼び掛けてくる。

「アスト、そろそろいこうぜ。今日は軽く低位の迷宮に潜って明日からに備えよう」

「っと、長々と話して悪いな。俺はアストだ。また機会があったらよろしく頼むぜ」

「ゴーシュでござる。魔術の話でもできればよいでござるな」





 アストは部屋を出ていき、代わりにドップラーが近寄ってくる。三人ほど審官も一緒だ。

「すまねえな。おめえさんだけ特別扱いするわけにもいかなくってな」

「気にしておらぬよ。しかしラプトーリアルの者は精鋭だと聞いておったが、あまりそのような印象は受けなかったでござるな」

 ドップラーを始め、審官達が謝ってくるのに気にしていないと告げて疑問に思っていたことを聞いてみる。


「どうも最近ガーディアンの入れ換えがあったらしくてな。うちに来てるのが皇子だってのも怪しいと思ってるよ。国の方に問い合わせてるから、返事待ちだな」

 確かに皇子ならもっと厳重な警備が敷かれていてもおかしくはない。あのように視野の狭いものが隊長では防げるものも防げまい。



「それで、今日から潜る予定だった迷宮には行けないのでござるな?」

「めんどくせえ事になっちまったからな。高位の迷宮はしばらくどれも入れねえ。皇子の身柄が保護されるまではな」

「そうでござるか。それならば、普通の迷宮というものはこの辺りにはないのでござろうか。腕試しと暇潰しがてらパーティで挑もうと思っているのでござるが」



「そうだな、山脈の上の方で魔獣の動きを監視してる調査員のやつらがいる。山脈を越えてやってくる魔獣を調査、場合によっちゃ討伐もするんだが、狩人と似たようなもんかも知れねえな」

「その人たちなら普通の迷宮を知っているのでござるか?」

「ああ。というか、あんな上の方まできっちり準備して迷宮に挑もうってやつはまずいねえから、場所だけマークして手付かずのまんまだ」

「そちらの方は探さなくてよいのでござるか?」

「全部を山狩りするのに半年はかかる。山歩きに特化したやつがやってるから、もし入山したやつがいればすぐに連絡が来るんだが、問い合わせても昨日今日で入ったものはいないそうだ」



 鉱都を囲むように聳える山脈は、六千メートルを優に越すものだが、それ故にとてもではないが管理できる規模ではない。そのかわりに監視するための拠点がいくつかあり、山に出入りするものを確認することで事故や不法な侵入を防ぐようにしていた。


「まあ、山の方に逃げられていたらお手上げって所だな。正直誘拐された時点でこっちに連絡が来てれば山側を封鎖する時間が取れたんだがな。今朝になっていきなりギルドに怒鳴りこんできやがって。勘弁してくれっての」

 詳しく話を聞くと、宿の建物をまるごと貸し切り、警備も自分達で行うと言って宿の者も追い出されていたらしい。その上皇子は日が暮れてからクルドの目の前でさらわれている。

「全てが不手際でござるな…」

 どんな慈悲深い王であってもここまでの失態をやらかした以上はガーディアンは首にさせるだろう。あまりにも酷かった。



「それでは、山の上に行けばよいのでござるか?」

「紹介状書いてやるからちっと待ってろ」

 ドップラーがそう言うとそばに控えていた審官が紙とペンを渡し、もう一人が土魔法で机を作り出し、最後の一人が椅子を作り出す。

「なんか偉い人みたいでござるな」

 当然のように座って瞬く間に書状を書き上げたドップラーに若干引き気味のゴーシュが尋ねる。



「ドップラー様は最年長ですし、このギルドで冒険者達が安心して働けるようカードを考案された方でもあるんですよ」

「それに、あの毅然きぜんとされた態度。私たちもあのように公平な審官になれるよう精進しているのです」

「元冒険者でもあるので、知識も見識も深くていらっしゃいますし」

「そ、そうなんでござるか」


 ドップラーから書状を貰いながら、ゴーシュは審官には逆らわないようにしようと心から思ったのであった。






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