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三匹迷宮物語  作者: 九十
鉱都へ
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其の四

 一通り説明を受けたタロウ達は、穴を開けて紐を通した二枚組の板を受けとる。一時間ほどで色や材質が変わるらしい。それを待つ間、必要な書類にサインをし、ドップラー達と雑談をしたり、鉱石の買い取り表を見せてもらうことにした。


「やっぱ蒼銀ミスリルは価格が高いな。それに迷宮が高位になってるよ」

「今の装備では入ることすら難しいでござるな」

「別に無理矢理蒼銀にしなくたっていいんじゃねえか?」

 コウイチはそれほど装備には興味がないらしい。だが、タロウもゴーシュも火力が、魔力の消費が抑えられて、とロマンあふれる話を続けている。

「姉ちゃん、無駄無駄。男はな、自分の武器とか鎧とかの話になるととことんこだわっちまうのさ」

 中身が男であるコウイチは肩をすくめて見せるしかなかった。



「そろそろ変わってきた頃だろ」

フォンドルの言葉に首からかけていたドッグタグのような板を取り出す。タロウは赤と銀の市松模様、ゴーシュは黒と緑の縞模様、コウイチは青と金色の渦巻き模様。材質は、一様に光沢のある石のような物へと変じていた。

「ふうん。色はともかく、同じ材質になるのは珍しいな。そいつはどの都市のギルドでも使えるから、なくすんじゃねえぞ」

「共通なのでござるか?」

「ああ、色と材質を記録して、全部の都市に名前と人相を書いた物をおいておくんだよ。それが一致するやつはいねえからな」

 指紋認証ならぬ魔力認証か。便利なような、抜け道がありそうな…。


「それじゃ、迷宮行ってみるか?今ならスカスカだぞ」

 急に元気になったドップラーがそわそわしだす。よほど暇だったのだろうか。

「道具とかは…」

「おう、銅貨一枚で貸してもらえるぞ。さあ行こう、今すぐ行こう!」

「おいてめえは今週の受付当番だろうが。ほっぽり出していくんじゃねえよ」

「いいじゃねえか。新人だけで行かせるわけにもいかねえだろ?こいつら頑丈そうだし、アホでもないみたいだし、問題ねえって」

 三人を取り残したまま争い始めるドワーフ親父達。その戦いぶりを見ていると、所々鋭い一撃がくりだされている。彼らは引退した冒険者なのかも知れなかった。




「つるはし持ったかー、明かりは持ったかー、時計は持ったかー、背負子しょいこは背負ってんな」

 結局ドップラーの押しに負けたフォンドルが迷宮へのドップラー付きの立ち入りを許可した。タロウ達は道具を入れた袋をとつるはしを手に、腰に水筒をげ、頭にはヘルメットをかぶって、ゴーグルをつけていた。これでは迷宮探索というよりも、工事現場の人である。

「なんか想像してたのと違うな…」

「迷宮の雰囲気に慣れるって、これで大丈夫なのか?」

「某はとりあえずタロウに借金した分をかせぐでござるよ」

 ギルドが指定した鉱石をとってくれば、買い取りの他に少ないが銅貨六枚分の日当が支払われる。鎧が出来上がるまで働けば、宿代の分ぐらいは稼げるだろう。

「なんだあ兄ちゃん。借金してんのか?早く返しちまえ。利息がどんどんふくらんで返せねえような額になっちまう前にな」

「俺は高利貸こうりがしじゃありませんよ。返せるときでいいからな、ゴーシュ」

「いや、友人の間ならなおさら金の貸し借りはきちっとしとけ。後々尾を引くからな」

 妙に説教臭いことを言い出すコウイチ。

「うむ。それがしもそのつもりでござるよ」

 ゴーシュは素直に頷いていた。


「ついたぜ。ようこそ鉱都の迷宮へ、ってな」

ドップラーについて山登りすること十分ほどで、迷宮の入り口に到達する。迷宮は頑丈な扉で封鎖されており、その扉には二つの鍵穴があった。

「さて、ここは低位の迷宮で、主に銅を含む黄銅鉱おうどうこうがとれる。黄銅鉱を出す迷宮は多くてな、ほとんどが低級に分類されてて、いくつかは初心者用の説明をするのにうってつけってわけよ」

 ドップラーは腰につけた大ぶりの鍵を持ち、鍵穴に差し込んで回す。一つ目の鍵が解錠され、続いて二つ目の鍵穴に手に持った鍵をくるりと反転させて差し込む。ゆっくりと扉を手前に引いて開けていくドップラー。


「低位にしてはものすごく厳重な管理だな」

 おそらく全力で殴っても壊れそうにない扉を見てタロウが呟く。

「迷宮としての性質がある以上、仕方のないことでござろう」

「早くなかに入ろうぜ。寒い」

 コウイチは厚着をドップラーにとがめられたため、ちょっとスリムになっていた。

「まあ、あんまり中は広くないみたいだし、厚着するのは諦めなよ、コウイチ」

 扉の先にある入り口は、タロウの身長ギリギリの高さと狭い幅しかないようだった。よくテレビで見たような、木の枠で四角に固定された入り口からむき出しの少し黄色がかった岩肌が延々と続いている。ドップラーの後ろに一列になったタロウ達が続いた。


 始めて入った迷宮の中は縦幅たてはば横幅よこはば、それぞれ二メートルの通路が十字型に五十メートルほど掘られていた。

「この迷宮は浅くわかりやすく掘ってあるが、他の迷宮では必ず地図をもらっておけよ」

 歩きながら珍しそうに辺りを見ている一行にドップラーの忠告が飛び、しばらく歩いたところで立ち止まって道具を取り出していく。


「おうし、道具は持ってんな。まずは光竹ヒカリダケを半分に折ってゴーグルの上の空いてる部分に差し込め」

 光竹はこの世界特有の植物だ。地球にはヒカリダケ(キノコ)やヒカリゴケ(コケ)があったが、それの竹バージョンといったものだ。タロウ達は指示に従った。

「手袋をして、たがねを当てて、鎚で軽く叩く。そうすっと石ががれたり割れたりして落ちてくるから、拾って背負子の箱に入れる。基本はこの繰り返しだ。自分の手え打たねえよう気いつけろよ!」

「了解」

「心得た」

「あいよ」

 めいめいに返事をしたタロウ達は、採掘に没頭した。




「よし、休憩だ。しっかしお前ら、文句一つ言いやがらねえとは驚いたぜ。鉱山ギルドの職員になる気はねえか?」

 手首の腕時計を見てドップラーが休憩を決める。この世界も一日二十四時間三百六十五日の暦で動いており、タロウ達が採掘を始めて二時間ほどが経っていた。

「いや、遠慮します」

「某も辞退させていただく」

「年取ったら考えるわ」

「そうか、残念だなー。はじめてここの迷宮に潜るやつらはよ、つまんねえだのもっと派手なのを想像してたとか好き勝手言いやがって、二度と来なくなる連中が多いんだよな。その点おまえらは黙々と背負子一杯あっというまにとっちまうんだからなあ」

 この世界では十代の若造だが、前世をせばそれぞれ結構な年齢である。大体説明を聞いた時点で予想もついていたため、予想通りとも言えた。


「しかし、もう背負子に入らぬのでござるがどうするので?」

「それなんだよな。もっと文句言いながらやって時間がかかると思ってたからよお。ま、お前らなら中級の迷宮でも問題なく稼げると思うぜ。結構力あんだなあ」

「獣人族は狩りで生計たててるから、このぐらいは大丈夫なほうだよね」

「いいや、若い獣人族の兄ちゃん達は毎年来るが、あんた達ほどじゃねえ。ま、詮索せんさくする気はねえさ、迷宮に潜ろうってんならそれなりの理由があるもんだからな」

「そんじゃあよ、迷宮についてもうちょい詳しく説明がほしいんだが、いいか?」

 少しでも有用な情報を引き出そうとコウイチがたずねる。


「いいぜいいぜ、迷宮潜り続けて百年の、このドップラー様になんでも聞けってんだ」

「おう、そんなら遠慮なく教えてもらおうじゃねえか。一番うまいもんが食える都市はどこだ?」

「迷宮関係ないじゃん!」

「そうだな、やっぱ海産物なら海都、油っぽいものなら炎都、肉なら砂都、果物なら口惜しいが森都がダントツだ。」

「なるほどな、参考になったぜ。ありがとよ」

「あれ、真面目に答えんの?だったら、一番簡単に稼げるのは?」

「遊都だろうよ。なにせ出るもんが金銀財宝ときてっからな。けど加工技術なら俺らが上だ。それにあそこの雰囲気は俺はあんまり好きじゃねえがな」

「では、変わったものが出やすい迷宮というのは?」

「魔術具なら学都だが、一般人は許可をとるのがめんどくせえ。魔法具も古都にあるが、あっちはもっと許可に時間がかかる。氷都は専用の装備がないと難しいな」


「ほんとに詳しいんだな。冒険者だったのか?」

「若い頃はあっちこっちな。けどよ、やっぱ年取ってくると生まれた土地が恋しくなってくるのさ。今じゃ審官なんてめんどくせえものやりながら酒とつまみ食うのが一番だな」

「審官なのか!だからあっさり一人で迷宮について行く許可が降りたんだな」

 職員が一人で得体えたいの知れない新人の説明に乗り出すのは危ないと思っていたので、納得が行く。

「まあな。この仕事やってると、相手がどんなやつかは大体見分けがつくようになってくる。あんたらは犯罪者じゃなくて、戦士に見えたからな。それも腕利きだ」

「おみそれしましたってやつだな」

「まこと。経験からくる勘というのも侮れぬでござる」

「お、当たりか。獣人のなかでも強いほうだろ兄ちゃん達」

「まあ虹鮭が捕れるぐらいかな」

「なに!じゃああんたたち狩人か!ランドルのヤローが虹鮭の燻製くんせいもらってきたっておすそわけもらったんだよ。狩人の質が高くて結構な量の虹鮭がとれたから、お土産にもらったっていいながらな」

 ぼかしたつもりだったが、あっさりとばれる。世間というのはせまいものだ。

「まあ、迷宮に挑むのは完全に私事なので、秘密にしておいてもらえると助かるのでござる」

「『我をいましめる審判の神の名に誓い、今代の狩人の素性をよひとに話さぬと申し奉る』」

 刃先の無い剣が上を向いてあらわれる。剣はドップラーの周りを一周し、その光は軌跡を描いて消失した。審官がその神に誓いをたてるとき、その代償は例外なく加護である。そのため加護を得続けている審官は尊敬と畏敬の対象であった。


「おし、これでいいな。そうそう、燻製めちゃくちゃうまかったぜ。ありがとさん」

「いや、作ったのは奥様方だから。俺等は捕ってきただけだし」

「加工できるだけの量があるってのがすごいんだよ。しかし、兄ちゃん達が狩人なら一つ頼まれてくんねえか」

「ん?依頼か?」

「ああそうだ。しかも厳しいものになるから、条件を聞いてから判断をしてくれてかまわねえ」

「聞くだけなら、まあいいかな」

「その前に。某らが本物の狩人であることを診断してはどうか?」

「嘘ついてる可能性もあるかんな」

「そうだな。それじゃあ…」


 結果は当然、三人共刃先の上を向いた剣があらわれたのであった。



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