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三匹迷宮物語  作者: 九十
十五夜会議
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其の十四

 お待たせしました。

 セイラはがばりと身を起こした。ばくばくと音をたてている胸の辺りを右手で強く押さえ、ぎゅっとまぶたを閉じた。背中に嫌な汗をかいていて気持ち悪い。

「起きたか、セイラ。気分はどうだ?」

 いっそ冷淡といっても良いほど抑揚のない声がセイラにかけられる。ふと顔をあげると、涼しげな青い瞳が眼鏡越しにこちらを見ていた。

「メナス。大丈夫よ、みんなは?」

「部屋中に散らばって出口を探している。果てのない部屋のようだな」

 そう言われてぐるりと見回すと、白い石の壁と天井がどこまでも続いているのが目に入る。吊り気味の眉を寄せて、セイラは思案にふける。

「どうやら、試練系統の迷宮らしいな」

「試練系統?」

 ほんの少し目を細めたメナスが、セイラの言葉にうなずく。そして、彼女の後ろを指差した。振り返った先には…。

「どうして、扉があるのよっ!」

 先程見たときには絶対に無かったはずの、白を基調とした金で装飾がなされた四角い扉が鎮座していた。


「あ、セイラちゃん。からだ大丈夫?」

 戻ってきたスイミーが、三編みにした青い髪をピョコンとはねさせてセイラのそばに座る。

「ええ、大丈夫。心配かけてごめんなさい」

「ううん。こっちこそごめんね。魔法陣わからなかったよ…」

 太めの眉を八の字に下げ、スイミーがそう告げる。ウンディーネである彼女が気づけなかったのなら、他のだれもそれを察知できるはずがなかった。精霊族にちかしい彼女たちは、特に魔術的なものに敏感だ。

「謝ることはねえだろ。むしろこれでお宝が見つかれば万々歳じゃねえか」

 にっと笑って見せたフットが、ようやく俺の出番だな、と言って、その肩から荷物を受け取ったゴロウエが

「頼むよ。明運キャンデラどの」

 と呟いた。


「ん?なんで扉が出来てるんだ?お前らが作ったのか?」

 最後に戻ってきたフレイブルが、立派な扉を見てそう聞いてくる。

「おいおい、ブルの旦那。そんなこと出来るのは森都のエルフぐらいのもんだってえの。迷宮の中に双方向転送陣作ったり、やりたい放題だからな、あいつら」

「そうか。それで、潜るんだろ?」

 フットの話にあっさりうなずいて、フレイブルがメナスに向かってそう言うと、彼はあっさりと首肯した。

「そうだな。試練の迷宮である以上、先に進む道はひとつしかない」

「メナスの旦那、試練の迷宮ってのは普通の迷宮と違うのか?」

 いろいろと道具を取り出して、鉤のついた投げ縄をいじりながらフットが尋ねると、メナスはそうだな、と簡単に説明してくれた。

「試練の迷宮は昔からある迷宮の型の一つだ。最後まで攻略できれば、加護や見たことのない産出品(贈り物)を手に入れられるという話だ。

 かの有名なレンドリアス教授や、歴史に残る英雄たちもそういった迷宮に挑んだという記録が残っている」

 それを聞いたフットがにわかに色めき立った。

「てことはよ、俺らも英雄の仲間入りが出来るってことか?」

 すげえ、と喜ぶ彼に、ゴロウエが落ち着け、と声をかけるも聞こえていないらしい。

「でも、メナス。それならタロウ達も同じように試練を受けているのかしら?」

 かの獣人と妖精族のパーティーは均整のとれた構成をしていた。明運、盾、遊撃、魔術師、魔弓使い。おそらく大抵の迷宮なら彼らは突破するだろう。

「そうだろうな。君は見えていなかったかもしれないが、あちらもタロウが同じように魔法陣に囚われていた。こことは違うところの可能性が高いが、試練の迷宮に挑んでいるはずだ」

 確かにそんな記憶がうっすらとある。魔法陣に照らされて、部屋中が明滅していた黒い石造りの迷宮。ならば、彼も自分と同じように罪深い加護を受けているのだろうか。

「じゃあ、どっちかしかお宝にはありつけねえのか?」

「いや。どちらにも産出品(贈り物)が用意されているはずだ」

同じ物とは限らないが、と付け加える。

「まあ、それなら進んでみようか。セイラ、気分はどうだ?探索出来るか?」

 ゴロウエが心から心配していると聞いただけてわかる声で彼女に尋ねる。見た目とは違い、結構心配性な男なのだ。

「大丈夫よ。…それよりも、ごめんなさい。たぶん私のせいだわ」

「なにがだ?」

 筋肉質の太い首をかしげたフレイブルがきょとんと聞いてくるのに、セイラはちゃんと説明をしようと腹をくくる。

「あの魔法陣が起動したのは、私の種族のせいか、もしくは加護のせいだわ。巻き込んでしまって本当にごめんなさい」

 表情が隠れるほど深く頭を下げると、ゴロウエの声がセイラに届く。

「やめなよ。もともと裏がありそうな、というより政治的な面倒がありそうな依頼だったんだ。新しい迷宮に挑めるのなら、むしろうれしいってものさ」

 冒険者としてね、と言ったゴロウエに続いて、

「そうだな。いいじゃねえか、低位の怪物どもだけじゃつまらないと思ってたんだ。楽しもうぜ」

「だよなあ。俺も腕の見せどころだしよ、気にすんなって」

「そうだよ、セイラちゃん。一人だったら怖かったけど、みんながいるからきっと攻略できるよ」

 フレイブル、フット、スイミーがセイラに暖かく接してくれる。最後に沈黙を保っていたメナスが、

「今回は様々な事態に対応できるよう準備をしてきている。試練の迷宮は厳しいが、当人たちの力に見あったものが用意されると聞くから、全力を尽くそう」

 それで攻略が可能だ。と断言した。微塵も揺るがない自信とたたずまい。すっと立ち上がったメナスが、扉に向かって行く。そのあとをフットが急いで追った。

「メナスの旦那!俺より先に行くなって!」


「ふふふふふ」

 それを見ていたスイミーが不気味な笑い声を漏らす。

「な、なに。どうしたの?」

 そう聞いたセイラに、にこりと笑って、スイミー はこう言った。

「メナス、セイラちゃんが起きるまでずっとそばにいるって言って聞かなかったんだよ」

 愛されてるね、と言葉を残し。

「みんな、待って!」

 彼女も扉に走っていってしまった。残されたセイラは、顔の火照りを冷まそうと手であおぎ。

「なんだ、セイラ。暑いんなら魔術具を貸そうか?」

「いらない」

 妙な方向に気をきかせたフレイブルを、ちょっとだけにらんだ。



「それじゃ、ちょっと下がっててくれ」

 顔を引き締めたフットがそういって扉を慎重に開いていく。装飾の美しい扉は、あっけなく開いて地下、といえば良いのか。下へと続く階段が姿をあらわした。

「明かりはいらねえみたいだな」

 どのような仕組みかはわからないが、全体が明るく昼のように良く見えた。人族であるフットでも問題ないくらい明るいらしい。

「じゃ、ついてきてくれよ」

「わかったよ。気を付けて」

 フットに続き、メナス、セイラ、スイミー、ゴロウエ、フレイブルと続く。メナスが全体の指揮をとるこのパーティーではこの並びがいつも通りだ。人間族のわりにメナスは頑丈だし、他のメンバーもそれぞれ中位の迷宮ぐらいなら前衛をこなせるぐらいに腕がたつ。

「部屋がある。合図を送ったら入ってきてくれ」

 ぽっかりと空いた四角い穴のようなところに、フットがするりと身を滑り込ませた。数分して、小さな旗のようなものが振られるのがここからでも見えた。色は緑。問題ない、入れの意味だ。


「あれは、ちょっと厄介だな」

 全員が部屋へと入り、中を見たゴロウエが優しい顔つきを困ったように歪めた。部屋の中央に、天井まで届くような三メートルはあるだろう木が陣取っていた。濁った青色をしたそれは、キラキラと光っているように見える。

「氷樹だな。この辺りの迷宮では確認されていない。試練の迷宮で間違いないだろう」

 メナスがそう言いつつ、飛鍾馗トビショウキを手に取った。神都での守護石を丸々毛(マルルケ)の毛で編んだ縄の先に取り付けてある投てき武器だ。

「どうする?」

「まあ、どのくらい頑丈か見てみよう」

 ゴロウエにそう返したメナスがヒュンッ、と飛鍾馗を氷樹に向かって投げつけた。カンッと音がして、氷樹の幹に弾かれて戻ってくる。

「凍ってるよ…」

 それをフットが見て力なく呟く。飛鍾馗の先は霜が降りたように薄い氷でおおわれていた。

「ふむ。手持ちの魔術具では難しそうだな。フレイブル」

「なんだ?」

 メナスはフレイブルを呼び、不適に笑って出番だぞ、と彼に言った。


「うおおおおおっ!」

 フレイブルの振るう斧が、氷樹に食い込んで削り取っていく。その瞬間斧と持ち手が凍りつくが、すぐさま水滴となって床の上にポタポタとたれていった。

「よし。予想通りだな」

「いや、メナス。あれでいいのか?反撃されたらどうするんだ?」

 満足げに腕を組んでうなずいているメナスに、ゴロウエがもっともな反論をするも、

「当たってもあちらがダメージを受けるだけだろうな」

 とフレイブルを指す。確かに時おり枝がフレイブルを突き刺そうとしなるも、彼に触れるやいなやジュウッと音がしそうな勢いで水へと変わっていく。体表に熱を作り出せる彼のスキルが、天然の防御手段として氷樹には効果的だった。

「そうみたいだね…」

 ゴロウエがため息をつきながら同意した。

「なんつうか。もうなんていったら良いのかね。ブルの旦那のスキルがあんな風に役立つとは…」

 ゴロウエと同じく、最初は危険だと反対していたフットも現状を見る限り問題はないようだと静観している。

「それにしても規格外よね…」

 竜族であるセイラをもってしても、あのような無茶なスキルは見たことがない。人族は個性的だと祖母から聞いていたが、ちょっとおかしい。

「うん。まあ。私もあんなのは初めてみるかな」

 氷都出身のスイミーは、氷樹は危険だとメナスに何度も言って反対していたが、目の前の状況を見て諦めたらしい。

「試練の迷宮は、スキルを試すことが多い。完全に個人向けの迷宮だということだな」

 まだまだ研究の余地はあるが、とメナスが言うのと同時。バキッと氷樹が切り倒された。光となって消えていくそれを見つめて。

「氷樹があんなにあっさりと…」

 悲しそうな顔をしたスイミーが、そっと手を合わせていた。



 今後は更新が三日に一度くらいになると思います。

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