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「物語と私と彼女」

「赤ずきんちゃんと私と彼女」

「赤ずきんちゃんと私と彼女」


「赤ずきんちゃんって幾つくらいだと思う?」

そう聞いた友人の有子の視線の先にはただの赤いドレスが飾ってある。

どう見ても頭巾には見えないのだが、なぜ彼女はこれと赤ずきんを関連付けたのか、付き合いは長いが正直なところ、彼女の思考回路はよくわからない。しかし、真面目な私は考え込んだ。

「うーん、一人で森に行ける位でしょ?五歳で小学一年だとして、十歳くらいから十五歳かね?女の子一人とはいえ、森は危ないだろうし。だけど、頭巾が似合うっていうとやっぱり小学生くらいまでかなぁ。でも、昔の子は今の子よりもしっかりしているような気もするしなぁ。」

「いや、オオカミに騙されて食べられるしね。」

「いや、それは物語だし。」

有子は赤いドレスを体に当てながら言う。

「そりゃあ、そうよ。実際に赤ずきん食べるなら、彼女の方を先に食べるわ。後から猟師が来ても助からないくらい、バリバリに食われるわよ。あれ、雑食だし。」

有子は小学校の理科の先生なせいか、本人の趣味からきているのか、たまに知識がこぼれてくる。

「そうなんだ?完全な肉食だと思ってた。」

「まぁ、肉の方が腹持ちはいいよねぇ。でも二人分を丸呑みする顎はない。あ、試着良いですか?そっか、わかった。」

店員が近づいてくるよりも早く、有子は試着室に入りつつも話し続けた。

「なにが?」

「どうして、おばあさんが先か、よ。美味しくないだろうに。」

「やっぱり、肉的にも若いほうがおいしいのかしら?」

「人は食べたことがないからわからないわね。」

有子は怖いことを平然と言った。

「んで?なんで、おばあさんが先?」

「赤ずきんがおばあさんの家の場所を教え、自分が行けば警戒せずに扉を開けてくれることをオオカミに教えたからよ。それに家のなかで待っているだけで若い肉が手に入る。賢いわー。」

「感心するところ、そこ?」

 私は目を丸くした。

「そこよ。相手に情報を引き出させる能力って大事だわ。」

「なるほど。」

「どう?これ。」

有子は試着室のカーテンを開けてくるっと回って見せた。

「きれいだけど、色濃くない?花嫁の衣装直しが赤だったら問題よ?」

「うーん……。でも、ピンクって歳でも……グレーもなぁ。あ、それなんかいいかも。森の色。」

「グリーンと言って。とりあえず、それは脱ごうか。」

「そうする。」

有子は緑のドレスを受け取るとカーテンを閉めた。

「それで?結婚式はいつ?」

「この間、招待状が来たばかりだから、もうちょい先。」

「なんの先生?」

「若くて、可愛い家庭科の先生よ!」

「ああ、あの。」

 実際に見たことはないが、有子の話にはたまに出てくる。

「相手は、大学時代の恩師だって。いいわよねぇ、家庭科。」

「いやいや、理系なんて男性が多いんだから、会う機会はあるでしょ?」

「理系は嫌。変人が多い!」

自分も理系だというのに、有子はあっさりと言い切った。自分は文系のせいか、そんなことはないよ、とは言えない。

「どう、これ?」

 有子はふたたび、カーテンを開けてくるっと回って見せた。

「いいと思う。色も明るいし。顔も綺麗に見えるし。」

「よし、これにします。」

有子の決断は早かった。こういうところは今も昔も変わらないなぁとしみじみ思ってみたり。

「赤ずきんも緑とかにしておけば、オオカミに食べられずにすんだのかね?緑なら保護色だろうし。」

「森に行くときは目立たない恰好なんかしていたら、遭難の捜索が大変じゃない。野生の動物と間違われて撃たれても困るし。食われるときはどんな格好でも食べられるのよ。」

有子はにやりと笑ってカーテンを閉めた。

「あの話で得をしたのは猟師だけよ。寝てるだけのオオカミを撃って、人助けをして、人望も厚めになって、オオカミの肉も皮も得るだろうし、もし若くて独身なら将来赤ずきんが嫁に行くかもね。老人ならおばあさんと茶飲み友達になるかもしれないし。」

「それ、丸呑みされた二人が生きて助かること、前提だよね?」

「あら、死んでいても肉と皮は得られるわよ?毛皮は結婚式、駄目よね?」

「だめよ。」

 有子はため息をついた。


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