ラッキーすけべの田中君
【田中君と下川さん】
不幸だ。僕が物心ついた頃からの口癖だった。
落ちていた空き缶が、風で僕の方に転がってきてそれを踏んで転んだ事は多々あるし、電車に乗る時は僕が乗る前に満員になったり、他にもあげたらキリがないくらいの不幸が僕に降り注いでいる。
物事をハッキリ言えないせいか、クラスの皆からはよく掃除を押し付けられたりしていた。
そんなある日の事だった。
黒板消しを2つ持ち、外に向かってパンパンしていたら急に風がこちらに向いて、チョークの粉が僕の顔面に直撃する。目の中に入ったりして、暴れていると机の角に足をぶつけてもつれてしまい、後ろに倒れ込んでしまう。キャッっと、短い悲鳴が聞こえる。その衝撃のおかげか、目に入っていた粉が落ちて目の前が見える。…見える様になったのに、何故だろう、暗い。それに、暗い先に何か白いモノが…
「田中君のえっち!」
暗闇の上から急に声が聞こえる。ま、まさかこれって…!
「ごごご、ごめん!!ごめんなさい!!」
土下座をする勢いで女の子、もとい下川さんに謝る。
「…バカ!」
と言われ、立ち尽くす僕。…不幸だ。
ーその日、下川恵は先輩から告白され付き合う事になった。彼女は、田中君とのハプニングのおかげと言う様になり、それから女子の間で幸せのスケベ野郎とあだ名がつくこととなった。
【田中君と飯田さん】
ある日の帰り道。
木の下で、木の上を見上げている人を見つける。
近くに行くと、同じクラスの飯田さんだった。
「どうしたの?飯田さん」
「あ、田中君。木の上に猫が登ったみたいで降りられないみたい…」
「バカな猫だな。よし、僕がどうにかするよ」
「ほんと?ありがとう」
そう言って木に抱きつき上に登る。子供の頃、良く木登りしていたからスムーズに登る事が出来た。
「もうちょい…」
腕を伸ばす。後少しで猫を掴めそうなのに届かない。もう少し登ろうとした時、猫は僕の頭の上に飛び移り、そのまま地面に着地した。結構な高さがあったのに大丈夫だろうか?
「飯田さん!ごめん、猫は大丈夫そう?」
「うん!大丈夫みたい!」
猫の無事を確認出来たので、僕は木から降りる。
「ありがとう田中君。優しいね」
「良かったよ。じゃあ僕は帰るね」
そう言って帰ろうとした時、風が舞って砂埃が僕の目に入る。そして、大きめの石が地面に落ちていた様でそれを踏んでしまい、体制が崩れて後ろに倒れてしまう。…あれ、何かデジャヴ…?
飯田さんにぶつかって倒れ込んでしまう。
「あたた…飯田さん大丈…」
ムニュ
柔らかい感触が右手に伝わる。後ろを振り向くと、飯田さんの顔が赤くなっていた。
「…いつまで揉んでるの!田中君の変態!バカ!」
ボコスカ殴られた僕。しかし僕が悪いから文句は言えない。…不幸だ。
【田中君と飯田さん】2
次の日。飯田さんが僕と目を合わせてくれない。
隣の席なのに気まずい…。それと、今日は僕と飯田さんが日直の番だった。
「あの、飯田さん…」
「…」
話しかけても返事はない。怒らせてしまった。
そのまま、1日中気まずい時間が続いた。
放課後。ようやく飯田さんとの日直が終わってホッとする反面、もう一度謝らないといけないと思い、飯田さんの後を追う。
「飯田さん!」
「…なに?」
「昨日はごめん!!本当に反省してます!」
「もういいよ。気にしないで」
「でも…!」
「良いって言ってるでしょ!」
階段の所で声を掛けてしまったから。飯田さんは勢いで階段を降りようとして、階段を踏み外してしまう。僕は咄嗟に、飯田さんを自分の方に引き寄せた。すぐに身体を離す。
「あ、ありがとう」
「ほんと、ごめんね!」
僕はそう言って、返事も聞かず先に帰る。またハプニングで飯田さんを怒らせたら元も子もないからだ。
「…田中君」
【田中君と中田君】
僕の席の隣は、飯田さんと中田君。前に下川さんで後ろに柊さんとなっている。
名前が似ているからか、よく僕の机の上に中田君のノートが置かれたりしている。
「また間違えてる…」
僕の机の上に、また中田君のノートが置かれていた。横の中田君の机の上に戻そうとすると、ノートの下に可愛らしい手紙が置かれているのに気がついた。
「これは…ラブレター!?」
「おーい田中!早く行こうぜー」
中田君から後ろから急に声を掛けられた為、反射的にラブレターらしき手紙をポケットに入れてしまった。
「う、うん。あ、ちょっとトイレ!」
「急げよー」
慌ててトイレの個室に入る。勢いで持って来てしまったけど、中田君宛てだったら申し訳ないな…と思いながらラブレターの中を確認する。
『好きです。放課後、体育館裏に来てください。藤宮』
本当にラブレターだった。それに、藤宮さんって隣のクラスだし…。まあ生まれてこの方、告白された事ないからきっと中田君宛てだろう。うん!きっとそうに違いない!
「…それで、疑いながらも来てしまったと?」
「…はい。ごめんなさい」
調子に乗ってしまいました。中田君に何の報告もせず、ノコノコ体育館裏に来てしまいました。
藤宮さんが待っていたらしく、なんで田中君が?って聞かれて事のあらましをお伝えしました。
「あーそうだったんだ。ごめんね、私がよく確認しなかったから」
「いや!やっぱりあの時気がつくべきだったんだ!本当にごめん!…中田君の番号知ってるから呼ぼうか?」
「いや、今日はいいや。やっぱり恥ずかしいし」
「え、でも…」
「ほんとに大丈夫だから!ごめんね」
立ち去る藤宮さん。僕もその後ろをついていく。
体育館裏の角が見え、そのまま帰ろうとしたところ、サッカーボールがこちらに飛んで来ていた。藤宮さんに向かって飛んでいるサッカーボール。慌てて僕は藤宮さんに伝えようとしたけど、ボールの勢いが強く「ごめんね!」と言いながら藤宮さんを僕の方に引き寄せた。そして、何とかサッカーボールに当たらなくてすんだ。
「危なかった…大丈夫?藤宮さ…」
「…何すんのよ!」
パンッ!と良い音が響き渡る。藤宮さんの手が僕の頬に直撃した音だった。頬がジンジンする。
ーそれから。僕が帰った後、中田君は教室に残っていて帰ろうとした所僕と藤宮さんが抱き合っていたのが見えて、藤宮さんに想いを告げた中田君。両想いだったようで、無事に付き合う事になったみたいだ。
【田中君の日常】
僕の日常。学校に行くのも、帰るのも一苦労である。まず、鳥が電線に止まっていると下を通らない様にする。高確率でフンを落とされるから。水溜りがある所を通らない。高確率で車のタイヤが水溜まりを踏んで僕に掛かるから。階段を上がる時は慎重に。高確率で女性が歩いていると風が吹いて、スカートが捲れてパンツを目撃して、目が合って気まずくなるから。普通に過ごすだけで神経がすり減る。
僕に平穏な日々は訪れないのだろうか…。
ある日。ゲーセンの帰り道、占いをやっているお婆さんから声をかけられ占ってもらう事に。
『おお、お主は幸運者じゃな!近いうち、これまでの不幸が逆転して幸運に傾くと出ておる!』
『は、はぁ…』
『良いか。自分だけが不幸とは思わない事じゃ。人の為の行為ならなおさらじゃ。相手が幸せになってお主に感謝している事も忘れてはならん。その感謝が積み重なって、お主は世界一のラッキー野郎となるじゃろう』
何だか、とても心に響いた。僕は『ありがとうございます』と去ろうとすると、無料で良いと言われたのに『占い料1000円』と言われ、抗議しようとしたが『これも試練の1つじゃ』とか何とか言われて渋々支払う事になった。…不幸だ。
【田中君と柊さんと飯田さん】
僕の後ろに居る柊さん。
アイドルグループの1人で現役アイドル。爆発的な人気を誇っていて、ファンクラブがあるほど大人気である。小柄で明るくて努力家。たまに出るドジっ子が可愛いと言われている。僕もそう思う。
そんなある日。授業中に後ろからツンツンと背中に何か当たる感触がする。振り向くと、柊さんがシャープペンで僕の背中をツンツンしていた。
どうしたのかと小声で聞くと、ちょっと聞きたい事があるから放課後、学校近くの公園に来て欲しいとの事だった。…授業中に言わなくてもいいのになとか思いながら了承する。
放課後。
柊さんは基本的にいつも誰かしらと帰っている。しかし、今日は先約があるから!と走って1人で帰ってしまい皆から怪しまれてしまう。「これは男だ!」とか何とか騒がれていた。
柊さんから呼ばれて居るから僕も行かなきゃ行けないけど、2人で会って居る所を見られでもしたら大事になると思い、隣の席に居た飯田さんを頼る事にした。
「ごめん、飯田さん。ちょっといいかな?」
「どうしたの?」
「ちょっとここでは…」
「…?そう、ちょっと待っててね」
「お、なんだ田中?飯田さんに告白でもすんの?」
と、僕と飯田さんの会話を聞いていた山田君が茶々を入れて来る。
「そ、そんなんじゃないって!」
「めっちゃ照れてるじゃん!」
「こら、山田君。からかわないの!」
「ごめんごめん。ごゆっくり〜」
「もう!」
「ごめんね飯田さん」
「田中君のせいじゃないよ。ほら、また茶化されない為にも早く行きましょう」
学校から公園の間。柊さんに呼び出された事を飯田さんに告げる。
「なるほどね。それで私って訳ね」
「うん。ほら、僕は色々とやらかしそうだから」
「ふふ。そうね。良い判断だわ」
公園に着くと、ブランコに乗っていた柊さん。こちらに気がつくと手をブンブンと振っていた。
「あれー?ゆいぴょんも居たの〜?」
「田中君に一緒に来てほしいって頼まれてね」
「えー?私と2人きりじゃ嫌だったんだ?」
「嫌とかじゃなくて、なんていうかその」
「あかり。田中君を困らせないの」
「あはは。ごめんね田中君。冗談だよ」
「それで、僕に聞きたい事って何かな?」
「えっと…こほん。田中君って今彼女とか居るのかな?」
「え!?い、居ないけど…」
「そっか!良かった〜実は、今度の日曜日、ゆいぴょんの彼氏役をお願い出来ないかな?」
「あ、あかり!?」
「えっと、どうして僕?それになんで柊さんが僕に言うの?」
「私とゆいぴょんとアイドルグループのアミちゃんの3人で遊ぶ事になったんだけど、どうせなら彼氏も呼んで皆で遊ぼうって話になったんだ」
「ちょっとあかり!私に許可無く勝手に!」
「だって〜ゆいぴょん、田中君の事気になってるって言ってたじゃん!」
「だからって…!デリカシーって言葉知ってる!?」
「もう怒らないでよ。…ダメ?」
「ッ!はぁ…思い立ったらすぐに行動する癖やめた方がいいって言ってるでしょ?」
「えへへ。ごめーん」
「もう…」
「えっと…あのー」
「あ、ごめんね田中君。それで、どうかな?」
チラリと飯田さんの方を向くと、一瞬目が合ったけどすぐ逸らされてしまった。
「予定は無いからいいけど…飯田さん、僕なんかで彼氏役務まる?」
「ほんと、あかりがごめんね。…うん、田中君が迷惑じゃなかったらお願い出来るかな?」
「飯田さんが大丈夫なら…」
「やったー!!ありがとう2人とも!」
柊さんが僕と飯田さんに抱きつく。
「…田中君、鼻の下伸びすぎ」
「健全な男の子の反応だよ」
…それにしても、柊さんに彼氏が居たなんて。学校の人に教えてあげたらショックで倒れるかも。僕も少しショックだったし。
【僕と柊さんと飯田さん】2
日曜日になってしまった。
ネットで最近の高校生が遊びで着ていく服とか調べてみて、僕に合いそうな服を姉に選んで貰った。
姉はファッションデザイナーの専門学校に行ってるから、僕より知識が豊富で助かった。
女の子と遊ぶって言ったら「ようやくアンタにも春が来たんだね。もうすぐ夏だけど」って嫌味を言われたけど。
待ち合わせ時間の30分前に待ち合わせ場所に着くと、イケメンが2人立っていた。
男の僕から見てもイケメンだ。
「お、もしかして田中君?」
「あ、はい。田中です。今日はよろしくお願いします」
「堅いよ田中君。同い年なんだし気楽にやろ」
「そうそう。あ、俺は竹中でこっちが前島ね。よろしく」
「竹中君と前島君。了解であります」敬礼
「田中君おもろすぎっしょ」「ほんとな」
それから、他愛もない話をしていたら女の子達の登場だ。柊さんとアミちゃんの格好は、アイドルだとバレない様に変装をしていた。それでも中身を知っているからか、オーラが凄まじい。
「ごめーんお待たせ」「待った?」
柊さん、アミちゃん、竹中君、前島君。とても絵になる光景だ。
「おはよう田中君。今日はちょっと暑いね」
私服姿の飯田さん。いつもきちんと制服を着こなしていて、優等生って感じなのに私服はギャルっぽい格好でギャップが凄い。改めてみると、飯田さんもアイドルグループに居てもおかしくないくらい美人で、思わず感想が漏れていた。
「飯田さんがNo.1に可愛い…」
「うお!田中君めちゃくちゃストレート!」
「俺たちでもなかなか言えない台詞を恥ずかしがる事も無く言うとか男だね」
「田中君、ナイス!」
「…この人が例の田中君ね…」
「…田中君のバカ」
「ゆいぴょん照れない照れない。ほら、ゆいぴょんも言わないとでしょ?」
「田中君もその格好似合ってるよ。かっこいい」
「あ、ありがとうございまする!恐縮です!」
「あはは。田中君面白い〜こんなに面白い人って知ってたらもっと絡んでたら良かったな」
「お?なんだあかり。彼氏の前で他の男をベタ褒めか?」
「ゆいぴょんの彼氏だから別にいいでしょー」
そう言って、俺にウインクする柊さん。ズキューンと心臓に鉛玉を撃ち込まれた様な衝撃を受けるが何とか持ち堪えた。そう、今日は飯田さんの彼氏役。
飯田さんに恥をかかせない様にしないと。
デートプランは、映画を観て、軽く食事をして、買い物して、最後にカラオケに行くって感じらしい。
竹中君に「途中で抜けたかったら遠慮無く言ってくれ」と横に来た時に言われた時は苦笑いしといた。
「私、葉山亜美ことアミちゃんです。よろしくね田中君」
「会えて光栄でございます。本日はよろしくお願いします」
「堅いよ田中君!ほら、もっと緩くいこー!」
「飯田さん、遅くなったけど私服姿最高です」
「ぷっ。田中君、最高って…」
「なんで笑うんだよ柊さん」
「田中君のテンション、今日やばいね」
「そうかな?」
「うん。面白いからいいけど」
映画館に着く。どうやらカップル席しか空いておらず、仕方なくそこに座る事にした。
「ごめんね飯田さん、柊さん達と一緒に見たかったよね?」
「いやいいの。今日は私達に付き合ってもらってるんだから」
「今日は気張りたいと思います」
「気張りたいって…ふふ」
隣に飯田さんが居て、カップル席だからか腕と腕が密着する。香水の匂いだろうか、とても良い匂いで緊張してくる。女の子とこんな風に遊んだりした事がないから免疫がない。汗かいたりして臭くないかな?
そんな事を考えながら映画を観ていたら全然内容が頭に入ってこなかった。
食事を取る事になり、そこで感想やらを言っている皆。僕は全然見てなかったと言える訳もなく、相槌を打ちながら何とかその場をやり過ごした。
その後、買い物をして時間を潰して、カラオケ屋に入る。
カラオケ屋に入ると、僕と飯田さん以外がノリノリで曲を入れて歌っていた。皆上手くて、僕はタンバリンを鳴らしながら聞いていた。
「田中君も何か歌いなよ〜」
「僕、あんまり知ってる曲無くて」
「いいからいいから。ほら!」
マイクを渡される。親の前でも歌った事ないのに大丈夫だろうか。音痴じゃないか不安になる。
皆に急かされ、僕は1番聴いた曲を入れる。
「あ!これ、この前のドラマの主題歌!」
「田中君センスありすぎ!これ、結構むずかったような」
「えーあーあーあ。田中、歌います」
「ぷは。田中君マジでウケる」
「がんばれー」
アイドルとイケメンの前で歌うとか結構恥ずかしいけど、頑張って歌った。
「「「「「…」」」」」
歌い終わり、僕の後に誰も曲を入れてないから沈黙が続く。え、なんだこの空気。もしかして、めちゃくちゃ下手で耳が壊れたとか?
1人あわあわしてると、隣に居た飯田さんがボソッと「上手すぎ」と呟いた。それを皮切りに、皆が様々な反応を示した。
「田中君上手すぎ!!高音の所とかどうやって声出してるの?」
「歌手とか目指したら?マジで」
「身近にこんな歌上手い人居ないから皆に自慢しよ」
「ほんと、甘い声から渋い声の切り替えとかヤバすぎて鳥肌立ったよ」
「あ、ありがとうございます。初めて人前で歌ったから不安でした」
「まじかよ。な、田中君!この曲とか分かる?」
「はい。わかります」
「一緒歌おうぜ!」「ずるーい!私も一緒に歌いたい!」
そこから、皆と楽しくカラオケをした。
カラオケを出て、そこで解散となった。竹中君と前島君が、普通に今度遊ぼう!と連絡先を教えてくれた。
柊さんと飯田さんと僕の3人で帰る。帰り道、柊さんが用事を思い出したとか言って、走ってどこかへ行ってしまった。
残された僕と飯田さん。
「それにしても、田中君に意外な特技があったなんて」
「カラオケの事?皆上手だったよね!飯田さんは上手だし、柊さんとアミちゃん、流石アイドルって感じだったし、竹中君と前島君も難しい曲をあれだけ歌いこなせてたし!」
「誰よりも今日、田中君が上手だったよ」
「ありがとう。飯田さんも今日一日中最高でした」
「ふふ、その最高でしたって言うのハマってるの?」
「いや…そうじゃありませんけど…なんて言うか、今日の飯田さんはいつもより輝いてたから…」
「…ありがとう。田中君も学校の時とは違って、今日はすごく楽しかったです」
「僕もこんなに楽しい休日は初めてでした!また一緒に行きましょうね!」
「…2人で?」
「あ、え、えっと…飯田さんが良いなら2人ででも…」
「ふふ。また明日、会いましょうね」
「はい!」
【僕と柊さんと飯田さん】3
月曜日。
僕が教室に入ると、何故か男子から囲まれる。
「田中君、昨日飯田さんと…」
「飯田さんと?」
「デ、デ、デ、デー、デー…」「頑張れ!あと一息だ!」「俺らの思いをお前に託す!」
「あー。昨日は飯田さんと遊びましたね」
「「「!!!」」」
何故か肩や脚を蹴られる。何故!?
「どうしたの皆?」
「「「どうしたじゃねえ!あの飯田さんと…!!」」」
「私がどうしたの?」
「「「飯田さん!?」」」
「ん?何の話ー?」
「「「ひ、柊さん!」」」
飯田さんと柊さんはいつの間にか教室に入っていたようだ。飯田さんの事を話していたので、こちらに来たようだ。
「い、飯田さん!昨日田中とデートしてたの?」
「うん。2人っきりじゃないけど遊んでたよ。それがどうかしたの?」
「いや…ナンデモナイデス」「くっ…こちら側と思っていた田中が一軍女子と…!」「…俺らの負けだ。諦めよう」
「…なんだったの?」
僕の隣に来て、コソっと僕に話しかける飯田さん。
「さ、さあ…僕にも何がなんだか」
「2人共、距離近くねー?」
またも山田君が僕と飯田さんの仲を掻き乱す様な発言をする。僕は言い返そうと思ったけど、飯田さんが先に山田君に言い返していた。
「プライベートで遊び仲だからね。距離も近くなるよ。ね、田中君」
「はい!その通りであります!」
「2人共仲良しー!私も仲間に入れてー!」
僕と飯田さんの間に入って、柊さんが僕と飯田さんの腕を組む。その場に居た男子が血の涙を流していたのはまた別の話。
「ああ、田中が一軍に上がっていく…」「…ちょっと保健室行こうかな。どうやら夢を見ているようだ」
「ほらー席に着けー。何やってんだ男子」
先生が入ってくる。男子達は地面に手をついて立ち上がるのがやっとみたいだった。
僕はそんな彼らを横目に、席に着いていた。
「よ、田中!上手くやれよ!」
「…?うん、頑張るよ中田君」
【田中君と下川さん】2
ある日の昼休み。
僕は弁当を忘れたので、食堂に向かう。
この高校の食堂は、まさに地獄である。
弁当やパンを売っている売店は大混雑で、僕なんかがあの中に入ったら全治1ヶ月は間逃れないだろう。
少し値は張るが、食券でオムライスを食べよ。
食券販売機でオムライスを押そうとすると、横から手が伸びて手が重なってしまう。
「ご、ごめんなさい!あれ、下川さん?」
「あ、田中君。一緒のヤツ頼むなんて奇遇だね。良かったら一緒に食べない?」
誘われたので一緒に食べる事に。
席を取っていたようで、僕と下川さんが近づくと男の人がこちらに手を振っていた。
「お、君が田中君!恵の彼氏の向田だ!よろしく!」
「向田先輩、初めまして。よろしくお願いします。…ところで、何故向田先輩が僕の事を?」
「恵から聞いたんだよ。スケベだけど幸運を呼ぶ男って!」
「す、スケベ!?」
「もう!内緒って言ったでしょ!」
「ごめんごめん!つい!」
まさか、下川さん、僕が下川さんの事を押し倒してしまった事を…!?
「あはは。ごめんね田中君。あの時の事はもう気にしてないから気にしないでね」
「はい!ありがとうございます!その節は本当にすみませんでした!」
「他にも色々聞いてるぜ!田中君と接触したヤツはどんどん幸せになってるって!」
「そんな言い伝えが…?」
「言い伝えって。ウケる。女子だけと思ったけど男子もみたいだから、座敷童子みたいな感じだよな!」
「僕って座敷童子なんですか?」
「そう!まあ田中君の場合ちょっと特殊だけど」
「はあ…」
「俺らも田中君の幸運で付き合えたし、恋のキューピットだよ田中君は!」
「それは私も思う。それに、最近の田中君は前と違って話しやすくなったし、また一緒に話そ?」
「光栄でございます。その時は向田先輩も交えてお話ししましょう!」
「はは。言い方面白すぎだろ田中君。またな!」
「後でね」
ちょうど昼飯を食べた僕らはそこで解散する事になった。食堂を出ようとした時、柊さんと飯田さんが僕を見つけるなり「あー!!」って大きな声を出して近づいて来たから注目を浴びる。
「どうしたの?2人共」
「どうしたの?じゃないよ!お昼一緒に食べよ♪って約束したのに!」
「…あ!」
「忘れてたのね」
「…はい。すみません」
「そんなに落ち込まなくても。教室に戻ろ?」
柊さんに手を引かれて教室に戻る僕。その場に居た男子達からとてつもな殺気を感じながら、僕は教室に戻る。
前から思っていたけど、柊さんボディタッチ激しい様な…。
「…」
【田中君と先生】
ある日。先生に突然呼び出された僕。
何をしたか心当たりがない。
椅子に座る様に言われたので椅子に座る。
「最近、田中の噂を耳にするんだ」
「噂、ですか」
「ああ。なんでも破廉恥な事を男女にやっているそうだな?」
「違うんです!誤って転んだ先に人が居て、ぶつかってるだけなんです!」
「…まあ、本人達もそう言ってるんだが、気をつける様に。風紀を乱す事は控えなさい」
「…はい。すみません」
椅子から立ち、椅子を直そうとすると固定されていたのか分からないが、手からスポッと抜けてそのままの勢いで横に居た先生にぶつかる。
「…すみません」
「…なるほど、こういうことか。田中、先生のズボンから手を離しなさい」
「!す、すみません!」
先生のズボンを思いきり引っ張っていたようで、ボクサーパンツが露わになっていた。先生は咳払いをしながら「なるほど」と1人で頷いていた。
「まあ…とりあえずわざとではないということはわかった。何かあったら言いにきなさい。先生で力になれることは協力しよう」
何か悩みがあると勘違いされてしまったのだろうか。これ以上その場に居るのが居た堪れなくなったので、堪らず部屋を後にした。
【田中君の日常】2
とある休日。竹中君と前島君から遊びの誘いを受けた僕は、待ち合わせ場所に向かう。
待ち合わせ時間の30分前に着くと、既に2人は来ていた。
「いつも早いね竹中君、前島君」
「俺らも今来たとこだよ。とりあえず飯でも食いにいかね?」
「行こう!」
「え、別れるんですか?」
突然だった。竹中君と前島君が僕にそう言って来た。
「ああ、まあなんて言うか、時間も全然合わないしすれ違いが多くてな。学校も違うから全然会えないし」
「俺は亜美と同じ高校だけど、引っ越すんだよ俺」
「え!?どこに引っ越すんですか前島君!」
「北海道。親の転勤でな。帰って来るかわかんねーし、亜美に寂しい思いさせたくないし」
「でも、帰って来ようと思えば帰れますし…お似合いなのに…」
「そんな顔すんなって田中君!まあ、俺が帰って来て亜美がフリーだったらもう一度最初から口説いてみるよ」
「…寂しいです」
「乙女か!田中ちゃんって言わなきゃな」
「竹中君は引っ越さないですか?」
「今の所そんな予定はないな。俺、医者志望なんだよな。なんて言うか、俺もこれから勉強とかしないといけないし時間が今より取れないと思うんだ」
「…そんな、じゃあもう会えないんですか?」
「なんで田中君の方が寂しそうな顔してるんだよ!会おうと思えば会えるし、こっちからも全然誘うしその時は遊ぼうぜ!」
「俺も。たまには帰って来るからその時は遊ぼう!」
「竹中君…前島君…。絶対ですよ?約束しましょう!指切り!」
「「指切りって!ほんと田中君って面白いな」」
まだ高校生なのに、先の事考えていて2人共偉いな…。それに、顔もイケメンなのに言ってる事もイケメンとか僕が女の子だったらメロメロになってると思う。
それから、しばらく他愛ない話をした後、解散する事になった。
…絶対、また遊ぼうね。
【田中君と柊さん】
「田中君〜今日いいかな?」
「?どうかしました?」
「ちょっと田中君と話したくて。あ、今回は1人で来てね?」
「分かりました。公園ですか?」
「そこは人目があるから…私の家に来てくれない?」
「え!?さ、流石にそれは…」
「大丈夫だよ!パパもママも居ないから!」
それは大丈夫じゃないです柊さん…。
「…お願い」
真剣な顔だった。いつも明るい柊さんとは思えない表情で、よほど真剣な悩みがあるんだろう。僕は、決心をして「わかりました」と答えておいた。
「…」
放課後。例の如く走り去ってしまう柊さん。僕はゆっくり立ち上がり、柊さんから教えて貰った住所に歩いていく。何か買って行った方が良いのだろうか?初めて女の子の家に行くから礼儀作法が分からない…。先生に聞いてみる事にした。
「女の子の家に行く?おお、ちゃんと節度を守るんだぞ?そうだな、スイーツとかでいいんじゃないか?」
「流石でございます先生。相談して良かったです。はい!ちゃんと節度を守りたいと思います!」
「…元気良いな。気をつけて行くんだぞー」
「はい!」
柊さんの家に向かう途中。ケーキ屋を見つけた僕は、ショートケーキとチョコレートケーキの2つを購入して柊さんの家に向かう。
住所に着いたようだ。『柊』と書かれた家の立札を見つける。…ちょっと緊張する。意を決してチャイムを鳴らす。すると『はーい、田中君?』と言われたので『田中です!』と答えた。
『中に入って2階に上がって1番手前の部屋に来て〜』と言われたので、恐る恐る玄関を開けた。
「お邪魔しまーす…」
誰からの返答もない。靴を並べ、家に上がらせてもらう。玄関の先に、階段があったので言われた通り階段を上る。
『あかりの部屋』と可愛いキャラクター達のスタンプが押された立札が部屋の扉に掛かっていた。
ノックをすると「いいよ〜」と返答があったので失礼する事にする。
「遅かったね〜?道に迷った?」
「はい、少し…」
「そんな所に立ってないで、こっち座りなよー」
「あ、はい。失礼します…あ!そういえばこれ、つまらないものですが」
「え、なになに?わー!ケーキだ!しかも私が好きなチョコレートケーキ!!ありがとう!一緒に食べようよ!」
「いや、2つとも柊さんに買ってきたものなので」
「いいから。私が貰ったんだったら、私が食べようって言ってるの!」
「…分かりました。いただきます」
「こっちの台詞だよ!…ありがとうね」
「「…」」
少し沈黙が流れ、ケーキを取り分ける柊さん。
「あの、ね…」
言いづらそうな柊さん。よほど言いにくい事なのだろうか?言葉に詰まった柊さんは、その後も何て言おうとするか考えているのか、黙ったままだった。
僕も、柊さんを見つめていた。
「私、竹中君と別れる事になったの」
「…竹中君から聞きました」
「そうだったの?」
「はい。時間のすれ違いとかって感じで」
「…違うの。私が悪いの」
「?」
「私、好きな人が出来たの。それで、竹中君に打ち明けたの」
「…」
「そしたら応援するって。頑張れって。…私、最低だよね」
泣き出す柊さん。いつも明るくて周りを元気にする姿を見ているから、凄く彼女の辛さが伝わってくる。こっちまで泣きそうになる。
近くにあったティッシュを柊さんに渡す。
「…ごめん。泣くつもりなかったんだけど、田中君に話したら我慢出来なくなって」
「いいですよ。僕に話してスッキリするなら何でも言って下さい。我慢はよくありません」
「…ありがと」
それからしばらく泣いていた柊さん。泣き止んだのか、いつもの調子に戻っていた。
「あ〜スッキリした!さ、ケーキ食べよ!あーー!チョコが溶けてる〜!」
「良かった。いつもの柊さんだ」
「…それ!」
「…どれです?」
「そうじゃなくて!柊さんって呼び方!!あかりって呼んで?」
「え!?い、いや…」
「嫌なの?」
「いえ、そうじゃなくて…」
「…あかりって呼んでくれなきゃヤダ!」
「…あかりさん」
「むぅ。呼び捨てで良いのに〜」
「流石にそこは妥協出来ません。あかりさんでお願いします」
「うん!いいよ♪ありがとね田中君♪あ、そっちのケーキも美味しそう!食べていい?」
「はい、どうぞ」
あかりさんは、僕が使っていたフォークでショートケーキを食べる。
「あ、ごめん。田中君のフォークで食べちゃった」
「だ、大丈夫です!キッチン借りていいですか!?洗ってきます!」
「そこまでしなくても…私の間接キスじゃ嫌かな?」
「嫌ではありません!あかりさんが汚れてしまいます!あ、あかりさんの名誉?プライド?的なヤツって意味です!」
「あはは。私は気にしないよ〜」
「あかりさん、可憐な女の子なんですから自分を大切に扱って下さい。そこは気にする所です」
「…」
「偉そうにごめんなさい!」
「いいの。私が軽率だった。ごめんね?これ、使ってない新しいフォーク。これ使って?」
「ありがとうございます」
僕みたいな男と間接キスなんてあかりさんが可哀想だ。
ケーキを食べ終え、しばらく話した後。
外も暗くなってきたので、僕は帰る事にした。
玄関まで見送りに来てくれたあかりさん。僕は挨拶を交わし、家を出ようとする。すると、ガチャっと音がした。
「ただいま〜って誰!?」
「おかえり真美。友達の田中君だよ」
「田中と言います。あかりさんとお友達をやらせてもらってます」
「あ、真美は私の妹だよ」
「そうなんですね。…ではあかりさん、柊真美さん、お邪魔しました」
「ふーん。おねぇのお友達ね」
「…なによ?」
「本当にお友達?」
「…内緒」
「(そんな顔して内緒は無いよおねぇ…)」
【田中君と飯田さん】3
『明日、遊ばない?』
夜、飯田さんから連絡が来た。特に予定もなかったので、『遊びましょう』と返信する。するとすぐに返事が返ってきた。
『10時に駅前で』と来たので『分かりました』と返事しておいた。
翌日。
待ち合わせの30分前に駅前に着く。すると、飯田さんがそこに居た。
「すみません!お待たせしました!」
「私も今来た所だよ」
「今日の私服もとても似合っています」
「ありがとう。田中君と似合ってるよ」
「恐縮です!それで、どこに行くんです?」
「私の家でいいかな?」
「え!?」
「…イヤなの?」
「いえ…嫌じゃありませんが…」
「この前のテスト、田中君あまり良くなかったよね?」
「なぜそれを…!?」
「見えちゃって。だから、教えるから来ない?」
「はい!是非お願いしたいです!ありがとうございます!」
「もう…そんなかしこまらなくてもいいのに。バカ」
飯田さんの家に着く。何か、最近似たような事があったような…。
飯田さんの家に通され、お邪魔しますと挨拶をする。…どうやら、誰も居ないようだ。
「両親、今さっき仕事に出かけて1人なの。それじゃ、飲み物用意してくるから私の部屋で待ってて」
「お構いなく…」
「…部屋の物、漁らないでよ?」
「ご心配なく!両手を上に掲げて飯田さんが来るまで目を瞑ってます!」
「ふふ。そこまでしなくてもいいわよ」
飯田さんの部屋に入る。花の様な爽やかな匂いがする。シンプルだけど、ベッドには可愛らしいぬいぐるみが…っていかん!物色するな僕!!
邪念が入っていたので目を瞑る。
「…ほんとに目を瞑ってるなんて」
「すみません。邪念が…」
「そ、そう。ほら、座って。はじめましょ」
「そこは、さっき教えた公式を使うの」
「なるほど…」
「そうそう」
「あの…飯田さん?」
「何かしら?」
「普通、僕の前に座りません?」
「だ、ダメよ。横からの方が教えやすいのよ」
「そうですか…あの、近くて集中が…」
飯田さんの顔が近い。僕の手に、飯田さんの手が重なる様になってるし、飯田さんが近くにいるせいで良い匂いがしてきて…いかん!勉強に集中しなければ!
「我慢して?次は…」
一生懸命教えてくれてるんだし、期待に応えないと!
「ありがとう飯田さん!ちゃんと理解出来たよ!」
「そう?良かった。また分からない時は私に聞くのよ?」
「はい!ありがとうございます先生!」
「先生って…。それより、田中君?」
「何です?」
「そろそろ、私達も仲良くなったと思うの。結衣って呼んでくれない?」
何だろう、凄いデジャヴ。
「ゆ、結衣さん」
「ふふ。なあに?」
「何でもありません!!では、これから結衣さんとお呼びします!」
「よろしくね」
「あっ…!」
トイレに行きたくなって、立ち上がろうとすると足が痺れていたのか結衣さんに倒れ込んでしまう。
ベッドに結衣さんを押し倒した体制になる。
謝って、慌てて起きあがろうとすると、結衣さんに服の袖を掴まれる。
「…田中君のえっち」
「ご、ごめんなさい!」
「…しないの?」
「…え?」
「キス。しないの?」
「しま…せん!」
「ふふ。大丈夫よ。田中君がそういう人じゃないのは分かってるから」
「…すみません」
「いいの」
部屋から出る。トイレの場所を聞いて、トイレの中に入り深いため息が出る。
「(結衣さん無防備過ぎる…)」
家に入って、結衣さんは服装がラフな格好になっていて、チラチラと胸元とか太ももとかが見えてヤバかった。それにしても、押し倒した時はビンタされると思ったけどされなかったな…。
【田中君の日常】3
今日は誰とも予定が無い。
家でゴロゴロしていると部屋を突然開けられる。
「裕太!買い物に付き合いなさい!」
「ノックくらいしてよねぇちゃん!」
「なんでアンタの確認を私が取らなきゃいけないのよ!?ほら、さっさと用意しなさい!」
「もう〜彼氏でも誘えばいいのに…」
「…何か言った?」
「ナンデモアリマセン」
僕の姉は暴君だ。僕に対して当たりが強いし、自己中で我儘。その上マイペースでガサツ。
「何か失礼な事考えてない?」
「考えてないよ!それより、用意するから部屋から出てよ!」
「いいじゃない。アンタの裸とかパンツとか見ても何とも思わないわよ」
「僕が嫌なんだよ!」
「男のくせにみみっちいわね」
「…そんなんだから彼氏に逃げられるんだよ」ボソッ
「しばくよ?」
「しばいてから言わないでくれる!?」
ほんと、誰かこの姉を貰ってください。
姉と買い物中。アレもアレも買うから、僕の手持ちが多い。両腕に買い物袋をぶら下げている。ねぇちゃんは自分の私物しか持っていない。文句を言うと10倍になって返ってくるので何も言わなかった。
僕がトイレに行っていると、姉はナンパをされているようだった。
確かに、黙っていればねぇちゃんは美人だ。性格を見なきゃ男なんて星の数ほど寄ってくるだろう。だけど、僕の姉は暴君だ。僕にだけ。
「あ、裕太〜遅いよ〜」
聞き慣れない声。姉のぶりっ子。鳥肌が立つ。
耳元で「余計な事言ったらしばく」と囁かれ、僕はカカシの様になる。
「なんだよ彼氏持ちか」
ナンパ男は僕を彼氏と勘違いしたのか、何処かに消えてしまった。
「「え?」」
そんな時、後ろから聞き慣れた声がした。
結衣さんとあかりさんだった。
「田中君?」「その人は?」
2人から同時に聞かれる。
「田中君、彼女居たの…?」
「…」
「ち、違うよ!この人は…」
「どーも。姉の美奈です!あなた達は?」
「田中君と同じクラスの飯田結衣です」
「あ、おねぇさんか!私は柊あかりです!」
「結衣ちゃんにあかりちゃんね!2人共可愛いね〜アイドルみたい!」
「…あかりさんはアイドルだよ」
「マジ!?あ、ホントだ。テレビで見た事ある」
「えへへ。お二人はお買い物中ですか?」
「そうそう。家でダラダラしてたからパシリに使ってたの!ほら、裕太。私はいいから2人と遊んできなさい」
「え!?いや、僕は…」
「いいんですか?」
「いいのいいの。2人共可愛いから、こんなんでも男避けにはなるでしょ。裕太、ちゃんと2人を守ってあげるのよ?」
「…僕の意思が無い件について」
「アンタに人権なんか無いわよ」
そう言って、姉は僕から荷物を取り上げ帰って行った。
「綺麗なおねぇさんだね」
「ほんとほんと。田中君におねぇちゃんが居るなんて知らなかったよ〜」
「僕には魔王みたいだけどね」
「「(田中君の下の名前…裕太って言うんだ)」」
「それより、僕が合流してもよかったのかな?」
「うん。買い物終わってどうしようかって話してたところだったし」
「そうそう。あ、プリクラ撮りたい!3人で撮ろ!」
「プリクラ??初めてです」
「ほら、行くわよ。…裕太」
「裕太君〜はやくはやく」
「(あれ、いつの間にか名前呼びになってる。…まあいいか)はい!」
僕も2人の事名前で呼んでるし、いいよね。
【田中君と山田君】
「田中君、一緒に昼食べない?」
初めて山田君から昼食を誘われた。いつも、結衣さんとあかりさんと食べていたが、2人共先生の用事で教室に居なかったので、僕は山田君と食べる事にした。
「それで、どっちが本命なん?」
「…何の事ですか?」
「とぼけんなよ〜飯田さんと柊さんの事だよ」
「本命って?お二人は僕のお友達です」
「はぁ…マジ?」
「?マジです」
「じゃあ、飯田さんは俺が。柊さんは別の友達が告白してもいいんだ?」
「はい。…別に、僕に確認しなくてもしたければして良いと思います」
「そうなんだ〜。おっけおっけ。そうするわ」
どうしたのだろうか。意図がいまいち分からない。
そのまま、一言も話す事なく昼食が終わり、山田君は何処かに行ってしまった。
「なにあれ」
僕達の会話を聞いていたのか、下川さんが山田君が出て行った方を見ながら呟いていた。
「最近、山田の行動キモすぎて引く…田中君、気にしない方がいいよ?」
「キモいかどうかは分かりませんが、意図が全く分からなかったです」
「多分だけど、何か反応して欲しかったんだと思うよ」
「…反応とは?」
「『僕の結衣とあかりに手を出すな!』的な?」
「結衣さんもあかりさんも僕の大切なお友達です。手を出すなって言うのは違うかと…」
「…結衣もあかりも苦労するだろうな…」
「え?」
「いや、こっちの話」
「そうですか…?」
「裕太〜ごめんね、先生の用事長引いて〜って、めぐぴょんと裕太って意外な組み合わせ〜!何話してたの?」
「あかりと結衣が可愛いって話だよ。ね?」
「はい。結衣さんとあかりさんは素敵な女性です」
「裕太ったら…」
「もう〜こんなところで口説かなくていいのに〜」
「「「もう、他所でやってくれ…」」」
ー最近、田中君と飯田さんと柊さんの会話がピンク過ぎて、クラスの皆は「またか…」と感じていた。
誰の目から見ても、飯田さんと柊さんが田中君に好意を持っていると感じていた。当の本人だけ気付いていない。
2人の田中君への好きが強すぎて、ここ最近は告白とかされなくなっていた。
【田中君と雨】
この日は雨が降っていた。強い雨で、風も強い。
いつもの様に慎重に行動していたが、神様は僕にトラブルを与えなきゃ気が済まないのだろう。
信号待ちの時、隣に綺麗なお姉さんが来る。
強風で、僕の傘がひっくり返りラッパ傘になる。そして、隣のお姉さんの傘に、僕のラッパ傘の傘が重なり、そのまま傘が飛んでいってしまう。
「す、すみません!」
「…いえ、大丈夫よ」
「すぐに取りに行きます!!」
「コラッ!赤信号でしょ?待ちなさい」
「…はい。でも、お姉さんが雨で…」
「仕方ないわよ。この風じゃ」
青信号になり、傘が道路に転がっている。何かに引っかかっているのか、傘はその場から動かなかった。僕は急いで手に取り、お姉さんに傘を返す。
「本当にすみません…」
「いいから。ほら、お互い濡れたからコインランドリーに入りましょ?」
目の前にあったコインランドリーに入る様に言われ、僕はお姉さんの後についていく。
「あー下着までびしょびしょだわ…ちょっと向こう向いてて貰える?」
「はい!終わったら教えてください!」
「…よし。もう大丈夫よ。ほら、君も服乾かしたら?」
「財布を忘れちゃったので大丈夫です!」
「そのままだと風邪引いちゃうでしょ?お金は私が払うから…」
「いえ、それは駄目です。僕が悪いので後日お返しさせてください!」
「子供がそんな事気にしなくていいの。ほら、早く脱ぎなさい」
「いえ、ですから…!」
その時。近くに雷が落ちたのか、停電してしまう。雷に驚いたのか、お姉さんは短い悲鳴をあげ僕に抱きついて来た。
「あ、あの…!?」
「ご、ごめんなさい。雷苦手で…きゃあ!」
「だ、大丈夫ですか?」
また近くで雷が落ちる。僕の首元に身体を押し付けてくるお姉さん。下着をつけていないのか、柔らかい感触が…って、この状況はまずい!
ブレーカーを探す。上の方にあり、机を移動してブレーカーに手を伸ばす。また鳴る雷。お姉さんは、今度は僕の下半身に抱きつく。
先ほどの雨で、僕の全身はずぶ濡れだった。
ずぶ濡れの僕、下着をつけてないお姉さん。絵面がとてもいけない事になっている。
ガラガラ
コインランドリーに誰か入ってきたようだ。ま、マズイ!こんな所を見られたら…!
そんな時。電気の照明が部屋を照らす。
「あーほんと最悪。びしょびしょ…きゃー!」
「「きゃーーー!」」
僕の高校と同じ制服。どうやら先輩の様だ。
次の日。
「おはようございます結衣さん、あかりさん」
「…ふん」
「…裕太のえっち!変態!痴漢!」
…どうやら、昨日の出来事が学校中に広まってしまったようだ。
結衣さんとあかりさんとはこの日、顔も合わせて貰えなかった。下川さんからはドンマイと言われ、中田君は苦笑いをしていて、山田君は爆笑していた。
廊下で藤宮さんとすれ違うと「変態」とヤジを飛ばされ、向田先輩からもドンマイ!と言われる。
先生からは呼び出され、説教をされる。…不幸だ。
【田中君と雨】2
先日のお姉さんにお詫びがしたくて、連絡先を聞こうとしたが頑なに教えて貰えなかった。
家で予習をしていると、ねぇちゃんが帰って来た様だ。
ん?他にも声が聞こえる。どうやらねぇちゃんの友達と居るようだ。
そして、またもノックをしないで僕の部屋に入ってくる暴君の姉。
「友達来てるからアンタ出てこないでよ」
「分かってるって。いいから閉めてよ」
「…あら?」
姉の後ろに居る人。…何処かで見た事あるような。
「「あー!!」」
「…何?アンタ達知り合い?」
「この前の…!」
「あ、先日は…」
先日の事をねぇちゃんに話すと、腹を抱えて笑っていた。
「ほんと、アンタはトラブルに巻き込まれなきゃ死んじゃう呪いでも掛かってるんじゃないの?」
「笑うなよ…お友達に失礼だろ?」
「ごめんごめん」
「美奈の弟だったなんて…」
「姉の弟の裕太です」
「裕太君ね。私は由香里。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします由香里さん」
「…由香里、コイツはやめといた方がいいわよ」
「…何が?」
「いや、言ってみただけ〜」
「じゃあ、またね裕太君」
「はい!お疲れ様です!」
「ねぇちゃん」
「なによ?」
「これ、由香里さんに渡しておいてよ」
「タオルとハンドクリーム?…アンタ、こんな事ばっかしてるからモテないのよ」
「はあ?」
「この女の敵。ヤリ⚪︎ン!」
「なんで急に罵倒!?」
「ふん」
【田中君と柊さん】3
『裕太〜』
『どうしました?』
『呼んだだけ〜』
最近、あかりさんからこういう通知がよく届く。
『何してるの?』
『…今は予習してますね』
『マジ?偉い〜私の勉強もみてよ』
『僕より結衣さんの方が適任ですよ』
『裕太に教えてもらいたいの!』
『結衣さんも呼んじゃダメですか?』
『ダメ』
『どうしても?』
『2人っきりじゃなきゃヤダ!』
『何のこだわりですか…分かりました。今度は僕の家に来ませんか?』
『行く行く〜!明日とかいい?』
『はい。迎えに行きます』
『ありがと〜』
「おーい!裕太〜」
公園で待ち合わせる。あかりさんは帽子を被り、少し変装をしている。アイドルも大変だ。
「お待たせしましたあかりさん。とても可愛い服ですね」
「ありがと♪行こっ?」
「はい…って、何で手を繋ぐんですか?」
「迷子になったら困るでしょ?」
「ならないですよ…」
「繋ぎたいから繋ぐの。ダメ?」
「…ダメじゃないです」
「やった♪」
「〜であるから、ここはこうなんです」
「ほほう。なるほど〜」
「あかりさん?近くありませんか?」
「普通だよ?裕太の気のせいだよ」
「そうか、僕の気のせいか…って!どう考えても近いですよね!?」
僕の膝の上に手を置いて来るあかりさん。
「(ここまでしてもなびかないなんて…裕太って本当に男の子なのかな?)」
「…何か失礼な事考えてません?」
「!エスパー?」
「違いますよ」
ガチャ
「裕太〜ちょっといい…あら、あかりちゃん来てたのね」
「お邪魔してます美奈さん!」
「いらっしゃい。あら、私お邪魔だったかしら?」
「いえ♪全然大丈夫です♪」
「あ、そうだ。ケーキあるけど食べていく?」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
ー
私は田中美奈。最近、愚弟がモテている。
友達の由香里も、弟の事が気になっているみたいだし、弟と同じクラスのアイドルのあかりちゃん、美人な結衣ちゃん。
…まあ、弟は見てくれは悪くない。姉の私から見ても、誠実で礼儀正しい。物事をハッキリ言えるし、その事にようやく周りが気付いて来たって言った所か。
「わ〜おいしそ〜」
…ほんと、あの子誰を選ぶんだろ。
ー
【田中君と飯田さんと柊さん】4
「旅行?」
「そう!金曜日の夜から日曜日の朝まで!友達とか連れて来て良いってマネージャーも言ってるし!」
「でもお仕事なんでしょ?」
「いいのいいの。下見がほとんどだから♪」
「裕太、どう思う?」
「え!?僕も行くんですか?」
「当たり前でしょ〜裕太来なかったら話にならないじゃん!」
「いやいやいや!僕、男ですよ!?」
「?知ってるけど?」
「結衣さん…」
「諦めるしかないわ裕太」
「そんな…」
あかりさんから旅行に誘われる僕と結衣さん。
あかりさんのアイドルグループが、今度コンサートを南の島で開くみたいで、その旅行に着いて来て欲しいとの事だ。いや、男の僕が行くのは事務所的にもマズイんじゃ…?
「ほら、マネージャーからも大丈夫って返信来たし♪」
「何故だ…」
金曜日の夜。
あかりさんのマネージャーが車を用意しているみたいで、僕と結衣さんは合流して、結衣さんの家の前であかりさん達を待っていた。
大きめのワゴン車が来て、中からあかりさんが出て来る。
僕は他の皆さんに挨拶をしていく。
「田中裕太です!お世話になります!よろしくお願いします!」
「君が噂の裕太君ね。私、マネージャーの桧山香織です。よろしくね」
「あの、本当に僕が居て大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫大丈夫。下見だし、プライベートビーチだから知らない人に見られる事も無いし」
「…そうですか」
「あ、田中君!久しぶり!」
「アミさん、お久しぶりです」葉山亜美
「初めまして。天川雅ことビーチャンです」
「初めまして〜。沼川瑞樹ことミーちゃんです」
凄い。僕の目の前にテレビでしか見た事ないアイドルグループが…。って。
「え!?ちょ、他に男の人は居ないんですか!?」
「居る訳ないでしょ?1つ屋根の下にこんなに女の子が居るんだから」
「い、いや、桧山さん…?僕男…「さ!行くわよ!乗って乗って」…」
あかりさんと結女さんに腕を引っ張られ、僕は強制的に車に乗せられる。聞いてないんですけど。。
車内。軽く自己紹介をしていく。
僕の番になると、やたら皆から質問をされた。
あかり「裕太の好きな食べ物は?」
「そうですね…ウナギですかね?」
結衣「裕太の好きな色は?」
「…青と黒です」
アミ「田中君の好きな女の子のタイプ教えてくださーい」
「ノーコメントで」
「「「「「ノーコメントは無し!」」」」」
「えー…そうですね。明るくて優しくて嘘をつかない人で、お互いの事を尊重し合える人…ですかね?…恥ずかしい」
「「「「「「(可愛い)」」」」」」
ビーチャン「田中君はこの中だと誰と付き合いたいですか?」
「…答えないとダメでしょうか?」
「「「「「「ダメ!」」」」」」
「うう…。この中だと2人居ます。結衣さんとあかりさんです。お二人共、僕とお友達で居てくれるし、優しくてかけがえのない存在です。なので、1人には絞れません。ごめんなさい」
あかり・結衣「…」
ミーちゃん「じゃあ、この中で1番誰が顔がタイプ?あ、今回はちゃんと1人だけ選んでね!」
「…プシュー」
香織「コラコラ。皆、もうそれくらいにしてあげなさい。裕太君から煙出てるわよ」
「「「「「はーい」」」」」
…助かった。もっと早く助け舟出して欲しかったです桧山さん…。
これから2泊。僕の身体大丈夫かな?
宿舎に到着する。プライベートビーチとか言っていたから大きな宿舎を想像していたけど、意外と…。
「え!部屋が1つしかない!?」
香織「そうなの。でも裕太君だったら皆大丈夫よね?」
あかり「大丈夫でーす♪」
結衣「はい」
アミちゃん「裕太君誠実だから問題ありませーん」
ビーちゃん「私も平気です」
ミーちゃん「一緒に寝ようよ裕太君。ガールズトークしよ?」
「僕、男だからガールズトークじゃないですよ!っていうか、流石にマズイですよ桧山さん…」
香織「私も裕太君なら安心かな。それに、万が一理性が壊れても女の子たくさん居るから安心よ?」
「全然安心出来ない…」
キャッキャと騒ぐアイドル達。皆、アイドルとしての自覚が足りないと思います。というか、流れでここまで来たけど流石に同じ部屋は…
「流石に同じ部屋は…僕、外で寝ます」
「「「「「「ダメ!」」」」」」
「何かあったら責任取れませんし、皆さんアイドル抜きにしてもとびきり可愛い女性という事を忘れないでください。男は狼なんです。いざとなったら…って聞いてますか?皆さん」
結衣「ここまで着いて来た裕太が折れるしかないわ」
あかり「そうそう。それに、裕太だったら私は平気だよ?」
ミーちゃん「あかりちゃん大胆!」
結衣「…やっぱりあかり。裕太の事…」
ビーちゃん「ここに居る全員彼氏居ないから、何かあったら結婚するしかないね裕太君」
アミちゃん「うんうん♪」
「…分かりました!もう諦めました!ドンと来やがれです!」
あかり「出た!裕太の諦め全開モード!」
結衣「こうなると、どこまでイケるのか気になるわね」
ビーちゃん「ふーん。それじゃあ、皆で一緒にお風呂入りましょ?」
「はい!入りましょう!!僕が皆の身体を洗いますよ!」
ミーちゃん「…マジ?」
香織「あら♪」
結衣「ちょ、ちょっと裕太?」
「さ、車で長く移動しましたし、皆さん疲れてるでしょう!!疲れを落として早く寝ないと!ああ、寝る時は僕の胸の中で寝たらいいですよ!」
僕はその場で服を脱ぐ。もうどうしたらいいのか分からないから、どうとでもなれ!と言う感じだ。
ビーちゃん「男前!よっ!」
ミーちゃん「裕太君ヤケになりすぎぃ〜面白いからいいけど」
あかり「…うん、大丈夫!」
アミちゃん「田中君面白い〜」
香織「さ、私達も脱ぎましょう!」
結衣「本当に一緒に入るの…?」
あかり「ゆいぴょん、覚悟を決めよ?」
結衣「うう…」
…そこから、僕の意識は無かった。
気が付けば、僕は布団に横たわっていて、僕を囲む様に皆がベットに入っていた。
ぐっすり眠っているのか、皆の寝息が聞こえて来る。
あかり「んーーー。むにゃむにゃ」
「ちょっ!あ、あかりさん?」
あかり「むにゃむにゃ」
結衣「んっ…」
「結衣さん!?」
2人が僕の布団に入って来た。ていうか、さっきまで大人しかったのに急に寝相悪くなった!?
「あ、動けない…」
右腕にあかりさん、左腕に結衣さんの頭が収まっていて、いつの間にか右足をアミちゃん。左足をビーちゃんが抱きしめていた。
…これ、なんてエロゲー?
そして、身動きが取れないまま夜が老けていった。
あかり「ふわぁ…よく寝た」
結衣「あら?裕太、どうしたの?」
「おはようございます…良い朝ですね」
ここで、僕の意識がまた無くなった。
色々オーバーヒートしている。僕の脳内で悪魔の部分の僕が、僕に「ヘタレ!!!」って大きな声を出していたような気がした。
それから。気がつけば夕方になっていた。
「きゃっ」
寝返りをうつと、そこには結衣さんが居た。
「…おはようございます」
「よく眠れた?」
頭がボーっとする。寝過ぎたのか、寝不足なのか、どちらか分からないけれどフワフワしている。
僕は立ち上がろうとするが、上手く立てないでいた。
「ダメよ。熱出してるんだから大人しくしてないと」
「あーだから頭痛いのか」
ズキズキと頭痛が激しい。何も考えられない。
「今、タオルを…きゃっ」
「そんなのより、結衣の身体で俺を暖めて」
「…裕太?」
「どうした?」
「口調が…」
「あー。何か変かな?」
「いや…」
「結衣。可愛いよ」
「ッ!」
「結衣は可愛いな…」
「…」
「結衣、こっち向いて」
「イヤ」
「いいから」
顔は真っ赤になっている結衣。マジで可愛い。
俺は結衣の頭を撫でる。撫で心地が良く、ずっと撫でていられる。
「あーー!!」
そこに、あかりが入って来た。
「助けてあかり」
「ゆいぴょんが抜け駆けしてる!!私も頭ナデナデされたい!!」
「いいよ。こっちこいよあかり」
「!?裕太…?」
「…裕太が変なの」
「俺はいつもの俺だろ?」
「「(いつもと口調が違う…怖いけど、男らしくてカッコいい…)
俺は両腕に収まる2人の女の子の頭を撫でる。
そして、結衣とあかりのおでこにキスをする。
「「!?」」
「…昨日のお返し」
そこで、また意識が無くなった。




