面接の王道とは(後編)
一ヶ月前、私は社長に呼ばれた。
「佐野君、採用は一体どうなっているんだ」
当社の採用面接への応募は、約半数が人材紹介会社からだった。契約に至れば、成功報酬を紹介会社へ支払うというものだ。
「先方の会社から、このままでは人を紹介出来ないと言われたよ」
不合格が多いだけが理由ではない。面接での対応が高圧的で悪すぎると、紹介会社に苦情が入っているそうだ。
「ブラックと思われる会社を紹介したとなると、弊社の評価にも差し障りが出てきますので…合理的な理由のない採用見送りが続くようであれば、紹介辞退とさせて頂きたい」
担当者は申し訳なさそうに、しかしきっぱりと社長へ伝えたそうだ。
「これを見てくれ」
[会社の実態]という、転職活動をした人達が書き込むサイトだ。当社のページは、五つ星で星が一つしかない。
[星一つもつけたくない]
[面接での人格否定が過ぎる]
[久世とかいう奴、クセ強すぎw]
[美容の前に、性格をどうにかしろ]
これらの書き込みに、私は絶句した。事実だからだ。
「佐野君、書き込み一つで会社が潰れてもおかしくない時代だ。私としても、動かねばならんな」
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「佐野、さっきの女医だか弁護士だか、不採用だからな」
「どうしてですか?私、久世さんの基準が分かりません」
「考えろ。何でも教えてもらえると思うな」
久世は私に不快感をあらわにし、指を指した。
「それは違います。久世さんは、採用の基準がめちゃくちゃです。それに、皆さんのバックボーンや夢を聞くことも大切な…」
「きれいごとで仕事はできねぇんだよ!不満ならいつでも外れてくれて良いんだぞ」
私は異動願を出そうと決心した。社長に呼ばれたのは、その矢先のことだった。
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久世のデスクの電話が鳴った。社長からの内線電話だった。
「久世君、幹部一同で採用の面接をしたい人がいるんだ。どうだろう、面接の事に関しては、エキスパートの君に同席してもらいたいのだが」
久世は私にも目配せをしてきた。
「分かるか佐野。社長が直々に俺を呼ぶということは、信頼の賜物ってわけだ」
久世がドアを開けると、社長の他に事業部長や専務、常務が一列に座っていた。
幹部に相対するよう、こちらに背中を見せて座っている女性がいる。
「久世君、こっちだ」
社長が手招きをして、隣に座るよう指示をした。久世は得意気な表情で私を見ている。
しかし着席した瞬間、久世の表情は一気に深い困惑を顕にした。
「社長…この方は…」
「久世君、素晴らしい方だ。医師免許をお持ちである上に、司法試験にまで合格されている。しかも専門は皮膚科だそうですね」
社長が笑顔で質問をする。
「はい。ですので、医師としての知識で御社に何かお役に立てるのではないかと」
「どうだね久世君、君も素晴らしいと思わないか」
久世はまともに面接者の目を見ていないどころか、冷や汗が止まらない。
「は…はい、ご立派なご経歴かと…」
久世の顔は土気色になっていた。
「そうだろう、企業は人なり。こんな素晴らしい方は、三顧の礼で迎えねばならん。そうだな久世君」
私は彼女の後ろに置かれた小さな椅子に座り、事の成り行きを見守っていた。
実は彼女の応募が来た際、私は予め社長に打診をした。面接でのマッチングが良ければ、私の一存で社長に話を持っていきたい、と。
久世は、資格の有無や内容で人にマウントを取りたがる。彼女に関しては、どう足掻いても太刀打ちできないはずなので、その分難癖をつける事は、目に見えていた。
事実、久世は彼女に対して採用見送りという判断を下した。私はすぐに社長にそれを伝えた結果、改めて社長が彼女を招いたというわけだ。
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あの面接の後のこと。
「久世が失礼なことを申しまして、本当に申し訳ありませんでした!」
「良いんですよ、大丈夫。佐野さん、ありがとう」
「え?どうして私の名前を?」
「佐野さん、以前私、お店に通っていたんですよ」
思い出した。私がまだエステティシャンとして店舗勤務だった頃、何度か担当したことがあった。忘れていたのは不覚だった。
「店長さんから私に化粧品を抱き合わせでセールスされ困っていた時、間に入って断って下さったこと。忘れていませんよ」
彼女は笑顔で私を見ている。
当時、会員になった顧客に対しては、コスメ商品を施術と抱き合わせで売るように、スタッフは命じられていた。しかし、どう考えても肌質に合わないものがあり、あるいは値段に対して拒否感を示す顧客は少なくなかった。
店舗として売り上げを上げる事情はあれど、必要ではない物を勧めるのは私には
出来なかった。
美談ではない。私が器用でなかっただけだ。
その代わり、丁寧な施術で信頼を構築し、お店に通って頂きたいという思いを強く持っていた。結果、私は商品販売ランキング、堂々の全国最下位だった。
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「佐野さんの、相手の立場を尊重されるお考え、昔も今も変わってないですね」
彼女は笑みを崩さなかったが、それを聞いて、私は急に恥ずかしくなった。立派なことをしたつもりなど全くない。
「佐野君、実は君のことは彼女から聞いていたよ。君は採用担当マネージャーに昇格してもらう。社長命令だよ」
社長は私に親指を立てた。
「それとね、彼女をうちにぜひお迎えしたい。コンプライアンス事業部長だ!」
彼女は椅子から立ち上がり、幹部一同に頭を下げた。幹部全員拍手をしている…久世を除いては。
久世は静かに部屋を退出しようとしている。
「久世君待ちたまえ」
社長が呼び止めた。
久世は力無く社長を振り返る。
「君が採用を見送ったトリリンガルの彼女、国際事業部に配属しようと思う。それから、こちらの彼女だがね…」
社長が最近面接した女子大生の履歴書を取り出した。
母親が当社の顧客という女子大生は、スタッフとして店舗へ。服飾学部の女子大生は、コスメ開発のデザイン部門へ、それぞれ社長の即断で採用が決まった。
それらの報告を聞き、力無く頷く久世の姿は、もはや枯れ枝のようにみすぼらしく見えた。
「久世君、まだ出ていかれては困る。今日は君の面接でもあるんだ。今後の君の異動について、話をしたい」
先程まで座っていた彼女は、本日付でコンプライアンス事業部長となり、幹部として久世の面接に加わることになった。
そして私は、採用担当マネージャーとして、久世が難癖をつけて採用を見送った方々にお詫びをした上で、再度の面接のお願いをこれから行う。社長から命じられた最初の仕事である。
「スペック」ではない。
「人を見る」のが私の仕事だ。
終




