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魔法の本を手にしたら  作者: ふりまじん


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S.L マグレイガー・メイザース


いけませんね。

私は嫌な予感で緊張した.私たちの作品にはメイザースが登場するものがあるのです.

ちょいワル親父で出しゃばりの。

折角、二人っきりの素敵なひと時を楽しんでいるというのに、彼の方がこちらに来られては台無しです。

完結に最短にまとめてしまわないといけません。

私は簡単にメイザースの説明をはじめました。


サミュエル・マグレイガー・メイザース

1854年イギリス生まれ。黄金の夜明け団創立者の一人。

幼くして父親を亡くし、母子家庭で成長する。事務職などを経て、フリーメイソンに入会。

1889年いにしえの魔術書グリモワールを翻訳した。フランスでの翻訳の生活の中でアブラメリン書を発見、英語での翻訳に取り組んだ。


「こんな所でしょうか。」

すかさずチョコレートで作者の気を引いた。今回は長く連載されて、更新回数も多そうですから、この素敵な空間を死守しなくてはいけません。

「うーん。これじゃ、ダメよ。これじゃ、何にも面白くないもん。」

「面白くないとは?」

メイザースを呼ばないでと祈りながら質問する。

「だって、ここでやらなきゃいけないのは、私とメイザースの翻訳合戦なのよ。そうね、まずは私の設定をしましょう。」

作者は渋い顔で言う。

「貴女を設定ですか?」

「そうよ。このID、リアルで知られているし、この間、私の作品を検索したら、頑張る底辺作家が公募に投稿し続けるリアルな話とか、AIに紹介されてたよ。フィクションだって書いてるのにさ(T-T)ついでに、頑張ってほしいとか、感想ついていた。

ははは。

だから、わざと、はじめに設定することにしたよ。身バレしたら、私、近所の人に頭のおかしな人だと思われるもん。」

作者は深くため息をつく。

「そうですか。では、どのような設定にいたしましょうか?」

私は作者を見つめた。

ここは作者の空想の世界です。今の姿も好きではありますが、幼女姿も、若い娘も、老女であっても、それはそれなりに趣があります。

そうですね。私は今回は19世紀の落ち着いた貴婦人とかが希望でしょうか。

それなら、部屋の模様替えをしなくてはいけません。お正月も近いですし、ここはロココ調の少し豪華なフランスの屋敷というのもいいですね。


「日本人、地方出身。高卒。英語ダメ。オカルト大好きの昭和少女。ってところかな。」

作者はノートを取り出して書き始めた。

「それでは普通じゃないですか。」

私は少し不満です。その設定ではコスプレが出来ませんからつまらないです。

「いいのよ。それで。これはフィクションという事と、高卒、英語がダメって情報だけでいいのよ。

知ってる英語は『ディス・イズ・ア・ペン』くらいのおばちゃん。って設定がわかればいいのよ。


で、対するメイザースの語学力を並べるわけ。

メイザースは子供の頃にお父さんを亡くして、早くから就職したらしいし、才能はどうあれ、学歴は私と変わらないと思うのよ。」

作者は嬉しそうに笑った。

「天下の大魔術師も、あなたにかかると形無しですね。」

ため息が出ました。

19世紀と20世紀の高卒低学歴の翻訳バトル。と、いうところを狙うのでしょうか。

「あら、日本のいい大学卒業のインテリだって、同じフランス語のノストラダムスの予言詩をトンデモ翻訳してたわよ。もう!

私、今年、宇宙の彼方からやってきた流れ星3Iアトラスの噂を聞いて、流れ星の予言詩を思い出して必死で調べたの。で、見つけたところに原詩がついていたから、つい、気になってネットで翻訳してみたのよ。そしたら、全く誓う意味だったんだよ?

信じられないわよ。もう。

この歳になっても、おかしな翻訳をありがたがって覚えていた自分に腹が立ったわ。


そうね、私怨よ。もう、私怨。何が大卒よ。もう。

ネット時代、私の方がいい翻訳してやろうって思うじゃないの。もう。

高卒のメイザースと私が、アブラメリンの素晴らしい世界を皆さんにご披露するのよ。」

作者は頬を膨らませて、もうもう言っています。私は温かい紅茶のおかわりを入れる。

「まあ、それも面白いかもしれませんね。WEB小説といえばスマホと無双ですから。意外と受けるかもしれません。ですが、メイザースの学歴は国も時代も違いますから高卒と表記は間違いです。

それに、あなたはメイザースと戦うのでしょ?日本のいい大学のインテリじゃなくて。」

「そうね。悪かったわ。でも、こうなると、なんとかフランス語のアブラメリンも欲しくなるわね。」

作者はニヒルに笑う。

「そうですね。でも、まずはこの本を完読したしましょう。そうすれば、軍資金が手に入りますから。」

私はメイザースの話題から作者を離したかった。ここから1年。二人っきりで完読したいのです。

「そうね。それに、フランス語のアブラメリンなんて売ってなかったし。普通に買うと割と高いのこの本。こうなると、なんだか、私がアブラメリンを手に入れた事が、奇跡のように思えるのよ。」

作者は真顔で考える。いけません。これはただの偶然です。

「そうでしょうか?調べればあると思いますよ。フランス版とドイツ版そうだ!こうして書き続けて人気が出たら、フランス版がセールになるかもしれません!」

「セール!!」

「そうです。セール。それに、原作者はアブラハムというドイツ人のようです。」

まあ、14世紀にドイツという国はありませんけれど。

「え?アブラハム???じゃあ、アブラメリンは何者なのよっ。もう、紛らわしいわ。」

作者は頭を掻きむしる。仕方ありませんね。私は作者にチョコレートを一つ渡すと説明を始めた。


『大魔術師アブラメリンのイケてる魔術の本(邦題・卯月訳)』

は、1458年にヘブライ語で書かれたものを翻訳された(この原作の言語はわからない)ものをメイザースが英語に翻訳して世の中に紹介されました。

諸説あり、17世紀以降に書かれたという説もある、なんとも怪しい本ではありますが、メイザースは15世紀に書かれた本だと信じて翻訳をしていたようです。

作者の名前はアブラハム・フォン・ヴォルムス。『フォン』がつくとなんとなく貴族のように見えますが、出身地を表す場合もあります。(レオナルド・ダ・ビンチのように)

ヴォルムス地方のアブラハムというユダヤ系の人物が正解のようです。


内容は、アブラハムという人物がエジプトの魔術師アブラメリンから教わった魔術について書かれたもののようです。



「胡散臭いわね。」

ここで作者は渋い顔をする。

「何が、ですか?」

私は嫌な予感を胸に聞いてみる。

「何もかもよ。全く、こんな怪しげな本をメイザースはなんで信じたんだろう?」

と、自信満々に言う作者は、まだ、目次にすら到達していません。

「さあ、なぜ、そう思うのですか?」

私の問いに作者はメートにそれを書き出した。

「まずは、ユダヤ人というフレーズよ。貴方も私と一緒に調べていたでしょ?12世紀あたりではユダヤ人は既にペナルティーが課されていたのよ。税金とかで。ついでに、宗教の関係でも色々圧力を受けていたわ。

そんな状況で、わざわざ、自分がユダヤ人で怪しげな異教の魔術を書いていますと、出身地を入れて残すなんておかしわよ。

確かに、当時、魔術とか、異国の魅力的な文化の憧れにユダヤ人というワードは使われていたみたよね。

現代でも、日本製とか、アニメは人気よね、でも、だからって日本人が好きとはならないのと同じよ。

それに好感度のある人間に乗りたいのは今も昔も同じでしょ?

海外だと日本人のなりすましとかいるらしいもの。

ユダヤ人にもいいイメージに乗りたい海外の人間がいたと思うもの。だから、文化は好きでも人間は好きではないって事はあったと思うのよね。

普通、なりすまされる側は必要以上に海外で自分の出身を名乗らないでしょ?優遇より差別の方が怖いもん。海外で安全に過ごしたいなら、日本人と名乗るより現地の誰の友人か、どこの所属のでここにいるのかを説明したいと思うでしょ?

そういう、本当のつながりがない人物が、大雑把にユダヤ人とか日本人とかいうのだと思うの。

だって、ユダヤ人じゃないんだからそれで本当のユダヤ人がどうなろうと騙した奴は問題ないんだもの。」

作者は嫌な顔になる。

「まあ、仮説としては悪くはありません。ユダヤ人の著書ではないと考える方もいるようですから。」

「そうよね。アブラハムなんて、ベタベタだもん。」

作者は肩をすくめた。

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