ラスト ボーン サン2
「すいません、今、思ったのですが、アブラムがアブラハムに名前がからったなら、『ラ』ではなく、『ハ』が加わったのではないでしょうか?」
私の言葉に作者は黙ってノートに書き始める。
ア・ブ・ラ・ハ・ム
ア・ブ ・ラ・ ム
「あはは、本当だ。やっちゃったよ。でも、まあ、大丈夫。まだ小説にしてないし、太陽神ラーの話とかに発展はしてないから。」
と、作者は笑った。太陽神ラー…古代エジプトに話を展開させる気だったのですね。本当に早めに気がついてよかったです。
「そうですね。では、そろそろ本を読み始めましょう。」
私は軽く流してタブレットを開いた。
「ねぇ、なんか、日本語訳の『アブラメリンの書』をお勧めされてるよ。なんか、商売上手な気がするけれど、これ、買ったら負ける気がするね。」
作者は渋い顔でそう言った。
「負けても、いい気持ちにもなりますが。」私はそう言いながら値段をみた。そして、気持ちを新たにした。「そうです。気持ちで負けてはいけません。我々も読者も、きっと英文を読み終わるその時を楽しみにしているのですから。」
ああ、4桁の数字は、流石に手が届きません。そして、英文書というグルグルの世界を回っていると、翻訳者というもののありがたさも理解できる気がします。
「うん。そうだね。それに、英文だからこそ見える世界もあるしね。」
と、作者は話し始めた。
「英文なんて読まなくても日本にいる限り生活に支障がないし、辞書を引くのも面倒だから、英語って文法が面倒だから読めないって思っていたけれど、そうでもないね。本格的に世界観が頭にないから、いろんなことに躓くんだよ。それが今わかったわ。
思えは、フランス語をやろうとかも考えたけれど、初めの2ページで別世界に迷い込んだもん。今まで、物語の下手な恋愛表現につかまっていたんだと思ったけれど、そうでもないって気がついたわ。それだけでも『アブラメリンの書』を読んだ価値はあると思うの。」
「そうですね。」
私は静かに相槌を打つ。
「そして、ネットの普及で様々な事が調べられる現在、この物語りは宝の地図になり得る存在だわ。」
作者は言葉とは裏腹な疲れた顔をする。
「宝の地図。貴女はいつでも宝物を探せるのですね。」
私は今までの楽しかった作者との考察を思い出しました。確かに現金としてはそれほどではありませんが、それでも、私はこのひと時以上の宝物を知りません。
「まあ、ね。私、フリマが趣味だったもん。人のガラクタに私のトークで価値がついて売られるのは楽しかったわ。そうね、小説を収益化したって言っても、フリマよりも売れないもんね(T_T)」
作者は急に項垂れてしまいました。いけません。私はコーヒーを淹れます。こんな時は香りだけで気分が上がるとっておきのキリマンジャロを。コーヒーはブレンドの方がうまいと言われる方のいらっしゃいますが、やはりキリマンジャロはそのままの方がうまい。私はそう思うのです。
「うまいわ。あーあ。この一杯をゴチになるには私どれだけの文章を書かなきゃいけないんだろうね。」
作者は深くため息をつく。
「最近の物価高でコーヒーの値段は上がっていますから。でも、小説はものを売るのと違いますから、数千文字の短編で大きく儲けることもできるかもしれませんよ。」
私は微笑んだ。
「はは。それは凄いね。今まで、いろんなものと小説を書くのを比べてきたわ。拾った瓶とかスーパーのポイントとか。そうね。私、くじ運悪かったから、懸賞で儲けるよりは建設的まもしれないわね。郵便料金もかからないし。
とにかく、書きさえすれば少しでもポイントは貯まるもんね(TーT)」
作者は自虐的に笑う。
「そうですね。まずは更新です。」
私は笑う。が、作者は笑わなかった。
「はは。そう簡単でもないんだよ。この本は。そして、調べることも多いんだ。私はメイザースやクロウリーのような魔術のヒントはもら得ないかもしれないけれど、この本は止まっていた物語を動かす何かをくれると思うわ。」
と、作者が示したのがヴォルムスである。




